人殺しとその恐怖と(4)
「ギャッハッハ! 降参しろ☆」
「了解」
エリカとグレンの対戦は即効で終わった。
そのとても短い対戦を見る双眸があった。
黒いワンピースに、長い緑色の髪。
桃色の瞳。
少女はじっと見ていた。
そして、ふわりと微笑んだ―――。
「……」
「……」
セルスとヴィルドが、対峙していた。
二人とも、武器を抜く様子は無い。
「……お前は」
ヴィルドが、ゆっくりと問いかける。
「……相手を……」
「殺してませんよ」
全てを言う前に、セルスは答える。
「……殺してません」
もう一度、自分に言い聞かせるように呟く。
「それは、本当か?」
「はい。誓えます」
「そうか……。なあ」
ヴィルドが息を吸う。
「殺しあってみないか?」
そして、挑発的に笑った。
「……何ですって?」
セルスの口調には多少震えがまじっていた。
だが、その瞳は。
「殺しあってみないか、って提案したんだよ。断るようなら……俺は、何の抵抗もしないお前を、【殺す】かもしれない」
セルスの瞳に、また赤い光が宿る。
その血には、【鬼神】。
「……後悔しますよ」
セルスは鋭い犬歯をギラリと光らせて、獰猛な笑みを浮かべた。
ヴィルドが素早く、矢を放つ。
セルスはその全てを、シャドーナイフで刻んでゆく。
普段より力強く、普段より速い。
セルスが少しずつ、ヴィルドに近づく。
「ブラッディエッジ」
ヴィルドの背後に、赤い刃が姿を現した。
その全てが寸分の狂いなく、セルスに向かっていく。
セルスの体を、赤が切り裂く。
「……っぐ……」
だが、それは急所を全て外していた。血もほとんど出ない。
ヴィルドがそうしたわけではない。
それが、【鬼神】の血。
硬い血。
セルスは表情もほとんど変えずに、ヴィルドを見る。
ヴィルドもまた然り。
セルスの血が止まる。
傷口が塞がっていく。
「……お前は、何者なんだ?」
ヴィルドが手を止め、聞いた。
「【鬼神】の血を引く者です」
「【鬼神】……?」
セルスが、ヴィルドを目指して走った。
影が何本かに別れて、ヴィルドの体を貫こうとする。
ヴィルドは動かなかった。
「どうした? 殺さないのか?」
影は、ヴィルドの体を貫く寸前で、止まっていた。
「……」
セルスは苦々しく唇を噛む。
「……一応仲間なんですから。死なれると、困ります」
セルスの目には、動揺が浮かんでいた。
「降参して下さい」
「ああ、そうしておく」
勝者の瞳は、黒を取り戻した。
敗者は笑っていた。
第三回戦、準決勝が、こちらでは終了していた。
「はーっ」
【魔女】は溜息をついた。
「まったく、張り合いのない」
彼女の足元には、人間が転がっていた。
人間は呻く。
「【魔王】は行方不明だし。【勇者】も行方不明だし。私は暇だし。……あーっもう。……【勇者】【魔王】後継ぎ決めるんだっけ? ま、そんな都合のいいの、居なさそうだけどぉ……」
【魔女】は額を押さえた。
「ナレーター君。誰かすんごい強い人、知らない?」
……知らない事もないが、【勇者】【魔王】にするには気が引ける。
「仲の良い人なんだね? でも……」
ああ、分かる。
「……強い者は、余計に運命には、……【A−】には逆らえない」
そうだろうな。
多分あいつは、どちらかになる。どこかの馬鹿の手によって
「……悲しいね」
ああ。俺はどうもないが
「……。私でさえキツイんだよ? 【不老不死】なんて良いものじゃないよね」
俺はそんな事ないけどな。
「……何かくっつけてあげようか? そういう称号。【姫】とか【騎士】とか余ってるみたいだよ」
遠慮する。
……あ、お前の次の対戦相手多分あいつだ
「そうなの? 強い?」
ああ。強いって言っただろ
「ふーん……ちょっと楽しみだなあ」
そうか。
「よう。セルス」
「どうも。エリカさん」
こちらの三回戦は、エリカとセルスだった。
「ヴィルドは健闘したみたいね!」
コケコが言った。
「……そう、ですかね」
「セルス」
エリカが、いつものニヤリ顔で言う。
「殺しあうか?」
「……何で、そんな事? ヴィルドも言いましたよ」
「あ、じゃあ止める。オレ被るの嫌いだから」
エリカは微妙な理由で却下した。
「……」
やっぱり呆れるセルス。
「ちょっと戦ってみるか。……なあ?」
「……わかり、ました」
「殺されないようにね」
コケコが一言、呟いた。
セルスの瞳が赤く染まる。
「……」
エリカの両手に、剣が現れた。
それは質素な物で、切れ味もそれ程良くないだろう。
「甘いな、ナレーター」
だからお前ナレーターに話しかけるなよ。
「剣とは本来、【突く】【殴る】ためにある物だ。ナマクラで上等」
剣を胸の前で交差させる。
そして、
「剣って、やっぱ地味だよなあ。ありきたりだし」
捨てた。
「……」
セルスは突っ込まずに、見ていた。
「むう、反応無しか……。寂しいな」
知ったこっちゃねえよ
セルスはナイフを構える。
「え、マジで殺す気?」
ちょっと驚きながら(?)、エリカが言った。
コケコに挑発させといて何を言う?
「……まあ、死にはしないよなあ?」
エリカはそう言って、右手の糸と左手の糸を絡ませた。
いつも思うんだが、それどこから出したんだ?
「クレイジー」
成程、納得……するか!
「クレイジー」
……。コイツとコミュニケーション取れる自信がない。
「抜糸術、最終奥義の六……」
いきなり六かよ、おい。
エリカは両手を真っ直ぐ、セルスに向ける。
「右に蒼天の龍……左に紅地の龍……二つの牙、邪なる極。二つの刃、聖なる極。……【極・双龍天地打】」
青と赤に光る、壮絶に絡みあった糸が、セルスの腹に直撃する。
「っうあ!? ……っう、ぅぅ……っぐ」
だが、セルスは必死で踏ん張った。
「……貫……くなやっぱり。えっと、吹っ飛ばせ」
セルスが吹っ飛んだ。
ずざざ、と滑る。
「……二億分の一」
えー!? これで!?
「本気出したら世界三つぐらい串刺し団子状にできるっつの」
怖っ! 何その恐怖の技! それ、何を倒すための戦闘術だよおい!
「うーん……(ピー)さんとこの、り」
やめろおおおおおおお! 分かった! 俺には良く分かったから、止めろ!?
「へーい」
……やれやれ。
「セルス、生きてるな。降参しろ」
「……ぅ」
「良し、降参だな」
呻いただけだろ。
まあとりあえず、この二人……とも言えなくなってきたが、対戦が終わった。 |