メイド服と追いかけっこ(5)
とある世界に、少女が一人生まれました。
お父さんもお母さんも何の変哲もない普通の人達でしたが、少女は違いました。
莫大な魔力と、それを扱う、素晴らしい才能の持ち主でした。
美しい金髪と、マリンブルーの瞳。
その力に人々は恐怖しました。
全てを凍らせてしまう、恐ろしい力に……。
ただ、父と母。
二人は彼女を愛しました。惜しみない愛情を注ぎました。
二人にとっては、ただ自分達の、愛くるしい娘に過ぎないのですから。
他の人は違いました。少女のせいで、二人は、長い時を過ごした祖国を追われました。
それでも、娘を愛する気持ちは、何も揺るぎませんでした。むしろ誇ってさえいました。
どのニュースを見ても戦争ばかりのこの世界を変えてくれる。
この、強い力で。
結局、山奥の小さな小屋に住んだ二人と少女。
愛する人と、愛する娘。
不幸なわけがありません。
少し寂しい気持ちもありましたが、そんな事は二の次でした。
何も辛い事など無い。
家族は、無敵に見えました。
二人は、少女を残して、去って行きました。
その体には、病魔が巣食っていたのです。
子供には感染しない病気。
大きな町をいくつも潰した事があるこの病気は、今の医学ではすぐに治る病気。
家族は医者ではありません。
泣きながら、叫びながら、娘を置いてゆく事に恐怖しながら。
二人は逝ってしまいました。少女を、残して。
少女は泣きました。だけど、生きなければいけません。お父さんとお母さんの分も。
少女は魔法を極めていきます。
冷たい魔法が、みるみる内に山を覆っていきました。
それだけではなく、時空魔法、重力魔法、他属性の魔法、何でも手を出しました。
そして、脅威の早さで習得していきました。
天才魔法使いとなった少女は、体も戦闘も強くなりました。
いくつかの戦争を、彼女一人で終わらせました。
全ては彼女の前に、凍てつき、血を流し、屈服しました。
十歳のある日、少女は世界を渡る術を見つけました。
渡りながら二年間。
少女は色々と、知りました。人間としては、知ってはいけない領域まで。
だから。
人間をやめる事を、余儀なくされました。
拒否しても抵抗しても、無駄でした。
ある最低な神様の手によって。
少女は―――
―――【魔女】として、祀り上げられてしまいました―――。
〜〜〜
「というわけで、それが私の過去なんだけど……」
私と対峙する一人の青年。
長い黒髪に、鳶色の瞳。
その表情には、驚愕の色。
「……お前……それ……普通に言う事か……?」
ハハハ。
「まあね。とりあえず、今の所の目標は、その神に復讐する事。良い感じに遠い世界に飛ばしてくれやがって……」
「……少女がする……表情じゃないぞ……」
はっ、いけないいけない。
青年の手にはナイフが握られていて、多分、あれでぶすって刺されると凄い痛いと思う。だってさ、紫色の刀身のナイフなんて、毒以外ないっしょ。
「……俺の名は……スオウ=ガーディン……手合わせ、願う……」
「キャッハハハ、私は、不本意ながらも【魔女】。【魔王】のタメに、動く者。一応、本名はアーチェ=クロンクビスト。こちらこそ、よろしくねえ?」
私の過去話聞いたら、ビビるかと思ったんだけどね。
「キャハハハハハハハァッキャハハッァキャハハハ!」
狂った人みたーい!
「……フー……」
青年の髪が、ばさりとなびいた。
「ええーいっ!」
私は、木刀を思いっきり振り下ろす。
あまりの厚みと長さの所為でよく見えないけど、手ごたえはあったから、そのまま押す。
ズズズ、と、青年が後ろに下がって行っている。
が、途中で弾かれた。
「あや?」
地面に押し倒された私。
目の前に、青年の精悍な顔。
ずぶり。
私の腹に、ナイフが突きたてられた。
「悪いな。これは……戦争なんだ。来世で幸せになってくれよ」
私に背を向ける青年。
塗られていたのは、やっぱり猛毒。
だったらなあに?
私を、
「誰だと思ってるのお?」
あ、声に出ちゃった。
青年が目を見開いた。
「キャハハ、キャハハハ、キャッハハハ」
おっかしいぃ。
「私は【魔女】だよ。何回言ったら、理解してくれるの?」
キャハハハハ。
ナイフが刺さったまま、血を吐きながら、起き上がって、私は笑う。
止められないよ?
「たとえ兵士が足掻こうと、私の進路を妨げる事さえできないんだよ」
私の目は、きっと今、生き生きしてる。凄く、光ってる。キラキラしてる。
「殺すのは、止めておくよ。皆が悲しむだろうから。誰だって嫌だもんね」
―――さあ。
「炎、草木、時、闇、光、大地、空気、水、海、物、者、生ける者、死せる者」
首を少し傾ける。
口角が釣りあがる。
両手を広げる。
冷気がこの場を支配する。
「全ては私の力のもとに、凍り、凍てつき、氷像となる」
私の足元から、全方位に向かって、氷が広がっていく。
とっても愉快だよ。
「さあ」
息を吸う。ああ、肺の中が冷たい。
「【アイスガーデン】」
ピキン、パキンと音を立てて、大きな氷のドームが完成した。
青年は居ない。逃げたみたいだ。
「これは芸術だね〜」
とっても、綺麗。
「……あ、溶けてくれるかな。……まあいいか。エリカに頼もうっと」
―――私は、不本意ながらも【魔女】。
―――【魔王】【勇者】。その次あたりに、沢山の同列の者とならぶ。
「人間に、やられるわけ、ないでしょ?」
でも、皆は好きだ。
エリカは強いし、コケコは謎だし、フローラは面白いし、セルスも面白いし、ヴィルドも面白いし、グレンも面白いし、トーカも面白いし、フィーネは……うーん、よくわかんないけど。
でも、皆は好きだ。
「……んんーっ!」
大きく伸びをする。
太陽は、暖かいよ。
「よおっし……皆、大丈夫だよね? ……ちょっと、寝よう」
何かわかんないけど、疲れた。
「お休みなさいー」
太陽の当たる草原で、戦いはまだ続いているけど……私は、目を閉じた―――。
〜〜〜
ギャッハッハ、ドモ☆ エリカでっす☆
テンションが高いって? そりゃそうさ、初のオレ視点だし。
ブチアゲブッチアゲ〜♪
「変な奴」
少女はオレに対して、そんな感想を抱いたようだ。
変って、最高の褒め言葉だな。
「ペチャパイ」
とりあえず、オレの感想はそれだった。
「なあああああ!? 違うわよ! これから成長するのよ!」
「ペチャパイ」
「しつこい! しつこい! こぉろぉすうううううう!」
少女が剣を構えて、オレに向かってきた。
オレはとりあえず避けまくる。
「ギャハハ、そんなに、当てずっぽうじゃ、あたらな」
「殺す殺す殺すっ! スオウ様に振り向いてもらうんだから! 死ねえええええええ!」
聞く耳持たず?
「分身っ!」
少女が、えーと……二十八人になった。
ちょ、多くね?
『殺す!』
ちょっとデジャヴ……ごめん、他の奴ら。あんなん出しちゃって。
「うーむ……はっ」
オレの体を剣が掠りまくるので、流石に避難した。
上空に。
「翼……意外に役に立つっぽいな」
バサバサとはためかせる。
『下りてきやがれ!』
「無理」
オレの攻撃じゃ殺しそうだしなあ。
……そうだ。
「我は望む……忠誠の女聖騎士……我が身を守る盾となり、敵を殲滅する矛となる【ヴァルキリー】……我は望む……剣のみを極めた存在……【剣聖】……」
何でこんなもの使えるのかって? 企業秘密だ!
オレの真下の地面に、魔法陣が二つ、現れる。
片方からは、銀色に光る甲冑に身を包んだ金髪の女性。片方からは、白く短めの髪をした、粗末な胸当てをつけた子供。
女性の顔は鎧で見えないし、子供にはまったく表情がない。
「……誰だ? 私を呼ぶのは」
「……」
「あ、剣聖! お前か? 感謝するぞ、二人で呼んでくれて! エクスカリバーも居ない!」
「……」
女性、ヴァルキリー、子供、剣聖は抱きしめあった。
そしてそのままキスをする。
……まあ、剣聖は、子供なの見た目だけだし。
「そいつらを殺さないように倒してくれ。その後は存分にイチャイチャしてくれてていい」
「わかった」
「……」
ヴァルキリーは返事を返し、剣聖は頷く。
「あ、契約」
「オレの名はエリカ=カネガミだ」
「よし、わかった」
「……」
ヴァルキリーと剣聖は、木の棒を構えた。
本当は剣を使うのだが、まあ、それは別に良い。
「さあ、愛の時間を頂くため、行くぞ! マイダーリン・剣聖!」
「……」
ヴァルキリーが笑顔で言って、剣聖も無表情ながら頷く。
……どうでもいいが、剣聖って性別無いよな。
「テレポート……っ」
少女は泣きながら帰って行きましたとさ。ちゃんちゃん。 |