メイド服と追いかけっこ(7)
「フィーネ=シェズ。戻る気? 裏切り者」
「無いわ。えぇと、キュルー=セヴェンだったかしら」
銀色の髪をした女性。
……私と同じ立場の人だ。
「聞く? どうして裏切った?」
「……」
私は、目を閉じた。
思い出が浮かび上がる。
セルス達と出会った。
あの青年を助けた。
……【私の完成】。
奪われた魂のカケラ。
悲しみ。
そして、ボロボロと涙を零す―――
「ね」
……。
「私は望まなかったからよ。……【生き返る】事なんて」
「そうね。確かに別人の体ではあるし」
違う。そういう事じゃない。
「いい、貴方はとても綺麗な状態。私なんて、左眼無い?」
キュルーは左眼に被さる前髪をだるそうに上げた。そこには、ぽっかりと黒い空洞が空いていた。
「そういう事じゃ、無い……」
この体は誰の物?
何らかの事情で人生を終えた、可愛い十代の女の子の物だった。
穴を掘り返した組織は、死者の魂のカケラをこの体に突っ込んだ―――。
私は誰?
フィーネ=シェズはこの少女の名前。
名前は大事な物だから、使わないわけにはいかないんだ。この体はフィーネの物なんだから。
私は。私の名前は。
「……夢桜 ゆえ」
元、日本生まれ日本育ちの、ただの……数学と音楽の教師。
歌が好きな、ただの女だ。
「……?」
「私が言いたいのは……。蘇りなんて、あっちゃいけないのよっ!」
キュルーは一瞬で双剣を抜き、私の定規を受け止めた。
ギリギリと定規を押し付ける。
戦闘用に強化されて、生前とほとんど同じ姿に治されて、ちゃんと年もとる、この体。
でも、私は一年前。キュルーより、古いんだ。
キュルーの方が、強くされてるに決まってる。
「うぁっ!」
私は弾き飛ばされた。
戦いの経験だって、それ程あるわけじゃない。
正直言って、勝てる気がしない。だけど。
「戻る気が無い、殺すよう言われ? ど?」
頭も言葉繋ぎも不十分。その分は戦闘能力の強化。記憶も理性も、私の全てが受け継がれた私は、裏切るという行動に走った。
大抵は、もう一度生きられる事に感謝し、そして組織の成功と、その者が従ったかどうか。
……永遠の命が約束される。
だから、裏切るなんて想定外だったと思う。
私は、永遠の命なんていらない。この体に、安楽を与えてあげたい。私は、死んでしまおうと思った。
でも、一度死んだからこそ。
―――生前より、酷い恐怖が襲う。
私は凄く弱い。とても悩んだ。その結果。
組織に立ち向かうことを、決意した。
その間に殺されて。それなら。
―――けれど。
まったくの予想外。イレギュラー。ありえない。
でも、でも。
やってきた。
―――彼は、日本から、地球から、私の居たところから、やってきた―――。
聞きたい事も話したい事も沢山あって。
彼は私を避けている。
気付いてくれているんだと思う。
だから、私と距離をとっているんだと思う。
彼も私も、信じられないから。
だって、あり得ないでしょう?
……【死んだ人と再会する】なんて。
偶然。奇跡。まぐれ。
それだけじゃとても現せないことだ。
心の奥底では、望んでいたんだと思う。
嗚呼。
だからって、会ってしまうなんて。
どうして……?
話したい事も聞きたい事も沢山ある。
信じる事に、近づこう。
勇気の無い私が、どこかから勇気を持ってきて、近づこう。
悲しいし、辛いし、狂ってしまいそうだけど、嬉しい、だなんて複雑な感情。
抱いた事なんて、きっと、無かっただろうね。
近づくために、まずは生きよう。
仕方が無いと割り切ってやる。会えて嬉しかったんだよ。
だから、今、私は【生きたい】んだ。
「ボイスオブアタック、発動!」
同時に、大きなコンパスを構える。
キュルーの眼光が鋭くなる。恐怖に心をくじかれそうだ。
だけど、絶対に、勝利する。
死ねないよ。
「破壊っ!」
叫びながら、コンパスを振り上げる。
向こうは短めの双剣。リーチなら、こっちの方が勝っている。
全てを破壊しようとする、衝撃波がキュルーに向かって飛んでいく。
キュルーは……
笑った。
「……ぁ……ああ……」
折れたコンパス。腹に突き刺さる剣が二本。絞め上げられている私の首。
地に足が届かない。ショートブーツが片方取れている。
力の差が、ありすぎる。
「弱い」
必死で、私の首を掴むキュルーの右腕を外そうともがく。
両手に力が入らない。それは、全身に、言えるか。
……。
「ごろ……ざ、れて……だまる、が……ゲホッ、ぅ……」
「よく喋れる? 怪我。やばい」
何で。
力が欲しい。今程切実に思った事はない。
力があれば、力があれば……。
「最後。言う事、あるか?」
……。
「何で……そ、な事?」
「命令。聞け言われる。美学? 後、だ、だ、だん……そう! だんばつま!」
……断末魔の事?
「が、はぁ……ハァッ……離して、くれ……ば、言え……っぐ、そうよ……」
「……。ソレは無茶? このまま、殺す」
……殺される気なんて、さらさらないよ。
「いやだ……っ! 開放ぅううううううう!」
音の凄まじい衝撃波。
吹き飛ばされるキュルー。
今まで喋った分と、ありったけの魔力。
しばらくの間魔法は使えないだろう。喉も、ほとんど潰れてしまっただろうし。
……でもね。
エリカ。私はまだ、歌えるよ。歌は魂で歌うものだから。
……って、小説で誰か言ってた気がする。
「お前、殺される。私、殺す。悪足掻き? 無駄」
私は、腹に刺さったままだった双剣を抜いた。
そのまま、構える。
これでキュルーに武器はない。
「……。無駄……っ?」
轟音と共に、大地が震えた。
「何が? ちっ」
「あ゛……あ゛あ゛」
うわあ、ゾンビみたいな声だ。
そうじゃなくて。キュルーは、轟音の方向に走って行った。
……。
……助かった。私は座りこんだ。
あのままだったら、私は殺されてしまっていた。
轟音も気になるけど、とりあえず、生き延びられた。
って言っても、これは、流石に手当てしないとやばい。まじで。
……へるぷみー。英語は専門外。そこ、発音悪いとか―――……だからそういう問題じゃなくて。
……どっちみち、行かなきゃならないのか……。
〜〜〜
「全体、止まれっ!」
ほふく前進男が、止まった。
何がしたいんじゃコイツ。
先程まで、散らばるために逃げる私をほふく前進で追いかけておったが。
「前方! メイド! 仁王立ち! パンツは見えない! 無念! ロングかっ! それもいいけど、私的にはやっぱりお色気―――」
「キモイ」
「ずげーんっ!」
男が落ち込んだ。何か描写とか説明さえもめんどくさい。
「だが、私は負けぬ! たとえ、皆から気持ち悪いとか言われても!」
組織内でも言われておるのか。
男が顔を上げた。
ふむ。黒髪に……
……仮面?
何か、無駄に格好いい感じの……
「よし、お前に勝負を……って、何をしているのだ!?」
「仮面」
「止めろ、止めてくれ!」
皆ー、気になるよなー?
私は気になる。うむ、それで理由は上等じゃ。
べり。
「……なんじゃ、可愛いではないか」
何か、気持ち悪い顔なのかと思ったのじゃが。
「可愛い男なんて何がいい!? 女の子、全ては女の子だ! いくら可愛くても、男ならばそれは意味がない! 女の子はぷにぷにしててほにゃーってしててー……」
台詞は気持ち悪いのう。
座りこんで私に背を向け、泣いておるようじゃが……あ、体華奢じゃな。こう見ると。
油断してた所為か、仮面をもぎ取られた。あ。
「次は負けぬぞ! また会おう! テレポート!」
別に会いたくない。
そう思った瞬間。
とても大きな音が轟いた。
そして、地面が揺れ動く。
「ぬお!?」
うーむ……向こうは……?
最初に居た場所……コケコの方ではないか? |