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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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197 謎の誘拐団 5

 一方、『赤き誓い』の戦いは。
 戦いが始まる前に、マイルとメーヴィスが前方へと進み、レーナとポーリンは逆に後方へと下がり、充分な間隔を空けていた。前衛職ばかりの敵を相手にするのに、接近する馬鹿な魔術師はいない。
「……凝固螺旋弾!」
「……アイス・ネイル!」
 レーナとポーリンが、充分な時間的余裕があったため頭の中で唱えていた魔法を、威力を上げるために発動ワードだけは声に出して放った。
 男達が、相手側に魔術師がいるというのに奇襲という手段を取らなかったのには呆れるが、魔術師は小娘ばかりだと思って舐めてかかったか、それとも魔術師相手の戦いをやったことがないのか……。
 とにかく、自分達に有利なことは大歓迎なので、レーナ達はあまり気にしなかった。

「ぐあっ!」
「ぎゃあぁ!」
 ポーリンが放った、左右の2群に別れて飛んだ氷の釘(アイス・ネイル)が肩や腕、脚、そして腹部に刺さり、致命傷ではないものの、悲鳴を上げて立ち止まり、そしてうずくまる、マイル達の側面に回ろうとしていたふたりの男達。正面から襲い掛かったふたりは、当然のことながら、マイルとメーヴィスが剣で迎え撃っている。
 そして相手側の前衛の手が塞がっている間にすり抜けて後衛に襲い掛かるべく、前方チームの4人よりワンテンポ遅れて飛び出そうとしていた敵の後方チームの4人は、前方斜め上方から降り注ぐレーナの魔法攻撃をまともに受けていた。

「ぎゃっ!」
いてえぇ!」
「「うわああぁ!」」
 そう、レーナの魔法により、森の地面の柔らかい土が螺旋状に凝固し、比較的小さな20個近いそれらの螺旋弾が、放物線というか曲射弾道というか、とにかく山なりの軌跡を描いて飛び、斜め上方から襲い掛かったのである。
 この軌道は、前方のマイルとメーヴィスを飛び越えること、最終段階において重力加速度で威力を上げること、そして上方からの攻撃には不慣れな者が多いという、3つの利点を備えていた。更に、螺旋弾、という名に恥じぬよう、ちゃんと回転していた。

 森の中なのでレーナは得意の火魔法は使わず、ポーリンもまた、敵味方の距離が近いこともあるが、『女神のしもべ』の眼があるためホット魔法は使わなかった。一番得意、かつ威力のある魔法を使わなかったということは、それだけの余裕があった、とも言える。
 とにかく、レーナとポーリンの魔法攻撃を受けた敵の内、ふたりは全く動けないのか蹲り、正面からマイル達に襲い掛かったふたりも叩き伏せられた。
 残った4人は致命傷ではないものの、氷の釘やらドリル状の土の塊やらが刺さり、戦闘能力が大幅に低下していた。それを、レーナ達の方には行かせないよう牽制しつつ、死なせたりあまり酷い怪我を負わせないように無力化しようと、一種の「縛りプレイ」を行おうとして少し手間取っているマイルとメーヴィス。
 敵は、とてもマイルとメーヴィスに背中を晒してレーナ達に向かえるような状況ではなく、やむなくマイルとメーヴィスに向かい合っていた。

(後は、ふたりで大丈夫そうね)
 そう思ったレーナとポーリンは、念の為に攻撃魔法を詠唱してホールドすると、マイル達の方の状況を把握しつつ、『女神のしもべ』の戦いを観察した。
 危険があればすぐに助けられるようにと、ホールドしている魔法はピンポイントで攻撃できる単発のアイス・ジャベリンである。

「「え……」」
 そして目にした、非力な魔法と凡庸な剣術、槍術、そして弓術でありながら、危なげなく着実に敵を倒す、『女神のしもべ』の姿。
((……強い!))
 声には出さなかったものの、レーナとポーリンにははっきりと分かった。彼女達が、自分達とは違う「強さ」を持っているということに。
 大した能力ではないくせに、結構強い。そしてそれは、己の力のみを信じ、ソロでやっていた頃の自分には分からなかった強さ。そして、今のレーナが『赤き誓い』に求めている強さであった。

 彼女達の戦いは、8対5から、5対5へと対等の、いや、立っている敵のひとりが右肩に矢を受けている今、『女神のしもべ』がやや優勢となっていた。
「小娘共が……」
 男達も、『女神のしもべ』の個々の実力が大したことがないということは分かっていた。それが、たまたま攻撃タイミングの偶然が重なって、ラッキーヒットが続いただけ。そう考えているようである。

 しかし、レーナとポーリンは、そうは思っていなかった。
 実戦では、訓練の成果の半分も出せれば良い方である。実戦で確実に成果を出せるなら、それは、その何倍もの訓練を重ねたからに他ならない。そして先程の結果を「偶然」のひと言で片付けるような者は、決して長生きはできないだろう。
 あれは、全て作為的なものであった。わざと発動ワードを大声で叫んで対応動作を取らせたのも、風魔法に備えて踏ん張らせ、飛んで来た矢をかわすのではなく叩き落とすよう仕向けたのも、その矢の着弾前に風魔法が横から当たるように撃ったのも……。

 槍はリーチが長い。3人の前衛の真ん中に位置するフィリーが突き出す槍に、攻めづらそうな男達。突き出された槍を弾いて懐に飛び込もうにも、槍を弾く動作で崩れた体勢のまま突っ込んだのでは、その両脇を守るふたりの剣士、テリュシアとウィリーヌに簡単に斬り捨てられる。そしてその後ろでは、弓に矢をつがえたタシアと、ぶつぶつと次の魔法の詠唱を行っているラセリナ。
 そもそも、それぞれの役割を考えて組まれたパーティに、剣を持った男達だけで立ち向かうなど、余程の人数差か実力差がない限り、無謀の極みであった。
 いや、8対5と、人数差はあった。そして実力差も、どうやら実戦には不慣れらしいが剣技そのものはそこそこ鍛錬しているらしき男達にとって、素人上がりのハンターの小娘の技など大したものではない。それは、確かに正しかった。しかし……。

 5対5になったとはいえ、『女神のしもべ』の内、ふたりは中衛と後衛である。激突する前衛は、5対3。いくらリーチの長い槍があるため攻めづらそうであっても、手数の差ですぐに押し切られる。前衛が均衡を保っているように見えたのはほんの一瞬であり、すぐに敵の5人が同時に斬り込もうとした。その瞬間。

「……砂塵さじんあらし!」
 敵が無駄に時間を浪費しているうちに、ラセリナの次の呪文が完成した。
 魔術師にたっぷりと詠唱の時間を与えてくれるとは、サービスの良い男達であった。
 普通、敵側に魔術師がいて自分達にはいない場合、多少の被害は容認してでも魔術師は真っ先に潰さなければならない。あの、3人が倒された時、残ったひとりが下がるのではなく、後ろの4人と共に突撃すべきであったのだ。そうすれば、3人が前衛と戦い足止めをしている間に、残りのふたりが中衛と後衛に襲いかかれた。

 弓矢が放たれても、叩き落とすか、最悪でもひとりの犠牲のみで、弓を放った直後の無防備な中衛、そして次の詠唱を始めたばかりの同じく無防備な後衛に襲いかかれたはずであった。
 但しそれは、もし『女神のしもべ』が、その場合に備えた策を用意していなければ、であるが。
 そしてレーナ達は、多分その用意もしてあったのだろうな、と考えていた。
 でないと、彼女達が今までひとりの欠員も出さずにやって来れたはずがない。

 今度のラセリナの魔法も、名前は大仰であるが、単なる突風である。とても人間を吹き飛ばすような威力はない、ただの少し強い風に過ぎない。
 但しそれは、地面を舐めるように吹き、そして渦を巻きながら敵に向かって吹き付けた。勿論、その魔法名の通り、地面から砂塵を巻き上げて。

 しかし、男達も、そこまで馬鹿ではない。先程の二の舞を演じることはなく、踏み込もうとしていた足を止めて身体を横へずらし、『女神のしもべ』前衛3人の誰かを盾にする位置取りをした。
 渦を巻いて迫る砂塵を完全に防ぐことはできないが、まともに喰らうよりは少しはましである。そして目を細め、短時間で終わるであろう砂塵嵐が収まった瞬間に突入すべくタイミングを計っていた時、『女神のしもべ』の5人が突っ込んできた。
 5人。そう、中衛の弓士タシアは弓を捨て短剣を抜き放っていた。短剣といっても、ナイフではなく、全長50センチ近くあり、敵の隙を突いて肉薄すれば立派に戦える。
 そしてラセリナは、スタッフを槍のように構えていた。その突き出された石突き(地面に当たる部分)は、いつの間にか鉄製のキャップが外され、凶悪に尖った金属製のパーツが現れていた。

「……仕込み……スタッフ?」
「あれじゃ、槍と変わりません!」
 レーナとポーリンが、驚愕の声を漏らした。
 そう、普通、魔術師が前衛に出て肉弾戦に加わることなどないし、スタッフは打撃武器であり、決して刺突武器ではない。そして、剣を仕込んだ『仕込み杖』というものは聞いたことがあるが、スタッフを槍に変える『仕込みスタッフ、槍バージョン』など、聞いたこともない。
 しかし、14歳と未成年で小柄な魔術師であるラセリナには、剣よりリーチが長く、熟練者でなくとも使いやすい槍タイプの方が適しているのは間違いない。

 そして前衛の3人を砂塵避けにする位置取りをしていた男達は、タシアとラセリナの動きを察知するのが一瞬遅れた。
 気付いた時には、前衛のテリュシアとフィリー、そしてフィリーとウィリーヌの間にそれぞれ割り込んだタシアとラセリナを加えた『女神のしもべ』の5人が、同時に襲い掛かっていた。

 攻撃を中止して待ちの体勢であった男達は、前方から吹き付ける、まだ完全には収まっていない砂塵嵐のために普通に目を開けることができず、また、3人による直接攻撃は想定していたものの、5対3であれば簡単に押さえられると考えていた。それが、3人ではなく、まさかの中衛、後衛を含めた5人による突撃に意表を衝かれ、反応が遅れた。
 そしてこういう場合の「一瞬の遅れ」は、致命傷であった。

「「つ、強い……」」
 レーナとポーリンが再び同じ言葉を発した時には、『女神のしもべ』の相手も、マイルとメーヴィスが相手していた男達も、全員が戦闘力を失っていた。
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