虫取り
「あんらー。まさかこんなカワイイ子が龍王様なんてねえ!」
ミノタウルスのおばちゃんが笑う。
カツオのお母さんだ。
カツオ親子は農業フロアの管理人である。
農作業自体はそのほとんどが、マクスウェルの魔力で動く自動人形が行っている。
彼らはそれ以外の業務、自動人形ではできない作業や倉庫の在庫管理をしたりといった業務に就いている。
「マクスウェルです。はじめまして」
そう言うとマクスウェルはぺこりと頭を下げる。
もともと大人しく聞き分けがいい子なので挨拶はできるのだ。
そこは和室だった。
6畳ほどの部屋に畳が敷かれ、真ん中にはちゃぶ台。
そこにはお昼ご飯が並んでいた。
メニューは焼きそば。
具はもやしとキャベツである。
スーパーで三人前198クレジットで売っているものだ。
それと牛乳。
マクスウェルはどこで生産しているとか誰が作っているとかは一切聞かない。
絶対に聞かない。
獣の本能で危険を回避しているのだ。
「まーくん。嫌いな物ある? 焼きそばは大丈夫?」
おばちゃんが聞く。
マクスウェルは少し考えると正直に答えた。
「ごめんなさい。にーちゃに好き嫌いはダメって言われているのですがセロリだけは苦手です。あ、焼きそばは大好きです!」
マクスウェルはどうしてもセロリが食べられない。
鼻が良すぎてあのニオイが強い野菜が食べられないのだ。
ちなみにサラもマクスウェルに「好き嫌いするな」と言いながら自分も瓜が食べられなかったりする。
「んまあ。小さいのに偉いわねえ。それにひきかえうちのバカは……」
「あー! カーチャン!!! キャベツ! もーキャベツ嫌いって言ってるのにー!!!」
カツオが抗議する。
カツオは野菜全てが嫌いなのであった。
「あんたねー! まーくん見習いなさい! あんたの方がお兄ちゃんでしょが!!!」
「えー! 別にいいじゃん! なー。まーくん?」
カツオは怒られてもまるでめげずにマクスウェルに話を振る。
「よくわかりません」
「ひで! まあいいや。なあなあ、まーくん。メシ食ったら虫取りに行こうぜ!」
話がころころ変わる。
カツオはあまりものを深く考えないタイプなのだ。
「でもボクそろそろ帰らないと、にーちゃが心配するのです」
「えー! いいじゃんー。行こうぜー!」
モーッモーッ言いながら我が儘をいうカツオ。
無駄に押しが強い。
「でもー」
「カブトムシもいるぜ!!!」
カブトムシ。
それを聞いた瞬間、マクスウェルはビクッとした。
「……カブトムシ……いるとですか?」
目を丸くしている。
「お、おう。本当は朝早くの方がいいらしいけど、うちの裏のンガイの森なら昼間でもいっぱいいるぞ!!!」
「おおおおおおおおおお!!!」
マクスウェルは急にテンションが高くなり、尻尾がピコピコ揺れている。
しかも妙にそわそわしている。
「カブトムシ……お外にでなければ出会えないレアモンスター……まさかおうちの中にいるとは……」
「カブトムシだけじゃないぜ! カミキリムシにホタル。沢ガニにザリガニ。カエルもいるぜ! それとこれ内緒だけどまーくんには教えてやるぜ……クワガタもいる」
もったいぶってカツオがそう言うと、マクスウェルがぶるぶるっと震えた。
「う、うおおおおおおおおおおッ!」
マクスウェルの目がキラキラ輝く。
虫さんである。
はじめての昆虫採集なのだ。
「専務さんには私が連絡しとくわね。暗くなる前に帰ってくるのよー」
「はーいっ!」
こうしてンガイの森(埼玉)への虫取りが決定したのだ。
◇
一方、ショッピングセンターは大騒ぎになっていた。
昼のたこ焼きの供給は間に合った。
トン単位で粉を持ってきたので夕方の分まで大丈夫だろう。
異常なほど売れていくタコ焼きを前に半魚人たちは猛烈なまでに忙しく働いている。
タコ焼きを焼き、お金を受け取りお釣りを渡す。
可哀想なくらい忙しそうであった。
そんな中、とんでもない事態が起こったのだ。
店長は平謝りする。
「すいません!!! 私がいながら龍王様を見失ってしまいまして!!! すぐに捜索隊を派遣しますので!!!」
「いえ。大丈夫です。魔導GPSありますので……あれ?」
サラが願いを叶える不思議な玉を探すレーダーのようなものを取り出しスイッチを入れる。
本当ならディスプレイにマクスウェルの位置が表示されるはずだった。
ところが何の反応もない。
「あ、あれ……?」
「私たちもドラゴ○レーダー試したんですがなんの反応もないんです!!!」
「え? ええー!!!」
頭を抱えるサラ。
事態は予想よりも何倍も困難になっていたのだ。
何かに気づいてサラが頭を上げる。
「つか、農業フロアはバカ広いじゃないですか!!!」
「だから、こちらも捜索隊を出そうって言ってるんです!!!」
店長も必死である。
「ちょっと私、農業フロア見てきます!」
サラは駆け出す。
サラは後悔していた。
おうちの中だから大丈夫だと思っていたのに!
絶対泣いている。
お使いはまだ早かった!
まだ一人でお留守番もできないのに!
マクスウェルはサラにとっても大事な子であるのだ。
サラは必死になって倉庫を目指す。
そんなサラの後ろから追ってくるものがいた。
「サラちゃん! 私も行く!」
それはクレアだった。
サラは無言で頷く。
こうして龍王様大捜索の幕は切って落とされたのである。
◇
「あのー。店長。農業フロアのフネさんと仰る方から魔導電話です」
ダークエルフの女性社員が携帯魔導電話を持ってきていた。
マクスウェル開発のため金を出しても買えない品である。
ショッピングセンターにはこういったものがゴロゴロしているのだ。
「あ、はい」
店長が携帯電話を受け取り、電話に出る。
「店長? フネです」
「今お電話しようと思ってたんです! そちらで龍王様見かけませんでしたか?」
「あれまー。まーくんなら、うちのカツオとンガイの森に虫取りに行きましたよー。夕方には送りますので……」
それを聞いて店長は焦った。
がっつり遊んでいただけだった!
この前の邪神騒ぎで敏感になりすぎていた。
このダンジョン最強生物が農業フロアに向かってしまったのだ
果たして、ただですむのだろうか?
農業フロア壊滅だけは阻止しなければ!
スーパーが営業停止してしまう。
「あがががががががが!」
「あ、あの店長」
「手の空いてる警備員を農業フロア、ンガイの森へ集合させてください! ショッピングセンターの危機です!!!」
◇
そのころンガイの森(埼玉)。
「ぬおおおおおッ! カツオちゃん! カツオちゃん! カミキリムシです!!!」
尻尾をぶんぶん振り回しながらマクスウェルが言った。
自分を見失うほどハイテンションになっている。
二人はすでに『ちゃん』付けするほど仲良くなっていた。
「ふははははは! まだだ。俺が蜜を塗った木があっちにある! 行くぞ!!!」
「う、うにゃあ! らじゃーなのです!」
森を突き進む二人。
まだ彼らは、おっかない生き物が迫っていることに気づいていなかったのである。
土曜日(日曜日深夜)お休みします。




