勇者の墓
道彦たちが指定の場所に行くと軍用にカスタマイズされた軽トラックが見えた。
道彦たちの姿を確認したのか誰かが降りてくる。
遠藤だ。
「道彦!」
遠藤が駆け寄る。
遠藤はアメリカ人みたいに大げさにハグをしてやろうと思ったが、道彦から発せられるにおいに止まってしまった。
「いいよ。自分がくさいってのはわかってる。怪我のせいで風呂入ってないもんな」
「わ、悪い」
「あ、そうだ道彦。医者を連れてきた」
「は、早く! 村で死にそうな子がまだいるんだ」
「落ち着け道彦! お前も死にそうに見えるぞ!」
「俺の事はいい。早くしてくれ!」
遠藤は道彦の背中を見ていた。
もともと痩身のその体はさらに細くなっていた。
だがその背中はどこか大きく感じた。
たった数日だ。
たった数日で自分は道彦の背中を見るようになってしまったのか。
「道彦、呼んで来てやっから焦んな! それに山岡さんに紹介するから待てって!」
「後で! とにかく医者が先だ!」
「おい! あー聞いてねえ……」
遠藤はため息をつく。
もう何を言ってもダメなのだ。
しかたなく遠藤は医者と看護婦を大急ぎで連れて道彦たちのキャンプへ向かった。
「酷いもんだな……映像で見て覚悟してたがこれ程とは」
白人の医師が日本語で言った。
キャンプには怪我人が多数いた。
意識がないものも多かった。
「ええ。ここ数日で何人も死んでしまって。助かりますか?」
「ベストを尽くす」
愚問だった。
現代医学はおとぎ話の魔法ではない。
手遅れなものは治すことはできない。
「……ゲートの向こうで手術するぞ」
医師は真剣な顔で言った。
「ゲートの向こう?」
「ああ、遠藤くんが出した条件だ。君が救った村人や韓国軍の暴走で家をなくした人たちを日本で受け入れる」
「……本当ですか?」
「ああ。確約をもらっているってさ」
「わかりました。じゃあ僕は山岡さんのところへ……」
「待て。治療が先だ」
「いや僕なんかより子どもを……」
「20億円」
「え?」
「君の救出の予算だ。トルコなどへ借りを返す金に物資にロビー活動費、宣伝広報費……君の命はもう君だけのものじゃないんだ。わかるね?」
「……はい」
「わかったら治療の続きだ」
道彦は大人しく治療を受けることになった。
金の話をされたら抵抗する気も起きなくなる。
蛆を洗い流し点滴を注射する。
「これはあくまで応急処置だ。この世界の感染症はなにもわかってないから、帰ったら赤十字の指定する病院に入院してもらうからね」
「は、はい」
「そんな顔するなよ。今ごろ世界各国が門を明け渡すように韓国に圧力をかけているからもう帰れるよ」
「正直……嬉しいです」
だがそうは問屋が卸さなかったのだ。
◇
「遠藤くん」
山岡がパソコン片手にやって来た。
その姿は慌てるを通り越して狼狽していた。
「どうしたんですか?」
「僕は一緒に帰れなくなった。よく聞いて欲しい。韓国が北朝鮮と南北共同軍を作って日本に宣戦布告した」
「はい? あいつら正気ですか?」
「ムクゲノ花ガ咲キマシタ」
金辰明による韓国の小説である。
売上は100万部を超え、この作品を原作とした映画は大ヒット、映画賞を総なめにした。
内容は韓国が北朝鮮と手を結び、核兵器を日本本土近くの島に打ち込んで日本を脅迫をするというものである。
途中、意味もなく公園を攻撃したり農家を襲撃して作物を奪い北朝鮮に送る場面がある。
韓国人の一般的日本観が凝縮された一作である。
今回韓国軍はこれと同じことをしたのだ。
「正気……だろうね。少なくとも彼ら自身はそう思ってる」
「世界がそんなことを許すはずがない! 日本に核兵器を撃ち込んだら国際経済はめちゃくちゃになってしまう!」
まだそれほどの影響が日本にはある。
日本は9条には守られていない。
経済に守られているのだ。
「もう彼らは世界なんて見てない。自分たちが正しいと思い込んでいるんだ」
「……狂ってる!」
「ああ、でも日本も悪いんだ。国際問題になるのを恐れてこれまで彼らの意味不明な難癖に反論してこなかった。彼らにとっては反論しないってのは奴隷になるのと同じなんだ。ちゃんと反論すべきだったんだ。経済制裁をしてでも彼らに反論すべきだったんだ」
「……じゃあ、それでどうするんですか!? 帰ったら家がなかったなんて嫌ですよ!」
「多国籍軍が韓国軍事政権を抑える予定だ。さすがに核兵器での攻撃は洒落にならない。それに僕たちはここに残ってパコ大統領を救出する」
「そもそも大統領はどこにいるんです?」
「キムと一緒にいるという情報が入った。それ以上は続報を待ちだ」
「でも場所がわかったとしても……この人数で大丈夫なんですか?」
「もちろん多国籍軍もこちらにも来る予定だ。いいかい、この戦争を止めるには選挙で選ばれたリーダーであるパコ大統領を救出して正当政府を担ぎ上げるしかない。軍部の暴走っていうことにしてキム司令官と元帥に全ての罪をなすりつけるんだ」
「……でもこの人数じゃ」
「ああだから君たちは帰還するんだ。わかったね」
「全て包み隠さず生放送しましょう」
その声は道彦のものだった。
道彦は体を洗い、血や泥で汚染された髪の毛をバリカンでそり上げ、奪ったものではない清潔な服に着替えていた。
横にはエルフの三人娘がいた。
道彦の眼差しは数日前の気の弱い学生のものではなかった。
「……確かに中継の道具は揃っているが。だがパニックが起きてしまうかも」
「いえ、全て報道しましょう。全世界に報道するんです。そうすれば韓国人の何人かは自分たちの間違いに気づくはずです」
道彦は嘘をついた。
そこまで期待はしていない。
人間の善意など目先の利益に劣る。
道彦自身だって己の命のために何人も犠牲にしたのだ。
だが、それがわかっているからこそ判断をゆだねたかった。
今まで生き残ることができたのはまぎれもなく善意の力だったからだ。
「……上司の指示を仰ぐ」
山岡はそう言うとどこかに連絡を取った。
「あ……はい……かしこまりました。では」
電話を切ると山岡はニコッと笑った。
「許可が下りた。全てを放送する。いま日本とその友好国は各国の国営放送、大手通信局、インターネットメディア、世界の200以上のチャンネルで生放送を打診している。全てを放送するぞ! 脚色はなし、すべて生だ」
「ま、マジですか?」
「ああ、でも問題がある。パコ大統領がどこにいるかわからないんだ。それに……この世界に水爆があるらしい」
「……マジですか?」
「ああ……マジだ。君らは何か心あたりがあるかい?」
山岡は現地人であるエレインたちに問いかけた。
「……水爆……神器。もしかすると!」
「エレイン、勇者の墓だよな?」
「勇者の墓ってはなんだい?」
「勇者様が使命を果たし元の世界に帰る時に使う門です。神器が封印されていて、勇者様の到来と共に開き勇者様の帰還によって閉じて誰も入れなくなるんです。中は際限なく広く、伝承ではセンシャや巨大な船、神の矢や地獄の炎などが封印されているそうです」
地獄の炎。
それを聞いた全員が水爆のことだと思った。
「うんわかった。偵察隊を出すよ」
そう言うと山岡は通信をする。
多くの味方が異世界に潜伏しているようだ。
「道彦……」
遠藤が道彦の方を見た。
「遠藤、セッティングするぞ。最後の生放送だ」
アメリカ大統領選挙が面白すぎて笑いが止まりません。
あ、ムクゲは日本語訳がアレ過ぎたので途中で脱落しました。
韓国文学の日本語翻訳版ってどれもこれも読み辛いんですよね……
韓国の新聞のあの感じです。
ちなみに水爆はもう一度どんでん返し?があります。
お返事コーナー
>外観誘致って、刑法八十一条で死刑以外の刑罰が記されてないんですよね。
なんですよねえ。
戦時犯罪と破防法は濫用は許されないって言われてるんですけど、破防法はオウムの時に使っておくべきだったと思います。
>なんで最近投稿が早いの?
い、いえ、夜ぐっすり寝ようかと思いまして……
そんなに意味ないんですよ。
>有川先生
最初は殺人罪で逮捕されて泣き叫びながら絞首台につれて行かれるエンドだったんですが、最後に入れるのが嫌だったので退場してもらいました。
>鳩ぽっぽ先生
あの人は……出したら作品壊されます……
ノムたんもそうですけど勘だけで生きてますもん。
面白いですけど。
その点、ぽっぽの次の総理はまったく笑えませんでしたね。
あの人は「韓国のために原発爆発させたのにー」ってネタが一瞬頭によぎったのですが入れる箇所がありませんでした。