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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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102 骨折り仕事

「な、ななな、何をする!!」
 獣人のリーダーが、どうやら話が分かる少女が主導権を握っているらしいと思い安心していたところに、その少女によるとんでもない指示を見せられて、大慌てで怒鳴りつけた。
「いえ、だから、『骨折り仕事』を……」
「ち、違う! いや、違わないが、そうじゃないぃ!!」
 何を言われているか分からず、きょとんとするマイル。

「え? 急いで撤収して戴けるなら、皆さんに早く戻って戴こうかと思っていたのですけど、それが不可能ということならば、できる限り皆さんのお仲間に情報が渡るのを遅らせるのが当然でしょう? だから、移動速度が落ちるよう、足を折らせて戴こうかと……」
 何を当たり前のことを、という顔でそう答えるマイルを、化け物でも見るような眼で呆然と見詰める獣人達。

「ひ……、や、やめ……」
 ぼき
「ぎゃああぁ!」

 この世界には、治癒魔法というものがある。
 もしそれが無ければ、マイルもこんな無茶は考えなかっただろう。世の中には、『後遺症』という言葉があるのだから……。
 綺麗な単独骨折かつ単純骨折であれば、徒手整復しておけば完全に治る可能性が高いが、絶対ではないし、関節部に影響があれば後遺症が残る可能性がある。しかし、治癒魔法があれば、その心配は、ほぼ無い。そして、獣人達にも魔術師はいる。

 ずる……
「え?」

 ずるずるずる……
「えええええ?」

 マイルに襟首を掴まれ、次は自分が足を折られる番かと、固く眼をつむり痛みに身構えていた魔術師の獣人は、ただ引き摺られて皆から引き離されたことに疑問の声を上げた。
「ファイヤー・ウォール……」
「な! 魔力の渦よ、逆巻いて我を護れ、『マジック・シールド』!」
 突然のマイルによる攻撃魔法に、魔術師の獣人は、咄嗟に防御魔法を行使した。
 炎の壁は防御魔法に遮られて魔術師には届かないが、全周を炎の壁に囲まれ、魔術師は防御魔法を張り続けるしかない。いつになるか分からない、マイルの攻撃魔法が力を失う時まで……。

 魔術師の獣人もリーダーも、マイルの意図は分かっていた。
 魔術師の魔力が十分残っていれば、治癒魔法が使える。そうすれば、その全力を使って獣人のひとりを治療し、その者を伝令に走らせられる。後は、魔術師がここに留まり、魔力が回復する度に獣人達を順番に治療していけば良い。魔獣が出ても、魔術師と、それまでに治療した者が頑張れば、撃退できるであろう。片足が折れている者も、戦闘力が皆無、というわけでもない。
 ……少しでも時間を稼ぎ、獣人達の対応を遅れさせる。
 マイルは、ただそれだけのために、魔術師の魔力を使い果たさせるつもりなのであった。

「ぐ、ぐ、ぐうぅ……」
 苦闘する魔術師から眼を離し、マイルが他の獣人達の方を見ると、レーナとポーリンは既に仕事を終えていた。ふたりの顔は、『やり遂げた感』で満たされた、良い笑顔であった。
 ちなみに、メーヴィスは不参加である。「き、騎士を目指している者として、無抵抗の者に危害を加えるのは、ちょっと……」と渋ったため、レーナが「あ、なら別にいいわよ」と、簡単に了承したのである。

「こ、この、『人間』め……」
 獣人のリーダーが、恨めしそうに唸った。
 他の獣人達は、会話を禁じられているので恨み言も言えない。
 そしてここでの『人間』は、『悪魔』よりも悪辣なものを指しているようであった。
 ……さすがに、獣人だけあって、『ケダモノめ』という台詞はなかった。

「片足でも、しばらくは大丈夫でしょう? 怪我してることを魔獣達に悟られないようにすれば、これだけの人数の獣人を襲おうとする魔物は、そうはいないでしょう。
 じゃあ、頑張って下さいね!」
 マイルは、そう言うと他の者達に出発準備を促し、その後すぐに皆で出発していった。12人の、骨折した獣人達をその場に残して。
 勿論、出発前に、魔力が尽きて炎に呑まれる寸前の魔術師を助けてやることも忘れなかった。
 そして、その片足を折ることも……。


「……くそっ、悪魔の小娘共め!」
 獣人達のリーダーが毒づくが、むこうも任務を遂行しただけであるし、足を折る程度で見逃して貰えたのは感謝すべきであった。他にも、剣で打たれて腕や肋骨を骨折している者もいるが、後で治癒魔法を使って治して貰えば済むことである。なので、本当に怒っているわけではない。
 しかし、自分達が任務に失敗、それも、4人の少女に敗れて、という事実はいささか問題であった。
 だが、今は、それより先に考えるべきことがある。

「ボーンズ、とりあえず、お前は全力で休め! そして、一刻も早く魔力を回復させろ。
 お前が治癒魔法を使えないと始まらん!」
「は、はい、分かりました……」
 リーダーは、魔術師の男に、とにかく回復に努めるよう指示した。
 そして問題は、彼の魔力が回復した時のことである。

(……最初に足を治療した者を、伝令に出すか? しかし、もし魔物や猛獣に襲われたら?
 碌に動けない者だけで切り抜けられるのか?)
 最初の数人は自衛戦力として残し、4人目くらいを伝令に……。
 いや、しかしそれでは、連絡が丸々1日は遅れる。一体、どうすれば……)

 御丁寧にも、魔術師のボーンズの足もきっちり折っていってくれた小娘共のおかげで、「俺達のことは気にせず、早く知らせを!」などと言ってボーンズを送り出すハメにならずに済んだのはありがたかった。そんな選択肢があれば、リーダーとして苦渋の選択を迫られるところであった。もしかすると、一生後悔することになったかも知れない、選択を……。

(まさか、それを考えて、ボーンズの足も折っていった? 俺が後で悩み苦しまないで済むようにと……。
 いや、有り得ん! 人間の小娘如きが、そのような配慮をするなどと……。
 ただ単に、全員の足を折っておいた。それだけのことに決まっている……)
 そう思いながらも、つかみ所のない笑顔を浮かべた、あの、少し抜けたような少女の顔を思い浮かべるリーダーであった。
 しかし、少女のことが気になるのも仕方がなかった。
 獣人というものはそもそも、強い者に惹かれる性質があるし、また、仔を気にかけ、護ろうとする性質も備えていた。
 なので、マイルやレーナのことが気にかかるのは当たり前のことであった。
 メーヴィスとポーリン? 大人は自己責任なので、伴侶として目を付けた者以外のことは、気にしないのであった。


 そして勿論、マイルは何も考えていなかった。
 魔力の尽きた男をファイヤー・ウォールから解放してやった時、「あ、折り残しだ」と、反射的に折った。ただそれだけのことであった。
 なぜ折ったか。
 それは、そこに足があったから。

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