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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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89 企み

「とにかく! 移植は拒否します!
 それに、普通に冷凍したんじゃ、凍結時に細胞が壊れてますよ。
 大体、オークのステーキ肉にいくら治癒魔法をかけたって生き返らないでしょう? 治癒魔法で移植を成功させようにも、治癒魔法は死んだ者には効果がありませんよ。そもそも、治癒魔法の原理は……」
 心臓では移植をしても無駄だということは、多分言っても信じないだろう。そう思い、その方面での説明は断念したマイル。

「う、うるさい! 知ったようなことを言いおって! お前などに、この私の気持ちが分かるものか! エルシーは、エルシーは私にとって……」
「私にとっては、ただの他人の飼い犬ですよ!」
「くっ、こ、この……。ええい、やれ、ロブレス!」
 ギエェ、という叫び声と共にロブレスが立ち上がり、翼を広げた。脚や翼、そして口を縛っていた紐は完全に解けていた。

「ど、どうして……」
 驚くマイル達に、男は薄笑いを浮かべながら説明した。
「私が、ただ長話をしているだけだとでも思っていたか? ふはは、話をしながらも心の一部で無詠唱魔法を詠唱し、お前達からは見えないところにごく小さな、しかし強い火力の魔法を何度も発現させておったのだ! それでロブレスの縛めを焼き切ったというわけだ。
 戦いの駆け引きも知らぬ愚かな小娘共め、思い知るが良い!」
 カーボンナノチューブも、所詮は炭素である。特に燃えやすいというわけではないが、それはマッチ1本で石炭に火をつけるのが難しいのと同じような意味に過ぎず、細い紐状のものが高熱の炎に晒されれば、普通に燃える。ダイヤモンドも燃えるのと同じように。
 至近距離であるため、ロブレスはブレスを使うことなく直接攻撃に出た。しかし、女性相手だからと手加減しようとしているのか、噛み付きや脚爪ではなく翼で払うような攻撃をしていた。律儀な奴である。
 だが、スタッフを構えて詠唱を始めたレーナとポーリン、そして剣を構えたメーヴィスを見て、先程の、必死で躱した魔法攻撃や尻尾の痛みを思い出したのか、慌てて尾を振って薙ぎ払おうとした。

「……水の衝撃!」
 その時放たれた詠唱省略魔法は、レーナやポーリン、そしてマイルが放ったものではなかった。
 ロブレスに気を取られた『赤き誓い』の4人の隙を衝いて放たれた、怪しい男の魔法である。
 ……決まった!
 そう思い、計画通りに進んだ攻撃に、男がにやりと嗤った瞬間。

 ばしゃん!

 弾かれた。
 一番手前の、胸の大きな少女に当たり、その少女ごと他の少女達を巻き込んで吹き飛ばすはずの、あまり怪我をさせずに戦闘力を奪うための水魔法。それが、その少女の手前でまるで何かに弾かれたかのように飛び散ってしまった。
「な……」
(あ、バリア解除するの、忘れてた……)
 マイルの仕業であった。期せずして、の。
「くっ、水の」
 どしゅっ!
 今更、間に合うはずもない。
 レーナがそのままロブレスに牽制の火魔法を放ち、メーヴィスが剣で尾の攻撃を捌き、ポーリンは攻撃先をロブレスから男に変更して水魔法を放ったのであった。
 そして、吹き飛ばされた男が地面に叩き付けられながら見たのは、ばしいっ、という音と共に一瞬身体を硬直させ、そのまま地面に倒れ伏すロブレスの姿であった。
「ば……、一撃、だと……」
 この状況での接近戦は危険だと判断したマイルが、一度はみんなの力で捕らえたのだからもういいや、と、電撃魔法を叩き込んだのであった。

「さて、どうしようかしらね……」
 再び縛り上げたロブレスと、怪しい男。それをめつけながらのレーナの言葉に、男が懇願した。
「た、頼む! こいつは殺さないでやってくれ!」
 じろり、とワイバーンの命乞いをする男を睨んで、レーナが告げる。
「今度おかしな真似をすれば、その場で首を落とすわよ。ワイバーンも、そしてあんたも!」
 男は、蒼い顔をして、こくこくと頷いた。
 元々、『赤き誓い』の面々には捕らえたワイバーンを殺すつもりはなかった。無用な殺生をする意味はないし、生け捕りの方がお金になるのだから、当然である。
 そして、男の方にも、それなりの勝算があった。

 実はその男は、山奥に引き籠もって研究三昧の生活を始めるまでは、そこそこ、というか、かなり名の知られた魔術師であった。まだ過去の名声は充分に効果があるし、少し世話をしてやった者達が王宮のかなり重要な地位に就いている。うまくすれば、ワイバーンの調教に成功した魔術師として少し領主に協力してやれば、罪を免れることができる確率はかなり高かった。そしてそのためには、ロブレスが健在でなければならない。自分のためにも、そして友のためにも、ロブレスの生存は必須事項であった。

 ロブレスを人力で運ぶのは大変だし、この魔術師の男が指示すればおとなしく従うだろう。そう思ったレーナは、マイルにロブレスの脚を縛った紐だけ解かせ、自分で歩かせることにした。男は『友人だ』などと言っていたが、ロブレスの方は、男のことを、多分飼い主か御主人様とでも認識しているであろう。

 念のため、男の首とロブレスの首を細い紐で結んでから、マイルが気付けの魔法でロブレスの意識を戻させた。そしてすぐに男がロブレスの耳元で何やら囁き、こくこくと頷いたロブレスは素直に歩き始めた。意思疎通のための魔法か何かなのか、それともロブレスがある程度の人間の言葉を理解できる程知能が高いのか……。
 男には、紐の丈夫さはしっかりと見せてやっている。もしロブレスが逃げようとしたり急な動作をしたりすれば、『きゅっ』となるか、もしくは紐がかなり細いため『ぼとり』となるかのどちらかであることを充分理解した男が、自分の命を懸けた、勝算の低い賭けに出るとは思えない。特に、戦闘畑ではなく研究畑の、学者肌の男には。

 上半身を縛られているためうまくバランスが取れず、よろよろと歩くロブレスと共に歩き去る5人を茂みの陰から見送っていた、子供好きの村の若者は震えていた。
(こ、こえぇ! 街の若い女、怖えぇぇ~!!)
 やはり、恋人にするのは気心の知れた村の少女にしよう。
 街の女性は怖い。
 しかし、がさつで乱暴な、自分と同年代の女はちょっと……。
「うん、やはり小さい子と仲良くして、自分好みに育てよう!」
 その呟きをマイルが聞いていたら、恐らくこう言ったことであろう。
『どこの光源氏かッッッ!』

 村に戻り、最初はワイバーンの姿に驚き恐れた村人達に遠巻きにされたが、その後大喜びで感謝された『赤き誓い』の一行は、村長に頼んで、輸送隊を出して貰うよう領都に使いの者を出して貰った。王都までとは違い領都はそう遠くないし、領主の『領民のためにやりました』アピールのために、依頼主である領主は絶対に輸送隊を派遣するであろう。もしかすると、領都にはいる手前で合流して、領主みずからが輸送部隊を率いて凱旋しようとするかも知れない。生け捕りの追加報酬は、かなり期待できるかも知れなかった。

 そして、当初の予定以上の成果を収めた『赤き誓い』の4人は、歓待してくれる村人達が用意してくれた御馳走を食べながら、すっかり忘れてしまっていた。
 自分達が感じた、魔族の存在に対する疑問を。
 そして、その魔族が何をしようとしているのかということに対する、疑惑の心を……。
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