第一話
「蘭に彼氏ができたぁ!?」
登校して来た生徒達の談笑でざわつく教室内。窓側の一番後ろのにある席について、推理小説を読んでいた新一は突拍子もない声をあげた。
黒の組織を壊滅させ、元の身体を取り戻してから早3ヶ月。事件の後処理がようやく片付いて来た今日この頃。でも、探偵業が忙しい今日この頃。信じたくない話に新一は自分の耳を疑った。
「ちょっと、声がデカすぎるわよ新一君」
空いた口が塞がらず、読んでいた推理小説を持ったまま呆然としている新一の耳元で、園子は小声で話しかけた。
「まだ蘭本人に聞いてないから本当の事はわからないんだけど、昨日C組の斉藤君が放課後に学校の体育館裏で誰かに告られている蘭を見たんだって。はっきりと話声は聞こえなかったらしいんだけど、その雰囲気から、どうやら蘭が告白にOKしたような感じだったって……
新一君は何か聞いてないの?」
園子は蘭の幼なじみで学校では蘭の旦那と呼ばれている新一に尋ねた。
本人たちはただの幼なじみだと言い張り、完全否定しているが、新一と蘭の夫婦っぷりはとても有名で、毎日一緒に登下校するわ、毎日のように痴話ゲンカはするわで……。極めつけは新一の弁当を蘭が毎日作っているときたら、これは何もないと思うほうがおかしい。
「ちょっと新一君まじめに聞いてた?」
「あ、あぁ」
「もう! 蘭の一大事なのよ? しっかりしてよね」
「……わるかったな」
新一は行き場のない気持ちのかたまりを無理矢理しずめて、平静を装おうとした。しかし、自分の意思に反して大きく速く鼓動する心臓のせいで、推理小説を持つ手が小刻みに震えてしまう。新一は唇をかみ締めた。
「お〜どうした鈴木?」
「工藤、鈴木も"一応"女の子なんだから、イジメたらいかんぞ?」
先ほどの新一の大きな声でタダ事ではないと思ったクラスメイトが、なんだなんだと集まり始めた。新一の席の回りに黒山の人だかりができる。
「北原、み、みんな!? いや〜ちょっとねぇ……ってか北原! "一応"は余計よ!」
「ははっ! わりーわりー」
北原は食って掛かる園子に向かって、ニシシと笑った。健康的に焼けた褐色の肌に、白い歯が際立つ。
彼の名前は北原紀之。
彼は、小学校から新一や蘭、園子と一緒の学校に通っていて、新一の親友だ。サッカーが好きで、今は帝丹高校のエースを勤めている。新一がサッカーをしていた中学校では、新一と北原の二人の息はピッタリで、得点のほとんどをこの二人が稼いでいた。そのためこの二人は”最強の2トップ”と称され、帝丹中学サッカー部の黄金時代を築いた。
「そういえば、工藤、今日奥さんは一緒じゃないのか?」
その北原が、腕を組み静かに目を閉じている新一に素朴な疑問を問かけた。いつも一緒に登校して来ているはずの蘭の姿が見えない事を不審に思ったからだ。
「……今日は空手の朝練があるからって、いつもより早く学校に行ったみたいだぜ?」
俺はそれ以外の事は何も聞いてない……と、静かに答えた。
「そっかー。新一君は何も知らないか。じゃあ、事実確認は蘭が朝練が終わって教室に戻って来るまでできないわね。昨日の時点で本当かどうか確かめたかったんだけど、斉藤君からこの話を聞いたのが夜遅くて、連絡とれなかったのよ」
「園子も蘭から何も聞かされてないんだな」
「そうなのよ! 蘭ったら大親友の私に何も相談がないのよ!?
……だから、昨日蘭を見たって言うC組の斉藤君の話は、ただの間違いか、噂かのどっちかだと思うんだけど、どう思う?」
「ちょっと待った、お前ら何の話をしてるんだ? 全然内容が見えてこないぞ」
頭にクエスチョンマークを浮かべた北原が2人の話に割って入った。
そうだそうだ! と群がっているクラスメイトも口々にヤジを飛ばす。
その時。
「おーい! 工藤っ! みんな! 大事件だぞっ!」
クラスメイトの青島が、ドアが壊れんばかりの勢いで飛び込んできた。
突然の出来事に、一斉にその人物を注目する。
「も、ももも毛利が、男と、一緒に、歩い、てたっ……!」
そこで一旦呼吸を置き、呆然と見つめてくるクラスメイトに決定的な言葉を浴びせた。
「それから、今度の、休みに、デートする約束も、してたぞ!」
「「「えぇぇええ〜!!」」」
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