トーカの里帰り(1)
武器。
この世界で生きていくために必要なものの一つだ。
何故か? モンスターが出るから。襲われる可能性があるから。
町中でも安心は出来ない。勿論、用心棒などを雇ってもいいのだが。
「武器が無いです」
とセルス。旅する者にとって、それは致命的である。
「え、何でじゃ?」
「……えーと……内緒です」
なんでやねん。
「それは、困るね」
「はい、そうなんですよ。……どうしたらいいと思いますか?」
セルスは困った様に首をかしげた。
「新しい武器とかか、ここは」
「でも……なるべくお金は節約したいですし……」
「別に構わないと思うけどなあ……無いと困るでしょ?」
「はい、そうなんですけど……」
ちなみにこの話をしているのは森の中で、セルス、グレン、俺、トーカの四人だ。
残りはヴィルドをからかいまくっている。ヴィルドの声が嗄れてきてる。ごめん、助けられなくて。
「むー……あ! じゃあ、私の故郷の里の……あーでも……まあいいか。私の故郷に、凄腕の武器匠がいるんじゃが」
「え? でも、お金とか……」
「いや、それは心配ない。上手くいけばタダで手に入る。……じゃから、私の里に寄って行かんか? ちょっと報告とかもしたいし……」
「俺はいいと思うけど。少し気になるし」
「気にっ!?」
「トーカ……何? その反応?」
「っ!? べべべ別に何でもないじょ!」
青春だなあ。……じょ?
「じゃあ、行きますか」
「そうだな。それがいい」
「じゃあフローラ、後ろの方に言ってきてくれますか?」
「やだ」
あんなところに行けるか。絶対に標的になるだろ。
「そっちー! トーカの里に寄ってく事になったから、よろしくねー!」
グレンが叫んだ。そこまで遠い位置に居るわけではないが、からかってる最中だからか、エリカが手を挙げて了解の意を示す。
ヴィルドの髪の端が結ばれている。何があったんだろう。
〜〜〜
えーと、さっきのとこから近い位置にあるという事で、トーカの案内についてきた訳だが……
「え……?」
「これ……?」
「は……?」
比較的マトモである、グレンとセルスとヴィルドが言った。ヴィルドはかなり疲れている。ごめん。
「崖だね?」
そう、何処からどう見ても、それは崖―――それも断崖絶壁だった。
角度は直角どころか、多分百度ぐらい……おいおい。
「じゃ、行くぞ!」
『ええええええ!?』
トーカが軽い身のこなしで登り始めた。マジで? え、登るのかこれを。
「仕方ないな」
「わ」
唐突に、エリカが飛んだ。フィーネを姫抱っこして。
純白の翼で力強く羽ばたき、ゆっくりと崖の上を目指してゆく。
なまじ二人共顔が良いので、絵画を思わせるぐらい素晴らしいものなのだ、が。
普通に反則だろ。
「ええっ!? せこいですよ!」
「行っちゃった!? 酷っ!」
「ぉおい!? ふざけんな!」
叫ぶセルスとグレンとヴィルド。もう男子三人組でいいや。なんか仲良いし。
「私はニワトリで登れるわよ! あ、他の人は運べないわ」
「私は氷の翼とか作れるからいいけどー、そこの三人は流石に無理だねぇ」
と、コケコとアーチェ。
男子三人組の視線が俺を捕らえる。
……はあ。面倒くさい。
「絶対に暴れるなよ。……ったく……」
ぼそっと呟いてから、黒い布の様なナレーターの姿になる。
俺は自らを広げて、三人を包む。
で、空中にワープ口を開く。マーブルな虹色が渦巻いている穴だ。
ワープだけでいいじゃんって? わかってないな。中やばいんだよ。目が悪くなる。エリカ? あいつは知らん。
「なるほどね! こっこっこ」
コケコがニワトリの姿で崖を垂直に駆け上がり始めた。ぶっちゃけ怖い。後垂直よりきついのにどうやって登るんだ?
「そいじゃ、私もー。アイスウィング」
世にも美しい氷の翼がアーチェの背中に生える。それ、固くね?
俺もワープ口に入る。ゆらゆらと揺れながら。
……うーむ、いつもの事だが眩しい。
あ、セルス動くな。
「ていうか、ま、真っ暗ですね……」
喋んな。それにあんまり息するなおいちょっとひやぁっ!?
『……』
……わ、分かっただろ。布の内側は敏感なんだよ。下品だけど人間みたいに……。
―――三人が笑顔になった気がした。
〜〜〜
ものっそい疲れたが、頂上(?)に到着。【気がした】は気の所為じゃなかった。
……畜生あいつら、鬼の首でも取ったみたいに俺で遊びやがって。ヴィルドお前普段の仕返しのつもりか。それともストレスたまってんのか?
既にエリカとフィーネはお茶をしている……って、何リラックスしてやがる。
後、トーカも居た。……あの崖を普通の人間が登ったのか……? 訓練されてるにしろ。
コケコとアーチェもやってきた。
男子三人組は、
『……』
落ち込んでいる。
……そりゃまあ、自分と同じぐらいの女の子が崖登りして自分達は出来ない……って悲しいにも程があるか。俺は謝らんぞ。さっきまでの恨みだちくしょー。
「ど、どうしたんじゃ? 大丈夫かグレン? とセルスとヴィルド」
あくまで後ろの方はオマケか。
しかしその言葉は追い討ちに近い。
「ああ、うん……ごめんね。トーカこそ、大丈夫?」
「私か? ああ、小さい時からあそこで遊んでたからな。遊び場はあのっていうかこの【丘】ぐらいしかなかったし……」
……。え!? 子供の時からかよ! しかも丘扱い!?
という事は、トーカの里の人間は全員……あーもうやめとこ。
「ほら、上の方が盛りあがっておるじゃろ? 飛び降りゲームに最適でな」
『飛び降りゲーム!?』
「あっと、勘違いするでないぞ」
か、勘違い……だよな? これは?
「ちゃんと下には草ひいてたからな? 岩剥き出しに飛び降りるなんてのはちょっとキツイしな。そうそう、中には草ひかずに飛び降りるのにチャレンジする奴とか居たし、どこまで減らせるかを競ったりもしたなあ」
昔をなつかしむトーカ。
うん。流石の俺でもびっくりだ。
「僕、後で登ってみますね!」
「死ぬ気かお前!?」
「じゃあヴィルドはこのまま引き下がるんですか!? 男としてのプライド捨てる気ですかさっきの髪の毛みたいに!」
「うっ……ていうか髪の毛関係ねえし! その前に見てたんなら止めろよ!」
またセルスとヴィルドが喧嘩し始めた。本っ当仲良いなお前ら?
『良いわけあるかぁ!』
おお、ハモった。あっと、口に出してたか。
「でも次が難所なんじゃよー……」
トーカがふぅっと溜息をついた。
……これ以上の難所って……。
「ねえ、その前に休憩しない?」
フィーネが言った。まあ、崖の前まで歩きっぱなしだったし。
俺は良いと思―――
「お弁当を作ってみたんだけど」
―――いません。
「え、どうして?」
どうしても何も。死ぬし。
「セルスは?」
「はぐぅっ!? 持病の腹痛がぁっ!」
腹痛って持病になんの?
「グレンは?」
「うわあっ!? 持病の肺炎がっ!」
それ絶対違う。
「ヴィルドは?」
「がふっ!? 持病の神経痛がっ!」
別に関係なくね?
「トーカは?」
「ああっ!? 手足の震えが止まらないっ!」
まったく関係ないなオイ。
「アーチェは?」
「あはははは聴力落ちたみたーいぜんっぜん聞こえないなあ〜?」
聞こえてんじゃん。
「コケコは?」
「世の中は儚むものよそして王は一人となるの烏が止まる止まり木は漆黒の海……」
どこの宗教だよ。
「エリカ……」
「うん、いつも通り美味ごはぁっ」
エリカが吐血した。破壊力変わんねえな。
前途多難なり、トーカの里帰り。 |