挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
都立第三中学シリーズ 作者:和泉葉也
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

5/7

第五話 秘密組織ブラックストライクの謎


「ひっ、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 その少年は、迫り来る恐怖にブルブルと震えながら布団に潜り込むような格好になる。
 かつて、これほどまでの恐怖に包まれたことがあっただろうか? いや、恐らく無いだろう。
 少年の前に集まってきた3っつの黒い影は、ゆっくりとマントを取り外していく。
「2ー12菊池秀和。覚悟は良いな?」
 影だった者達の一人は、完全にマントを外して姿を現した。
 短く切りそろえられた黒髪、
 全体的にほっそりとした体型だが破壊力を持つ足が外見を変えている。つまりは、我が学校の理事長である。
 ただし公共の場とは違い、本日は白衣ならぬ黒衣を着用していた。
 胸元には、子供が好きだという理由で、バイキンマンのエンブレムが飾られているところが何とも言えない何とも言えなさを出している。
「な、な、何なんですかこれは!」
 菊池は大声で周りを非難する。
 無理も無い。もともと、彼は無免許で10m自動車を動かして
 事故ってしまったことにより、退学か否かを迫られるために理事長室に来たのだから当然だ。
「深い意味は無い。しいて言うなら、趣味だ」
 即答されては文句も出せない。
 訳が分からずにボーっとしていれば、今度は後ろに残っていたさらに怪しい2つの影がマントを外した。ぐるぐるめがねと黒衣。
 ただし、一人は長髪で一人は短髪だという違いはあるが、あまりの異様さに菊池の腰は逃げる体制になってしまった。
「彼らは、今回のプロジェクトのためだけに呼んだゲスト。
 科学部員だ!」
 科学部。
 菊池の脳裏に破滅の序曲が流れ始める。
 そう、菊池が通う帝都高校の中で、科学部と言えば改造と人体実験を繰り返す黒き噂がつきまとう集団だったからだ。
 終わりだ。
 菊池は、すべてを悟ったかのように首をゆっくりと振る。
「まあ、事情を説明しよう。君の不祥事は、職員会議でも大変な問題になった。つまり、いちいち処分を決めるのがめんどくさい、
 理事長がおっけーったら退学って事で。と話を持ちかけられた」
「はあ・・・」
「ま、こっちとしては大迷惑と言いたいぞってところだが、
 こっちにもある事件が起きてしまったんだよ」
「な、何です?」
 やる気は起きなかったため、とりあえずの返事をする菊池。
「うちのカミさんが実家に帰ってな。ま、失敗して子供が出来ちまったから、その準備で帰るんだが・・うちは元々最初女の次は男が希望だったんだが、2人目が女の子でそりゃねえぜと思ったんだが、運良く次の次の子供が男の子で、ゲットと思わず名付けたんだがこの通りさつーわけで、カミさん居ないからオレは暇。なわけで、ちょうど面白いところに話が舞い込んできたっつーわけだ」
「まあ、これも運命だと思って諦めたまえ」
 短髪のぐるぐるめがねが、慰めの言葉をかけてくる。
 もはや、優しくて生徒思いに見えていた理事長は遠い世界に消えたんだ。と、菊池はすべてを諦めた。
「・・・はあ。で、何をするんで?」

「世界征服」

  三人の声が一緒になる。とその時、世界が目覚めるようなことはなかった。悪の不協和音が始まっていく。
「まずはメンバーを紹介しよう。私はシェリーと名乗っている」
 シェリーも、くそも無いだろうと、菊池はとりあえず握手をした。
「我。我は黒き魔王。黄金の光に包まれし、黒き魔王だ」
 長髪のぐるぐるめがねが自慢げに言う。
 その名前を使うことに、まったく恥ずかしさはないようである。
「私は、そうだな。殺戮者プリティーボンバーと名乗ろう」
 短髪のぐるぐるめがねが名乗ると、何故だか一同はスクラムを組み始めた。慌てながらも、とりあえず参加する菊池。
「メンバーは揃った。これより、我らは秘密結社ブラックストライクとして活動する」
 清潔な理事長室に、不気味な笑いが響きわたる。菊池は、自分はもうまともな人間ではないんだと人生を忘れ始めた。

 
 さしあたって何をするか?
 それについて誰も決めないまま2日が経過した。
 やった事といえば、花壇の水撒きぐらいなものであり、このままでは正義の味方で終わってしまうのではと誰もが思い始めた。
 そんな時である、理事長室から軽快なメロディーが流れ始める。


♪カレーカレーカレー、カレーは辛いぞ~!


「あっ。やべー。そろそろ時間だったよ」
 シェリーは慌てながら、ビデオの予約を始める。そういえば、子供がバイキンマン好きだと聞いていた。
「そうだ。我々の攻撃目標が決まったぞ!!」
 魔王の突然の発言に、他の三人は訳の分からないという表情になる。だが、魔王は魔王らしくいつまでも笑い続けた。
「我々は、我らの世界を征服するという人類皆兄弟計画をせねばならん。しかし、悪役がいれば正義の味方も居なくてはならない。
 そんな時だが・・手元にいい感じの正義の味方が居ない」
「そうですね」
「って、それはもしかして、アンパンマンに喧嘩売る気か?」
 唯一、まともらしい理事長は驚く。
「さよう」
 この人、頭大丈夫かと思う菊池だったが、言葉には出さなかった。
 もともと壊れかけているモノに、何も言う必要がまったく無いと感じたからだ。
「正義の味方と言えど、しょせんは小麦粉と少量のドライイーストとで製造された小麦粉の固まりでしかない。少々の硫酸をまぶせば、ただれる物体。ぎゅむぎゅむっとあんパンを潰すのは効果的で、楽しいモノだ!!」
 魔王の不思議な発言に、拍手と紙吹雪を浴びせる殺戮者。どうやら、彼は魔王の後輩ならしかった。あんな先輩はイヤである。
「俺の娘も、アンパンマンが嫌いでバイキンマンが好き。つー、正しい道を歩んでいることだし、文句は無いな」
 菊池の選択権も、発言権も無いまま、計画は着々と進んでいく。
 一瞬学校を辞めようか。という思いもまま生まれたが、菊池はそれらを打ち消して悪の3馬鹿トリオに奉仕するべく今日もお茶くみを始める。玉露が何杯も飲めるのが唯一の利点だった。


 阿呆な大人と、馬鹿な生徒と被害者である生徒はデパートの屋上に集まる。そこで何があるか?
 それは、青いビニールシートの上に彼らが座っていることを言えばお分かりいただけるでしょうかと思う。
 照りつける太陽。集まる子供達と保護者。そして、事前設置された効果用品。ステージの周りは色鮮やかな装飾品に囲まれ、中央には大きな看板が飾られている。

 アンパンマン対バイキンマン

 ・・・もはや、何も言うまい。
 そして、秘密組織ブラックストライクの皆様は、一番度真ん前の席を陣取っているのも常識的なことであり、小さな子供が前のおじさんが邪魔で見えないと言うのにも菊池は耐え続けた。
 この暑いさなか、彼らはよりにもよって長袖の黒衣を身につけたままのため、文句を言う保護者も居ない。
 軽快な音楽が流れ、元気の良いお姉さんが登場する。司会のお姉さんである。
「みんな。こんにちはー!!」
 ひじょうに元気の良い挨拶には、元気の挨拶でもって返されるのがセオリーである。挨拶が終われば、アンパンマンについて司会のお姉さんは語り始める。
 それも終わってしまえば後はパターン通りにストーリーは進んでいく。つまり、アンパンマンの登場である。
「やあ、みんな。元気かな?」
 異様に頭の大きいアンパンマンの登場に、会場からは喜びの悲鳴が漏れる。たとえ変でも、子供にはアンパンマンだ。
「行くぞ!!」
 開始の合図がとどろく。
 黒衣の集団は、メスや硫酸を片手にステージへとなだれ始めた。
 しかし、菊池はその場を動こうとはしない。たとえ理事長命令であっても、彼は子供の夢を奪うことは出来なかったのだ。
「なっ、なっ、何なの?」
 段取りが違う。そんな言葉がステージ関係者の頭をよぎったであろう。しかし、関係者の頭を悩ませる暇も与えずに、代表格であるシェリーは語りだす。
「我々は、バイキンマン崇拝者だ。法の名の下に、アンパンマンに攻撃を仕掛ける」
 発言通りに、魔王が硫酸をアンパンマンの頭に振りかけた。暴れ出すアンパンマン。しかし、アンパンマンの頭は非常に大きかったため、効果は無かったようである。
 発言通りに、殺戮者はコッヘルでアンパンマンの腕を押さえて、
 アンパンマンにメスを突き刺した。暴れるアンパンマン。しかし、アンパンマンの頭は非常に固かったため、メスを通さなかった。
「菊池。何をやっている!!」
 黒き魔王が何か叫んだが、時すでに遅し。
 他人のふりを決め込んだ菊池は、物陰に隠れて辺りの様子をうかがっていた。子供達は泣き叫ぶ。
 自分の愛するべきアンパンマンが、よく分からないバイキンマンを崇拝している阿呆な大人達によっていじめられているのだ。
 しかし、悪は滅びる物である。突然、スモックと共に乱入した有名な人物によって、乱闘は止められたのだった。
 その人物は、まず黒き魔王に回転膝蹴りを食らわせて、
 魔王の貧弱な身体を子供達に見せ、自分のパワーを証明する。
 そして、わずかに怯んだ殺戮者を吹っ飛ばした。 

 そう、彼の名はバイキンマン。
 バイキン星からやって来た、悪人である。

「ちくしょう、バイキンマンめ!!」
 シェリーは、予想もしなかった人物の参入に怖じ気づいていた。
 バイキンマンの怒りは本物である。きっと彼は、前日のガオレンジャーショーもやっていたのだろう、プロの本気のパンチが炸裂し、シェリーは吹っ飛ぶ。
 しかし、負けずとシェリーは挑み続ける。
 っとそこへ、先ほどはよろめいていたアンパンマンが介入する。
 2対1では不利この上ない。
 バイキンマンとアンパンマンのダブルクロスカウンターキックが炸裂し、シェリーはダウンした。ステージに平和が戻る。

「ありがとうバイキンマン」

 アンパンマンは心からの礼をバイキンマンに言い、二人は熱く抱き合った。自然と流れる拍手の渦を感じながら、
 影に隠れていた菊池は、悪の滅亡という開放感溢れる事態を喜んだ。これで救われるのだ。

 翌日、理事長室には
 アンパンマンのエンブレムが付いた白衣を着た理事長達が居た。
 これで、終わりでは無かったのだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ