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パスカルード
作:ケルベロス



犯人からのメッセージ


「シンちゃんに何かあったのかしら。」
 猛スピードで遠ざかる政田の車を見つめ結城が言った。
「まさか、あの様子だと新藤も・・・。」
 金城はその場に座り込んだ。
「この場所も危険かもしれないな。どこかに移動したほうが懸命だと思うが皆はどうする?」
 金城の言葉に清水教授は力なく頷いた。、
「では政田と二ノ宮に連絡をとっておきます。」
 そう言って携帯を取り出す金城の手を結城が掴んだ。
「待って、どこに移動しようと残る5人全員が居場所を知っていたら同じじゃない?5人の中の誰かが犯人の可能性が高いのでしょう?だったら、皆別々に行動しない?各々居場所を知らない方が安全なのかもしれないわよ。」
「いや、死んでしまった佐々木にしろ、桂にしろ1人で行動しているときにやられている。隠れるにしても何にしても1人は危険だ。」
 結城はまだ納得いかぬ表情。
「とにかく、5人全員で固まっていれば犯人がいるにしろ下手な行動はとれないだろう。俺は全員いっしょにいたほうがいいと思うが命に関わる選択だ。強制はしない。」
 金城は結城の目をジッと見つめる。結城は仕方なしに「わかったわよ。」とふて腐れたように言った。
 金城は早速、二ノ宮と政田に電話をかけた。しかし、二ノ宮、政田共に通話中。新藤の件で2人話しているのかもしれない。3人は時間を置いてかけ直すことにし、部屋に戻った。
 田畑に囲まれた一軒家。見晴らしもよく誰かが近づいてくればすぐに分かる。金城は窓の外を眺めていた。昼間はいいが、やはり夜が怖い。街灯が遠く離れた道路に点々とあるだけだ。それも大分古ぼけていて点灯するかどうかも怪しい。家に付いている鍵も簡単なもので窓も小石を投げれば割れてしまいそうなほど。やはり、夜までに場所を変えたほうがよさそうだ。
 どこか適当な場所がないか思考をめぐらしていた所、金城の携帯が短いメロディーを奏でた。二ノ宮からの電話かと思い、他の2人の視線がこちらに向いたが金城は首を振る。                                            
 金城はしばらく携帯を見つめると、
「教授、テレビをつけてもいいですか?」
 と唐突に言った。
 ワイドショーやらドラマの多い時間帯だが、どのチャンネルも臨時ニュースに変わっていた。重大なニュースである事は画面の中の雰囲気で結城にも分かったが今はそんなものに興味が湧くわけもない。清水教授も首はテレビの方に向いてはいるものの視線は下の方を見つめ溜息を繰り返し吐く。
画面の中ではスタッフが慌しくキャスターの後ろを行き交う。中央のキャスターは頻繁に原稿に目を落としながら伝えた。
「繰り返します。14;30頃。アメリカの大統領ジョー・キイス氏がお亡くなりになりました。キイス大統領は地元のミリガン州の大学で講演中に突然倒れ、意識の戻らぬまま息をひきとったとの情報です。キイス大統領はまだ42歳、死因についてははっきりした情報が入っておりませんが健康状態に問題はなく・・・。」
 金城が清水教授に声をかけた。
「教授。今の聞きましたか?この携帯は何か重要なニュースが入ると着信音で知らせてくれるようになっているんですがアメリカの大統領が大学で講演中に突然死したとのはなしですよ。我々の事件とまったく関係ないのかもしれません。本当にただの突然死かも。しかし、アメリカというのが気に掛かったんです。科学者たちが突然死で次々に死んでいったのもアメリカでしょ。もし、関係があるとすればこれは我々が考えているよりずっと大掛かりな事件なのかも・・・。」
 清水教授は、慌ててテレビに視線を動かす。
「今、キイス大統領が倒れる瞬間の映像が届いた模様です。準備が出来次第お送りいたします。それにしても、あまりにも突然の訃報に地元、ミリガン州では・・・。」
 映像が突然変わった。学生を前に大統領が講演している様子を映し出している。ホームビデオだろうか画像は随分粗く、ブレも酷い。大統領は笑顔で温和な雰囲気の中、講演は進む。突如一人の学生が立ち上がり大統領に近づく。他の学生達からは大きな拍手。手にプレゼントだろうか?何か梱包された物を持っている。大統領も教壇から降りて、彼に近づいた。その刹那、崩れ落ちるように大統領は倒れた。スーツ姿の男達が慌てて駆け寄っていくところで画面はキャスターへと戻った。
 清水教授は天井を仰ぐ。
「笑顔で講演していた大統領が突如倒れた。1人の青年が近づいてきた瞬間だ。倒れたときの大統領と青年との距離は約2メートル。青年が大統領にとってのパスカルードであった可能性は非常に高い。」
「今のを見せられたら、もう、たまたま・・・とは言いがたいですね。」
「ねぇ。私、思ったんだけど。」
 結城が思い出したかのように声を上げた。
「私達5人の中に犯人がいるとは限らないわよ。例えば、例えばよ。シンちゃんがアメリカに情報を流していたとするでしょ。向こうの研究員の誰かが十分な情報が集まった後に不要になった他の科学者達を殺したとは考えられない?そして、残るパスカルードの存在を知る日本の8人を今度は消そうとしている。情報を流したのが誰にせよ、犯人は私達8人以外の誰かかもしれないわよ。」
 清水教授は大きく頷いた。当時の研究メンバーの中でこんな大きな犯罪に関わっている人間がいるとは思えないし思いたくなかった。結城の推理は信憑性もあり、現状を見据えてもっとも救われる推理のように思える。
 だが、金城は曖昧な表情を見せる。何かが引っかかる。しかし、その何かが分からない。
ふと、大学時代の政田の顔が浮かんだ。そういえば研究に煮詰まった時、あいつはシャツの裾で眼鏡を拭きながらあっけなくその問題を解決してみせたものだ。
「只今、入った情報です。えー。」
 テレビの中でキャスターが目を泳がせ小さく咳払いをした。
「先ほど、アメリカのAACテレビで報道された内容のようです。なんと日本のインターネット上でキイス大統領の死が予告されていたとの報道がありました。キイス氏の死に事件性はないとの地元警察での発表ですが、そのネット上の予告は2ヶ月も前で実に克明に書かれているとの・・・。あっ、今、そのインターネット上に書かれた内容の詳細が送られてきました。日に数百万件ものアクセスのある有名サイトに書かれた内容のようです。書かれていた文章をそのまま読み上げます。−パスカルードの研究に携わったアメリカの諸君。君たちは有能ではなかったが資金集めには十分な働きを見せてくれた。感謝しよう。この文章は11月20日。ジョー・キイス氏の死と共に世間に知れ渡る事となるだろう。彼は、ミリガン州で大学の演説中、誰にも分からぬ方法で殺される。しかし、これは始まりにしか過ぎず、その後、中国の大揉電気社長 王仲氏が自宅で亡くなる事となる。彼らの死など私には蚊を叩き潰すようなもの。何の苦労もなく、何の感情も湧かない。私が真に心を締め付けられるのはあの頃の仲間。大学時代共にパスカルードの研究をした彼ら。その彼らすらも消さなければならない事だ。彼らを消し、私の集めた新たな仲間たちとこの世界を変えねばならない。その為の犠牲とはいってもあまりにも辛い。私は彼ら7人に言いたい。君たちの事を心より愛していたしあの頃の思い出を今でも忘れた事はないと。−・・・。えー。意味不明な言葉も綴られてありましたが、大統領の死が本日11月20日である事。更にミリガン州という場所も大学で演説中に倒れた事も合っております。これが、本当に2ヶ月も前にネット上で書かれていた事実が確認できれば大統領の死が何らかの事件性を帯びていた可能性も出てくるでしょう。」
 テレビを食い入るように見つめる3人。今の報道が事実であるならば間違いなくアメリカで科学者たちを次々に殺し、桂、佐々木、新藤。更には、アメリカの大統領までも殺した犯人が残る大学時代の研究メンバー5人の内の誰かということとなる。
 3人はお互いの顔を見合わせた。ここに居る3人か。あるいは政田か二ノ宮か。
 その時、金城の携帯が鳴った。二ノ宮からだ。
「あと、30分ほどで着きそうだが。携帯に電話したか?」
「あぁ。教授の家にずっといるのは危険だと思ってな。場所を移そうかと考えていたんだが、それよりも大変な事になっちまった。」
「アメリカの大統領だろう。ラジオで聞いていたよ。とにかく、俺達側には余りにも情報が少なすぎる。安全な場所に隠れて今後の行動を決めよう。どこに移るんだ?」
「それが、適当な場所がなくてな。」
「それなら、うちの会社で買い取ったビルがある。教授の家からでも1時間ほどで着く距離だ。今、改装中なのだが業者には帰らせよう。俺も直接そちらに向かう。」
 二ノ宮は、その場所の住所を伝えると電話を切った。














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