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リリカと優しい悪魔様  作者: 夕月 星夜


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1/9

はじめまして?


召喚魔法陣を書くのに一番必要とされるのは正確さだ。ほんの少しの狂いで成功しないなら御の字、最も恐ろしいのは失敗して良くわからない事になった場合だ。異空間と繋がったりしたら天災扱いなのだ。


それゆえ、リリカは今とても丁寧に陣を書いていた。


自分に割り振られた寮室の床に生成りの絹を敷き、そこに魔力を使って陣を描く一般的な方法だ。

最初に中心を決めて綺麗な円を二重に描く。この円の間に呪文を書き込むのだ。

ただ、それは一番最後に後回しして先に円の中へ守護と翻訳と鎮静の効果を持つ文様を合わせて描いていく。


これは陣から現れた対象と意志疎通を図る為に必要なものだ。

それをきちんと間違えていないか、何度も魔法書と見比べて確認する。


リリカは今召喚の中では最も難易度の低い『初級精霊召喚』を行おうとしていた。

簡単に言えば『微風の精霊』とか『雫の精霊』とか『火花の精霊』といった、わざわざ呼び出す必要も危険もない最弱な精霊だ。

だが、この『初級精霊召喚』が出来なければ当然上の精霊召喚は行えない訳で、中級を許可して貰う為にリリカはなんとしてもこの召喚を成功させなければならなかった。


「ふう……」


ここまでは問題点がないようだ。籠めた魔力も可もなく不可もなく、均一になっているようで全体がぼんやりと白い輝きを帯びている。

リリカの部屋は薄暗い。魔法陣以外には小さなランプがあるだけだからだ。

それゆえ魔法書を読むにも何度も確認し直して、絶対に間違えないように細心の注意を図る。


仄かな灯りに浮かぶ顔は小さく、十六歳とは思えぬほど幼く見える。

肩甲骨のあたりで切りそろえた髪は癖のあまりない薄い茶色。ねこっ毛なのでなかなか結べないのが困りものだ。

瞳の色は灰青色。体つきは、小柄ではあるがまあごく普通の少女と言えるだろう。胸もそこそこ育ったのだから。


召喚の為に部屋着ではなく制服である薄紫のローブをまとい、しっかりと第一ボタンまでかけているところがリリカらしいと言えばリリカらしい。

根はまじめで才能もあるので、とある理由さえなければ優秀な魔術師の卵として第一クラスに入れただろうにと教師を嘆かせているのだ。


「よっし、次は……」


魔法書を確認し、リリカはいよいよ大事な呪文を書き込み始める。

書き込むのは現れてくれる事を祈る文、けして傷つけないと誓約する文、そして呼び出す対象の種族と数、もしくは対象の名前だ。


「ええと、名前は一番最後だったよね」


最初に祈りの文を書き込む事に決めたリリカは、再び集中して丁寧に文字を書き込んでいく。

その姿が、部屋に置かれた姿見にくっきりと映り込んでいた。


とはいえ、姿見がある事自体はごく普通だ。

リリカも女の子、身だしなみにはそれなりに気を使っている。

この鏡に魔法がかかっていれば問題だが、これは学校が支給しているごく普通のなんの変哲もない鏡だ。


だから、なんの問題もないはずだった。

映り込むリリカの向こうに、もうひとつ鏡がなければ。それが鏡面を向い合せにしていなければ。

そして、今が夜でなければ。


かちりと部屋の掛け時計が0時を示した瞬間。


「きゃああ!?」


突如として魔法陣がそれまでとは比較にならない眩い光を放つ。

まだ書き途中の、それも対象者の書き込みもされていない魔法陣がこんな反応をするなど、予想外の一言に尽きて。

あまりの眩しさに直視できず、リリカは思わず腕で目をかばい、強く瞼を閉じた。


「な、何……?」


かばっても閉じても瞼を通して目に光が突き刺さるが、やがてそれも弱くなる。

そろそろと腕を下ろして目を開けて。

そうして魔法陣を見たリリカは、ぽかんと口を開けた。


「……人間界に来るのも、久しぶりだな」


耳に心地よい、素敵な声。

サラサラとした漆黒の髪に、とんでもなく整った顔。

仕立てのよさそうな服に身を包んだ、信じられないほどの美青年が、魔法陣の上に立っていた。


「それにしても、今回はいったいどんな奴が俺を……ん?」


美青年がリリカを認める。その目はルビーのように綺麗な深紅だ。


「お前が俺を呼び出したんだな?」


そう問われて、ハッと我に返る。

美青年は酷く憮然とした表情で、反応のないリリカにご立腹のようだ。


そうしてリリカはひとつ深呼吸をして。


「あの……申し訳ありませんが、どちら様でしょうか」


おそるおそる、美青年へと声をかけた。




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