40 新たな武器 リベンジ編
「「「マイルうぅぅぅ!!」」」
「ご、ごめんなさいぃぃ!」
地面に崩れ落ちて両手をついたメーヴィス、マイルの襟首を掴んでガクガク揺すり続けるレーナ、そしてパーティの資金繰りを考えて虚ろな眼をしているポーリン。
「ま、マイル、あんたねぇ……」
「ま、待って! 話せば分かります!」
「放さなくても分かるわよ、あんたを信じた私が馬鹿だったってことくらい!」
「い、いえ、放せば、じゃなくて、いや、それはそれで放して欲しいですけどっ! とにかく、放して、話しましょう!!」
ようやく落ち着いたレーナと、どんよりしながらも立ち上がったメーヴィス、そして必死で予算の遣り繰りを考え続けているポーリンを前に、マイルが説明した。
「すみません、充分土魔法で強化したつもりだったんですけど、足りなかったみたいで……」
「「「…………」」」
皆、今までマイルに色々と助けられてきたこともあり、仲間に対して本気で怒っているわけではない。しかし、パーティ発足早々のこの出費は痛かった。
前の剣が折れたのは仕方ない。寿命だったし、その分の予算は織り込み済みであった。
しかし、所持金のかなりをはたいた新しい剣が失われたのは痛かった。
昨日を上回る、暗い表情の面々。マイルひとりを除いて。
そしてどんよりとした3人の耳に、マイルの明るい声が響いた。
「じゃ、剣を直しますね!」
「「「え…………」」」
「い、いや、直すと言っても、折れた剣は糊でくっつけるというわけには行かないからね! いくら土魔法で接合しても、一度打ち合えばそこがポッキリ折れて命取りだ。そんな剣は願い下げだよ!」
メーヴィスが嫌そうな顔でマイルの言葉を否定した。
「あなたは知らないかも知れないけれど、武器というものは、そう簡単な物じゃないのよ。
折れた剣は、いったん溶かして、素材として再利用するしかないのよ。折れた剣を繋ぎ直して使うなんて、聞いたこともないわ」
レーナも、剣の修理を否定する。
ポーリンも、こくこくと頷いていた。
しかし、マイルは平気な顔である。
「それは、結果を見てから言って下さいよ!」
「結果なら、そこに転がってるわよ!!」
確かに、転がっていた。ぽっきりと折れた剣が。
「お待たせしました。これが、修復した剣です。
硬くて、折れず、欠けず、曲がらず、切れ味が落ちず、お手入れが楽ちん。マイル工房、自信の作品でございます……」
そう言って、鞘に納められた一振りの剣を恭しく差し出すマイル。
そしてそれを無言で受け取るメーヴィス。
「本当に大丈夫なんでしょうね……」
それを疑わしそうな眼で見る、レーナとポーリン。
「し、失敬な! 今度は大丈夫ですよ! さっきは、少し手加減しただけですから!
私が本気を出せば、これくらい……」
「じゃあ、最初から本気を出しなさいよ!」
「…………はい……」
とにかく、失った信用を取り戻すため、マイルは必死であった。
あまり高性能過ぎる剣を与えることは、パーティのためにも、メーヴィスのためにも、そして自分のためにもならない。そう思って、最初は剣の性能は必要最低限に抑えたのだ。
しかし、すぐに折れるようでは、その時にメーヴィスが命を失い、それに伴ってパーティ全体が危機に陥る可能性が高い。そして、無事に危機を脱しても、またお金が必要となりパーティの財政が破綻してしまう。
だから、折れにくいように強度を増すため、炭素の含有量、チタン、高張力鋼、その他様々な『地球における最高の、丈夫で折れにくい材質』をイメージしながら、『頑丈なだけで、他には特別なことはない普通の剣』を作るべく思念したのである。
それでも充分な強度を有すると考えていたのであるが、さすがに岩は無茶だったようである。
しかし、勝手にも、マイルは憤慨した。
地球には、斬岩剣とか斬鉄剣とかいうものが存在するのではなかったのか、と。
その技術を使えば、岩くらい斬れるはずではないのか、と。
そして、失われた自分の信用はどうしてくれるのか、と。
もう、失敗は許されない。
今度失敗すれば、メーヴィスはもう二度とマイルが手を加えた剣に命を託そうとはしないであろう。
…………やるしかなかった。
そう、他に選択肢は無かったのである。
(今度は、この世界と地球の技術の範囲内で、という縛りは無し! あらゆる技術、あらゆる材料を使って、絶対に折れない剣を。切れ味はこの世界で五番目くらいに。
刃が欠けず、血脂は弾き、お手入れ不要の、便利な剣! 但し、見た目は普通の安物の剣で!
重さと形状も元のまま! 行っけえぇ~!)
折れた刃を地面に刺し、足で踏んで地中に差し込み、その上から柄の方を突っ込んでの魔法行使。
そして出来上がったのが、この剣であった。
「さぁ、岩を斬って下さい!」
メーヴィスはマイルの言葉に躊躇うが、やらねばこの剣を安心して使えない。
なにしろ、一度折れた剣なのである。岩にでも打ち付けて試さないと、折れた部分が再びポッキリ行きそうで信用できない。
そして、心から信用できない武器など、戦いに使えるはずもない。
メーヴィスは意を決すると剣を振り上げ、岩へ向けて振り下ろした。
がきぃ!
そして、さすがに岩を切断することは叶わなかったが、岩の表面を砕きある程度食い込んだ剣を見て、目を丸くするメーヴィス、レーナ、ポーリンの3人であった。
「……これを」
そして、信じられない、という眼で刃が欠けた様子もない剣を見詰めるメーヴィスに、マイルがそっと一振りの短剣を収納から取り出して差し出した。
短剣と言っても、ナイフのように短いものではなく、50センチメートルくらいはある。
「こ、これは!」
「はい、昨日折れた剣です。主武装である剣が折れた場合の予備武器にと思い、折れ残った部分に手を加えて、短剣に加工してみました。いざという時、身を護ってくれるでしょう……」
実家から持ってきた剣が、再び自分の身を護る武器として戻ってきたのが嬉しかったのか、メーヴィスは受け取った短剣を胸に抱きしめた。
「……マイルちゃん」
「はい?」
そして、なぜか少し不機嫌そうなポーリンに呼ばれたマイル。
「もしかして、あの剣を元通りに直して強化すれば、新しい剣を買う必要はなかったんじゃないかしら?」
「「あ…………」」
3人の視線がマイルに集中した。
「……え? いえ、予備の武器はどうせ必要でしょう?」
「主武装の剣は絶対折れないのに?」
「「…………」」
「い、いえ、弾き飛ばされたり、取り落としたり、色々あるじゃないですか! ね、ねぇ?」
そう言ってメーヴィスの方を見るが、メーヴィスは微妙な表情であった。
実はこの2本の剣、短剣の方がチート度は遙かに高かった。
普段は使わないから人目につかないし、主武装の剣が失われるほどの場面で使うことになるのであるから、より強力にしておくのは当然のことであった。
「……で、性能確認も終わったから、その剣で実際に獲物を斬ってみるわけね?」
「あ、ハイ、そうなんですけど、その前に私の武器も試射をしておこうかと……」
「「「マイルの武器?」」」
「はい、さっき『私も一緒に試したいものがありますから』って言ったでしょう?」
そう言いながら、マイルは収納から何やら変なものを取り出した。
「何よそれ?」
「スリングショット、というものです。鳥や小動物を獲るのに使うんです」
「ふ~ん……」
その小さな武器に、胡乱げな視線を向けるレーナ。
どうやら、まともな武器らしくはない、あまり威力の無さそうなそのショボい道具にさほどの興味は無さそうであった。
マイルは収納から小石を取り出して、スリングショットの弾受け(パッチ)に挟んだ。実はこのパッチの部分には磁力を持たせてあり、小さな鉄球を複数挟んで散弾のように撃ち出せるよう工夫してある。今回は関係ないが……。
マイルはゴム紐を引き伸ばし、少し離れた木の枝に狙いをつけた。
マイルのスリングショットの保持の仕方は、適当であった。そもそもそのスリングショットはマイルが前世で読んだ雑誌の広告欄に載っていたものを参考にしたのであるが、その元の製品を設計した者が見れば、無言で殴りかかって来そうな出来であった。
バランスということが全く考えられておらず、強度を保つための設計も、安定を保つための手首に当てて保持する部分等も全て無視された、単なるパチンコである。
だが、マイル用ならばそれで問題はない。強い力によって保持されたスリングショットは、多少重量バランスが悪かろうが手首に当てて保持する部分が無かろうが微動だにしないし、謎材質には、強度計算など関係ないからである。
チタンなど遙かに超えた謎材質によるスリングショットの本体。
カーボンナノチューブによるゴム紐部分。
そのスリングショットが、マイルの手によって構えられた。スリングショット好きの者に見られれば怒鳴りつけられそうな構え方で。
スリングショットを握った左手を前方にいっぱい伸ばして突き出し、パッチ部分を指で挟んだ右手を肩のあたりまで引く、上半身全体を使った正しい構え方ではなく、体の前で、腕だけで引いた中途半端な構え方。カーボンナノチューブ部分の伸びた長さは、正しい構えの場合の半分くらいしかない。
そしてマイルは狙いをつけた木の枝に向かって小石を撃ち出した。
ばしっ!
小石は見事に狙った小枝に命中し、その枝を吹き飛ばした。
勿論、ナノマシンによる弾道修正のおかげである。
「「「え……」」」
それを見て驚く3人。
「こ、これって、あんたの風魔法と同じ……」
「はい、原理は全然違うし、魔法も使っていませんけど、小石を飛ばす、ということでは同種の狩猟方法ですね。
これから先、獲った獲物の数だとか傷の付き方とかから余計な詮索をされるのも嫌だし、風魔法の方だと、咄嗟の場合についうっかり力加減を間違えて対象物が爆散するのもアレだし……。鳥とかならまだしも、相手が人間だったりしたら、特に」
「「「…………」」」
嫌そうな顔で黙り込む3人。何やら想像してしまったらしい。
「そういうわけで、この武器で獲った、ということにして風魔法のことをごまかそうと思うんですよ。あの魔法に食いつく人がいると面倒なんで……」
「か、貸して頂戴! それがあれば、私にもあの風魔法モドキが使えるのよね!」
レーナが、指が吹き飛ぶ(とマイルが脅している)風魔法ではなく、こちらの方に食いついた。
「貸すのは構いませんけど、無理だと思いますよ……」
「何よ! 練習すれば私にだって当てられるようになるわよ!」
「いや、そういう問題じゃあ……」
微妙な顔をしながらも、スリングショットと、弾である小石をレーナに渡してやるマイル。
「ぐ、ぐぐぐ……、ひ、引けない…………」
そして、スリングショットのゴム(カーボンナノチューブ)部分を引こうとして顔を真っ赤にしているレーナ。
「だから言ったのに…………」
あれだけの威力があるということは、それだけの運動エネルギーを持っているということであり、そのエネルギーがどこから得られたかというと……。
つまり、ゴム(カーボンナノチューブ)部分を引くには、途轍もない力が必要なのであった。
先ほどのマイルの撃ち方は、正しい撃ち方を知らないからではなく、わざとであった。
あれで、二十二口径の拳銃弾程度の威力である。鳥や小動物の狩りには充分であった。
そして、正しい構え方、つまり2倍近く長く引いて撃った場合は、狩猟用のマグナムライフルを超える威力となる。これは、それだけの威力がどうしても必要とされる場合にしか使うつもりはなかった。所謂『秘密兵器』である。
普通の場合には、大物を倒す時は剣か魔法を使えば良いのだから。
その後、メーヴィスとマイルは少し狩りを行い、それぞれの武器に対する慣れと信頼感を得ることができた。
そしてレーナは、せっかくの『森の中での小動物狩りに最適である武器』が自分には使えないことに機嫌を損ね、あまり得意ではない水魔法、氷魔法を撃ちまくって狩り場を荒らしていた。
こうして、休憩日であったはずの今日も、そこそこの稼ぎとなったのである。
めでたし、めでたし……。
昨日オープンした小説投稿サイト「カクヨム」に、前作2つを投稿してしまいました。
このままでは埋もれて終わってしまうので、せめて少しでも読んで貰える機会を増やしたくて……。(^^ゞ
この作品は投稿しませんよ、ええ。(^^;