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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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145 宿屋 10 修羅場

 マイルが猛っている間に、メリザはいったん『乙女の祈り亭』に戻り、ラフィアとアリルを連れてきた。昨夜の宿泊客は朝方出立し、今夜の客はまだ受け入れていないので、扉にカギをかけておけば、少しくらい不在にしても問題はない。
 そして、前世での娯楽といえば本や映像作品等の『物語』を楽しむことが大半であったマイルは、『デウス・エクス・マキナ』に類する手法や、それに含まれる『夢オチ』というものが許せなかった。そのため、その猛りは、メリザが妹達を連れて戻ってくるまで続いていた。

「どうどう、どう……」
 レーナがようやくマイルを宥めた時には、既に『乙女の祈り亭』3姉妹は席に着いていた。

「しかし、珍しいわね、あんたがこんなにムキになるのって……」
「す、すみません。しかし、何か、今までの努力が全て徒労だったとか、愚弄されたというか、そんな気がして、心が闇に捕らわれて、暗黒面に……。
 そう、ポーリンさんが金貨の枚数が1枚足りないことに気付いた時のような……」
「私は関係ないでしょう!」
 弁明するマイルに、ポーリンが抗議した。

「……で、そろそろいいかな?」
 メーヴィスの言葉に、3人揃って頷いた。

「で、こんな重要なことを、どうして黙っていたのですか!」
 まだ機嫌が悪いマイルに問い詰められて、大将は頭を掻きながら答えた。
「いや、息子達のことについては聞かれなかったから……」
「お子さんがいる気配がなかったから、子供ができなかったか、もしくは亡くなったのかも知れないと思って、気を使っていたに決まってるでしょう! そんなの、こっちから話題にできるわけがないでしょうが!
 まぁ、もういいです。では、息子さん達についての説明を」
 メリザ達も息子達も、みんな神妙な顔で座っている。
 そして、大将の説明が始まった。

「まぁ、見ての通りの、双子の息子達だ。
 メリザ達とは幼馴染みとして育ち、10歳の時から料理人として、というか、その下働きとして働けるよう仕込み始め、12歳の時に、王都で料理店を出している俺の兄弟子に頼んで、見習いとしての修業をさせていた。
 うちでの2年間は、全く使えないど素人を送り込んで兄弟子に迷惑を掛けるわけにはいかないから、まぁ、最低限のことはできるように仕込んだだけだ。
 そして料理人としての基礎を学んで戻ってきたら、あとは俺が全ての技術を叩き込む、という段取りだ。
 どうだ、お前達、ちゃんと修業は終わったのか? 兄弟子から合格点は貰えたのか?」
「こうして戻ってきたんだから、当たり前だろ! 後で、師匠から渡された認定状と、親父宛の手紙を渡すよ。荷物の一番底に入れてあるから、今出すのは面倒だから」
 それを聞いて、うむ、と頷き、少し嬉しそうに口元を歪ませる大将。
 本当はもっと喜びを表したいのであろうが、今の状況にかんがみ、抑えているのであろう。

 そして、何やら考え込んでいたマイルが、突然叫んだ。
ひらめいた閃いた閃いた! ムッシュムラムラです!」
 突然叫ばれた意味不明の言葉に驚く宿屋勢と、いつものことなので、呆れながらも動じた素振りもない『赤き誓い』の3人。
「あんた、いつも私達が言っているでしょうが! 部外者がいる時には、その、あんたの領地でしか通じない、わけの分からない言い回しを使うのはやめなさい、って!」

 しかし、テンションの上がったマイルはレーナの言葉に動じることなく、大将に向かって言った。
「とりあえず、息子さん達に、今までの経緯を説明してあげて下さい。話は、それからです」
 確かに、息子達に状況を教える必要があるし、息子達と仲が良かったメリザ達を故意に悪者にしているわけではないと分からせるには、本人達がいる前で話して聞かせた方が良い。
 それを聞かされる姉妹達にとっては、少し辛いかも知れないが。


 マイルの指示に従い、大将が息子達に事情を説明し終わった後。
 息子達は、悲しそうな、そして残念そうな顔をしていた。
 家族同然であり、もうひとりの父親のように思っていたメリザ達の父親が亡くなったことを今初めて知り、姉妹が宿屋を守り、そして生きていくために、苦しみ、必死でもがいていた時に、何も知らず、何も手助けしてやれなかったのであるから、無理もない。

 しかし、ふたりは父親に『なぜ知らせてくれなかったのか』等と言って責めることはなかった。
 知らせを聞いたからといって、未成年であった自分達に何ができたというのか。
 修業を放り出して戻ったところで、働き先を飛び出した未成年の子供など、何の役にも立たない。せいぜいが、慰めの言葉を掛ける程度である。自分達のために大事な修業を駄目にさせた、という罪悪感を相手に押し付けて。
 それらのことが理解できるから、ただ息子達の心を掻き乱すだけとなる連絡をしなかった父を責める気にはならなかった。


「さて、息子さん方が状況を理解されたところで、現状を打開する名案です!」
 ようやくマイルの説明が始まった。
「見習いを含めて、一応、料理人の数だけは揃いました。あとは、その使い方だけです。
 そこで、提案です。
 料理の仕込みから食堂の営業時間が終了するまでの間、人員を交換してはどうですか?」
「「「「「え?」」」」」
 一斉に上がる、疑問の声。

「つまり、選手交代ですよ。
 女将さんと息子さんの片方が『乙女の祈り亭』で料理人を担当し、メリザさんとアリルちゃんがウェイトレスと会計係を担当。そして『荒熊亭』は、大将ともう片方の息子さん、そしてラフィアさんの3人で回します。
 そしてそれぞれ、女将さんは息子さんに、大将は息子さんとラフィアさんに、見習い料理人として助手を務めさせると共に、料理を教えればいいんですよ。
 そうすれば、どちらのお店もまともな料理が出せて、若い女の子の給仕が受けられます。そして、うまくお客さんが分かれて、2軒が両立できます!
 そのうち、息子さんやラフィアさんも、一人前の料理人に成長して……」
「「「「「おおおおお!」」」」」
「てっ、天才ですかっっ!」

 メリザは、狂喜した。
 『荒熊亭』の双子の息子、エラスンとバイスト。
 子供の頃は、妹達と共に、よく一緒に遊んでいた。なので、その少し幼いながらも真っ直ぐで真面目、かつ女の子には優しく紳士的な、少し背伸びした少年らしい性格を好ましく思っていたのである。
 ただ、子供は12歳くらいまでは女子の方が成長が早く、ふたりが王都へ見習いとして旅立った頃まで、1歳年上であるメリザの方が、身長も精神的にも成長が上回っていた。
 なので、メリザにとってエラスンとバイストのふたりは、幼馴染みの近所の子、妹達とお似合いの、年下の男の子、というに過ぎず、男性として意識したことなど一度もなかった。

 しかし、3年振りに会ったふたりは、身長も伸び、幼かった顔つきも精悍さを帯び、そして、そして、随分恰好良くなっていた。
 これは、アリである。
 断然、アリである。
 あの、いつ死ぬか分からない、頭の悪そうなハンター達とは比べ物にならない、優良物件である。
 しかも、『乙女の祈り亭』が切望している、料理人。それも、腕の良い父親の兄弟子のところで修業し、更にこれから両親に鍛えられ、腕を磨くという。
(来た。
 来た来た来た来た来た来た来た来た来たああぁっ!)
 表向きは平然としていたが、メリザの心の中は、お祭り騒ぎの真っ最中であった。

「うん、悪くない考えだね。
 じゃあ、僕が『乙女の祈り亭』へ行くから、兄さんはうちに残ってくれるかい?」
「ああ、俺が長男だしな、そうなるか……。俺はそれでいいぞ。
 親父達は、それでいいか?」
 突然振られた大将は、一瞬考え込んだものの、すぐに返答した。
 「ああ、それが一番良さそうだな。ふたり一緒に教えるより、その方が効率が良いかも知れんしな……。それに、時々は俺とリリーゼが交代するのも良いかも知れんしな。
 メリザ達がそれで良いなら、うちは構わん。いいな、リリーゼ?」
 3姉妹と女将さんは、笑顔でこくりと頷いた。

「よし、じゃあ、その線で進めよう。詳細は明日から考えるとして、今夜は、食事客が帰った後にふたりの修業終了祝いをやろう! 勿論、メリザちゃん達も来てくれるよな!」
「「「はい!」」」
 声を揃えて返事する、笑顔の3姉妹。

(どっちがいいかな……。長男のエラスンは、少しがさつでぶっきらぼうだけど、男らしくて頼りがいがあるし、次男のバイストは、温厚で繊細、細かいところにもよく気が付いて、優しいし……。
 あ、もし私がエラスンと結婚して嫁入りすれば、『荒熊亭』は私とエラスンのものになって、『乙女の祈り亭』は、ラフィアが婿を取れば……)
 どんどん夢が広がるメリザが、ふと気が付くと。

「……約束、覚えてる?」
「ああ、忘れるかよ。いくら事故とはいえ、見ちまったのは間違いないんだ、ちゃんと責任は取るさ」
「あはは……」
 そう言って、何やらいちゃついている、ラフィアとエラスン。

「な、何ですと~!」
 何やら既にデキているようなふたりに、愕然とするメリザ。
 そして、『見てしまった』というのは、何のことなのか!
 動揺するメリザであるが、妹が幸せそうなので、何とか心を静めることにした。

(ならば、次男のバイストか……。
 弟ならば、婿に取れば良し! 考えてみれば、がさつで少し乱暴なエラスンより、優しくて気遣いのできるバイストの方がいいわよね。
 それに、これからうちに来て一緒に働くのはバイストなんだし。よし、私はバイストで……)

「おにいちゃん、帰ってくるの、遅いよ~! アリル、待ちくたびれちゃったよ!」
「ごめんごめん! これで勘弁して貰えるかな?」
 そう言いながら、自分の足にしがみつくアリルの首に、ポケットから取り出したペンダントを掛けてやるバイスト。
 そして、顔を赤くするアリル。

「……って、何じゃ、そりゃああああぁ~~!!」
 店内に、メリザの絶叫が響き渡った。

早くも、kindleに3巻が登録されました。
電子版を待って戴いていた皆様、よろしくお願い致します。(^^)/
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