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ダイエットが必要な白鳥

作者:雪 よしの
「やれやれ、やっと着いた」
「日暮れ前でよかったですね。近距離なら、エサ探しにいけますね」
「もうお腹、ペコペコ」
そんな会話が多く聞こえてきます。彼らは白鳥の団体様です。

今年も 湖にやってきました。
彼らは、いつも春から夏の間は、もっと北のほうで暮らしています。
冬が厳しくなるこの時期、越冬のため北海道のこの湖にやってきます。

この湖を選んだのは、ここではエサがたくさんもらえるからです。
ここは、観光バスも止まり、”白鳥のエサ””白鳥の写真”から白鳥ストラップまで、
お土産屋もあります。

今日、ついたばかりなのに、さっそく、観光バスが一台、とまりました。
先を急ぐのか、ガイドさんが、”滞在時間は15分です”と大声で呼びかけてます。
観光客たちは、白鳥にエサやりをしようと、やってきました。

「今日は、とりあえず、エサ探しに行かなくてすみそうだ」
お父さん白鳥は、率先して湖の岸際まで、人間のくれるエサをもらいにいきました。
お母さん白鳥と、息子のレチリも一緒。
お腹が空いてるのは、他の家族も一緒のようで、餌の争奪戦になりました。

湖はそれはもう大騒ぎ。カモメの一団もやってきておこぼれにあずかるどころか、
飛んでくるエサを空中でキャッチの技で、上前をはねていきます。
鴨たちも、たくさん来ています。
やはり体の大きな白鳥が、エサをたくさんとれるようです。

15分の滞在時間が終わると、観光客がいなくなり、湖は少しだけ静かになりました。
エサ売り場の店員さんは、売れ残りのえさを白鳥に
あげ、店を閉めて帰って行きます。もう、エサをくれる人は誰もいません。

レチリは今年の春に生まれたばかりの若鳥で、若干、体も小さく、
あまり餌が、あたりませんでした。

「う~~ん。まだ足りない。お腹すいて眠れないかも」
レチリは涙声で、湖の水草を探しましたが、満腹にはなりませんでした。

「君、君が僕の息子の魂を運んでくれるのかな?」

人間は誰もいないと思ったので、そう話しかけられたレチリはびっくり。
「うひゃー」レチリの間の抜けた声を合図に、リーダーが高らかに鳴きます。
「警戒、警戒、伝達」そう言うと、他の白鳥たちもリーダーに続いき、
鳴き声合戦のようになりました。

暗くなりかけた湖の側で、レチリに声をかけたのは、さえない中年男でした。
彼は無精ひげで、普段着ですから地元の人のようです。
気が小さいのか、白鳥の大きな鳴き声にビックリして、その場から逃げるように
いなくなりました。

「ねえねえ、さっきの人、僕が魂を運ぶとかなんとか言ってたけど?」
「ああ、人間の間で広まった言い伝え。白鳥は死者の魂を運ぶ鳥だって。
でたらめもいいとこだわ。
だいたい自分で飛ぶのが精いっぱいなのに」
お母さん、白鳥はプリプリしてます。”お母さんも、お腹まだすいてるんだ”
レチリは母親の不機嫌の理由を、そう考えました。

その後、観光バスが一日に何台もとまるようになりました。
本当に短い時間、立ち寄り、餌をあげて写真をとる。
観光客たちは、何かの仕事のように、決まって同じ事をします。
エサも十分にいきわたり、レチリも満足できるほど食べる事が出来ました。

湖は、賑やかというより大騒ぎです。白鳥と鴨、カモメに加え、カラスも
白鳥のエサをねらってやってきます。空の上ではトンビが飛んで、
湖のずうっと向こうの岸には、オジロワシもいました。
一見、野鳥の楽園のようです。

あの冴えない中年男は、たまにやってきました。
彼は写真をとるわけでもなく、エサもくれません。
白鳥たちもそれがわかっているのか、彼に見向きもしません。

レチリは、残った餌を食べながら、男に近づいていきました。

「君たちは、トゥネラ(死者の国)まで行くんだろう?
俺も白鳥なら行けたのにな。そうしたら息子とまた一緒に暮らせる」

男の言ってる事は、意味がわかりません。春になったら、
生まれ故郷で、もっと北にある地に帰るだけです。

「おい、あのおっさん、危ないぞ。近づくな。最近の人間は
何するかわからないからな。」
同い年の仲間がささやいてきました。
「危ないって?」
「白鳥仲間の噂では、突然、矢をいったり、鉄砲で撃ったりする人間がいるんだと」

レチリには信じられませんでした。エサを十分にくれる人間が、そんな事をするなんて、
「ひどいや、それって虐待ってやつだね。リーダーに言って こらしめてもらおう」
水に浮いてる餌を食べながら、クワっと怒りました。
「まったくだ。それにしても、レチリ、お前、まだ食うのか?」
レチリは、そんな言葉にはかまわず、ノドが一杯になるほど、食べました。

2月になると、海が流氷でうまり、カモメたちはますます、この湖を餌場を
我が物顔で、飛び回ってます。それにカラスの集団が対向し、
半分、喧嘩のようになってきました。
それに嫌気さしたものや、人間の与える餌に飽きた白鳥は、
グループでどこかよそへ飛んで行きました。別のねぐらを探すようです。

「ねえ、ここって白鳥のための湖じゃないの?カモメやカラスなんて、
およびじゃないってのにさ。」レチリは、お母さんに不満に思ってる事を
話しました。
「ここは、みんなの場所なのよ。人間がどう思ってもね。
レチリ、食べながら話さない。それに いくらなんでも食べ過ぎよ。
水草とか他のものも食べないと、体に悪いのよ。
明日、一緒に探しに行きましょう」
レチリは、無言です。反抗期でしょうか。まだ餌を食べてます。

また中年男性がやってきました。いつも夕暮れすこし後の時間です。
みんなが無視するなか、レチリだけこの男に興味がありました。
この人は、手に何もエサももってない。だから危害はくわえないだろう。

「やあ、君だけだね。僕の話しを聞いてくれるのは。
僕の話しを聞いてくれたお礼に、君に忠告だ。ここでもらえる餌は、食べ過ぎないように。
所詮、パンの耳だ、栄養が偏る。それにもう旅立ちも近い事だから、もう少し痩せ
ないと、長く飛べなくなるぞ」
男はそれだけをレチリに言うと、帰って行きました。

レチリは、旅立ち っていう男の言葉にハっとしました。
(北へ戻らないと、僕の生まれ故郷に)

それから数日後、リーダーの一声で旅立ちが始まりました。
もう冬も終わりに近いからです。これから、休みながら、空高く飛んで
北に帰るのです。
レチリの家族のグループも旅立ちました。ところが、途中まで来たときに
レチリは、体が怠くなって、息切れして隊列から遅れていきました。
先頭を行くグループのリーダーが、速度を緩めてくれました。
飛ぶ場所も、風の抵抗の少ない位置にしてくれました。
それでも、とうとう、レチリは群れから 離れました。

「父さん、母さん、心配するだろうな。僕、これからどうしよう」
レチリは、きた空の道をもどり、もといた湖に戻りました。
餌をおいてる店もしまっていて、誰もいません。

「ああやっぱり、旅立てなかったんだね。ちょっと太りすぎかなと、心配してたんだ」
あの中年男がやってきて、レチリに声をかけました。

「僕、一人になちゃったよ。人間もいないし 餌もない」
クオークオーと悲し気にレチリは鳴きました。
「これからは、一人でエサを取るんだ。出来るから。調子がよくなったら、すぐ群れを
負うんだ」

それからレチリは、いろんな湖やをめぐり、餌探しです。
レチリは最初は上手く見つけられず、毎日 ハラペコで寝ました。
でも、前にかんじたような体のだるさが、少し減ってきました。

(旅立ちの時、このくらいだったら、一緒に行けたのにな)

夕方は、やっぱりいつもの湖に戻ってきてしまいました。
中年男がそれを見つけ、ため息をつき、

「レチリ、あの山をこえた向こうの湖には、まだ旅立ってない白鳥の群れがいる
そうだ。そこへ行ってグループに入れてもらいなさい。
そこで旅立つんだ。もう親離れしてもいいだろう?」

レチリは なぜか男のいう事がわかりました。
急いで飛び上がると、男が手を振ってます。
「来年、また会おう。ウチの息子をよろしくな」

レチリは、飛んでる横に、”透明に限りなく近い何か丸いもの”
が一緒にいる事に気がつきました。
(これが、”息子”かな)

レチリは男の上を一度旋回し、”別のグループ”目指して飛んで行きました。







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