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  幻影 作者:水島佳頼
第二十一話 総力戦

 一体どこを如何間違ったのか、今度は僕がマーティンを拒絶してしまった。最早これは、マーティンに対する八つ当たりだった。
 本当は離れて行って欲しいんじゃない。なのに、無理にそういってマーティンを突き放した。
「……俺のせいか。俺のせいで、思いつめさせちまったみたいだな」
 ふと柔らかな声が後ろから聞こえ、同時に暖かで優しい手が頭に乗った。もう髪を引っ張ったりしないで、ハビみたいにすっかり穏やかになったマーティンが、後ろから言った。
「ごめんな」
 その一言で、僕の心にわだかまっていたどす黒い感情がすうっと解けてなくなっていったような気がした。僕はマーティンを肩越しに振り返る。何か言おうとしても、言葉になってくれなかった。
「八つ当たりして悪かった。だから、そんな哀しいこと言うな」
 そんな悲しそうな顔しないで。随分前に聞いた、リィの言葉が脳裏をよぎる。
 僕はさっとマーティンを振り返り、彼の不透明な青色をした瞳を覗き込む。彼の目は、すごく悲しそうな光を宿していた。
「マーティン、ごめんねっ」
 謝ると、マーティンはほっとしたように笑った。そして、僕の頬を大きな手で包み込んでくる。
「目ぇ腫れてる、男の癖に泣くな」
 いつもどおりの、そんな言葉。僕は嬉しくなったけど、やっぱり涙が止まらなくて。自分がとても格好悪く思えた。
 服の袖で涙をぬぐいながら、僕はマーティンを見上げた。
「しょうがないじゃんっ、だって僕、本当に」
 言いながら、ふたたびこみ上げてくる嗚咽としゃっくりをこらえる。
「チッ これだからお前は」
 マーティンは舌打ちし、そのくせ少しも不機嫌そうじゃない顔で僕を見下ろした。そして、僕を優しく抱きしめてくれた。
 あまりにマーティンらしからぬ行為で、僕は唖然とした。そのまま彼に成されるがままにしていると、ちょっと低めのマーティンの体温を肌で感じることになる。
「いつまでも小せえままの弟みたいで放っておけねえんだ」
 言葉の続きを彼の胸でききながら、僕はどうしようもなく満たされた気分になっていた。何だかマーティン、本当のお兄ちゃんみたいで安心できる。僕は彼の服に染み付いている、タバコと硝煙と香水の匂いに目を閉じた。
 苛立つとタバコを吸いまくり、時々所構わず発砲するマーティン。香水のにおいがするのは、多分女の人と遊んでいたからだろう。
 リィは苛立っても絶対外面に出さない人だった。それに、女性とは全くといって良いほど縁が無い人だった。修行僧並みに清廉で、十五歳になっても彼女がいなかった彼は、間違っても女遊びが激しいといえる人ではない。
 基本的に、マーティンとリィは正反対なんだ。なのに、マーティンからリィと同じ空気を感じる時がある。まさしく今が、そんな時。 
 暫くこうしているうちに気分が落ち着いて、涙はもう流れなくなる。僕がそっとマーティンの胸から離れると、マーティンは実にお兄さん的な笑みを浮かべた。僕はマーティンの友達であり、多分弟でもあるんじゃないかな。
「貼り紙見た?」
 ふと僕が尋ねてみると、マーティンは深く頷いた。
「誰か候補者はいるか」
 彼に尋ねられたけれど、立候補者はいない。だってこれ、もとからマーティンだけを立候補させるためにつくったようなものだから。
 マーティンは役立たずなんかじゃない。それを証明したかった。要するに、彼の名誉挽回ってことかな。
 僕は笑顔で首を横に振り、マーティンを見上げる。
「いないよ、マーティン行ってくれるの?」
 そう訊ねてみれば、マーティンはいつもどおり皮肉な笑みを口許に浮かべる。そしてこういった。
「ああ。こんどこそ、クライド=カルヴァートを捕まえる」
 彼の自信に満ちた発言を聞いて僕も安心して、その日は眠る前に悪夢の恐怖に怯えなかった。寝るたびに悪夢を見ることを、僕は忘れかけていたんだ。 
 だけど、やっぱりその日も悪夢を見た。いつになったらリィが目の前で死んでゆく夢を見なくてすむようになる?
 傷を押さえる彼の手に絡みついた赤が痛い。生きたいよって顔で笑んでる、その心を推し量るのが辛い。そして何より、リィが死んでしまったその時の苦しみは、きっと想像もできないぐらい大きなものなのだ。
 リィを生き返らせてあげたい。だってこのままじゃ、あまりにもリィが可哀想だから。無念だったろうね、十五歳で時を止められてしまうなんて。
 僕を護るために犠牲になってくれた彼を、僕はこの手で生き返らせたい。というか、僕がやらなきゃだめなんだ。いままで十分護られた。だからこれからは、僕がリィを護っていきたい。 
 僕は悪夢にうなされつつ、五月の終りを待った。五月二十三日につくようにマーティンが出て行ったから、帰って来るのはちょうど五月の終りになると思うんだ。僕は辛抱強く待った。
 悪夢にうなされ、起きるたびリィに謝って、重い気持ちのまま朝を迎える。そんな生活も、もう僕のリズムとして定着してしまった。
「ミンイェン、マーティンが帰ってきた!」
 ノーチェの元気の良い声で、僕は銃弾のように部屋から飛び出して真っ直ぐマーティンのところへ向かった。
 ところが僕は、戻ってきたマーティンを見て愕然とした。よれた服。乱れた髪。そして、切り裂かれた肩と腹。血で汚れた傷跡や服、それから髪。マーティンはボロボロだった。だけど、いつも通りシニカルに笑っていた。
「クライド=カルヴァートとその仲間の容姿を掏ってきた。だが、イノセント=エクルストンを見つけちまってそっちを追うことを優先的に考えちまった」
 彼はそういって、疲れたように笑う。
 イノセント=エクルストンといったら、マーティンが追っている古くからの仇だよね。だったら、そっちを追ってしまっても無理は無いと思う。
 それにマーティンもクライドも、そしてイノセントもアンシェントタウンの出身なのだから、きっとイノセントを追うことでクライドについて何らかの情報を得られると思う。なにか、つながりがあっていいと思うんだ。
「イノセント=エクルストンもクライド=カルヴァートを追っていた、チッ。帝王もクライド=カルヴァートを欲しがってるらしい」
 うわ、帝王ついに行動に出たんだね。僕が手下にならないからって、クライドを手下にしようって魂胆?
 じゃあ、クライドのことを混血児だって知ってるんだ、帝王。負けてられないね。
「クライド=カルヴァートの連れに視力を操る魔道士がいた。トニーとか呼ばれてる奴だ。年齢は十二、三歳」
 マーティンの情報は、物凄いと思う。にわか信じがたいことばかりだった。完全に度肝を抜かれた。まさかクライドを追うことで帝王のことやイノセントの宿敵が浮かんでくるとは思わなかった。
 何だかクロスワード・パズルみたい。紙に並んだ『クライド=カルヴァート』の文字列に交差するように帝王がでてきて、帝王の文字列にイノセント=エクルストンの文字列がが絡む。
 そしてこれから、おそらくもっともっといろんなワードが出てくる。
 そのなかに僕の名が交じる日、それがクライドを捕らえる日。楽しみだなあ? 僕、クロスワード大好きなんだ。
「ねえ、早速クライドになってみせてよ!」
 僕が嬉々としてそう言うのと、マーティンの身長がちょっとだけ縮んで長かった髪が短くなったのとどっちが早かっただろう。
 僕の目の前には、写真でしかみたことがなかったクライド=カルヴァートが立っていた。ただし、目の色と声だけはマーティンのままだったけど。
「混血児は血液に物凄い魔力が宿るんだ」
 クライドの顔をしたマーティンが、いつもの声と表情でそういう。あの明るい笑顔のクライドも、こんなに嫌味ったらしい笑みを浮かべることができるんだ。僕は頷いて、クライドの姿のままのマーティンを連れて実験室に向かう。
 どこからか優しい歌声が聞こえる。そういえば、研究員の中に歌が好きな女の人がいたんだった。彼女の歌をBGMにして、僕らは希望の扉を目指す。
 もしかしたら、これでリィが生き返ってくれるかもしれないんだ。だから、実験室の扉は希望の扉。
 僕もマーティンも、無言で歩いた。僕はリィのことを考えていた。多分、マーティンも考え事をしていたんだろう。マーティンが何を考えているのか僕には解らなかったけれど、口許に終始皮肉な笑みを浮かべていたってことは女の人のことでも考えてたんじゃないかと思う。
 マーティンが今まで一緒にいた女の人は全員遊びで付き合っていたつもりらしいけど、女の人の中には本気でマーティンのことを好きになってしまう人もいるらしい。仕方ないよね、マーティンって一緒にいて凄く安心できるし。
 だけどマーティンは、絶対本気で女の人を好きになったりしないんだ。マーティンの気持ちも解るよ、だってマーティンは束縛を嫌う人だから。一人の女の人のところにずっといるなんて無理なんじゃないかな。だからマーティンと付き合う人は、遊びのつもりだってことを覚悟しなきゃならないね。
 女を抱いてる時くらいはイノセント=エクルストンのことを考えずにすむ。前にマーティンが言っていたことが脳裏にちらりと浮かぶ。
 マーティンにとって女の人は、都合の良い逃げ口なんだなって、それを聞いたとき思った。色々苦しんでるんだ、マーティンも。
 彼は気楽そうに見えて、いつも影を背負っているような雰囲気がある。女の人と遊ぶ時だって純粋に楽しんでる様子じゃないし。彼が本当に楽しそうに笑ってくれたのは、今から何年前のことになるんだろう。
 リィを生き返らせたら、マーティンがイノセントを捕らえるための手伝いをしてあげよう。僕の目的の為に一生懸命頑張ってくれた彼だから、僕も彼の目的の為に頑張ろうとおもう。
「なあミンイェン」
 マーティンについて色々考えていたら、隣を歩いていた本人が僕に声をかけてくる。僕はその声に本人の顔を見上げ、首をかしげる。
 白い肌に滑らかな色をした金髪。端整な顔立ちだけど、口許にたえず嫌味な笑みを浮かべているマーティン。
「どうしたの、マーティン」
 そう答えてみれば、マーティンはふと無表情になった。何を聞かれるのかと身構えると、彼は不意に満面の笑みを浮かべた。こんなに楽しそうなマーティンを見たのは、何年ぶりだろう。
 僕が驚いていると、彼は出し抜けにこんなバクダン発言をした。
「まだ童貞か?」
 ……前言撤回。絶対マーティンなんて助けてやらない。
 マーティンはやっぱり能天気で、脳みその三十パーセントが「いかにして人をからかうのか」ということを考えるためだけにあるような人間だ。
 僕は多分、このとき頬を赤くしていたんじゃないかとおもう。鏡を見なくても、マーティンの反応でそれが容易に解った。
「解りやすい奴だねえ? とっとと女つかまえな。十八にもなってまだ童て」
 即座に切り返す。彼がその言葉を言いきる前に。
「馬鹿マーティン! 僕は君と違って遊び人じゃないんだ!」
 僕の反応のどこが面白かったのか、マーティンは腹を抱えて笑い出す。馬鹿馬鹿しいくらいに笑いまくっているマーティンに、すれ違う研究員たちが訝しげな視線を送っている。
 確かにマーティンは兄貴分だよ。間違いなくね。だけど、リィはこんな破廉恥なこと絶対にいわなかった。だから僕はマーティンに教えられるまで、こういう言葉なんて聞いたことすらなかった。
 兄弟ってこういうのが普通なの? 違うよね? というか、違うって言って欲しい。
 むすっとした僕の隣で、マーティンはいつまでも笑っていた。実験室についても笑っていたけど、ここにきてようやく彼は笑いをおさえることに思い至ったみたいだ。
 僕はずっと機嫌が悪かったけれど、実験に使う芸術品を物色していたらいつのまにか気分がとても軽くなっていた。
 リィにあえる。話ができる。そんな日がもう目の前に迫ってる。
「クライド=カルヴァートの仲間は三人」
 マーティンがそういい、僕は物色を中断して彼を振り返った。彼の話によると、そのうちの一番弱そうに見える少年が魔道士らしい。二番目に弱そうな少年を操ってみたが、大昔の魔道士の亡霊に邪魔をされたと彼は言う。
 全く話がつかめない。大昔の魔道士の亡霊? でも、マーティンがそういうからには本当のことなんだろう。
 僕は早急に被験体をどれにするか決めて、『クライド=カルヴァートの血』の模造品をマーティンに提供してもらった。それを使って実験してみる。
 前にやったのと同じように、ウサギをいれられる大きさの円筒形の水槽に魔力伝達用チューブをつなぐ。被験体は小さな猫。栗色の毛並みに青い目をした、可愛らしい猫だ。
 僕はマーティンに水晶の詰まったコードを渡し、魔力を送ってもらうことにした。待つこと数分。水槽に少しずつ変化が現れた。猫の水槽の中に気泡ができてくる。しかし、その先は何も起こらなかった。
 僕はマーティンを振り返る。マーティンは僕を見て、それから元の姿に戻った。どういうことだろう。やっぱり、模造じゃどうにもならないってことなのかな。
 そっか、まだリィは生き返らないんだ。でも、手の届く位置に混血児がいるよ。それを捕まえてくればいいんじゃないか。
 落ち込んじゃだめだ、落ち込むな。マーティンは頑張ってくれた。だから、僕も頑張って辛抱しなきゃ。
「悪いな」
 彼は言う。
「気にしないで。頑張ってくれてありがとう、休んで良いよ」
 僕は笑みを浮かべ、指を鳴らす。そして、実験の後片付けを全て部下に任せた。
 クライドの追跡を始めてもいいかもしれない。だけど情報によると、彼らは漁船で孤島を目指してるという。この会社は、海上を追跡する技術なんて持ち合わせていないんだ。海軍を持ってるわけじゃないし、船の操縦ができる社員なんていないし。
 彼らが海に逃げたら、待ち伏せしかないね。だったら、孤島に行くまでの島に人を配置すればいい。そうして、罠をしかける。まさしく蜘蛛のように、待ち伏せて捕らえて混血児たちを貪り食う。
 いや、実際に食べはしないよ。でも結果的に、血を使い果たしてもらうことになるから。この網に、早くクライドがかかってくれればいいのにな。
 獰猛な蜘蛛は腹ペコで、毒針をかくしつつ君にしのびよっているんだよ。ぜったい気づかないでね。まあ、気づくはずも無いけれど。
 僕は部屋に戻り、地図を広げる。大きく広がるナルディーニ洋を突っ切って、あの孤島へ向かうと予想されるクライドの軌道。
 それをみて、僕は唐突にはっと思いつく。ハビの喫茶店やレンティーノの実家があるアルカンザル・シエロ島が、絶好のポジションじゃないか。漁船の燃料なんて長持ちするはずが無い。補給する場所が必ず必要になるはずだ。
 僕は即座に会議室に行き、皆を呼び出した。マーティンは医務室で治療を受けさせて、残りのメンバーに話しかける。
「アルカンザル・シエロ島に行ってくれる? そこにクライドたちがくるはずなんだ」
 そういうと、真っ先にノーチェがこう言った。
「私、ちょうどそこで撮影があるの。女優として初めての映画なんだ」
 本当に嬉しそうに彼女は言う。彼女の隣でセルジが笑っているけれど、無理しているように見える。隣で成功者が満面の笑みを浮かべているのに、自分はまだ夢を叶えることができていない。それをとても歯がゆく思っている表情にみえた。
 ノーチェの映画の監督は、帝王の手下らしい。イノセント=エクルストンとその仲間が何度か監督を呼び出して話をしていたことがあったから、ノーチェはそれに気づいたんだとか。
 帝王の一味は、僕がクライド=カルヴァートを捕獲しようとするということを予測していたらしい。だからそのまえに捕まえてしまえって言う魂胆なんだ。
 くう、汚いぞ帝王。やっぱりあいつは自由の権化で、究極の自己中心的男だ。
 僕のもつ力じゃあ決して消すことも潰すこともできないだろうけど、僕はあいつをいつか解体してやりたいとひそかに思っている。だって、僕の邪魔ばかりするじゃないか。性格悪いよね、帝王って。利己的すぎ。まあ、僕だって人のこと言えないのは解ってるけど。
「あの島が孤島に一番近い島国だよ。帝王の住処に向かうんだったら、裂けて通れないところでしょ?」
 気を取り直して僕がそういうと、皆うなずいてくれた。だから僕は、早速皆を送り出した。
 ノーチェはすぐに発っていった。明日の朝にも、船でその島へ向かうといっていた。それまでは生活用品などを買い足したりしにいくらしい。
 彼女のあとを、セルジも追っていった。セルジは旅行鞄に美容師について書かれた本やハサミのセット、それから髪を切る時に服を汚さないようにするためのカッティング・クロスをつめてすぐに玄関に向かっていく。
 ノーチェとセルジの二人を玄関まで見送ると、ハビとレンティーノも一階まで降りてきていた。いつもどおりしっかりしたスーツみたいな格好のレンティーノが笑顔で手を振って、屋敷の電話番号をメモした紙を手渡してくれる。細いペンで書かれた、女の人が書いたみたいに繊細な文字。まさしくレンティーノの字って感じだった。自然に笑みが浮かぶ。
 僕はそれをしっかりと白衣の胸ポケットに仕舞うと、レンティーノに手を振り返した。薔薇の似合う優雅な彼は、軽やかな足取りで街へでてゆく。歩いている姿さえ美しいと思わせてくれるから、レンティーノは凄い。
 レンティーノを見送ると、ハビもお店の電話番号を教えてくれた。僕が手帳にそれをメモすると、ハビも行ってしまう。ハビには僕のように垢抜けない印象はない。なおかつ、統括者としての威厳を十分に持ってる。歩き方も、きびきびとしていた。
 僕は皆が見えなくなるまで見送った。あとはマーティンだけ。マーティンには、怪我が良くなってから行ってもらおう。
 さあ、これから僕の総力戦が始まるよ。クライド、絶対にアルカンザル・シエロ島に向かってね?
 皆をアルカンザル・シエル島へ送り出してから暫くたった。その間に僕は新製品を開発したり、リィに語りかけたりと、いつもと何も変わりのない日々を過ごしていた。
 レンティーノからは毎日のように電話が来た。意外と寂しがりやなレンティーノは、島についてから初めてかけてきた電話で、広大なお屋敷にたった一人で住むことにちょっと抵抗を感じているといっていた。
 でもレンティーノはとても適応力のある人だから、そんな環境にも慣れてきているようだ。最近の電話では、庭の花が綺麗だとか倉の中にあった古書が面白かったとかそんなレンティーノらしすぎることしか言わないから。彼はこれまでの電話では、切る前に必ず「早く帰ってミンイェンと直接話したいです」なんていってたんだよ。
 ハビからは時々電話でお店の様子を聞かせてもらった。セルジはハビの喫茶店からちょっと離れたところにある書店でバイトして、ちょっとでも多くのお金を稼ごうと頑張っているという。何て前向きな人なんだろう、僕だったら絶対遊んじゃうのに。
 ノーチェはというと、映画のヒロイン役として頑張ってる。帝王の手下である監督のもとで、彼女自身がいちばんやりたかったことを全力で頑張ってるんだ。
 僕はリィの為に日々頑張ってるつもり。いつもと何も変わりなくても、いつもリィの為に生きているから。


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