第二話
「それじゃあ、また放課後ね、遠藤君」
「あぁ、ありがとな毛利」
「こちらこそ、ありがとう」
蘭は、教室の前まで送ってくれた遠藤に微笑みかけ、踵を返して戻って行く彼を見送る。そして一息ついてから教室内に入ろうと、身体の向きを変えた。
『じゃあ、またねぇ〜 遠藤くぅ〜ん』
『ありがとなっ! 毛利……。だって〜! 見たか? おまえらっ!?』
クラスの漫才コンビと言われている、山田と池田がおちゃらけた口調で、ほんの数秒前のやり取りを再現する。
そして弾かれたように湧き上がる歓喜の声。
教室内に入ろうとした瞬間の出来事に、蘭の足はその場で止まった。
「見た見た!」
「ヒューヒュー!」
「バッチシ見せて頂きましたぜ!」
「証拠写真もゲッチュ!」
「おっしゃっあ!! じゃあ、明日の帝丹新聞のトップはこの話題に決まりだっ!」
「いや!! 明日まで待てない!! 今すぐに号外の発行だっ!!」
てんやわんやのお祭り騒ぎだ。
奇声を発する者あり、先ほどのやり取りを再現する者あり、手をたたく者あり、
ハイタッチする者あり、歌いだす者あり、泣き出す者あり、写メを送りまくる者あり、踊りだす者あり…etc
みんな一緒に騒ごうぜっ! 一度きりしかない今この青春の時でしか味わえない、唯一の味。熟しきってない、青くみずみずしい甘酸っぱさ。泣くのも、笑うのもそのひと次第。
今やらなくては、いつやる? 夢への扉は目の前だ! さあ、君も来るんだ、青春のネバーランドへっ!!
「……らん!!」
「蘭っ!!」
「……あっ」
もはやお祭り騒ぎで手のつけようもないクラスメイトを呆然と眺めていた蘭は、園子の声でようやく我にかえる。
「蘭、もうアンタって子は、あのねえ、どういうつもり? わかってるの? もうっ! 言いたいこといっぱいありすぎて訳わかんないわっ!! 一つひとつ、わかるように説明してもらいますからね!!」
「園子……みんなどうしたの? 何かあったの?」
蘭はポケーンと答える。
「なにかあったの? って……もうっ!!」
蘭ののほほんとした答えに園子は頭をガシガシと掻いた。
なにかあったなんて私が聞きたいくらいよっ! アンタは天然よ! 天然バカよっ!! そしてウチのクラスメイトはお祭りバカよ!!
園子は、苛立つ気持ちを抑えきれず、蘭をキッと睨みつけた。
「アンタ、自分が何をしたのか、わかってんの!?」
「なにをしたって……教室に入ろうとしたら、みんなの様子がおかしくて……」
「その前っ!!」
園子は片眉を吊り上げた。
「その前は……あっ」
そこまで言ってようやく思い当たる節にたどり着いた蘭は、申し分けないという表情で園子を見つめた。
「どういうつもりか、あとで、きちんと説明」
「……はい、ごめんなさい」
「よろしい」
″きちんと説明″というところを強調して有無をも言わせないという態度の園子に、蘭はに大人しく従った。そしてうつむき、片手に持っていたカバンを握り締める。
そういえば、あの子にメールしなきゃ
蘭はカバンから携帯電話を取り出し、自分の席に着こうと辺りを見回した。すると、一つの冴えた視線とぶつかる。
その視線の主は、今朝は朝錬のために一緒に登校してこなかった幼馴染の彼 ――工藤新一――
蘭は真っ直ぐに新一の瞳を見つめた。時が一瞬だけ止まり、世界にはこの二人だけしかいないような感覚になる。
新一は何か言おうと口を開きかけた。しかし、新一はその視線に絶えられなくなったように目をそらした。言おうとした言葉も、心の奥底へと飲み込んだ。
そして机の上に伏せてあった推理小説を静かに読み始めた。
「おーいお前ら〜HR始めっぞ」
クラス担任が教室の中に入って来ると、それを合図に一斉にクラスメイトが席に着く。
蘭の席は教室の一番後ろの窓側から数えて二番目。新一の隣の席。
二人の周りは不穏な空気に包まれた。
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