挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

118/243

118 決断

 ギルドでの情報収集の結果、『赤き誓い』が休養を後回しにしてまで飛びつくような面白い依頼もなく、取り立てて問題となるような情報もなかった。
 と言うか、これから広まるであろう『これから各地で、古竜による調査が始まるかも知れない』というのが、ここしばらくの最大のニュースとなるであろう。

 昼食は外で済ませ、久し振りに王都を散策したマイル達は、夕方には宿に戻った。夕食は宿で摂らないと、レニーちゃんと、料理人である大将が拗ねる。それに、お風呂の給湯もあるので。
 そしてマイルは、何度か追加の給湯をした後、今日は何だか眠いから先に寝る、と言って、ベッドに潜り込んだ。
 水魔法が得意なポーリンと火魔法が得意なレーナが居れば、お風呂の給湯くらいは問題ない。共に、マイルによる魔改造済みなので。


『お目覚めの時間です』
 まだ陽も昇らぬ深夜、鼓膜の振動が音声信号として脳に伝えられ、熟睡していたマイルの意識を覚醒させた。
(う~ん、何よ、まだ暗いじゃ……、って、あ、そうか。ありがと、ナノちゃん)
『どう致しまして』

 ナノマシンを目覚まし時計代わりに使うという暴挙に及んだマイルは、部屋に遮音の魔法を掛けた後、注意しながら、そっとベッドから下りた。
 お嬢様育ちのメーヴィスと、危険とは関係なく育ったポーリンは問題ない。しかし行商生活での野宿やハンター生活が長かったレーナは、少しの物音で目を覚ます。そのため、遮音の魔法を掛けてはいるが、注意を払って、静かに行動するマイル。
 アイテムボックスから、みんなから預かっていたものを取り出して、そっと床に並べてゆく。
 水筒、毛布、小鍋、フォークにスプーン。
 大鍋やテントは、マイルがいなければどうせ運べないだろうから、貰っていく。その代わり、その分、金貨を多めに置いていく。
 そしてアイテムボックスに預かっていたパーティのお金の内、約5分の4くらいの金貨を出して床に置くと、マイルはそっと呟いた。
「今までありがとう、みんな……。お元気で!」
 そしてマイルは、静かに部屋を後にした。

 マイルは、例の発掘現場から戻る時から、ずっと悩み、考えていた。
 何もなかったことにして、普通の女の子としての幸せを追い求めるか。それとも、あの件に首を突っ込むか。
 もしかすると、あの件が、そのうち人間界にも影響を及ぼすかも知れない。
 しかし、古竜は長命だ。古竜の計画は、数百年、数千年単位のスパンなのではないか?
 それに、人間とは時間感覚が異なるであろう『神様』が「文明の進歩が停滞してしまいまして」と言うくらいなのだから、今まで数千年、数万年、数十万年単位で変化がなかったであろうこの世界が、そんなに急に変わるとも思えない。

 自分は、普通の幸せが欲しかった。
 でも、よく考えてみれば、自分が考える『普通』は、この世界の者にとっての『普通』なのだろうか。
 夜更かしして本を読み、ゲームに興じ、美味しいものを食べて、清潔で安全な生活をして、たまには旅行に行く。それは、この世界では、貴族の生活である。普通の庶民に手が届くようなものではない。

 このまま、みんなと一緒に、ハンターとして根無し草のような生活を続ける? いつ世界が足下から崩れるか分からないのを知っていながら、何もせず?
 そして、仲間のみんなも、いつまでも一緒にいられるわけではないだろう。
 レーナさん以外は家族がいるし、メーヴィスさんは騎士を目指している。ポーリンさんもいつかは実家に戻ってお嫁に行くだろうし、レーナさんも、一生独身でいるつもりはないだろう。少なくとも、本人の希望としては……。

 どうせ、いつかは別れる。その「いつか」が、今であっても、何の不思議もない。
 今ならば、パーティには充分な蓄えもあるし、しばらくは休養期間である。その間に新規メンバーを募集して、自分の代わりに、補充として剣士2名、もしくは剣士と槍士1名ずつを入れるか、更に1~2名追加してもいい。そうすれば、Cランクパーティ『赤き誓い』は問題なく存続できるだろう。
 そして自分は、のんびりと旅をしながら、老後に備えて稼ぎ、そしてついでに遺跡関連の調査をする。義務感に囚われたり焦ったりすることなく、あくまでも「ついでの、片手間」で。
 何の義務もないけれど、ま、暇潰しに少し首を突っ込んでみるか、程度の、ごく軽い気持ちで。
 世界をどうこうしようなんていうおこがましいことをするつもりは、更々ない。そして勿論、仲間達をそれに巻き込むつもりなど、全くない。
 ひとりで家を出て学園へ行き、ひとりでそこを逃げ出してハンターになり、そして今、()(たび)、ひとりで旅立つ。ただ、それだけのことであった。
 決断。マイルは、撤退の決意を固めたのである。
(アニメンタリー、「決断」。第16話、『キスカ島撤退』。……「奇跡の作戦『キスか?』」)
 そしてマイルは、どうでもいいことを考えていた。

 階段を静かに下りて、食堂部分を突っ切ろうとした、その時。
 マイルの鼻腔を、ふわっと紅茶の香りがくすぐった。
「……え?」
 思わず立ち止まったマイルに、暗闇の中から声が掛けられた。
「遅いわよ」
 驚いたマイルが眼を凝らし、暗闇の中を見ると。
 人間より遥かに夜目が利くマイルの眼に映ったのは、暗闇の中、テーブル席に腰を下ろし、ティーカップを手にしたレーナの姿であった。

「れ、レーナさん! な、なぜ……」
 驚くマイルに、レーナは、ふふん、という顔をした。
「分かりやすいのよ、あんたは。何やら考え込んでいることやら、武具を彼らに返した後の『これで、ようやく片付いた』というような顔。バレバレよ。詐欺師にはなれないわよ、それじゃあ」
 勿論、詐欺師で生計を立てようとは思ったこともないマイルであった。
「でも、ベッドには……」
「丸めた毛布よ。あんたが熟睡している間に、部屋から出たのよ。
 いつも一番寝るのが遅いあんたが早めに寝るなんて、夜中に起きて抜け出します、って宣言したも同然じゃないの」
「うぅ……」

「さ、行くわよ!」
 立ち上がったレーナは、完全装備であった。
 どうやら、このままマイルと一緒に行くつもりで待ち構えていたらしい。
 深夜に、いつまでも宿の中で話を続けるわけにも行かない。誰かが起きてくるかも知れないし、マナー違反であろう。マイルは黙って頷き、出入り口へと向かった。
 そしてドアを開け、外へ出ると。

「姫、騎士をひとり、お召し抱えになりませんか?」
 メーヴィスが、薔薇の花を(くわ)えて、壁に寄りかかっていた。
(ひょえええええぇ~~!!)
 絵になり過ぎィ!
 心の中で悶絶する、マイルであった。

「じゃ、行くわよ!」
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
 出発しようとするレーナを、慌てて止めるマイル。
「どうしたのよ?」
「あ、あの、出発は一日延期しませんか?」
 怪訝そうなレーナに、マイルはおずおずと提案した。
「どうしてよ?」
「あの、みんなが黙って出て行ったら、夜逃げみたいで体裁が悪いですし、私ひとりだけならともかく、みんなでとなると、宿の皆さんやギルドにもちゃんと言っておいた方が。それに……」
「それに?」
「装備と金貨の大半を、部屋に置いてきました……」
「戻るわよ!」

 そして部屋に戻ると、半泣きのポーリンが床にへたり込んでいた。
「「「あ……」」」

 無言で殴りかかるポーリンの拳を、無抵抗で受け続ける3人であった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ