挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
洛中魔界・洛外迷宮 作者:影宮芯二
4/10

時生は、余分に持ってきた二本の刀を、そっと地面に置くと、刀を抜き、鞘は下に落とした。
大丈夫。落ち着いていけば、やれる。
敵は六匹。サイズが大きいものが含まれるのが、前回との、最大の違いだった。
見た目、種族は同じものに見えたが、時生の身長と同じくらいの高さがあるから、脅威という意味では他とは比にならない。

ジャージの男は、大きいやつを牽制しながらも、他の五匹を無視できるわけでもなく、防戦を強いられているように見えた。

「待ってて! 今いくから!」

そんな声が背後から発されて、時生は度肝を抜かれる思いをした。古川伊代の、よく通る声だ。

「これ悪いけど預かってて」

伊代は他の女子に、持っている刀の、三本のうち二本を受け渡すと、迷いのない動作で刀を構え、翔ぶように走り出す。

やっぱり、戦うつもり満々のようだ。
結局、時生の理解は、半分は間違いだったことを思い知らされたのだが、そこは気を取り直して、自分も敵に立ち向かうため、走る。

走力で、伊代に負けるのはもうわかっていることだった。

伊代は時生を完全に追い越すと、勢いをつけたまま刀を振りかぶり、そのまま相手に斬りつけた。

「えぇーーいっ!」

一匹が、斜めに真っ二つに切り裂かれる。
伊代の動きに合わせて、制服のスカートがふわりと揺れては舞う。

(‥すごいな)

伊代はそのまま、返す刀で近くにいたもう一匹にむけて、なぎはらうように刃を一閃させる。

今度は首が飛んだ。

「お、おう、助かった!」

ジャージ男の声が上ずる。

「怪我してるじゃない!」

伊代が叫ぶ。

彼は何故か、ばつが悪そうに微笑んだ。
ジャージの左腕、二の腕の外側が引き裂かれ、爪によると思われる、細長い裂傷から赤い鮮血が垂れている。

「浅い傷ですんだから、なんてことない。しかし、甘く見すぎた代償だ。君も、戦うんなら気をつけろよ」

伊代は、敵との距離をとるように、バックステップで下がりながら間合いを整えると、両手で握った刀を、しっかりと構えなおした。

「そうする」

時生には、まっすぐ化け物に斬りかかる勇敢さはなかったので、非武装の四人組と敵の間に立ち塞がる位置に走り入った。

「大丈夫?」

また、みんな高校生か。
そんなことを思いながら、声を掛けた。

「あ、ああ」

制服にパーカーという姿の男子生徒が頷く。
あまり話している時間も、精神的余裕も、今はなかった。

「下がってて!」

怪物の一匹が、時生に向かって迫ってきた。
仲間が斬り殺されたことで、刀剣に対する恐怖心か、せめて警戒心くらいは芽生えたのではないかと予想したのだが、それはないらしく、ただ狂暴な獣のように襲ってくる。
複雑な感情や思考を持たないのだと、時生は理解した。

爪で攻撃したかったのだろう、振りかぶった腕を、時生目掛けて降り下ろしてくる。
動作から始終眼を離さずにさえいれば、避けるのは容易だった。

敵は勢いよく空振りして、背中を時生にさらす格好になる。

隙だらけだ。

うなじを狙って、刀を振り下ろす。
時生の貧弱な腕力でも切ることができたのが、刀の切れ味のせいなのか、怪物の体が切れやすいせいなのかは、よくわからなかった。虫をカッターナイフで切ったような、鈍く柔らかい、嫌な手応えがした。
薄気味悪い体液を噴き出しながら、頭部を失なった胴体が地面に横倒しになる。

やった。とは思った。
不思議と高揚もしなければ、たいしてショッキングということもなかった。
ジャージ男が、「簡単だった」と言っていたのが、頭の中でリピートした。

今、重要なのは、時生にとっては自分が戦えるということだ。

(大丈夫だ。敵は、強くないし、賢くもない。爪に気をつけていれば、なんとかなる)

時生は、残りの敵と、味方の状況を見渡した。
ジャージ男が大型のやつと戦っている一方で、古川伊代のほうは2対1の構図に陥ってしまっている。

特に、伊代の様子には最初の勢いはなく、危なそうに見えた。
二匹から続けざまに来る攻撃を避けてはいるが、刀は重そうで、今にも両手から落としてしまいそうでもある。

(助けないと!)

迷うことなど何もない。きっと、瞬間ごとの判断が、後の後悔に直結していることだろう。だから、今は動くだけだ。そして、それがこの時点、この場面において、自分にしかできないことなのを時生は理解しているのだから。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ