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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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49 販売

 ギルド内は、『赤き誓い』が保有する岩トカゲが5匹と聞いて、大騒ぎになった。
「ま、まさか、それ全部が嬢ちゃんの収納の中に、とかいうことはないよなぁ?」
 少し動揺しながらそう聞くベテランハンターに、マイルはきょとんとした顔で答えた。
「え、入ってますけど? 何かマズいことでも?」
「「「「…………」」」」

「しょ、少々お待ち下さい!」
 そう言って、受付嬢は席を外した。ギルドマスターに相談に行ったのである。
 常時買い取りの対象ではない、予定外の獲物であってもギルドは買い取る。それが売れる見込みがあり、儲けが見込めるならば。
 そして岩トカゲは皮や爪等の素材としても食材としても人気があるが、採取地が危険な上に少し遠く輸送が面倒なために入荷数がそう多くない。確実に売れる。2~3匹ならば。
 しかし5匹となると、買い取り総額も高くなり、傷み始める前に売り切ることが出来るかどうかが分からない。かと言って、せっかくの儲けのチャンスを見逃すのも勿体ない。
 受付嬢が勝手に判断するには荷が重く、ここは上司に判断を任せることにしたのである。それは実に賢明な判断であった。

「……こちらへどうぞ」
 しばらくして戻ってきた受付嬢に案内されて、『赤き誓い』の面々は2階の会議室へと連れて行かれた。
 そしてそこには、ハンターギルド王都支部ギルドマスターとサブマスターの姿があった。

「掛けてくれ」
 部屋へ入った4人はギルドマスターに椅子に座るよう勧められ、テーブルを囲んで着席した。案内してくれた受付嬢も、ギルドマスターの隣り、サブマスターの反対側の席に着席した。
「さて、話はレリアから聞いたが、本当か? 岩トカゲが5匹、というのは……」
 ギルドマスターにそう問われ、マイルは本当のことを白状した。
「いえ、実はあれは嘘で、本当は5匹じゃないんです……」
「そ、そうだろうな、驚かすなよ……。収納魔法にそんなに入れられる訳がないよな」
 安心したようなサブマスターの言葉に続き、マイルは岩トカゲの正確な数を告げた。
「収納に入れているのは、二十六匹です」

 がん!

 サブマスターが、テーブルに額を打ち付けた。



「……で、本当にそれだけの岩トカゲが収納に入っている、と?」
「はい……」
 ギルドマスターと、ようやく復活したサブマスター、そして受付嬢のレリアの3人と会議室で正対している『赤き誓い』の4人。今のところ、対応は、収納の持ち主であるマイルが行っている。
「もし本当にそれだけの岩トカゲが収納に入っているなら、それが何を意味しているか、分かっているのか?」
「は、はい。早く換金したいですけど、すぐに売れるかどうかと、一度に売ると値崩れするかも、と……」
「違うわ、この馬鹿者が!」
 ギルドマスターに怒鳴られ、びくっとするマイル達。
「そんなに入る収納持ちがいたら、奪い合いになるだろうが! 幸いと言うか何と言うか、お前達はあの卒業検定で有名だから、それを知っているまともな奴はちょっかいをかけては来ないだろう。何せ、あの『ミスリルの咆哮』と善戦する実力に、そのリーダーのお気に入り、そして国王陛下がお気にかけられており、王女殿下が御執心のパーティだ。猛毒針ウサギにちょっかいを出したがる者がそうそういるとは思えん……」
 王女様、の下りでギルドマスターの視線がメーヴィスの方を向いたことに気付かなかったのは、メーヴィス本人だけである。
「それに、存続が危ぶまれていたハンター養成学校の救世主、という話も広まっている。だから、あそこの卒業生や、あそこが必要だと思っているハンター達は大半がお前達の味方につく。何せ、養成学校の必要性の、何よりの証明だからな、お前達の存在と今後の活躍は」
 後の方の話には、レーナ、メーヴィス、ポーリンは少し誇らしげな顔をしたが、マイルはどんよりとした顔で、半分白目を剥いていた。

「それでだ、問題は、まともではない奴、つまり、馬鹿と、あの卒業検定のことを知らない者、そして他国の者だ。さっきあれだけの人数の前で喋ったのだから、お前の収納が少なくとも岩トカゲ5匹分は入る、ということは周知のこととなった。全く、どうしてあんな……。
 あ、いや、いい、分かっている。それくらいは入ると言わないと、大量の岩トカゲを換金できないし、これから後も色々と不便になる、ということくらい。だから、せめて少しは容量を誤魔化そうと、5匹と少なめに言ったのだろう?
 分かってはいるんだが……」
 言い訳をしようとしたマイルは、手で制されて、言いたかったことをギルドマスターに言われてしまった。
 そう、岩トカゲ5匹分なら、2トンそこそこ。馬車1台で楽々運べる程度である。それくらいならば、貴族や国家レベルで危険を冒してまでどうしても手に入れたい、と思う程ではない。それに、収納持ちは少ないとは言え、各国に2桁程度の人数はいるのだから。マイルはそう思っていた。
 しかし、マイルのその考えには色々な要素というか、キーワードが抜けていた。
 例えば、『秘密の』とか、『馬車が通れない』とか、『急ぎの』とか『脱出時』とか『無補給で』とか『軍事』とか『他の者はせいぜい数キロから四~五百キロ程度』とか『自分専用の』とか『可愛い少女の』とかのキーワードが……。
 人ひとりを馬を替えつつ早馬で運べば、2トン分の物資がついてくる。それも、目立つ事なく。
 貴族家や王家、そして国家として、欲しくないはずがなかった。

「まぁ、今更言っても始まらん。充分気をつけて、何かあればすぐに助けを求めろ。いいな!」
「「「「はい……」」」」
「よし、話はそれだけだ。くれぐれも気をつけて、そしてあまりやらかすなよ!」
「「「「…………」」」」
「どうして返事がないんだよ!」
 ギルドマスターが怒鳴り、レーナ、メーヴィス、ポーリンの3人はマイルの顔を見詰めていた。
「ど、どうしてみんな、私の方を見るんですか!」


「あ、あの、お聞きしたいことが!」
 3人の視線を振り切って、マイルがギルドマスターに聞いた。
「……何だ?」
「あの、これから先、数日置きに岩トカゲを5匹ずつ買って戴けるでしょうか?」
「「「え……」」」
 そう、その話がまだであった。


 結局、ギルドで一週間置きに5匹ずつ買い取って貰えることになった。一度に全部は、傷む前に売り捌けないこと、値崩れが起こること、そして出所の説明がつかないこと等から、到底不可能である。一回の遠征に5日かかり、1日休んでまた遠征、ということであれば、期間的には何とか説明できる。
 尤も、ギルドとしては誰が納入したかをわざわざ公表するつもりはない。万一何か説明の必要が生じた場合に矛盾なく説明できる、という安全策に過ぎなかった。でないと、『赤き誓い』のみんなは週に一日しか王都に居られなくなってしまう。

 そしてマイル達は、ギルドに売った岩トカゲは、アボット商会及びその関係者や、アボット商会に転売しそうな者には絶対売らない、という条件をつけた。そして一匹あたり小金貨20枚、つまり金貨2枚で売った。1回当たり5匹で金貨十枚、5週間で金貨五十枚。パーティの月間最低目標額の、実に五カ月分であった。もしかすると後半は供給過多で多少値下がりするかも知れないが、それは仕方ない。その時の、ギルドとの交渉次第である。
 ちなみに、一匹は、丸焼けなので販売対象から除外である。被害が比較的少ない尻尾あたりを宿へのお土産にして、残りは自分達用である。
 1カ月弱で岩トカゲの在庫が無くなるが、それでも5カ月分の生活費にはなる。食べ物や衣服等にかなり贅沢をしても、3カ月以上は楽に保つであろう。但し、調子に乗って上等な防具とかを買えばあっという間に無くなるが……。
 なお、さすがに状態保存のアイテムボックスの事は教えられないため、日持ちの問題は、『マイルの収納を断熱処理して、冷凍魔法をかけ続ける』ということで誤魔化した。
 それでも明らかに異常であるが、もう、みんな感覚が麻痺しており、『どうでもいいや』状態であった。

「あ、忘れておった。今回のお前達の依頼は、失敗扱いにはならんからな。
 依頼主が依頼書に記載された事項を守らなかったことが明白だから、依頼無効、だ。但し、お前達の記録上は依頼達成となり、未達成の時のための預託金は返還される。更に、依頼主の預託金は全額没収、お前達には依頼書に記載された最大報酬額である岩トカゲ5匹分、小金貨七十五枚が支払われ、残額はギルドのものとなる。何か不服はあるか?」
「「「「ありません!」」」」
 声を揃えて答えた『赤き誓い』の面々であったが、それに続けてポーリンが尋ねた。
「あの、商会にはその他の処罰とかは無いんですか? ギルドを騙した事になるし、ハンターに嘘の依頼を受けさせた形になりますよね? 今回の依頼の無効措置だけで終わり、ですか?」
 商人として許せないのか、そう尋ねたポーリンに、ギルドマスターが嗤いながら答えた。
「いや、他には何もせんよ。これは取引契約上の不始末だから、その範囲内での処分となる。契約違反ではあるが、別に大きな罪を犯したというわけではないからな……」
 詐欺罪とかは無いのであろうか、とマイルは思ったが、この世界では『騙される方が悪い』ということなのかも知れない、と思い、黙っていた。
 ポーリンも、少し悔しそうである。

「しかし、だ」
 ギルドマスターの話は、まだ終わっていなかった。
「ギルドと、可愛い後輩ハンターを騙そうとした商人の依頼を、今後誰が受けてくれると思う?
 依頼書の内容を守らない、信用ならない依頼主の仕事を受けるハンターがいると思うか?」
「あ……」
「まぁ、ハンターに個別依頼しなくても、ギルドから買うとか他の商人から買うとかの方法もあるがな。しかしそれじゃあ、ギルドがその時に売っているものしか手に入らなかったり、仕入れ価格が高くなったりするだろう。
 それに、今回のお前達みたいに、狩ってきたハンターがギルドに売る時に『あそこには売るな』とか、『あそこに売る場合は価格2割増し』とかいう条件を付けるのも有りだしな。あの商会は、今後客から注文を受けたものを入手するのに、さぞかし苦労することだろうよ……」
 そう言って、ギルドマスターは再び笑い声をあげた。


 そしてマイル達が会議室を辞去して1階へと降り、そのままギルドから出ようとすると、ひとりの受付嬢が慌てて呼び止めた。
「すみません! 『赤き誓い』の皆さんに、お手紙が届いております!」
 手紙?、と、マイル達が怪訝そうに受付カウンターに戻ると、2通の封書が手渡された。
「すみません、バタバタしていたもので、お渡しするのが遅くなりました……」
 そのバタバタしていた原因は自分達なので、文句の言いようもない。
 封書を受け取ったメーヴィスが宛名を見ると、1通は自分宛て、もう1通はポーリン宛てであった。メーヴィスは黙って1通をポーリンに渡し、自分宛ての封書の差出人名を確認した。
「あ~……」
 勿論、確認する前から分かっていた。他に、自分に手紙を寄越す者などいるはずがない。
 実家にいた時ならばともかく、今の自分には。
 そう、それは、言わずと知れた、実家からの手紙であった。
 居場所を嗅ぎ付けられた。……と言うか、バレない方がおかしかった。
 あの卒業検定を、いったいどれだけの人数が、そしてどれだけの貴族が観ていたことか。
 メーヴィスが苦笑しながらポーリンの方を見ると、ポーリンは青い顔をして手紙を握り締めていた。勿論、皆、その差出人が誰であるかは分かっていた。疑問の余地もなく。


「……どうするの?」
「放っておくさ。そのうち何通か来て、痺れを切らせて兄達のうちの誰かが様子を見に来るだろう。それまで放置さ。わざわざこちらから動いて、その進行を早める必要もないだろう」
 レーナに苦笑しながらそう答えるメーヴィス。至ってあっけらかんとしている。
「ポーリンは?」
「……同じです。もう戻らないと決めた以上、返事を出す必要はありませんから」
 ポーリンの方は、家には未練はないようであるが、やはり母親と弟のことが心配なのか、その表情は暗い。
「気になるのなら、みんなで行ってもいいのよ。ポーリンのおうちがある町へ……」
「いえ、その必要はありません。仮にも愛人とその子供なんですから、おかしなことはしないでしょうから」
「……そう。でも、何かあったら、遠慮無く言ってよね。だって、私達は……」
「魂で結ばれた仲間、『赤き誓い』ですからね!」
 決めのセリフをマイルに掻っ攫われ、レーナは苦笑していた。
「さて、じゃあ、数日間はゆっくり休むとしましょうか!」
「「「お~!」」」

「……あ」
「どうしたのよ?」
 マイルが突然立ち止まって声を漏らしたので、レーナが怪訝そうに尋ねると……。
「岩トカゲ以外の獲物の換金を忘れてました……」
「「「あ……」」」

 結局、それらも目立たないように小出しにして換金しようということになった。岩トカゲを売る時に一緒に売れば、岩シリーズの魔物や動物が一緒であっても不自然ではないだろう。
マイルの断熱機能付き冷凍収納魔法様々である。(本当は時間停止のアイテムボックスであるが。)


「帰ったよ~!」
「おかえりなさ~い!」
 受付のカウンターの向こうから、レニーちゃんが迎えてくれた。
「はい、これ、お土産!」
 そう言いながら、アイテムボックスから取り出した少し焦げのある岩トカゲの尻尾をどんっ、と床の上に置くマイル。
「うわぁ、何これ!」
 さすがのレニーちゃんも、これだけ大きくて原形を残した岩トカゲの尻尾を見るのは初めてのようであった。
「これ、貰えるの? おとうさ~ん、ちょっと来てぇ~!」
 料理人である父親と女将である母親もやって来て、マイル達に何度も礼を言うと大騒ぎで尻尾を調理場へと運んでいった。しばらくは宿の食事は岩トカゲ尽くしになりそうである。

「あれで、大分点数を稼げたわね。しばらくは他のお客さんの接待は勘弁して貰えるかも知れないわ」
 レーナが少し嬉しそうにそう言ったが、商売人というものを知っているポーリンと、レニーちゃんという女の子のことをよく知っているマイルは、悲しそうな顔で首を横に振るのであった。
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