人殺しとその恐怖と(3)
セルスは、他の皆とは離れた位置で、溜息をついた。
―――なんでだろう
―――何で、【殺さなかった】んだろう?
どうしてか彼の頭には、そんな考えが渦巻いていた。
―――いつも、止められなかった筈だ
―――止めようとも、しなかった筈だ
―――止めようと思って、止めたんだっけ?
もう一度、深く溜息をつく。
疑問だけがぐるぐる駆け巡る。
―――あの人が組織の一員かもしれなかったから?
―――でも、僕の中の血は正常だった
―――人殺しの血は、ちゃんと【発動】していた―――
一つの解答を見つけて、それを自身で却下する。
―――抗えない筈なのに。
―――【覇王】【魔王】【勇者】
―――それらとも並ぶ筈の称号なのに。
もっとも、【魔王】【勇者】は別格だが。
―――どうして?
自問自答を繰り返す。
それでもやはり、答えは出ない。
「カカカ! トーカ=アルベルと申す!」
頭を掻くグレンと、いぶかしむヴィルドと、ニヤリと笑っているエリカ。
セルスの姿は、先程から見つからなかった。
「おい、クレア……じゃなくて、グレン? どういう事だ」
グレンから目を逸らして言うヴィルド。
「えーと、仲間にしてくれなきゃ降参しない、って言われて……」
空笑を返すグレン。
「何で目、逸らすの?」
「信じたくねえからに決まってんだろ!」
ヴィルドは、クレアが男だという事実をまだ認めたくないらしい。
まったく。
「……信じたく? 何の話じゃ?」
「いや、ちょっとね……。ヴィルド、そんなわけだから。ごめん」
トーカが不思議そうに聞いて、グレンが謝る。
ヴィルドがちらりとグレンを見て、頭を抱えた。
「……はぁ」
「?」
「あはは……」
第三者が見たら異様な光景である。
「とりあえず、全員生きてるな?」
「そうね! セルス、殺しちゃったかしら?」
不気味な沈黙が、控え室を包んだ。
トーカだけが、桃色のオーラを発している。
「何の話じゃ? そういえば、名前を聞いておらんかったな!」
ひたすら明るいトーカ。
「……ヴィルド=ハスレリーだ……」
「グレン=フィクティだよ……」
「エリカ=カネガミだ!」
「コケコ=グレネード=コッケよ!」
とりあえず、三人と一匹が自己紹介した。
「その黒いのは、ナレーターだ」
「……ナ、ナレーター?」
うむ。まあ、気にするな
「そ、そうか」
「あともう一人居るぞ」
エリカが言った。
「セルス=サーティスっていうんだけど……」
「ふむぅ? 何かあったのか?」
トーカが聞く。
「うーん……あったと言えばあった」
「まあな……」
グレンとヴィルドが額を押さえる。
そういえば、イケメン三人揃ってるな。
いやそれは本当にどうでもいいが。
「あ、監禁されてるけど、ご飯とかどうするの?」
グレンが言った。
まあその所為で、大会に出ざるをえない訳だ。
「ようやく、非常食の出番が回ってきたな!」
「こここ! 優しくね!」
「鶏じゃな! 香草焼きは美味いぞ!」
『駄目だから!?』
二人と一匹が二人に止められた。
非常にわかりにくいが、名前を書くともっと分かりにくくなるので、省略。
「じゃあ、我慢するか。断食修行だな!」
「おお、私もやったぞ! いや、あの時はマジで死にかけたわ! カカカ!」
どうやら、エリカとトーカは意気投合してるらしい。
流石、名前の最後に【カ】が付く者同士。
別に関係ないが。
「あら、チョコレートならあるわよ」
『マジで? ていうか何で?』
コケコの謎がまた増えた。
本日は、第二回戦である。もしくは準々決勝。
俺もまた出場らしい。
面倒だ。
今更だが、大会の説明を詳しくしようと思う。
まず、戦う所はドーム状になっていて、観客席は丸く陣取っている。昨日も今日も満員だ。
その真ん中で戦い、入り口は二つ。向かいになっている。
出場者は十六名だ。
「……」
俺の相手は、また、フードを目深に被った魔法使いだった。
……俺がキャラクター化してきていて困る。
「……ナレーターとは、また珍しい……」
魔法使いが呟いた。
え、まじで?
「教えてあげる……私は【魔女】。【魔王】をサポートする者」
魔女か。成程……って、滅茶苦茶大物だし。
「ナレーター君、本気でぶつかってきてみてよ。……今時のナレーターは、戦うのよ」
……ナレーターはそういうものじゃねえけどな。
ま、でも、面白い。
いいだろう。っていうか、向こうのが強いけどな。
俺の体が、ゆっくりと伸びていく。
色、形が生まれる。
で、最終的に、男の姿になった。
「遊んであげる。キャッハハハハ!」
「光栄です、っと」
【魔女】がローブを取った。
およそその少女の姿には似合わない、大きな木刀を構えた。
木刀といっても、厚みがあり、長さも二メートルはある代物だ。
「まあ精々、戦ってね? すぐ負けるとか、止めてよ?」
「努力はする」
俺は袖の中の物を取り出し、握りしめる。
さーて、何秒持つかね。俺。
「キャハハハハ! えぇーい!」
俺が先程まで居た場所に、大きなクレーターが出来る。
降参したいところだが、まあ少しはダメージ与えてもみたいし。
俺は、手の中のそれを、【魔女】の背中に向かって投げつけた。
轟音。
俺の投げた爆弾は、正常に作動した。
良し。
「キャッハハハ! こんなので、倒せると思うぅ?」
【魔女】はやはりというか、無傷だった。
「まさか。そもそも当ててないし」
「まあねえ」
【魔女】は、木刀を床に突きたてた。
「凍れ!」
ビキビキと音をたて、床が凍ってゆく。
それはどんどん大きくなり、上半身だけの巨人っぽくなった。
「うはぁ……反則だろ」
俺は思わず呟いた。
「これぐらい倒せなきゃ。さもなくば、消えるよ」
それはちょっと嫌かもしれない。
巨人は、やはり音をたてながら俺にパンチを繰り出した。
遅いので避ける事に問題は出ないが、範囲が広くて困る。
と思ったら、巨人の腹から氷柱が飛んできた。
「うぉっ」
危ないな、おい。
死ぬかと思ったぞ。
「キャハハハハ! 私も攻撃するから、気をつけてねぇ〜」
【魔女】が空から、俺に向かってきた。
それ、二対一じゃん。
「酷いな」
「大丈夫だよ、殺しはしないって! 巨人君は、だけど」
それ、【魔女】の攻撃喰らったら死ぬじゃん。
【魔女】は木刀で、俺に突きを繰り出す。
必死で避けるが、そこに巨人の手が迫った。
ヤベ。
「だっ!」
咄嗟に意識を集中し、巨人の手の近くを爆発させる。手の一部にヒビが入り、軌道がそれる。
だが、今度は【魔女】の突きが、頬を掠る。
おいおい、絶体絶命だよ俺!
「降参する!」
「えー! マジ?」
【魔女】は、文句を言いながらも了承してくれた。
「ま、またやろうね。機会があったら」
……もう絶対やりたくねえな。 |