メイド服と追いかけっこ(8)
コケコはそこに居た。
俺は、座りこんで何かを唱えていたコケコの元に戻ったんだけど……様子がおかしい。
おかしいと言えば、先程の轟音と地面の揺れは何だったのだろう?
コケコは、ボロボロメイド服の女性の姿で横たわっていた……。
「コケコ!?」
「……グレン? ご、ごめんなさ……魔力が、凄まじく減っているだけよ……」
「そ、それでそんなには弱らないだろ!?」
俺もなった事は無いけど……一体?
「……場所指定広範囲転送魔法よ……三百人ぐらい居たからね、しかも結構細かいところまで指定したし……。とりあえず、組織ほとんど全員送り返した、わ……」
「……」
うわー。
そんな高等魔法を……。それは倒れてもしょうがない。
「……ただ……自分の事を組織だと、意識している人だけで……フィーネ含め、二人、残ってるのよ……」
「ええ!?」
フィーネは組織に対立しているから、大丈夫だとして……。もう一人?
っていうか、さっきのあれはこれだったんだ。
「グレン! おお!? コケコ、無事か!?」
トーカが走ってきた。
「コケコ、じっとしててくれ!」
俺はコケコに手を当てて、魔力を送り込んだ。
……増える気配もねえ。質が良いんだな、コケコの魔力。
「大丈夫、よ……一晩寝れば、直るわ……」
「ああ……悔しいけど、俺がこんな事しても無駄みたいだ」
「だから、他の仲間を、回復して……。そのために、魔力は、とっておきなさい……」
「うん」
本当に悔しいけど、どうしようもないしなあ。
「……で、あの女は誰じゃ?」
『え?』
……。
銀色の髪で左眼を隠した、綺麗な女の人が居た。
右眼は濃い青色。
スタイルは良いと…………うーん、こんな事考えちゃうのは、やっぱり男だしね、俺も。
「組織。他。帰す? お前」
……?
「何か分からんが、組織の奴じゃろうな」
まあ、そうだろうね。
「殺す」
いきなりか。何か、デジャヴ?
「はっ!」
トーカが咄嗟に両腕をクロスさせ、女の人の右ストレートを防いだ。
「トーカ!」
「手出しするではないぞ、グレン!」
「……え?」
「……血が騒ぐのじゃ……♪」
トーカは女の人の追撃を許さなかった。右手の掌底を、女の人の左米神に思い切り打ち込む。
やや前かがみになりながら右へ体勢を崩した女の人の腹に、膝で蹴り上げ。
宙に浮いた女の人の首を左手で引っ掴み、地面に叩きつけた。土煙が舞い上がる。
この間一秒も経っていない。
「……」
「カッカッカ♪」
「……屈辱。殺す」
女の人は一瞬で起き上がると、その反動を利用しながらトーカの顎を狙って右の肘打ちを繰り出した。
流石に顎を砕かれるのはやばいだろう。トーカは同じく、右の肘で受けた。
鈍い音。
「カッカッカ、鍛えておるからのう」
「……っぐ……」
女の人の肘から血が滴り落ちる。どうやら折れたみたいだ。
「まあ、私もちょっとじんじんするが。貴様程ではない」
「……双剣……あれば。斬る。刻んだ、お前は」
女の人は、かなりたどたどしい言葉使いで喋った。
肘を押さえている。
「この、女の体は……弱い。まだいる。強化」
「強化?」
「撤退。てれぽーと」
女の人が消えた。
〜〜〜
僕は走っていた。
さっきの轟音と地面の振動は、コケコの居る場所から聞こえた。
何があったんでしょうか……。
ぶに。
……え?
僕が恐る恐る足元を見ると……
先が黒い銀色の毛に……メイド服着た……人間?
……ヴィルドじゃん。
「……テメェ、殺す気か……?」
「ご、ごめんなさい……。まさか、人間が寝てるとは思わないじゃないですか。ていうか、こんなところで寝ないで下さいよ」
「……俺が呑気に寝てるように見えるとでも?」
「はい」
「……。もういい……。グレンのところへ連れてけ。満身創痍なんだよ。だから動けねえんだ分かったか」
「あ、そうなんですか……」
僕は、ヴィルドを仰向けにした。
足で。
「……お前、俺の事嫌いだろ」
「何を今更」
「ああ、そうだな……。俺もお前の事大嫌いだ」
「そうですか。……うわ、傷だらけですね。敵そんなに強かったんですか? フッ」
「……うっせえ……」
「でも僕、ヴィルド運べませんよ」
「はあ?」
「だる……じゃなく、めんど……でもなく、汚れ……でもなくて、ホラ、さっきの轟音、コケコの居た方なんですよ。だから一刻を争ったり」
実際男なんて背負いたくはないだけですけど。
「本心漏れてんぞ。俺も死にかけなんだ……頼む」
うわ、ヴィルドの姿勢が低い。明日は雨ですね。
「お前、失礼な事考えなかったか……?」
「ハハハ……あ、そういえば……運ばなくても、一応、肉体的には死なない方法があるんですけど」
「……?」
……精神的にはキッツイですけどね。
僕は、返事も抵抗も無いのを良い事に、その方法をとる事にしました。
まず、自分の右手親指の先を噛み千切る。
「うぉあっ!?」
いい感じに驚いて叫んで口を開けてくれたので、顎を引っ掴み、口内に血を一滴だけ垂らす。
「がっ!? げはっ、ごはっ!?」
その後僕は自分の傷口を舐めて、ヴィルドには血をちゃんと飲み込ませて、完了!
「げほっ、げほっ! 何しやがる!?」
「治癒、疲労回復、魔力回復」
「……は?」
「【鬼神】の血の効力です。後、【血行が良くなる】とか……」
「……? そんな効力あったのか……」
「……うん、【良くなりすぎる】とか……」
「……あ?」
「……付かぬ事をお聞きしますが、【媚薬】って知って……いえ、何でも」
ヴィルドの表情が、みるみる青くなっていく。
「ま、まあ、一滴だけなんで効果はそんなに長く無いです。長くても十分程度。……怪我が酷かったり魔力や体力の消費が激しければ、効果高まりますけど。時間じゃなくて、こう……ね?」
「ちょっと待てちょっと待て!? お前俺にそんなもん飲ませたのか!?」
「駄目……ですかねー? まあ、効くは一時の恥、効かぬは一生の恥とも言いますし」
「誰が上手い事言えと言った!? 止めろ! 本当に!」
「無理無理。今全身に染み渡って来てる頃だと」
「嘘だろ!?」
「マジです。後一分ぐらい経つと、ヴィルドの体凄い事になりますけど、まあ気にしないで下さい。大丈夫です、僕が去るので目撃者は居なくなります。……誰も来なければ、ですが」
「なっ、なっ……」
「では、良い十分間を〜!」
その一言を言うと同時に猛ダッシュ。
悲痛な叫び声が聞こえた様な気がしましたが、無視! 何も聞こえませんよ、僕には!
コケコ、大丈夫でしょうか!? あーあー何か熱を帯びてきてる声なんて聞こえなーい!
今行きますよ、コケコー!
〜〜〜
「剣聖、これでも食べるか?」
「……」
「はい、あーん♪」
「……」
「お、お返しか? ……はむっ」
「……♪」
わあ、思ってたよりうぜえ。
昔家にあった召喚呪文を試してみたはいいものの……本当にバカップルだなコイツら。
そろそろ仲間達の所に行かねえとな〜……
「そろそろ戻していいかー?」
「……分かった。エクスカリバーさえ居なきゃな……」
「……」
剣聖は頷いた。主人にもうっとおしがられるとは……憐れな剣だな。エクスカリバー。
「じゃあな。また会おう、カネガミ」
「……」
二人(?)は手を振った。光の粒子となって消えていく。
さて、何か轟音とかしてたし……大丈夫かー? あいつら。 |