人殺しとその恐怖と(1)
「……」
塔の頂上には、鐘があった。
しかし、鐘は無残にも粉々になっていた。
緑色の長い髪をなびかせて、少女は無表情で、鐘を見つめる。
狙撃手は、鐘の瓦礫の下敷きになっていた。
先程までエリカ達を狙っていたクロスボウは、鐘と同じく粉々。
「……うぅ……」
狙撃手が呻く。
【組織】の下っ端の者だった。
彼の右腕には痛々しい【穴】が空いており、血が大量に流れている。
少女が何もしなければ、彼は数日間、ここにこのままでいる事になる。
十中八九、死ぬだろう。
「……」
少女は、桃色の瞳で、彼を見つめる―――。
「ほほう」
「ええ!?」
「そんな……」
「何だとっ?」
「こここ」
四人と一匹の内ほとんどは、驚愕の表情を浮かべた。
「ヒヒヒ。もう遅いぜ、決定したからな。お前らは【参加者】だ」
番兵が、ニヤリと笑って言った。気持ち悪い。
「……問答無用の殺し合い、ですか……」
セルスが顔を顰めて呟いた。
一行がこの町に入った途端、【コロシアム】なる所に案内された。
トーナメント方式の武闘会といったところか。それが開催されているという。
完全に一人づつで、降参は、相手が認めなければ出来ないらしい。
「……あ、鶏は入るのか?」
「に、鶏? それは……多分、入らねえと思うが……」
コケコには、流石に番兵も困った。
「こここ」
「良かったな」
コケコは普段通りエリカの肩に乗った。
丸い物体を見て、番兵は何ともいえない顔をした。
宛がわれた控え室で、
「相手に降参してもらわなきゃ、だね」
「ああ、そうだな。まったく、この国でも人殺しは犯罪だろうに……。お偉いさんの娯楽ってとこか。出る奴も出る奴だが」
クレアとヴィルドが溜息をついた。
二人を見て、セルスが不思議そうに首を傾げる。
「何で、生かす必要があるんです?」
聞き間違えたかとでも言いたそうな表情で、クレアとヴィルドはセルスを見る。
「な……」
「だって、出てるのなんてゴロツキだけでしょう?」
二人は絶句した。
「……あ、組織の人って、出てるんですかね……じゃあ、情報のために生かしておかなきゃ駄目か……」
考え出したセルスに、ヴィルドが目を見開く。
「そ……そういう問題じゃねえだろ!? 人殺しは、犯罪で」
「向こうは殺せて、こっちは殺せないなんて、不条理でしょう?」
セルスが丸い瞳でヴィルドを見返し、当然のように言い返す。
「人を、殺すなんて……」
クレアが顔を青褪めさせる。
「自分が生きるため、目的を達成させるためには、やむを得ない場合があります。……泥棒さんとお嬢様は、人を殺した事がないんですか?」
セルスの口調にはどこか棘があった。
そして、エリカとコケコは何も言わない。ただし、その目は少し細くなった。
「セルスは、あるの?」
クレアが果敢にも聞いた。
「はい。殺されそうになったから。怖くて殺しました。僕は、組織を壊滅させるまで、死ねませんから」
セルスの目がすぅ、と細くなり、口元には獰猛な笑みが浮かぶ。
「聞きたいですか? 僕の事を」
「聞かせろ」
沈黙を破ったのは、エリカだった。
「じゃあ」
セルスは話し始めた。
〜〜〜
僕は小さな村で生まれました。
体が小さくて、それから僕は特殊な生まれだったので、いつも虐めの的でした。
時が立つごとに、どんどん虐めはエスカレートしていきました。
僕は噂で組織の事を耳にして、そいつらを倒して、見返してやろうと決めました。
準備とかもちゃんとして、ある時、僕を虐めていた一人が、僕を森に連れて行きました。
僕は、崖から突き落とされそうになりました。
必死で抵抗しました。
僕はナイフを持っていたのを思い出して、その一人の首にナイフを突きたてました。
血が沢山出ました。
僕は何度も、その子にナイフを突き刺しました。
ナイフもその子も捨てて家に走って帰り、見られないうちに血のついた体と服を洗って、自分の部屋で朝まで震えていました。
朝が来て、昼も過ぎて、夜になってから、僕は村を出ました。
一年ぐらい前の事です。
〜〜〜
「結構、よく覚えているでしょう? 細かい事も言えますよ。何回突き刺したかとか」
セルスは自嘲気味に笑った。
「一年間、一人で旅をしていました。その間に、二回殺されそうになって、五人殺しました。たしか、盗賊さんだったかな。二人組の人達と、三人組の」
何でも無い事のように言うセルス。
―――人を殺すのは悪い事よ
―――じゃあ動物を殺して食べる事は、いいの?
クレアは、昔祖母とそんな会話を交わした事を思い出した。
祖母は、確か、何て答えたっけ?
クレアが頭をひねりだす。
『……』
嫌な空気が漂う。
セルスも何も言わない。
「そろそろ時間だと。一回戦行くか」
エリカが腰を上げた。
コケコがエリカの膝から、肩へと乗る。
「ああ……。お前らと当たった時は、降参でいいのか?」
「そこは当たった時に決めてくれ」
ヴィルドの問いに、エリカが答えた。
あー。
あのさ。
何で俺、出場者なんでしょうね。
俺ナレーターなんですけど。
ええ?
「何だ、この黒い塊……」
ま、後でほかの奴らもお送りしますが。
ナレーターの能力は大量にあるし。
えー、俺の相手は何か、この魔法使いらしい。
……うーむ、ナレーターとしてではなく、俺視点として、みたいな感じだからな今……やりにく。
「まあ、いい……。コールドバイト」
魔法使いの氷魔法が、俺の体の一部を凍らせた。
むう。
……びーむ。
「ぐあああああ!?」
びーむは魔法使いの、杖を持っていた方の腕に当たった。
杖が飛ぶ。
悶える魔法使い。
「な、何だコイツっ!?」
ナレーターだ!
びーむ。
「いぎゃああああ!?」
今度は足。
やれやれ、さっさと降参してくれ。
「……う、っぐ……畜生っ……!」
魔法使いがギロリと俺を睨みつける。
どうでもいいが、この【殺せ】コールが煩くてかなわない。
「降参だ……」
終わった。
これでようやく、他の奴らに入れるな。 |