メイド服と追いかけっこ(9)
「コケコー!?」
セルスがやってきた。
「どうしたんですか!?」
「魔力が切れかけてるだけらしいから、大丈夫。セルスは無事?」
「あ、はい。……これだったら、連れてきてあげた方が良かったかな……」
「どうかした?」
「や、何でもありません」
俺は、ポケットにつっこんであった魔法で小さくしたトランクケースを取り出し、通常サイズに戻した。
中から簡易テント、毛布などを取り出す。
「俺はコケコを寝かせておくから、皆を呼んできて」
「わかりました」
「……あれ、セルス、ナイフは?」
「はは……壊しちゃいまして。それじゃ、行ってきます」
「私も行く」
二人は駆けていった。
「はい重傷者一名ー!」
「ぶっ!? 大丈夫……じゃなさそうだね、フィーネ!」
セルスが姫抱っこでフィーネを連れてきた。その手には双剣が握られている。
腹からは血がだくだくとあふれ出し、口からも時々吐き出している。
「フィーネ、聞こえる!?」
「……ぅ……っか……あ゛……」
「喋れないんだ……。ちょっと待ってね、診察する。急ぐから……」
フィーネの体に手を当てていくと、本当に酷い事になっていた。
腹の大出血は勿論、あばら骨が三本と右腕が折れていた。でも、一番の重傷は……
「声出そうとしないで! 鼻で息して、その方がマシ!」
喉。
まあ全身酷いけど! これは、本当に全体を癒した方が良い。
「プリマ・ヒアリング!」
一気に魔力が吸い取られていく。どうやら、魔力消費も非常に激しいらしい。
二分程立ち、本当に大まかなところだけ治したところで、フィーネが声を出した。
「の、どを……。最悪、そ、れだ、けで……いい、から」
「え?」
「歌え、る様に、し、て……」
……歌?
「わかった」
「あ、りがと……」
喉を集中的に治していく。
やがて、これ以上無い程、喉だけは完璧に治した。少し眩暈がした。
「もう……他は……」
「歌える様に、するんでしょ? 歌は肉体と魂全部で歌うもの……って、俺の、友達が、言ってた」
「……!」
俺は息切れしながら、笑顔を作った。
血を止めて、腹の組織を治す。
あばら骨を治す。
右腕を回復し終えたところで、俺は手を離した。
「……はあ、はあ……ごめん、後、擦り傷細かい傷……」
「そんなの、すぐに治るよ。グレンこそ、大丈夫?」
「ん、何とか……」
「……【鬼神】の唾液って、魔力の回復が出来るんですよ」
セルスが遠い目をして言った。……。
「……ごめん、遠慮しておく」
「分かってます」
「急患じゃ!」
トーカが叫んだ。
テントの外には、アーチェが居た。
胸から、血と紫でなんかじゅわじゅわ言ってる液体がだらだらと出てきていた。
「何それ!?」
「いやん。見ないでよ、恥ずかしい」
「服じゃねえよ! その紫は何!?」
「多分毒。肉体とか溶かすんだよ。ヤバイよねえ」
「ちょ、ちょ……」
「自己再生はしてるんだけど、再生と同時に溶かされてさ。胸のこの部分だけ丸く切り取ってくれない? そしたら自分で回復出来るから」
……。
……アーチェがそう言うのなら……。
「動かないで」
「はーい」
「黒刃剣杖一刀流……【桜花突!】」
高速の連続突き。
最後の一撃でその部分を抜き、俺もそいつの背後にいる。というわけで、見なくてすむ。
……何かぶじゅぶじゅとかいう音も、セルスとトーカとフィーネの悲鳴も、聞こえない!
さっきのでぐったりしている俺とセルスとトーカとフィーネ。
それに追い討ちをかけるように、何かきた。
「な、何ですかアレ!?」
「手!?」
……手が、やってきた。
どうやら、手首の断面で動いてるみたい。
ずーるずーるずーる♪
「きゃああああ!」
「うあああああああ!?」
「ぬおおおおお!?」
「あわわわわわわ!?」
そして、ボコボコとせり上がっていく。
「つ、土人間!?」
土は、どこかで見た事のある人の姿になった。っていうか。
「……エリカさん?」
「おういえす。驚いたか?」
すっごくね。
「土……」
「何にでもなれるって言ったろ? 流石はオレ☆」
そういう問題じゃないし……。
本当に、追い討ちみたい……。
「……」
ヴィルドがやってきた。
しかし、ヴィルドの表情は疲れきっていて、足取りもおぼつかない。
そして、何故か黒い布で体を包んでいた。下は何も着ていないらしい。
そういえば、意外に細いんだなあ、ヴィルド。ってそうじゃなくて。
「ヴィ、ヴィルド!? 服は!?」
「燃やした」
「燃やしたっ!?」
「汚れた、から……」
「だからって……下着まで? それは汚れないんじゃ」
「聞くな。聞かないでくれ。頼むから。本当に」
……な、何があったんだろう……。
でも、セルスはどうやら知ってるみたいだ。引きつった顔をしている。
「ま、まあ、グレン。察してあげましょう?」
「察されてたまるか。エスパーか。全員が予想外だっつの。俺も予想外だよ」
「……あの、その黒い布……」
「俺だ」
『フローラ!?』
「フローラって呼ぶな」
「阿呆、喋るな!」
「あのな……。あまりにもお前が不憫すぎるから、こうしてやってんのに」
「……見られたんですね、ヴィルド。まあ良かったじゃないですか、女性じゃなくて。人外で」
「良くねえよ! 一生の恥だ! セルス、てめえ覚えてろよ! 絶対ぶっ殺してやる!」
……。
本当に、一体何が……?
〜〜〜
ヴィルドの件は、見なかった事にしておいてやった。
あまりにも不憫すぎる。
あー、何か女王から褒美(金)を貰った。
今日は、この国に泊まるそうだ。
……案内して貰ったのは、高級旅館。
「温泉があるそうですよーっ!」
セルスが笑顔で言った。
ヴィルドとグレンとセルスはアイコンタクトを取る。三人は頷きあった。
大体この先の展開が予想できるんだが……。
「あら、夜空が素敵ね! こここ!」
「キラキラじゃな!」
「湯加減良いよー」
「キャハハハ、アヒルー」
「……何で俺、こっちなんだ?」
こちらは女湯。
人はそんなに居ないが、俺達に羨ましそうな視線。
……俺とコケコだろうが。
適当に体を洗い、お湯につかる。うん、良い。
……っくーっ、最高って言っても過言ではない。
しかし他の入浴者よ、俺の胸を見るんじゃない。浮いてるとか言うな。
「……こっこ!」
「うわっ」
コケコが俺の胸をわしづかみにした。俺の背中にコケコも胸をくっつけてくる。
「羨ましい限りのスタイルね♪」
「お前な……。お前もいいだろう、腰細いし」
「胸がある方が良いわよー」
トーカがそれを見て、背中側からフィーネの胸を揉んだ。
「きゃっ」
「私もこれぐらい欲しいのぅ」
「もうっ、私はそんなに大きくないよ?」
「私もー!」
アーチェが正面からフィーネの体に触る。どことは言わない。
「きゃあっ、ちょっと、アーチェ! そこは、まずいよ! ……ひゃんっ」
「キャハハ、感じちゃった?」
アーチェがにやりと笑う。
頭に血が上ったらしいフィーネは、アーチェの体をもみくちゃにした。
「キャハっ、くすぐったいー!」
「お返しだよ!」
「カッカッカ、自業自得じゃの、アーチェ♪」
フィーネとアーチェの目が光る。
「……む、む?」
「行くよー!」
「それぇー♪」
「うおっ!? かはははははくすぐったい!」
「……元気だな」
「私達も負けてられないわね♪」
「おい、何を……どわっ!? ぅおい、一応っ、俺は、人間と同じ様に、感覚は、あるんだぞっ!? ひっ」
「気持ち良い?」
「おっ……おいっ、も、止めろっ……てっ」
「ほらほら」
「んんっ……お前、なあっ……は、ぅぁっ」
(作者:すいませんそろそろ自重します)
〜〜〜
「ちょっと従業員の人ー!」
「この人運んで! この人も!」
「大丈夫かー!? 返事をしろ!」
男湯は地獄絵図。
鼻血で赤いし何か色々やばいし……。
セルスとヴィルドとグレンが微妙に企んでたみたいだが、覗きは無理だな、こりゃ。
「あぅ……」
「っぐ……糞、やるな!」
「ぅー……鼻血止まんない……」
セルスは倒れてて運ばれてるし、ヴィルドはボタボタ鼻血垂らしながら女湯の方睨んでるし、グレンは必死で鼻血止めようとしてるし……
男共は従業員が止めるのも聞かず、仕切り上ってるし。
「ぁっ」
……今のって……
フィーネか?
そうか、覗くと、フィーネも見られるのか。
……。
『ぐわっ!?』
『げっ!?』
「静かに、大人しく、つかってやがれ♪」
全員、頷いてくれた。
良かった良かった。
〜〜〜
「男湯騒がしいわね」
「……も、ぅ……んっ……コケコ……」
「大丈夫よ、忘れてないわ」
「っも……マジ、止めろって、ぇ……ぅあぁ、はぁっ……」
(作者:マジで自重します……) |