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都立第三中学シリーズ 作者:和泉葉也
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第三話 さらば科学推論演算部

これまでのあらすじ
 第三中学校に通う、山本はじめ君は不幸なことにも科学部の部長である橋本橋蔵の目に留まってしまった。
 非人間的な行動をさせられ続けていた山本は、苦難の末に部長が用意したゴキブリホイホイに部長を閉じ込めることに成功する。
 これでやっと、真人間の道を歩めると安心する山本だったが、翌日何も無かったかのように部長は登校したのだった。

「嵐の前の静けさ」

 山本は今の状態をこう言った。
 つまり、部長は死んでもおかしくなかった。
 それほどまでの危機的状態に部長を追い詰めた、にも拘わらず山本に何もせずに部活にも彼は出ないでいるのだ。
 寛大? 温厚?
 そんな言葉で片付けられる優しい男ではない。
 言葉で言うならば陰険。変態。変質者。気持ちが悪い。
 後ろにナイフがあって、それを突きつけられている。
 そんな吐き気、寒気が襲う。
 山本は給食も喉に通らないで、悩み続けた。
 答えは出ない。絶対に何かある。
 ピンポンパンポン  軽快な音楽と共に、放送室からの連絡が始まった。

「来た」

 山本は冷や汗を滝のように流す。
「先日、転校した生徒会長の大城啓介君の代わりとして、開かれた臨時生徒会選挙によって、本年度の生徒会長が三年生の橋本橋蔵君に代わりました・・」

 は?  クラス中がざわめいた。
 もちろん、生徒会長が転校したのも初耳だし、それによって臨時生徒会選挙なんて開かれたのも初耳。
 ヤツだ。ヤツがやったんだ。
 全校生徒が心で叫ぶ。
「これより、生徒会長の橋本君からの挨拶があります。皆さん、静かに聞きましょう」

 数秒の間の後、トーンの高い嫌味な声が学校中を支配した。
「生徒会長の橋本橋蔵様だ。これより着任初仕事である査問委員会を開く。
 一年四組山本はじめ、大至急生徒会室まで来たまえ!」

 さ、査問委員会?  まるで死刑を宣告された被告のように、その言葉がいつまでも僕の耳に響いた。

「どうして呼び出されたか、分かるな?」

 山本は、生徒会室に来てすぐに、イスに縛り付けられ、猿轡をはめさせられた。
 生徒会役員はみんなどこか目がうつろで、なにかに取り付かれているかのようだった。
 拝んだ姿勢のまま、橋本様橋本様とお経のようにつぶやいている。
「もっとも、轡付きで話す言葉もないだろうがな。
ふふふ。
 この前のゴキブリプレー。非常に楽しかったよ、特に二酸化炭素まで注入したことが喜ばしい」

 部長の顔が笑っていない。
 先立つ不幸をお許しくださいと、山本は両親やら親戚やらに謝り始めた。
「ま。それはそれとして、先日の件は立派な反逆罪だ。
 クリーミーマミが正体を知られたら、力を返さなくてはいけないように、裏切った部下には制裁を下さなくてはならない。
 そう。愛少女ポリアンナの寛大さと、ペリーヌのような強さと、成原博士のような陰険さをもって」

 突然、生徒会室の窓側のカーテンが開いた。
 山本が来る前から準備してたであろう、革張りのソファーに腰掛けたその男は、ゆっくりと顔を上げた。
 ぐるぐるメガネと白衣。
 どうみても、部長の師匠であるとしか思えない。
 その師匠と部長は不敵な笑いをはもらせた。
「今回のために、来ていただいた私の師匠だ」

「君が山本か。我はお前の先輩でもある、とある会社の重役だ。
 我のことは、黒き魔王とでも呼んでもらおうか」

 我。固有名称が我!  だめだ。
 山本はこの師匠も先輩と同類だと感知した。
「師匠のご協力により、洗脳マシーンが完成した。
 そして、師匠が数年前から考案していた人類皆兄弟計画が指導するのだ。
 これは、すべての人間に改造手術を施して、ショッカー部隊を作り出すための計画。
 ライダーなんて来るはず無かろう、我々にかなうものなんて、ジャイアンのリサイタルくらいのものだ。
 ちなみに、計画の第一段階として、君には改造人間になってもらう」

「名前は何が良いだろうかな?」

「師匠。へっぽこ部下一号というのは?」

「うーむ、いまいち弱さに欠けるな。
そうだ、我が良い名を考えた。
 アンパンマンに負けた怪人だ」

「それはそれは、物凄く弱そうな名前ですね。
 素晴らしい、さすがは師匠です!」

 山本は涙を流した。
 ああ。僕は十代にして、アンパンマンに負けた怪人として生きなくてはなのだろうか?  そんな、ライダーカードにも採用されないような名前に? 「ま。改造手術は後でやるとして、先に理科準備室を元に戻そう」

「師匠。またあの時代が来るのですか?」

「ああ。ちょうどうまい事に家内が旅行中でな、うるさい女がいないというのは楽でいいものだな」

 笑いながら、悪の二人と役員は生徒会室を出て行った。
 もちろん、しっかりとカギを閉じたままで。
 山本は、一人残された部屋で必死にもがいた。
 縄が外れてくれれば、窓を割って逃げることも出来る。
 しかし、縄はイスにきっちりと緩み無く縛り付けられているために身動きが取れない。
 そのうち、イスがバランスを崩して、山本も一緒に床に倒れた。
 衝撃で頭を打った山本は、しばらく頭痛が続く。
「やれやれ、また彼の病気が出ましたか」

 声は生徒会室の中から聞こえた。
 誰。と思い、辺りを見回すといつのまにかサラリーマン風の青年がテーブルに座っていた。
「今、縄を解いてあげます」

 スーツケースの中から小型ナイフを取り出し、器用に縄を切り裂くと、山本の轡を解いた。
「あなたは?」

「こういうものです」

 男は胸元から高級そうな名刺を取り出す。
「株式会社糸倉商事、代表取締役 糸倉麻紀」

「先ほどの師匠とやらの、上司です。
 就職を希望される場合は、連絡ください」

「いや、それよりもどうして僕を助けてくれたんです?」

 糸倉という男は、軽快に笑う。
「どうしてって、あいつが仕事をさぼってこんなとこで男の子縛ってたから、助けたまでです。
 ここの教師とは知り合いでしてね、カギぐらい貸してもらえるんですよ。
 それより、お腹空きません?」

「いえ」

「そうですか、せっかくだから保健室でお湯でも借りますか。
 昼食がまだなものでして。君も行きませんか?」

 一瞬躊躇しながらだっただか、山本は「はい」と答えた。

「糸倉さんじゃない!」

「お久しぶりです。大咲さん、相変わらず美しい」

「態度違うんだから、もう! 奥さんいるくせに」

 保健室に入ってすぐ、甘い会話が始まった。
 何でも、昔恋人今友達だそうで、たまにだがこの学校にも遊びに来ているらしい。
 世の中は狭いものだな。
と山本は思った。
 お湯を借りて、カップめんを作り始めた糸倉に山本は質問する。
「これから、どうなるんでしょうか?」

「さあ。いつもの病気みたいなものだし、ほっとけばどうです?」

  「糸倉さんは師匠を連れ帰れば済むんでよね?」

「ええ」

「ですけど、僕には部長が残されてしまうんです」

「うむ」

 糸倉はラーメンをすすりながら、考え始めた。
 そして数分後。
「思いつきましたよ、山本君」

「えっ、ほんとですか?」

「洗脳マシーンとかで生徒を操っているなら、彼らも操れるはずです。
 ですから、生徒達の洗脳を解いてから彼らに洗脳マシーンで人格形成させれば、山本君の今後は安全というわけですね」

 素晴らしい。
 山本は大きく拍手をした。

 保健室から理科準備室へとエレベータが降りていく。
 山本は、大咲先生から借りたモップを両手で持ち戦闘体制に。
 糸倉は、右手にカップめん。
 左手にはスーツケースを持って戦いに赴いた。
 理科準備室は機械のジャングルだった。
 モーター音と警告音のようなものが交差して流れ、怪しげなケーブルが数え切れないほど壁に埋め込まれていた。
 彼らが準備室へと入ってみれば、ジャイアン登場のバックミュージックがどこからか流れた。
「侵入者と思えば、山本と変なサラリーマンか」

 黒マントをはおった部長が現れた。
「なんだ? そのサラリーマンは?  カップめんなんぞ食いつづけて、小池さんの親戚か?」

 面白い人ですねと糸倉は山本に耳打ちした。
「ま。とりあえず、やれ! 生徒会役員!」

 声と共に、野獣のような生徒会役員達が顔を出す。
 慌てて、山本はモップで役員達をはたきつけた。
 二、三度攻撃すると、役員達はその場に伏した。
「糸倉さん、手伝ってくださいよ!」

 糸倉はひょいひょいと攻撃をよけながらラーメンをすすっていた。
 食べ終わるまではダメか。
 山本は舌打ちした。
「なかなかのものではないか。
ならば、私自ら戦ってやろう!」

 ばさりと部長はマントをはずす。
 貧弱な肉体が現れ、山本は恐怖した。
「まあ待て、我も戦おう!」

 それまで奥で鉄管工事をしていた師匠が現れた。
 山本達をボーっとしばらく見て、自分の頭をポンポンと叩いてあぁぁぁぁぁと叫ぶ。
「社長」

 突然、師匠は態度を低くした。
 彼も一応社会人。縦社会のつらさである。
「役員会議が待っていますよ。
何やってんですか?」

 糸倉は、なおもラーメンを食べ続けた。
「ふっ、ふふふふふ。いい機会だから、貴様も改造してやる!」

 彼の中で何かが弾けたらしい。
 師匠の社会人としての生活を捨て、新しい支配者としての道を歩むことにしたようだ。
「ボーナス査定マイナスですね」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。
積年の恨み、晴らさせてもらう!  出でよ、超時空アンドロイドさゆり!!」

 ど派手な効果音と共にマネキンのようなロボットが現れた。
 コンニチハ、コンニチハと子供向け乗り物のような挨拶をするさゆり。
「うわぁ、ダサ」

 糸倉は、さゆりを眺めてすぐにこう言った。
「さゆり。超時空ミサイルだ」

「イエッサー」

 さゆりは手を山本に向けて、手首を開いた。
 そして、小さなミサイルが山本に発射される。
「痛っ!」

 それは、つまようじだった。
「はっ、はっはっはっはっはっ! さゆりの恐ろしさ、知るがいい!!」

 白衣の二人は高らかに笑った。
 山本はモップを横に振る。
 チャリンというガラスのような音がして、超時空アンドロイドさゆりは破壊された。
「はぁ、さゆり!!!」

「貴様ら、さゆりには三歳になる赤ちゃんがいるんだぞ!」

  「厚生年金も払っているのになんだ!!」

 何だかよく分からないことを彼らは言い始めた。
「ふう」

 糸倉はラーメンをようやく食べ終えた。
 割り箸を横に折り、ゴミを準備室のくずかごへと捨てた。
 ポンポンとお腹を叩き、スーツケースからサイレンサー付きのコナンスオードを取り出す。
 ガチャという音がすると、糸倉は白衣の二人に銃を放つ。
 タッタッタというミシンのような音がして、師匠と部長は血を噴出しながら床に倒れた。
「い、い、い、糸倉さん?」

 山本は恐怖で腰がぬけてしまった。
「ああ。大丈夫です。この二人は、それくらいで死にませんから」

 笑いながら、糸倉は師匠を引きずって準備室を後にした。
 かくして、長い道のりを経て第三中学に平和が訪れたのだ。
 しかし、これで山本の苦難が終わったわけではない。
 この世に憎しみの続く限り、第二の橋本が現れるかもしれない。
 また、その時まで科学推論電子演算部は閉部としよう。
 さらば、科学推論電子演算部!
 終
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