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都立第三中学シリーズ 作者:和泉葉也
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第六話 秘密組織ブラックホームランの謎を追え!

 理事長室。
 それは、生徒と最も関係ないものであり、比較的豪華な作りになっているものが多い。
 主な使用方法は、会議や来客などに使用されるのが普通なのだが、
 ここ帝都高校の理事長室は部屋の主である理事長がまともではなかったため、秘密組織のアジトという奇妙な使われ方をしている。
 何故秘密組織なのか? それは理事長の奥様が出産のため里帰りしているのが理由で、理事長が暇になり、ちょうどそこへ問題を起こして退学かどうか迫られている人間が居たので、そいつを脅迫して悪の組織ごっこを始めることにする。
 っという、犯罪をすっ飛ばして大問題なことから始まった。
 しかし、最初の作戦としてアンパンマンショーのアンパンマンに喧嘩を売ったのだが、バイキンマンにけちょけちょに殴られ、蹴られ、突き飛ばされて計画断念した次第である。

「もうバイキンマンと仲良くしねえぞ!!」

 理事長、もといコードネームシェリーと名乗っている長身の男性は、眉をひくつかせて、飲んでいたウーロン茶を缶ごとねじ曲げた。
 彼の心の傷は深かった。愛するべきバイキンマンが、よりにもよって彼に歯向かったのだ。幼少時代から抱いていたであろう思いは消し飛び、愛用である白衣の胸元のエンブレムはアンパンマンに変わってしまった。
「まあ、そう怒鳴り散らすな。シェリーよ」
 淡々と語るのは、同じく白衣姿であるコードネーム黒き魔王。
 そのすぐ横に控えているコードネーム殺戮者プリティーボンバーと同じく、ぐるぐる眼鏡を愛用しているところが真人間では無い。
 彼らは、悪名高き科学部員だが、世界征服に関してシェリーと話が合ってしまい、こうして理事長室で活動しているのである。

「と、ところで、今度は何をするんですか?」
 一人蚊帳の外で怯えていた少年、被害者である退学を免れただけの、ただの生徒菊池は恐る恐る聞いた。誰がどう見ても、悪いのはこの3馬鹿トリオであり、彼は被害者だった。
「正義の味方は、出てくるまでほっておこう。それよりも、
 我々の世界征服について燃えるのが第一だ!」
 あのまま、バイキンマンに再起不能にしてもらってたら良かったのに。菊池は、本気でそれを願った。
「さしあたってどうするつもりだ?」
「ふっ」
 シェリーは笑いながら、スーツケースから名簿を取り出す。
 それは学校の名簿。生徒や職員の住所などが書かれたものである。
「・・それを。つまり、学校からか」
 殺戮者の発言に、ピンポーンとメロディーに乗ってシェリーは答えた。今回も発言できないまま、計画は進んでいく。
 菊池はとりあえず、3馬鹿トリオのために麦茶を用意した。

「秘密結社、ブラックホームランの結成だ!!」

 えいえいおーのかけ声を、一人だけ小声で菊池は叫んだ。
 この学校に入学した事が彼の不幸の始まりなのだ。


 翌朝である。
 菊池が、いつものように学校へやってくれば、いつもと違うホームルームが始まる。
 と言っても、特別行事が開かれるというだけのことだったが、
 それの主催が理事長だったので驚きは2倍である。
 3日後に何かやるらしい、などと曖昧な言葉を言って担任は帰っていく。人々の反応は、楽しみだという事だけだった。
 裏の姿を知らない生徒達は、変に浮かれて馬鹿を見るのだ。

「あんた、何をやる気だ?」

 菊池は、校内新聞に掲載されていた理事長の写真に問いかける。
 何だか頭が痛くなってきた菊池は、当日まで病欠を決め込もうと心に誓う。
 どうして当日だけは出席するか? それは、呪いをかけられそうだという思いから生まれたものだった。

 
 3日後。菊池が家を出ようとすれば、門の前に三輪車が置いてあった。何だろうこれはと思っていると、後ろから伸びてきた手が菊池の首を固定する。
「り、理事長!」
 ハーイと心優しく答え、シェリーは三輪車のサドルに
 菊池を乗せると手足をロープで固定して、自分は後ろで蹴りんちょを始める。すさまじいスピードでそれは走り、気が付けば何故だかアドバルーンが浮かんでいる我が高校にたどり着いた。
 渡米すれば良かった。そんな思いが駆けめぐる。

 かけ声も無しで、シェリーは三輪車ごと菊池を校内に運び出す。
 逃げることも叶わずに、菊池はゆっくりとしたペースで順調に破滅の階段を歩んでいた。
 やがて、身体が宙に浮かんだと思えば、雄大な景色が目に飛び込んできた。屋上である。

「病欠とは都合の良い理由だな。おい」
 ぐるぐる眼鏡二人が、菊池に迫り来る。
 そして彼らは、菊池の拘束を解くと聖歌隊のような衣装を菊池に身につけさせ、極太ろうそくを持たせた。
「な、何です。・・これって?」
 彼らは菊池の疑問には答えず、会場らしいものの設置を始めた。
 数分でそれは完成し、校庭がよく見渡せる地点に万国びっくりショーのようなステージが完成した。菊池は不思議にも思い、柵から校庭をのぞいてみた。
「な、な、何で?」
 広がる景色は生徒の波。行事をやることは知っていたが、
 どうして生徒が校庭で? という疑問は消せない。
「全校生徒に告ぐ。我々ブラックホームランは、帝都高校を支配下に納めた。アンパンマン型の戦闘要員として、我々に忠誠を誓う者は、今すぐ屋上に来たまえ」
 スタンドマイクを片手にシェリーが演説のようなものを始める。
 ブラックストライクとは何か?何の目的で活動しているかを淡々と語る。
 数十分が経過した。予想通り、屋上には誰一人来なかった。
 冗談半分でも、アンパンマン型の戦闘要員にはなりたくないらしく、遠目でも分かるのだが生徒達はおびえ始めていた。
「誰も来ませんよ。理事長」
 菊池がそう言うと、理事長は高笑いをしながら白衣の
 胸ポケットからスイッチのようなものを取り出す。
「ポチっとな」
 かけ声と共にスイッチが押されると、校庭の隅からは破壊音が溢れ、衝撃波が巻き起こる。
 業者に高いお金を出して埋めた爆薬である。悲鳴がとどろき、生徒達は騒ぎ始める。
 だが、まだ甘いようであった。そしてシェリーは、別のスイッチを押し始めた。妙な機械音がすると校門が閉まり始め、突如どこからか現れたガードマン達が生徒と職員を囲う。
 ガードマン達はロープを振り回し、生徒や職員の手足を拘束し始めた。女生徒の一部が泣き始めたのを知ると、理事長は嬉しそうに笑った。この人達は人間じゃない、悪魔だ。
 菊池は心の中で、その言葉を深く刻みつける。
「戦闘要員として、働きたい者は屋上に来たまえ」
 警告のような言葉を投げかけ、シェリーはドラゴンクエスト5のボス戦音楽を流し始めた。
 やがてぱらぱらと、生徒が屋上に集まり出した。
 後ろに控えていた二人は、嬉しそうに手術セットを取り出す。
 解剖台が屋上にセットされた。そして、影に隠れていたワゴンの布が外された。
 それは巨大なアンパンの山だった。鼻が異様に大きく、両ほっぺたが異様に膨らんだアンパンは、サイズ的に人の頭より大きいくらいのサイズだった。中身は粒あんである。
 泣き出す生徒達。恐怖に囲まれた生徒は、互いを慰め合うように、身体を寄せあった。
 菊池は吐き気を覚えた。とりあえずと、ろうそくを投げ捨て、うわぁぁと叫び始める。彼もまだ若いのだ。異様な状況には付いていけない。
「さあ、アンパンマンなりきりセットだっ!」
 赤い制服が屋上にばらまかれる。
 中央に黄色の丸いマークが付けてあるそれは
、気の弱い生徒を気絶させるのには充分すぎるものだった。

 どうしたらいいんだろう?

 ここに居る4人の中で、人間は菊池一人しか居なかった。
 何とかしなくては、一生悩むことになる。とりあえずと、菊池は逃亡した。
 反逆罪か。と、叫んでいる人が居たが気にする暇はなかった。


 校舎をひたすら駆け回り、職員室に逃げ込んだ菊池の耳に届いた者は恐るべき校内放送だった。内容をそのまま出せば、こんな感じである。

「今から、30分以内に戻ってこなかったら、
 生徒にアンパンマン衣装を着せて写真撮影を行い、その写真を校庭へばらまく。さらに1分経過したら、アンパンの頭だけ付けた状態の写真をばらまく」

 死んだ方がましな脅迫に、菊池は頭を悩ませた。
 どうしたらいいんだ・・? やはり何度考えても、答えは出ない。
 菊池がどんなにか説得しても、馬鹿に付ける薬がないのと一緒であり、同じ事であり、かなり無意味なことだった。
 かけずり回るだけ、職員室をかけずり回る。
 そんな時、ふとこの状況を何とかしてくれる人物のことが思い浮かんだ。
 そうだ。あの人なら!
 3人をギタギタのぼっこぼこにしてくれるのは間違えなかった。
 悪魔のささやきとも言える名案を実行すべく、菊池は電話番号を調べ始める。この人に叶うはずがない。
 願いは届いたようで、その人物へと電話が繋がる。

「もしもし、あの。急ですみませんが、頼みたいことが・・」

 
 人という者は、必ず負ける者である。
 それは自分より大きな相手であり、強い相手であり、人によって様々な天敵が居るだろう。それは3人にも居る者だ。
 門をよじ登って登場した校内で有名な人物は、
 制止する警備員を一喝して帰らせるように命じ、捕まっていた人々の拘束を解いた。
 もの凄い勢いで階段を駆け上り、屋上の人々に向けて
 最重量クラスのガトリング銃を突きつけた。捕まっていた生徒を強引に解放させると、その人物は顔を覆っていたスカーフを脱ぎ捨てる。

「あなたっ!!」

 恐怖したのは、誰であろう黒き魔王である。
 しかし、彼は負けずと戦いを挑もうと決め込んだ。
 ステンレス製の物干し竿を振り回し、ガトリング銃を破壊する。
「いつまでも、女の影に怯えている我では無い」
 勝ち誇った笑みを浮かべる魔王。
 抵抗する婦女子を押さえつけると、彼らは計画を再開させる。
 彼女の心の中で、定期預金解約の文字が浮かんだのは言うまでもない。この事件が終わった後、魔王は秋のそよ風に吹かれることになる。
「また。馬鹿騒ぎなんですってね・・・」
 ご家族の乱入は一人だけではなかった。
 屋上の入り口に隠れて、様子を見ていたマタニティードレスの女性は、冷ややかな笑みを中心となって活動していた人物にぶつける。
 そう、理事長に。
 大量の汗が理事長を襲い、足がふるえ始めた。
 もう、どんな言い訳も彼女の耳には届かないだろう。
 やさしく、その女性はシェリーの頭を撫でた。
「ねえ、あなたは一人前の大人なんでしょ?」
 返す言葉もない。シェリーは固まったまま動かなくなる。
 彼女はシェリーの髪をつかむ、そして勢い良く右頬にビンタを浴びせかけた。その時だった。

  シュパ

 隙を見て、拘束を逃れた黒き魔王の連れ合いが、ステンレス製物干し竿をシェリーの連れ合いに投げ渡したのだ。
 にっ。と笑って彼女は物干し竿を横に振るう。
 逃げ腰になっていた魔王と殺戮者にそれは当たり、彼らは動かなくなる。隅に隠れていた菊池は、その光景に感動した。

 奥さんは強い。まさに、カカア天下である。

 妊娠しているのだからとも思うのだが、彼女にとって、これくらいの運動は準備体操のようなものらしい。
 シェリーが天高く舞う。右頬、左頬とビンタを打たれ、逃げようとしたシェリーは飛び膝を食らった。数十分間かけて、ギッタギッタのぼこぼこにされたシェリーは奥様に引きずられながら退散していく。悪は滅びたのだ。
 生徒達は歓喜し、お互いの無事を喜んだ。
 悪の秘密結社がある時、正義も必ず居る。
 奥様という最強チームの乱入により、2度とブラックホームランは結成されることはなかった。

 
 後日の話。
 理事長はその場に居なかったという大嘘により、シェリーは処分を免れた。
 さらに、学年行事という銘文を付けていたため、科学部の処分も全く行われないという異常事態すら起こるのだった。
 しかし、生徒達に焼き付いた恐怖は消えないため、科学部が昔作った人格形成マッシーンにより、一部の記憶除去が行われたらしい。
 こうして、教育委員会もすり抜けているのだろう。
 菊池は、書くだけ書いた退学願いを出すかどうか悩み始めた。

 ・・・・・学校って、学校って?
 終
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