挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
都立第三中学シリーズ 作者:和泉葉也
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

4/7

第四話 魅惑の保健室は青少年相談所

「足を上げて、包帯を巻くからね」

 白衣に身を包んだ女性が、セーラー服の女生徒と一つの空間に居る。
 それだけで絵になる保健室を彼女、斉藤麻紀は作り上げていた。
 しゅるっと器用に少女の膝に包帯を巻き、ぺしと軽く膝を叩いた。

「ありがとうございました」

 丁寧に礼を言い、部活中に怪我をしたという少女は帰って行く。
 放課後になっても、部活動が盛んな時期に保健室の休みは無い。
 いつも、消毒薬や包帯と生活するのが毎日だ。
 だが彼女にも、たった一つ楽しみがあった。
 女の子に触り放題だということ。
 断っておくが、彼女は同性愛趣向があるわけではない。
 もちろん、ここ帝都高校は共学であり、男子も居る。
 一般生徒に男子が居るように、教師の中にも男子は普通に居る。

 そう、ここにも。

 ちょっぴり戸籍を操作して、まきちゃんとして生活している男子教師が。
 何故そんなことをしているか、理由はある。
 彼は大財閥の一人息子ではあるのだが、親戚が多すぎるため敵も多い、隠れ蓑と趣味をかねて高校に
潜伏したというわけである。
 まさか、御曹司が女装して保健の先生やっているとは思うまい。
 最初は抵抗があったものの、スカートをはく事に慣れた辺りで吹っ切れてしまった。髪のお手入れにも
すっかり慣れ、今では編み込みだって楽々。
 泣くのは彼の両親だけという生活であった。

「すみません」

「どうかしたの。見たところ、健康そうだけど」

 うげっ、野郎の相談かよと思いながら、不意に現れた少年に話しかける。
 学年は二年生だろうか? 柔らかい髪質の美少年系だった。
 軽く染められた栗色の髪を耳の辺りまでで切り揃え、清潔感が溢れている。
 第一印象は、おっさんに人気がありそうだなという所だろうか。

「ちょっと相談したいことがあって、あのう」

 さっさとしろよと思いながら、少年の顔をじっと見つめた。

「名前と学年は?」

「2ー3の葛原依月です」

 聞き覚えのある名前だった。
 そういえば、実力テストでいつも上位に居た生徒である。

「で、どうかしたの?」

「す、好きな人がいるんです」

「だったらさっさと告って、後ろからケツでもさすってやれよお前の容姿なら余裕だろうがよ」

「は?」

 いけない。
 私は今、優しくて美人な保健の先生まきちゃんだったんだ。
 冷静に、冷静に。

「それで、何を悩んでいるの?」

 慌てて口調を愛想良い形に戻す。

「え、あ、あのう。好きな人が居るだけなら悩まないんですけど、相手が」

「相手が?」

「男の子なんです」

 ずるっと、麻紀はよろけてしまった。
 なるほど。
 共学でもそーゆーのはあるよなあ。
 色々と思い出してみても、これは初めて聞く相談だ。適当にかわして、追い返すのも手だ。
 だが、なかなか面白い相談かもしれない。
 怪しい道への第一歩。
 それに後押しするか、道を移動させるか、人生選択を俺様決定させる。
 麻紀は、それと気付かれないように含み笑いを漏らした。

「先生、僕は今まで女の子が好きだったんです。でも、同じクラスの大川君がだんだん気になり始め
ちゃって。先生、僕は変なんですか?」

「変じゃないわよ。
 もともと、同性愛は古代ローマの時代からあったもので、今の社会の中でも同性愛は少なくないのよ。君は正常よ」

 彼が人生を踏み外すことも考えず、麻紀は自分の欲望の思うがままにしゃべり続ける。

「そうなんですか? 僕、大川君を好きでいていいんでしょうか?」

「いいのいいの。なんなら、私も告白現場に着いて行ってあげようか?」

「そんな、告白なんて」

「大丈夫よ。君なら余裕でしょ、ほら。私が着いて行ってあげるんだから、向こうにイヤとは言わせないわ」

 こんな面白いイベントをほって逃げるつもりも無かった。

「じゃあ、お願いします」

 麻紀は引出しからポータブルレコーダーとデジタルカメラを取り出し、それを葛原に気付かれないように
白衣のポケットにそっとしまうと、足取り早く葛原の後を追っていく。
 そこに、美人で優しくて憧れるという女養護教諭としての自分は居なかった。

「あれが、大川君です」

 ふむふむと、指し示された少年を麻紀はじっと観察した。
 惚れるのも無理は無い。
 一見染めているかのように見える、透き通った茶色の髪は金髪のようにも見えるほど手入れが整ってい
て、まるで毎朝毎夜のシャワーとリンスは欠かさないような美しい髪の毛。そして、それに釣り合いを取るかのような
澄んだ瞳、形良い唇。
 背丈は普通サイズなため、近くで見ても女の子のようにしか見えない。
 こりゃあ、ホモに大人気だ。麻紀は内心、ケッケッケと笑い続ける。
 そんな麻紀の思惑とは別に、大川君は清清しい表情でバスケットボールと戯れていた。
 言葉で言うなら美少年。王子様とでも呼ばれそうだ。

「大川君・・・」

 葛原は大川に見惚れていた。
 こっちの観察などお構いなしのようである。
 だがしかし、麻紀はこの状態を見るために来たのではない。
 こんな光景をカメラに収めてもつまらないし、おもしろくはない。
 ぽんっと、麻紀は葛原の肩を押した。
「さあ、行ってらっしゃい」
「で、で、でも。変に思われるし」
「変と思う方がおかしいのよ。いい! 今の世の中に同性愛者なんて死ぬほどたくさん居るわ。海外じゃ
 結婚だって認められているし、ゲイが堂々と喫茶店でラブラブになっていたりもする。日本だってそうよ、科学
 技術庁の今年度の調査によれば、町で歩いている男同士の97%がゲイカップルであると出たわ。それだけじゃない、
 ラブホテルの利用者数の3割りは男同士のカップルだとも言われているのよ。そう、今の国際社会の中で先進国ほどゲイ
 が栄えている国は無いわ。近年、性教育の一貫として同性愛のセックスのやり方まで指導するように連絡が来ているくらいだわ」

 終わりに行けばいくほど、嘘八百が並べられていた。

「ほんとですか!」

 恋は盲目。
 葛原君は不幸にも、麻紀の話を本気で信じてしまったようだ。頬を高潮させ、にこにこ顔で聞いてくる。

「もち。私は保健の先生なのよ!」  

 その言葉にすっかり安心しきった葛原は、よしとつぶやき。
 僕は変じゃない、僕は変じゃないとひたすら独り言を言いながらバスケットコートに入っていく。
 麻紀はポータブルレコーダーの録音スイッチを入れた。
 そして、デジタルカメラを動画モードに切り替えると照準をコートの二人に合わせた。
 幸いなことに、部活が終わる寸前だったためか、コートには二人の姿しか見えない。

「あ、あ、あのう」

 耳まで赤く染め、葛原は大川へと歩み寄る。
 ちょうどバスケの自主トレーニングが終わったようで、大川はタオルで汗を拭いていた。
 いい、シチュエーションだなと麻紀が笑う。

「なんだ、葛原。どうかしたのか?」

 大川が葛原に気付き、ふんわりとした髪をなびかせる。
 その美しさに、葛原は虜となってしまいしばらく動けずにいた。

「タイトル、若き少年達の禁断の愛」

 ウキウキしながら麻紀は二人を見つめた。
 どう見ても絵になる光景である。破滅していくのが楽しみだと麻紀は笑った。
 気持ちとしては、風と木の詩のように駆け落ちまでしてもらいたいものだ。

「なんだ。用があるなら早く言ってくれよ」

「ずっと前から好きでした!」

 堰を切ったかのように、葛原が大声で言う。
 おっしゃーと麻紀が小さく叫んだ。
「入学式の時から、ずっと見てたんだ。あの、その。凄い綺麗な横顔がいつまでも焼きついて。
 そしたら、何だか変な気持ちになってきた。今まで女の子に興味が持てなかったのに、何故だろうとか・・その」

 しゃべるだけしゃべると、葛原はそのまま止まってしまった。
 同様に、ショックを受けたのか大川の動きも止まる。
 まるで静止ボタンを押したかのように二人はいつまでも立ち尽くした。
 さあ、こっからが問題だぞ。
 少年の告白を受けるか受けないか。
 こっちの予想としては、戸惑ったままでいる。
 僕らは男同士なんだぞと批判するも捨てがたい。
 コートの二人とはまるっきり違い、外野の麻紀は陽気だった。

「ダメかな・・」

 最後の押しを葛原はやって見せる。
 偉い。本物の男だお前はと麻紀は心の中で拍手を浴びせ掛けた。
 これで大川も返事をする時間となる。

「何だって?」

 すっと、背筋から何かが抜けていくような冷却が流れた。
 大川は葛原の熱心な告白を蹴倒し、ガンを飛ばすという単純技法で葛原の魔の手を逃れた。
 わぁぁぁぁと叫びながら、葛原は涙のご退場となってしまう。
 しばらく、麻紀は呆然とデジタルカメラを握り締めていた。
 予想外の結末だ。
 まさか、金髪美少年がちょっちヤンキー入っている少年だとは思わなかったからだ。
 何なんだと思う気持ちも強かったが、同時にこの男について興味が湧く方が強かった。

 翌朝、麻紀はどんな反応をするかためすため、掲示板にデカデカとプリントアウトした昨日の写真を貼り付けた。
 たてまえとしては、葛原君がショックで長期入院してしまった責めとして誰かが理由を説明した。
 という誰かがやりそうな理由により麻紀は掲示板を利用した次第である。
 無論、葛原君が可哀想だから、仕返しになんてことは無い。楽しいからだ。
 写真は葛原が泣きながら逃亡するシーン。
 ちょっと考えれば、大川が葛原を泣かせたとしか思えない、いじめの現場を公表するようなシーンである。
 ただ、分かる人にはどんな現場だったか分かるだろう。

「うわ。集まってるな」

 もうすぐ始業のベルが鳴るというのに、この人だかりは何だろう。
 掲示板にはA3サイズに拡大された写真が、科学部部員募集のポスターを下に目立ちすぎていた。
 写真の右端は、号泣姿の葛原。鼻水まで垂らしている。
 葛原で無くても泣きたくなる。
 そんなサラシモノ用の写真。
 コンクールでちょっと賞を取れそうな、なかなかの出来栄えでありそして、この写真は二時間目の休み時間に大川に
よって破り去られるまで放置されていた。


「あのう、相談したいことがあるんですけど」

 やれやれと、麻紀は頬づえをつきながらだるそうに聞いた。
 これで朝から十人目。
 昨日の葛原を足せば十一人目のご相談である。
 一人、二人なら面白いだけだったが、五人を超えた辺りで麻紀もイライラしてきた。
 都合が悪いことに、こんな日に限って重病人や怪我人が一人も来ない。
 嫌がらせでもしているかのようだ。
 内容は昨日と全く同じ。

「大川君が好きなんです。でも、変なんでしょうか?」

 男に持てる男はつらいね~。なんてそろそろ笑い事ではない。
 体育倉庫の中で、大川君が強姦されていますなんて連絡が入ったらこっちも寝覚めが悪い。
 恐らく、大川の事を昔から愛してしまったいけない男子生徒。が多数居たのに、告白してしまった人が出
てしまったから彼らの闘争心に火が付いてしまったのだろう。
 面白半分にやっただけあって、むなくそ悪い。
 麻紀は適当にあしらって、生徒を追い返した。
 これ以上付き合う気も起きない。
 数秒たって、またガラガラという音と共に新規男子生徒のご登場だ。
 この後は仕事ほっぽって、家に帰ろうかとまで麻紀は思った。
 しかし、今度来たのはタダの男子生徒ではなかった。

「あの、折り入って相談したい事があるんですけど」

「はいはい。って、あんた!」

 入ってきたのは、問題の渦中に居る大川だった。
 今日一日で告白されまくったのか、どことなく顔色が土気色にまで変貌していた。
 その姿に、神経の太い麻紀もチクリと胸が痛んだ。

「はい?」

「ごめん。何でもないわ、何か相談ね。まあ、そこに座って頂戴」

 低く返事をして、大川は保健室特有の丸いすに腰掛けた。
 座る際に「よっこいしょ」を付ける辺りが昨日との元気の違いを表していた。

「何となく、相談に来た理由は分かるけど。どうしたの?」

「はい。実は俺、男に好かれているんです」

「ふんふん、噂で聞いたわ。何でも、同じクラスの葛原君が告白して振られたから入院中だとか・・」

 動揺を押さえつつ。麻紀はいつも通りに対応する。

「はい」

「でもね。どうしてそうなったか、自分で分かるの?」

「母が言うには、男受けする顔だからって。俺、男なんか好きじゃないのに」

「じゃあ。大川君にその気は無いのに周りが騒いでいるの? 昔から?」

「小学校くらいから、ずっとです」

 こりは、複雑だ。
 麻紀は内心ため息を漏らした。

「俺。女の子が好きなんです。でも、回りのせいでホモっ気のあるヤツだと思われてるみたいで、女の子が
みんな避けるんです!」

「大川君はどうしたいの?」

「男なんてイヤです。俺は、俺は女の子とお付き合いしたいんです。
 出来れば、先生のような大人の女性と」

「可哀想に」

 感極まって、麻紀は大川を抱きすくめた。
 色白の肌が眩しい。
 多分、これが女の子だったら携帯番号くらいは渡してしまっているだろう。

「先生。俺はどうしたらいいんでしょう?」

 どうしたらって。
 まずい。
 相手は頬を赤らめて私は、彼を抱きしめている。
 今は生徒は授業中で、保健室に二人きり。
 相手は生徒で私は先生、右を向けば清潔なベットとシーツが二つ。
 机の上の袋には、先日ゲームセンターで取った怪しげな商品。

 ただし、二人の性別は男子。

 まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい!!
 この二人に共通している事があった。
 根っからの女好き。

「ちょ、ちょっ、ちょっと冷静に!!」

 麻紀は本気になって抵抗した。
 しかし、成熟したスポーツマン男子の勢いに負け、麻紀は机に押し倒される形になった。
 スカートとストッキング。それに、高めのヒールさえ履いていなければ麻紀の勝ちだっただろうが、結果論。
 パワー負けした麻紀はすぐに唇をふさがれてしまった。
 うそ乳とばれなかったのは幸いだ。
 しかし、このままだとメクルメク人生の転換期を迎えてしまう。
 俺だって、モロッコなんぞに行きたくは無い。
 ガタっという音と共に麻紀は床に押し倒されてしまった。
 衝撃で机のものが落下する。

「えっ?」

 大川は、落下してきた筒状のものを見てギョッとする。
 あららあ、ばれちゃったのね。
 筒状のもの、箱に入った薬、液体の入ったボトル。
 もはや言葉にも出来ない。怪しげな男性特有商品たち。

「っ・・・・!」

 硬直状態のまま、大川は立ち尽くした。
 やっぱり、アポジカなんて買ってみるものではなかった。

「い、いや。何だその」

 麻紀が、説明しようかどうしようか悩んでいると、先程セットした炊飯器が鳴り始めた。
 保健室で自炊もしているため、ご飯も炊いているのだ。
 こりゃあ都合が良い。

「ご飯が炊けたわ。大川君にも分けてあげる」

 麻紀は嬉々としてカマの蓋を空け、ジャーのご飯を取り付けていたしゃもじで悠々とかき混ぜる。
 米はコシヒカリ。しかも魚沼産だ。

「美味しいわよ。残さず食べてね、てゆうか食えよ。足で」

 大川の絶叫を聞いてくれる生徒は、居なかった。

 お父様へ。
 お久しぶりです、あさきは高校の教師として働いております。
 先日、今後の会社発展に役立つ人材を確保しました。
 まだ高校生ですが、これから末永く会社のために働いてくださるということです。
 未だ未熟な私ですが、将来を視野に入れて今後もこのような人材発見に努めたいと思います。
 短いようですが、これで失礼いたします。
 お互い忙しい身の上ですが、近いうちにでも暇を取れたらお会いしたいと思う次第であります。
 お風邪をめされないようにご注意ください。
 近頃では、ご飯による火傷なども目立つそうですよ。
 かしこ
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ