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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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77 凱旋

 ボードマン子爵領の領都タルエスでオースティン伯爵達から要望された「お師匠様への紹介」の件は、今度会った時に聞いてみる、と言って誤魔化した。
 その後は、特に問題もなく商隊は無事王都へ帰還。
 いや、そうそう襲われるものではない。そんなに頻繁に襲われるようでは交易など成り立つはずがなく、そうなると経済が回らなくなり、国や領主が大規模な討伐隊を出す。
 盗賊は、交易に大きな痛手を与えないよう、護衛の費用をケチった馬鹿な商人か、国や領主が気にもとめない弱者しか狙わないのである。普通は。

 ただ、馬車の中でマイルとメーヴィスはレーナに説教された。
「ふたりに、どうしても言っておきたいことがあるのよ……」
 何事かと思ったふたりに、レーナは言葉を続けた。
「……あのね、キャベツの酢漬けは美味しいのよ! 特に、茹でたソーセージと一緒に食べると!」
 どうでも良い話であった。
「エールを飲む時のおつまみとしても……」
 なぜそんなにキャベツの酢漬けに拘るのか。
 なぜかそれは聞いてはいけないような気がして、大人しくレーナのお話を拝聴するマイルとメーヴィスであった。

 ギルドでは、特に何もなし。
 まだ護送部隊が戻っていないのだから、当たり前である。
 ギルドへの報告は、これからティリザが行う。なので『赤き誓い』が何かをする必要はなかった。ただ、帰路の護衛依頼の完了報告と報酬を受け取るだけであった。
 ちゃっかり自分も報酬を受け取ろうとしていたティリザは、「ギルドの仕事中のことだから」とその報酬をギルドマスターに取り上げられて暴れていたが……。


「帰ったよ~!」
 例によって、宿にはいるなりそう声を掛けるマイル。
 しかし、いつものようにレニーちゃんの元気な声が返ってこない。
 不思議に思ってカウンターの方を見ると、誰も座っていない。
「あれ? お手洗いか何かかなぁ?」
 マイルが首を傾げながらそう言うと同時に、奥の方からダダダダダッと大きな足音が聞こえ、レニーちゃんが飛び出してきた。
「お、お、おおお、お姉さんんん~~!!」
 そのままマイルに抱きついて、嗚咽を漏らすレニーちゃん。
「ど、どうしたの!」
 驚くマイルに、レニーちゃんが泣きながら説明してくれた話によると。
 ……お風呂のせいで、レニーちゃんが死にそうであるらしかった。

 マイル達が王都を離れた後、宿の仕事で忙しい両親に代わってレニーちゃんは給湯のための魔術士を探したらしい。
 いくら魔術師は人数比率が少ないとは言え、ここは王都である。仕事に役立てられる程度の者は10人にひとり、それだけで食っていける者は数十人にひとりだとは言え、王都の人口ならばそれくらいの者は多い。それに、そういう者は地方から王都に出てくるため、更に人材は豊富であり、そのあたりの店や工房、ハンターギルドあたりなら何人もいる。特にハンターであれば王都にいる間は魔力残量とかをあまり気にする必要はなく、万一に備えた余力さえ残しておけば、夕食後に大半の魔力を使っても構わない。どうせ寝れば翌朝には回復しているのだから、小遣い程度のお金か酒とつまみで引き受けてくれる。そのはずであった。そして事実、それで引き受けてくれる者は大勢いた。
 しかし、ここで大きな問題が発生したのである。
 普通の魔術師が出せる水量は、少なかった。
 レニーちゃんはいつもマイルが簡単に給湯するから安易に考えていたが、実は魔法で水を出すのは結構大変なのである。
 魔法で水を出そうとすると、特にその手段に指定がない場合は、ナノマシンはまず魔法の到達範囲、つまり思念波が届く範囲の空気中から凝結させる。しかし湿度がゼロになるまで完全に絞るわけには行かず、程々のところで自動的にカットされる。なので思念波の到達距離が短い者にはあまり大量の水が出せないのである。
 そして、それでも更に水を出そうとするならば、今度は他の場所から持って来なければならない。そう、空間転移である。それには水源までの距離も関係し、海水であれば塩分等を除去してから転送しなければならない。更に大量だと、瞬間転移ではなく転送ゲートを形成し維持しなければならない。そしてそれらを具体的な指示なくナノマシンに実行させるには、必要とされる魔力量や思念力が跳ね上がる。つまり、余程優れた魔術師以外は空気中に含まれた水分を取り出すのが精々であり、その量は少なかった。そして、一度水分を取り出せば、空気が流れて新たに水分を含んだ空気と入れ替わらないと、連続しては水を出せないということであった。
 つまり、水を大量に出す魔法は難しく、並み程度の魔術師には少ししか出せない。そういうことであった。
 だからこそ、魔法使いの能力を簡単に表す表現として、『水をどれくらいの量、何回連続して出せるか。そして、再び出せるようになるまでにどれだけ時間がかかるか』という言い方が使われているのであった。

 結局、空気中から出すだけでは浴槽を満たすだけの水は賄えなかった。少し時間を空けても、魔術師の魔力が続かなかった。依頼する人数を増やすと、タダ飯、タダ酒をかっ喰らわれて支出が膨らんだ。
 そして遂に、おかみさんからレニーちゃんに悪魔の命令が下されたのであった。
「魔術師には、湯を沸かす方に専念して貰う。水は、レニーが井戸から汲むように」
 と……。

「死ぬ! 死んでしまいますぅ!
 お願いです、おねえさん! 何とかして下さいぃ!!」
「あ~……」
 浴槽を大きくしたのが、レニーちゃんにとっては裏目に出た。
 あれを半分満たすためには、何回井戸水を汲む必要があるだろうか。
 そして、浴槽だけでなく、給湯台の上まで運ぶのもキツいだろう。
 このまま放置しておけば、半年も経てばレニーちゃんも身体が鍛えられて立派なハンターに……。

((((いやいやいやいや!))))

 一斉に頭を振る『赤き誓い』の4人。
 実に、気が合う4人であった。

 結局、当座の対応策として、浴槽を仕切った。
 広い浴槽の一部を日本の一般家庭の浴槽2つ分くらいに仕切り、マイル達が不在の時はそこだけを使うことにした。それでもまだかなりの水汲みが必要ではあるが、今までに較べれば大分少なくて済む。これならば、魔術師の魔法も少し合わせればレニーちゃんの負担もかなり少なくなるだろう。
「あ、ありがとうございます! いや、もう、死ぬかと思いましたよぉ!」
 大変な作業が完全に無くなったわけではないが、マイル達がいる間はそれも無い。安心した様子のレニーちゃんに、ポーリンが更に助け船を出してやった。
「宿の他の仕事ができるレニーちゃんを単純作業に使うのは効率が悪いんじゃないの? レニーちゃんは今まで通り受付や他の仕事をやって、水汲みは孤児の子供達を雇えばいいんじゃないかしら。孤児の子達なら安く雇えるし、むこうも食材が買えるだけのお金が稼げれば大喜びなんじゃないの? 水を出すのに魔術師を使ったりしたら高くつくでしょう?」
 それを聞いて、眼をきらきらと輝かせるレニーちゃん。
「め、女神様……」

 こうして、腹黒い女神様のお陰で、レニーちゃんの生命の危機とムキムキマッチョになる危機は回避されたのであった。


「……あとは、マイルだけね……」
 部屋でひと息入れたあと、レーナがポツリとそう呟いた。
「ああ」
「そうですね……」
「え?」
 レーナに続いたメーヴィスとポーリンの言葉に、ぽかんとするマイル。
「ポーリンとメーヴィスの実家のゴタゴタが終わって、あとはマイル、あんたのところだけ、って言ってんのよ。ポーリンのところもメーヴィスのところも、あんたのお陰で何とかなったんだから、ふたりとも、今度はあんたのところを何とかするのを手伝ってもいいかな、って思ってるんじゃないかしら?」
「はい!」
「ああ、勿論だとも!」
 レーナの言葉に、ポーリンとメーヴィスは即答したが、マイルは浮かない顔をした。
「え……。でも、私、国王陛下や王女殿下に目を付けられていますよ? それに、実家の爵位を継いで婿を取れ、とか言われたら、ハンターは引退……」
「じゃ、数日間の休暇を取って、その後は次の仕事ね!」
「そうだな。今度は何か、面白い仕事を探そう!」
「いいですね! ゴブリン狩りとかの単純作業じゃなくて、もっとこう、やり甲斐のある依頼を選びましょう!」

…………どうやら、先程の話は無かったことにされたようであった。
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