目が覚めた時に気づいたことだけど、あたしは、それまで着ていたメイド服じゃなく、なんだかすごく高級そうな寝巻きを着せられていた。金糸の刺繍の施された前開きのぞろっとしたデザインで、極上のサテンっていうか、絹タフタっぽい手触り。うーん、正直言ってこういう服、着慣れない。
寝台の隅っこに正座して待っていると、ようやくジード様が部屋に戻ってきた。彼は顔をほころばせて近寄ってきた。
「起きていてくれたのか、ミハル。嬉しいが……具合はどうだ? もうすっかりいいのか」
ごく自然に抱きしめられ、あたしは慌てて切り出した。知ってる限りの語彙を総動員して。
「あなた……違う、あたし、ここ、出る。部屋、以前の。戻る」
彼は即座に身体を離し、険しい表情であたしを見た。
「なにを言い出すんだ。戻る必要などはない。お前の部屋はここだ」
いや、だって、この部屋ってジード様の個室でしょ。ていうか、いくらキングサイズのベッドって言ったって、さすがに同じ布団ってのはちょっと、まずいんじゃ。
同衾。あたしの頭の中を、いつか時代劇で耳にした古風な言葉が通り過ぎる。
「だめ。寝る、同じ、だめ。よくない、です。別々の部屋、正しい、です」
なんとか伝わったらしい。けど、彼はものすごく複雑そうな顔になった。
「……その拒否の理由はなんだ? パドマか? イグノディアス神との契約のことはまだ理解できているとは思えないし……分別ある娘としての羞恥心なのか? ……それとも……」
ジード様は真剣な瞳であたしを見つめ、両肩をつかんだ。
「──私のことは受け入れられない、と言いたいのか、ミハル。だから同じ寝台で寝るのは厭だと、そういうことなのか」
長いセンテンスはまだ無理だ。しかもやたらと早口だったし。あたしはとりあえず曖昧に肯いた。とにかく、この同じ部屋で過ごすのはまずいと、それだけわかってもらえれば。
彼はなぜか、ひどくショックを受けたような、愕然とした表情になった。あたしの肩からその両手がゆっくりと離れる。えっ、あたし、そんなにおかしなこと言った?
ひょっとしてさっき、リアクションを間違えたんだろうか。あたしは急に不安になった。
「ミハル! 元気になったんだ、よかったぁ」
メイド服に着替えて厨房へ赴くなり、あたしはピアに抱きつかれた。妹の榛名を思い出し、ちょっと瞼の辺りが熱くなった。
「ピア、ごめんなさい。出てった、黙って」
ようやく言えた。ピアは笑って首を横に振った。
「いいよ、もう。そりゃ心配したけど。ねぇ、それより、どういうこと? ジード様のお部屋に担ぎ込まれるなんてさ。それにジード様、超テンパってミハルのこと捜し回ってたんだよ。『春の街』にまで自分で出かけるんだもん、びっくりだよ。女官長やレンドルス様、次期当主がそんなことまでする必要ないって止めたんだけど、それも全然無視っちゃって」
その時、タイミングよくパドマさんが入ってきた。あたしはあらためて頭を下げた。
「すみません。迷惑、かけた。ごめんなさい」
彼女はしばらくの間、あたしを軽く睨んでいたけど、すぐに微笑を浮かべてくれた。それからあたしの両手を取った。
「ミハル、お願いだから、黙って出て行ったりはしないでちょうだい。あなたにもきっと色々事情があるんでしょう。でも、みんなとても心配していたのよ。もしもここを出て行きたいのなら、せめて私にはちゃんと説明してからにしてちょうだいね」
そう言うとパドマさんはあたしを抱き寄せた。ごめんなさい。あたしは胸の中でもう一度、謝った。
お母さんや榛名も、同じようにあたしのことを心配しているかもしれない、と思いながら。
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