舞台の裏側〜後日談〜
――本当にありがとう。 おかげでやっと思いを聴ける事が出来ました。 もう、なんて感謝したらいいか……――
志保は右手に持った携帯電話のディスプレイを見ながら目を細める。腰掛けている椅子にゆっくりともたれ掛かり、ギシ…と小さな音が室内に響いた。パソコンやら、実験の資料やらでごった返している机の前。志保は携帯電話から視線をはずし、今度は左手に持っていた一枚の写真に目を落とした。
「幸せそうにしてるじゃない」
眩しい位の笑顔で、こちらに向かって肩を並べてピースをしてる二人。その、男の方に向かって志保は呟きかけた。そして、満足そうに微笑むと、雑然とした机の片隅に、その写真を飾った。
rrrrrr―……
突然、右手に持っていた携帯電話が着信を知らせる。ディスプレイに映し出されたその名前を見た志保は、申し訳ななさそうに舌を出すと、通話ボタンを押した。
「もしもし」
『よぉ、計画は上手く行ったか?』
「えぇ、大成功だわ」
そう言って志保は口元を緩ませた。
「これも、遠藤君のおかげね」
電話の相手は志保に遠藤と呼ばれた。その遠藤にお礼の言葉を述べる。
『だろ? でも、あの時はびっくりしたぜ……だって学校の校門を出ようとしたらいきなり話かけてきて、「毛利蘭さんと工藤新一君を知ってる?」って。新手の詐欺かなんかかと思ったぜ?』
「別にいいじゃない」
『いや、不審者だろ。それに、その後に言った言葉が「毛利蘭って子と付き合ってくんない」だぜ? ありえねーだろ』
遠藤の抗議の声に、志保は思わず苦笑をもらす。
数日前、志保は蘭から、新一がなかなか自分の気持ちを言ってくれないのと、相談を受けていた。
元の体に戻ってから、もう三ヶ月。そんなことはとっくに済んでいたと思っていた志保は、その相談に驚いた。それとともに、強い憤りを感じた。
蘭さんの思いを知っておきながら……! 同じ女として許せないわ!
そこからこの計画は立てられたのである。
まずは、帝丹高校に直接出向き、蘭の彼氏と偽れる人物を探した。そこで白羽の矢が立ったのが、今電話している相手の遠藤で、話を持ちかけた時はかなり渋っていたが、あの手この手を使って説得させた。
ちなみに、どんな手を使ったかについては、その被害者である遠藤しか知らない。
とにかく、この遠藤を蘭と対面させ事情を話し、諸事情を納得した上で偽彼氏として数日間過ごしてもらうことにした。
そして、学校で蘭と遠藤が一緒にいるところを新一に目撃させ、”付き合っている”という噂を流せば、この準備は万端である。
蘭に彼氏ができた事実を知った新一は、必ず博士の家に来るだろうと予想を立て、本人にそれとなく『蘭に告白しろ』と言うことを伝えれば、この計画は成功である。
あとは、本人が勝手に行動を起こしてくれる。
志保の読みは完璧だった。
「あなたには悪いことをしたと思っているわ。でも、本当にありがとう。助かったわ」
『どういたしまして。 それじゃあ、もう俺の出番はないよな―……』
この後、二、三言葉を交して、どちらからとなく電話を切った。志保はすがすがしい気持ちで携帯電話を机に置くと、先ほど飾ったばかりの写真を眺めた。幸せを凝縮したような笑顔の二人と目が合う。そんな微笑ましい姿をみて、こちらまで自然と顔が綻ぶ。
自分が作ってしまった薬のせいで身体の小さくなってしまった彼。それは、本来あるべきの高校生としての時間を奪ってしまった事に等しい。それと同時に、彼と彼女を別つことにもなってしまった。そして、その罪は重く志保の肩にのしかかっていた。
志保はそっと立ち上がり、自室の電気を消すと、小さな呟きと共に、部屋を後にした。
――これで、借りは全部返したわよ……工藤君――
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