三年前の話です。
当時、私は大学生でして、大学の寮に住んでいたのです。
大学の寮に住んでいたのは、私の両親があまり、裕福な方ではなかったので、親にあまり負担をかけたくないという気持ちもあって寮に住んでいました。でも、寮生活ってのは、思っていたより楽しいものでして、似たような境遇の学生仲間と毎日、酒を飲んだり、麻雀したりして過ごしていたんです。寮生活に慣れだしてきたら、バイトとかにも明け暮れたりしてました。とにかく、毎日が楽しかったですね。
しかし、寮にいると、本業の学業がおろそかになってしまうのです。そりゃ、バイトやら、仲間の部屋にいって遊んでいたりしたら、勉学などしてる暇などなくなってしまう訳です。そして、実際問題として、単位の取得が危なくなってきまして、このままだと留年を覚悟しないといけない状態になってしまったのです。
それで、私は寮から離れて、アパートに一人暮らしすることにしたのです。幸いにも、バイトをがんばっていたので多少の蓄えもあったのです。それでも、やはり、家賃は安いことにこしたことは無いので、大学近くの不動産屋を数件回って、安い物件を探しまくりました。そして、見つけたんです。安い物件を……
私の探してる大学近くの相場はたいていひと月、四万から六万ってところなのですが、その安い物件は格安でして、ひと月一万五千円でした。私は嬉しくて、その物件に飛びつきましたね。
すぐに契約を不動産屋と取り交わしました。一応、なんで、こんなに安い物件なのかと、不動産屋の主人に聞いてみましたよ。主人の答えは「おんぼろアパートですから」ってだけでした。
おんぼろでも寮に比べたら、そのアパートはましでして、二階の角部屋が私の新しい住まいになりました。
すぐに、私は退寮届けをだすと、そのアパートに引越ししました。
でもね、住みだして一週間ほどで、すぐに引越ししたくなりましたよ……
何故かと言うと、アパートに越してから気持ち悪い出来事ばかり起こるのです。
その、気持ち悪い出来事は、深夜に勉学に励んでいると、突然、玄関のドアがノックされるのです。こんな時間に誰だと思い、ドアについてる覗き窓から外を見ても誰もいない。たちの悪いイタズラだと思い、机にもどり勉強していると、また「ドン、ドン、ドン」激しくドアがノックされるのですよ! 見にいっても、やはり誰もいないわけです。 それと寝ているとき、金縛りにあいます。金縛りにあう前は、いつも天井がグルグル回ってる感じがして、あぁ、来るなってわかるのですよ。でも、金縛りになるとわかった時には、もう体は動きません。体は動かないのですが、五感がとぎすまされるっていうのか、音とかに敏感になるわけなのですよ。真っ暗闇の中、私の寝ている布団に向かって、「ズー、ズー、ズル」と何か引きずるっていうのでしょうか音がするのですよね。それと同時に人の息づかいもするのですよ。私以外、誰もいるはずのない部屋でですよ。怖いですよ、息づかい。「ハァ、ハァ。ハァァ」って、どんどん耳下まで聞こえてくるのです。
そして、私の寝ている布団に、その息づかいの主はのっかってくるのです。その時には、私は怖いので、目をつぶっていて、のってくる物の正体はわからないのです。気づくと朝になっています。気絶してしまったのでしょうね。布団の上には、大量の長い髪の毛がおちています。
それ以外にもまだあります。先日、寮仲間の友人が夕方、私のところに遊びにきたそうです。その友人は、外の道から、私のアパートを確認したのですけど、私の部屋の窓に長い髪の女が、べったりと窓にひっついて外を見ていたのだそうです。友人は、彼女でも出来たと思い、邪魔しては申し訳ないと思い、私のアパートには訪問せずに帰ったそうです。勿論、私に彼女などいません。
さすがに、大学の食堂で友人の話を聞いた私は、ゾッとしました。友人に今まで起こった出来事を説明すると、友人は、やばいけど、面白そうじゃないかと興味深深でした。それで、ある提案をしてきました。
「おまえ、そのネタで論文、書けよ! 霊体験ってなかなか面白いテーマじゃないか! そうだ、お前寝ているときの金縛りを隠しカメラで撮影したらどうだ? もし、何か写っていたら、凄いじゃないかよ」
友人は霊に悩まされている当事者の私と違って、楽しそうな感じがして癪にさわりましたが、金縛り中にどのような事が起こっているのか興味を持っている自分が心の中にいたりします。それに、友人が思い出させてくれた論文も近々、提出期限も迫ってきていました。
「でも、俺、ビデオカメラなんて持ってないよ!」
気がつけば、私は友人にこのようなことを言っていたのです。
「なんだぁ、おまえ。嫌そうな顔して結構乗る気になってるんじゃないかよ。ビデオカメラは俺が用意してやるよ! そのかわり、何か写っていたら、心霊番組とかに投稿しようぜ。その時のギャラは折半してくれよな」
友人は冗談とも本気ともとれる口調でそう言ってきました。
そうして、私はビデオカメラで部屋を隠し撮りすることにしたのです。正確には隠し撮りとはいわないのですけどね。何しろ本人が仕掛けるのですから。
その日は結局、友人宅に泊めてもらいました。だってあのアパート怖いですから……
次の日に友人と一緒に昼前から夜の隠し撮りの準備をしました。準備といっても、デジタルビデオカメラを設置するだけなのですけどね。とりあえず、私が寝ている位置が中心になるようにカメラを置くことにしました。狭い部屋なので部屋全体もカメラの視野におさまりました。あとは、深夜に起こる怪奇現象を待つばかりです。
夜までは、だいぶ時間があったので、友人と一緒に少し遅めの昼食を食べにいった後、アパートのことを少し調べてみようと思い、友人と近くのネットカフェに行ってパソコンで検索してみることにしました。どうせ、何もでてこないだろうと思っていたのですが、アパートの名前を入力して検索して見ると、未解決の殺人事件の情報が出てきました。その事件は五年前に一人暮らしの女性が全身めった刺しにされて何者かに惨殺されたというものです。そして、その女性が惨殺されていた場所は私の住んでいる二階の角部屋なのです。
さすがに、その情報を見たときは全身、寒気というか悪寒がしました。友人は楽しそうに、「完璧じゃないかと」と喜んでいました。
私は友人に、もう、あのアパートには戻りたくないし、今すぐ引越ししたいと言いましたが、せっかくカメラを設置したのだし、今日だけは我慢してみろと言ってきます。明日になったら引越しの手伝いしてやるから今日だけはいつものようにアパートに戻れといいます。
そして、気がつけば、私は一人でアパートに戻っていました。いつものように、机に向かって勉強をしていました。さっきからドアがガンガン叩かれています。怖いです。天井もパチィ、パチィーンと変な音がしています。テレビも勝手に電源が入ったりします。怖いです。私は何故? また、このアパートに戻ってきてしまったのだろうかと後悔しています。友人に「今日だけ我慢しろ」って言われたから、戻ったのでしょうか?
違うような気がします。何か得たいの知れないものの作用によってアパートに引き寄せられてしまったような気になってきました。そのような事を考えていたら、いつのまにか、私は布団に入っていました。天井の豆電球がチカチカ点いたり消えたりしています。怖いので布団をかぶります。布団の中の暗闇の中で頭の中がグルグル回ってる感じがしました。そして、案の定すぐに金縛りにあいます。私の布団に向かって「ズー、ズー」
と畳の上をひきずるような嫌な音が聞こえてきました。その音はドンドン近づいてきます。私は逃げ出したい衝動に駆られますが、体はびくとも動きません。そして、あの不気味な息づかいが聞こえます。
「ハァ、アァ、ハァァ、アァァアァァ」
ついに声の主は布団に乗っかってきました。いつもなら、私はここで意識がとんでしまうのですが、今日はまだ意識があります。かぶってる布団がめくられます。天井の豆電球がチカチカしてる中、私は恐ろしい者を見てしまいました。
それは、色白の女で、目はつり上がっていて、目からは物凄い憎悪の念を感じます、口からは血がたれてました。そして、その女は白い手で私の首に手をかけてきました。苦しいです。く…るし…い。殺される。
気がつくと、朝になっていました。どうやら生きているようです。私は急いで身支度を整えると、ビデオカメラを持って友人宅に逃げ出しました。友人に昨日の夜にあったことを話すと、早速ビデオの映像を確認することにしました。ビデオの映像を見た私達は、昨日の出来事が夢でなかったことを知ることになりました。
映像には多少のノイズがあるものの、私の寝ている布団にむかって、トカゲのように畳の上をはいつくばって迫ってくる女性の姿が映っていました。女性は白い服を着ているようなのですが、ところどころ赤いしみがついていました。そして、カメラのアングルのせいで顔は映っていないのですが、私の首を絞めていました。
そこで、映像はノイズだけになってしまい終わっていました。
「凄い映像じゃないかよ! 本物だ!」友人は興奮していました。
「あとは、俺に任せておけ、心霊番組に投稿してやるよ! これは凄いぞ」
私は、友人にビデオの映像は任せることにしました。それよりも、早くあのアパートから引越ししたい気持ちが先なので、その後に大学の寮長に事情を説明して部屋を用意してもらい、友人にその日のうちに引越しを手伝ってもらい、あのアパートから逃げることが出来ました。
大学の寮に戻った私は、疲れと安心の為か、ひさびさに安眠することができました。深夜になった一本の携帯電話にさえ気がつかずに寝ていたのです。朝になって携帯に着信があったことを知ることになったのです。
電話がかかってきた時間は深夜の二時すぎです。相手はビデオの映像を一緒に見た友人からでした。友人は留守番電話サービスに声が録音されていました。
「助けてくれぇ、あの……あの女が……」友人の悲痛な声が録音されていました。
その後、友人は行方不明です。が……
それから、時々、私は友人の夢を見ます。
夢の中で友人は、背中にあの女を背負っていて苦しそうなのです。
そして、あの女は友人の背中ごしに恐ろしい表情をしながら、私においで、おいでと手招きしています。
手招きしてる時のあの女の表情は少し笑っているように思いました。
私は友人のことが、もの凄く心配です。
おそらく、この世にはもういない友人のことが…… 了。
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