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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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98 状況

 結局、捕獲隊が帰還したのは昼過ぎとなり、小屋に近付くことを拒絶された彼らからの、充分な距離を取っての怒鳴るような報告を聞いた獣人達の指揮官は、直ちに新たな捕獲隊を編成した。
 このような卑劣な策を弄するということは、まともに戦える状態ではないということである。
 捕獲隊第2陣は、機動性を重視して、少数精鋭、12名が選抜された。

 ……少数精鋭、と言えば聞こえが良い。しかし、脱走者達の戦力は大したことがない、と考えていたのは本当ではあるが、実は、もうそれ以上の戦力を派出する余裕がなかったのである。
 昨日の夕方帰投した迎撃隊の、過大な負傷率。そして今、20名が戦力外となった。戦闘より見張りや情報収集の方が得意な者、万一に備えてのこの場所の防衛戦力等を除けば、あとは作業員やその支援のための人員が大半であり、残された戦力は僅かであった。
 まさか作業員や雑用係として連れてきた女性、若年者等を行かせるわけには行かない。いくら相手の戦闘力が低くても、万一ということがある。
 それに、そもそも誇りある獣人族が、戦士たる成人男子を後方に残して非戦闘員や女子供を戦わせられるわけがなかった。そんなことをするくらいなら、素直に一族滅亡の道を受け入れる。それくらい、それは彼らにとっておよそ考えられる選択肢ではなかったのである。

 夜目も利かぬひ弱な人間、しかもハンターではない者を伴っていては、森を抜けるのに2日はかかるだろう。
 既に逃げられてから半日近くが経過しているが、比較的少数の獣人が全力で追跡したならば、追いつくことは然程さほど難しくはない。人間達は一度は仮眠を取らねば体力が続かないだろうが、こちらは昨夜ゆっくり休んだ身、1日半くらい眠らなくとも問題はない。何度かの小休止だけで充分である。
 そう考えた指揮官は、12名の新たな捕獲隊を出発させた。最初のメンバーから、『絶対に近付いてはならない場所』を何度も念を押されてから。


「……そろそろだ。注意しろ……、ぐはぁ!」
 捕獲隊のリーダーが皆に注意を喚起しようとしたその時、それはやってきた。
「回避! 大回りして迂回だ!」
 遠方から僅かに届いたかすかな臭気だけで、既に吐きそうであった。
 気分の悪さに必死で耐え、捕獲隊はその区域を大きく迂回して、再度逃亡した人間達の臭跡を発見するまでにかなりの時間を無駄にした。



 一方、『赤き誓い』は、最初のうちの小休止は皆の体力の回復やマイルの作業に充てていたが、ようやく何度目かの休憩時に、捕らえられていた者達から事情を聞くことができた。
 どうせ夜間は移動効率が悪いので、休憩時間は多めに取っていた。疲れで足下がおろそかになって、怪我でもされたら却って移動速度が落ちてしまう。
 そのため、やや長い休憩を取った時、マイルの収納から取り出した消化の良い食べ物や水を配り、軽い食事兼説明会となったわけである。
 説明は、ギルド職員であるテフィーが行った。

 テフィーの話によると、森の異変を調査するために領主がほんの僅かな資金を出して調査隊が組まれ、森の生態に関する専門家であるエルフのクーレレイア博士とその助手、護衛のハンター、そしてギルドから職員のテフィーが参加した、とのことであった。
 資金は領主持ちであるが、一応、調査隊はギルド主催ということになっているらしい。これは、ギルドに裁量権を任せたというよりも、何かあった場合の責任をギルドに押し付けるためであると思われる、というテフィーの言であるが、『赤き誓い』にとってはどうでも良い話である。
 そして、調査隊の中では博士が唯一の女性であったため、それを気遣い、同行するギルド職員としてテフィーが手を挙げた。
 そこまでは、『赤き誓い』もギルドマスターから聞いて既に知っていた。

「そして、調査をしていると、大勢の獣人達に取り囲まれて捕らえられました」
「「「「……」」」」
 黙ってテフィーの話を聞く『赤き誓い』の4人。

「以上です」
「「「「え?」」」」
「以上が、今までの経緯です」
「「「「みじかっ! 説明、超短っ!!」」」」
 あまりのことに、ついマイル仕込みの『突っ込み』を入れてしまう4人であった。

「あ、あの獣人達は何なのよ! で、あそこで一体何をしているのよ!」
 レーナが更に突っ込む。
 そう、それを確認しなければ話にならない。

「あ、何でも、誰かに頼まれて何かを探しているとか……。
 直接聞いたわけじゃなくて、たまたま会話を小耳に挟んだだけですけど……」
((((……つ、使えねぇ~!!))))
 4人ががっくりしていると、後ろから声が掛けられた。

「何かの発掘みたいね。鉱石とかじゃなくて、遺跡か何かの……。
 でも、どうやらまだ何も見つかっていないらしくて、目的の物が本当にそこにあるのかどうかも確信がないみたいよ。ここにあるかも知れない、って程度で……。
 捜し物のことは秘密らしいし、彼ら自身もよく理解していないようなの。多分、誰かに頼まれて現場作業を任されているだけなんでしょうね」

 クーレレイア博士の説明に、ふむふむと聞き入るマイル達。
「でも、秘密なのに、よく博士は聞き出せましたね?」
「エルフに伝わる、人間や獣人を相手にする時の秘術を使ったのよ」
 不思議そうにそう尋ねたマイルに、博士は、ふふん、という顔をして答えた。
「おお、凄い! それってどんな術なんですか!」
 眼をキラキラと輝かせてそう言うマイルを邪険にするのも可哀想だと思ったのか、それともただ単に自慢したかっただけなのかは判らないが、博士はドヤ顔をしてその秘術を教えてくれた。

「こうやるのよ。
 こう、両手を組んで、顎の下あたりに持ってきて、眼をうるうるさせて、こう言うの。
 『私、退屈なの。おじさま、何かお話をして下さらない……』、って」
((((うわああああぁ!))))
 皆、どん引きであった。
 博士はエルフなので15~16歳に見えるが、実年齢は既に……。
こえぇ! エルフ、怖ぇ!!)
 そして男性陣は、恐怖に震えていた。

 この世界のエルフは、日本の漫画のように耳が極端に横に伸びているわけではない。特に尖りが大きい者でもせいぜいバルカン星人程度であり、人によっては『人間よりやや尖っている程度』の者もいる。なので、髪で隠れていれば見分けがつかない場合も多い。
 獣人達は恐らく、マイル達と同様に博士は新米ハンターか何かだと思っていたに違いない。


 マイルは、獣人達の指揮官とは違い、自分達があの『森の手前の村』まで行くのに1日半程度かかるであろうと見積もっていた。そういう見積もりは得意なのである。人間関係が絡まなければ。
 獣人の指揮官が見積もりを誤ったのは、仕方ない。彼は、逃亡者達の中に獣人を上回る程夜目が利く者がいて先導していることや、充分な水や食料があること、しかもそれらを荷物として運ぶ必要がないこと、更に蓄光性物質によるマーキング等のことを知らなかったのだから。
 更に、速度低下の要因と思われていたクーレレイア博士、助手、そしてギルド職員のテフィーにマイルが色々と確認した結果は、次のようなものであった。

「森に住んでいるエルフを舐めてんの?」
「フィールドワーク型の博士の助手を務めるということの意味、理解されてますか?」
「ギルド職員で、なおかつ、父親がアレですよ? 一応、Cランクハンターの資格くらいは持っていますけど?」
 ギルドマスター、『アレ』呼ばわりであった……。

 マイルは、囚われの身で消耗している上に寝る寸前で脱出した皆の体力では、短い休憩だけで不眠で村まで進み続けるのは難しいであろうと判断していた。
 起き続けていることはできても、疲労や注意力の低下により、恐らく転倒者が続出したりつまづいて捻挫をしたりする者が出る。そうなれば、進行速度は大きく低下してしまう。
 一度、大休止を取って仮眠させるしかない。

 もしあのトラップで完全に鼻が利かなくなり追跡能力が失われれば、発掘現場に戻って別の者に交代することによるタイムロスが半日弱。
 そこまでの効果が無かった場合は、臭跡の再捕捉までに数時間。
 実はマイルの想像以上の効果を発揮していた『トラップ』であるが、マイルはそれを知る由もなかった。
 とにかく今は、皆の疲労がピークに達するまでに、できる限り距離を稼ぐ。それしかなかった。

 そして脱出後は夜通し歩き、翌日も獣人の追撃部隊に追いつかれることなく日没を迎え、一行は何とか大休止、つまり、まともな食事と仮眠を取ることができたのであった。
 その翌日は、何とか安全に歩ける明るさになればすぐに出発し、あの『森の手前の村』はスルーして一気に領都を目指し、夕方には領都に到着するつもりであった。
 この状況では、村は決して安全な場所とは言えない。獣人が多数で襲えば、それまでである。
 村人を危険に巻き込むよりは、真っ直ぐ領都を目指した方が遥かにマシであろう。

 捕らえられていた者達は、久し振りの温かい食事を腹一杯食べ、横になって仮眠を取っていた。
 先程、食料やテント、毛布等をひょいひょいと収納から取り出したマイルと、少し食べ残されて皿に残った、なぜか新鮮なままであった野菜や肉の料理を見詰めているロリババ……、クーレレイア博士を除いて……。
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