チャプター10
遠山美奈の失踪はしばらく世間を騒がせた。
連日、新聞やテレビのニュース番組で取り上げられ、様々な憶測がなされたが、警察はいまだ何の手がかりも掴めていないらしい。
黒柳にも取材陣が大挙押し寄せ、武田なんかは胴体だけでインタビューに答えていて、さらにそれを録画して喜んでいて、学校中のひんしゅくを買っていた。
僕は近所に住む幼なじみとして、吉川は高校で仲の良かった友人として、それぞれ警察に協力を求められたが、警察が僕たちから有益な情報を得ることはなかった。
地域住民が結託して、いたるところで遠山の写真入りのビラが撒かれた。部活の集合写真から拡大したそれはあまり写りのいい写真とは思えず、どうしてその写真が選ばれたのかは不明だが、もし遠山が見たら文句を言うだろうなと思った。遠山の両親はハウザーを伴い、悲壮な表情で声を嗄らして、娘の消息に関わる情報を求めていた。僕の母親も熱心に活動に参加していて、僕も何度か母親に乞われて駅前でビラを配った。吉川も彼女の言う『お友達』と連れ立って、制服姿で健気に遠山探しを手伝っていた。
そうしているうちに三月になった。
学年末テストも終了し、あとは進級を待つだけという一年間のおまけのような時期で、僕は今日も吉川とロレンスにいる。老人の見ているテレビのチャンネルは水戸黄門(再)から大相撲春場所に変った。
このところの姫は、毎週レンタルショップでフランス映画を三本ずつ借りてきて、それを僕に貸すのがお気に入りのようだ。僕はそれを一週間以内に観て、感想文を添えて吉川に返却し、ついでにレンタル料も支払わされている。何故だ。なかなか面白いとは思えないが、週に三本も観ているとさすがに詳しくもなる。
こうして僕と吉川の間に共通の話題が生まれた。
今日の吉川はネットから落としたというA4用紙を携えている。
「明日の土曜日、先行レイトショーなのよ。岡部、この監督好きだって言ってたでしょ?」
「好きとは言ってない。まだわかる気がするって言っただけだ。しかもそれどこの映画館だよ」
「東京。三時間もあれば着くわ」
「行きたくない」
「私のせいにしていいわよ」
またそれだ。そう言われたら僕は行くしかないことになっている。まったく、余計なことを言ってしまったものだ。
「決まりね。レイトショーだからゆっくりでいいわよ。時間は追って連絡する。じゃあね」
そう言って反対方向に歩き出した肩で弾ける黒髪を見送る。もうコートは着ていない。そろそろアイスコーヒーを飲んでみるのもいいかもしれないなどと考えながら、僕も自転車で家路につく。
二年生になることや、レイトショーもまあ別にいいのだが、僕にはひとつだけ、懸念しなければならない問題がある。
吉川に最初に借りた三部作。
一作目で主人公の女は、犬と猫を殺した。
二作目では、父親を殺した。
そして三作目で主人公は、恋人を殺し、友人を生埋めにし、友人の恋人を監禁して、卑屈な笑みを浮かべながら、エンドロールの闇へと消えた。
さて。
吉川は僕にどの役を与えるつもりなのだろうか。
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