第一話 不良というのはどうしてこうもお金を欲しがるのだろう
人っていうのはいつ何時、災難がくるかはわからない。俺が中一のときもそうだった。姉ちゃんに買い物を頼まれて帰る途中、それは起こった。
「お〜い、そこのあんちゃん。今、何してんの?」
丁度、家へとつながる一本道の前にある橋の土手。そこで、柄の悪い人たちと出くわした。人数は二人。一人は、髪を金髪に染めていて不良の見本的なオールバックをしている。耳にはピアスを付け、口にはマルボロを加えて俺に向かって、あのつんとくる嫌な臭いをかけてくる。
「ちょっとさ〜、俺ら、今金ないんだわ。だからさ、貧しい俺らのためにちょっとわけてくれねえかな?」
もう一人は、髪は染めていないが、長い後ろ髪を前にやって円形状に固めている。いわゆる、リーゼントだ。上はワイシャツだが、下はボンタンという普通のズボンと違い、だぼだぼしたズボンをはいている。
「・・・・・・・・・・・・俺、もう金ないっすよ」
「あ?つべこべ言わずに、さっさと財布を出せよ。今時の学生さんは、言わないとわかんねえのか?」
「だせって言ってんだから出せよ。じゃねえと、後ろにいるあの子達みたいになっちゃうよ」
そういって、リーゼントと金髪は後ろの方を指さした。
「・・・・・・・・・・・・!は、濱野!?」
俺は、今日の朝まで元気に学校にきてた濱野が顔の原型がわからなくなくらい殴られてその場にうずくまっているのをみた。確か、今日は塾があるって二時間ほど前に別れたはずなのに・・・・・・。
「いや、なあ?俺たちが優しく、お金をくれって言ったのによ、そいつが抵抗するから仕方なくだぜ?」
「そうそう、俺らは悪くないぜ。渡さないあいつが悪いんだ」
こいつら・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・ふざけるなよ、お前等」
「あ?」
手に持っていた、買い物かごを地面に置く。そして、ジッパーをゆっくりおろすと、着ていた黒色のパーカーを脱ぎ捨てた。
「え、なにこいつ。やるき?俺ら二人相手に?・・・・・・ブッ、ば、バカじゃねえの?」
「ギャハハハハハハハ、っゲフ、ゲフ・・・・・・や、やべ、むせちまったじゃねえか」
バカにしたように金髪とリーゼントが俺を指さして笑う。だが、俺はそんなことを気にせずに相手を挑発した。
「来いよ、学生さんをなめるとどういう目に遭うか教えてやる」
すると、今まで笑っていた金髪とリーゼントはピタリと笑うのをやめた。どうやら、きれたらしい。目が血走っている。
「てめえ・・・・・・なめるのもたいがいにしろよ!俺らを誰だと思ってんだ?俺は、北星高校の一年で頭やってる宮内っていうんーーー」
「うるさい」
一瞬の内に、俺はリーゼントとの間を一気に埋めた。そして、右の拳を相手の腹にめり込ませる。
「がっ!?」
それだけでは終わらせない。左手でリーゼントの髪をつかみ、こちらに引き寄せる。そして、左足でリーゼントの右わき腹を強打した。
「げふっ!」
そして、止めとばかりに右足で足払いをかける。体勢を崩したリーゼントは、信じられないと言う目で俺の方を見た。
「終わりだ」
左手で相手の顔をつかみ地面にたたきつける。発散させる場所をなくした力は、もろにリーゼントの体に蓄積された。
「雑魚だな・・・・・・。喧嘩を売る相手ぐらい、見極めろよ」
「み、みやっちゃああぁん!!」
もう一人の金髪が、けいれんして倒れているリーゼントへ駆け寄る。そして、賢明に起こそうとするが脳へ直接ダメージをもらったリーゼントが起きるはずもなかった。
「て、てめええええぇぇ!よくも、みやっちゃんをおおおぉっ!!」
「お前は、もっと遅い」
「へ?」
大きく右腕を振りあげて、俺に向かって突進するがあまりにも遅すぎてスキだらけだ。左手で、相手の右腕を軽く流すとそのまま、体を左に回転し右の肘で金髪の鳩尾を強打した。
「がっ、・・・・・・へっ!?」
金髪の体が崩れ落ちる。一瞬の出来事に、金髪は何をされたのかわからなかった。
「ったく、こんな雑魚にやられるなよな。濱野」
地べたにうずくまっている二人を放っておき、濱野のところへ駆け寄る。一応、携帯電話で119番しておいたのであの二人は大丈夫だろう。
「濱野、おい、濱野、大丈夫か?」
「うぅっ・・・・・・瞬豪か。む、無理っぽい・・・・・・手、貸してくれ」
「やだよ、自分で起きあがれ。っていうか、もうすぐ救急車がくるから早く逃げないと、やっかいなことになるぞ」
俺の言葉に反応するように、近くで救急車独特のサイレンが鳴り響いた。もし、救急車に行くことになればどうしてけがをしたのか聞いてくるはず。と、いうことは喧嘩に巻き込まれたのがばれると言うことだ。俺と濱野は、もうすぐ卒業。たとえ、巻き込まれただけでも進級に響くおそれがある。
「ま、まじかよ。早く逃げないと!」
さきほどまで、俺に手を貸してくれと言った人物とは嘘のように、濱野はすくっと立ち上がると不良二人どもにとられていた財布を取り、ついでに不良二人の財布も抜き取ると俺と一緒にその場を後にした。
・・・・・・・・・・・・というか、ちゃっかりしているな。濱野のやろう。
「いててて!も、もうちょい優しくしてくれ・・・・・・って、痛い痛い!てめっ、さっきより強くしてるだろ!」
「うるさいな、男がこれぐらいのことでぎゃあぎゃあわめくなよ。かっこわるいぞ」
「俺はお前みたいに、打たれ強くないの!ってか、いつ見ても思うんだけど、お前の強さってゲームの中でちーとみたいな存在だよな」
帰り際に、薬局で買った消毒液を濱野の顔にふたをはずしてかけながら俺は歩いていた。濱野がなにやら文句を言っているが、どうせ濱野の戯言なのでいちいち反応するだけ無駄だ。と、いうより俺が消毒液をかってやったんだからもっと俺をあがめてほしい。
「おい、俺の話聞いてる?なあ、聞けって!おい!・・・・・・なあ、聞いてくれよ。なあ・・・・・・」
俺の隣で、最初はやかましかったがついには黙り込んでしまった。ったく、お前はあれか?独りぼっちにしておくと死んでしまうかわいそうなハイエナか?・・・・・・うん?ハイエナは違ったけ。
「なあ・・・・・・」
「あ〜、はいはい。わかったから、そんな泣きそうな顔するんじゃないよ。俺が悪者みたいじゃないか」
「悪者だろ、お前」
「ほほう〜、君はそんなに死にたいらしいな。そんなに死にたいなら今度は俺が冥土へ置くってやるよ」
「えっ、ちょっ、待って!?どこへ行くって?めいど・・・・・・めいど・・・・・・メイド・・・・・・メイド・・・・・・!!メイド喫茶?」
「ダイ♪(訳:死にやがれ、このハイエナ野郎)」
「ま、待って!ひ・・・・・・ぎゃあああああああああ!!」
必殺奥義、消毒液を目に入れると死ぬほど痛い。が炸裂する。濱野はその場にうずくまり、いたいいたいと叫び続けていた。そのせいで、周りの人たちの視線が集まる。
まったく、近所迷惑も程々にしろよな。
「そんじゃあ、俺は先に帰るぞ」
「うぅっ、待って!まだ、目が痛いんだけど!!」
「そんじゃ、さようなら」
「ヘルプミー!!!」
無視。ただそれだけを頭の中にいっぱいにさせてその場を後にする。いちいち付き合っていたら日が暮れてしまう。なるべく早足であるき、俺はその場を後にした。
濱野と別れてからどのくらいがたったのだろうか。家に帰ろうとは思ったのだが、土手に姉ちゃんに頼まれて買ってきたものを忘れてしまったので違う道から戻っていた。・・・・・・はあ、どじだな俺。
「早く帰らないと、また姉ちゃんに怒られるな・・・・・・・・・・・・ん?あれは・・・・・・」
違う道を行ったせいだろうか。普通なら、見ることもない場所を見てしまった。
「高校か・・・・・・・・・・・・」
まだ、部活の人たちが残っているのか体育館やグラウンドから活気のいい声が聞こえる。
「そういえば、俺も濱野も、もうすぐ卒業だよな」
少し、しんみりとした気持ちになる。だが、携帯の着信音がなり姉ちゃんからのメールが来た瞬間、俺は猛スピードでその場を後にした。
俺、春日瞬豪15歳。そして、濱野亮太同じく一五歳。明日から、高校一年になる俺達。新しい、青春の物語が始まる・・・・・・・・・・・・。