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ルーラァ  作者: 水遊び
近衛城兵見習い
34/50

第16話 ナセル船、進水

 執事のレイバンが息急き切らせてやってきて、スラガドーマ侯爵が城に向かうのを何とかしてくれという。

 揺れる馬車で5時間、爺さんの体が持つとは思えないから無理もないが、ガノインは何が問題なのだと、きょとんとしている。


「ガノインは侯爵様に恩はあるか?」

「あたりめえだ。 侯爵様のおかげで此処にこうしていられるんだからな」

「そうか、その恩を少しばかり返せそうだぞ」

「ほんとかい? 何すりゃいい?」

 デカい体を寄せて来るのはうっとうしいが、いいノリだ。


「ナセルの船で侯爵様を城に運ぶ」

「馬鹿言え。 あんな走るかどうかわからんものに乗せられるか。 第1、人が乗る場所なんかねえぞ」

「走る事は俺が保証してやる。 乗る場所は何とかしろ。 問題は操船の方だ」

「まったく無茶を言いやがる。 いっぺん試し乗りをすりゃいけるが、そんなんで恩返しになんのか?」

「昨日城からここまで来たんだが、揺れる馬車で5時間もかかってな、侯爵様は起き上がれないほどだった。 それがまた城に向かうという。 無事に済むとは思えんのだが、頑固なお人だし、止めるとは言うまい」

「なるほど、難儀なお人だが、そういう事ならまかしてもらおう。 で? いつだ?」

「今すぐだ」

「げっ」

 ガノインの事だ、レイバンとのやりとりは聞いていたが、理解していなかったのだろう。

 だが、理解すれば行動は素早い。


「野郎ども飯は終わりだ。 ナセルの船に侯爵様を乗せる、場所を考えろ。 進水して走るかどうか確かめろ。 船団を作る、船をかき集めて来い。 丸太を切り抜け、10本はいるぞ。 レイバン、魔石を持って来い」

 矢継ぎ早に指示を出し、自身もそれに加わって出ていった。


「出発準備、ルーラァ様の馬を回せ」

「「「「はっ」」」」

 後ろから声が聞こえる。

 さすがは騎馬隊の隊長だ、言わなくとも分かっている。


 隊長を残して騎馬隊が出ていくと、残るは堅物職人のキヨモリと、才女という雰囲気を持つチェリー。

 並んでこちらを見ている様は、親子に見えて何故か微笑ましい。


「成果というのは、すぐにあがる物もあれば、何十年も先になる物もある。 それでも、俺は俺にしか出来ない事をやるし、お前達には期待している」


「かならずや」

「おまかせください」

 2人から、簡素だが頼もしい答えが返ってくる。


 レイバンに言葉は必要ないだろう。

 目線を送ってうなずいてやると、深々と頭を下げてくる。

 俺達が出発した後、魔石を取りにお屋敷に走るだろう。


「侯爵様をお止めし、此処へお連れする。 お命にかかわる事だ、たとえその意に逆らおうともやらねばならん。 行くぞ」

「はっ」

 隊長への作戦指示は明確にしておく。

 外に飛び出し、馬に乗せてもらい、馬腹を蹴る。

 乗せてもらうのは相変わらず格好悪いが、あきらめよう。


 20人を超える騎馬は2列縦隊で俺を挟む形に変わり、街中も飛ばせる。

 細い近道を抜け、大通りを屋敷の方に曲がれたのは偵察係がいたおかげだ。

 伯爵の護衛の偵察係を見たと言うので、停止して隊列を組んだ。


「全員、戦闘準備!」

「まあ、待て」

 たとえ仲間と切り合いになっても侯爵様を止める、そんな決意からか、悲壮感さえ漂う隊長をいさめた。


「2列縦隊で道のわきに並ばせろ。 馬車を止めるだけだ、最悪でも馬を倒せばいいさ」

「はっ」

 出来るだけ軽い調子で指示を出し、失敗した時の事も考え、少し離れた最後尾に控えた。


 隊列を分けている最中に偵察が来たが、仲間だという安心感からか、そのまま真ん中をすり抜けていった。

 本体が来るまでの短い間、隊長は自ら動いて指示を出している。

 随分ともたつく感じだが、任せた以上見ているのが筋だろう。


 そう言えば、戦争は一斉攻撃のガチンコ勝負とか言っていたな。

 これだけ部隊運用が出来れば戦術も陣形も可能だと思うんだが、勝ち負け以上に個人の手柄や武勇が優先されるのかもしれない。

 しかし、戦術に詳しいわけではないが、突っ込むしか能のない貴族の兵士より、護衛ギルドの者を傭兵として雇った方が戦力になる気がする。

 まあ、しばらく様子を見てからだな。


 やがて馬車が見えてきた。

 前後左右を守っていた護衛がこちらを見て前後に分かれる。

 それを確認した隊長が片手をあげると、左右の騎馬隊が1歩だけ中央に寄った。

 勿論、馬車が通るのに十分なスペースはあるのだが、護衛達は馬車を止めこちらに対して布陣した。

 たった1歩で馬車を止めた方も、そこに危険なものを感じ取った方も、まったく、両者ともお見事としか言いようがない。


 さて、出番だな。

 まずは馬を下り、歩く事で侯爵と話をしに行くと伝える。

 これは、いわばトップ会談の様な物で護衛に邪魔は出来ない。

 だが、階級は侯爵の方が上、というか、そもそも俺は爵位を持っていない。

 ならば、馬車を止められて黙っているわけにもいかないのだろう。


「お待ちください、ルーラァ様」

 隊長とおもわしき奴だ。


「伯爵家の人間を馬上から止めるとは、はて? 侯爵家の者とも思えんが」

「も、申しわけございません。 しかしながら」

 馬から転げ落ちるように下り、右手を左に膝をついたがまだ言いたそうだ。

 それを睨み1つで黙らせ、周囲に目を向ける事で他の護衛達も馬から下した。

 だが、これで終わりではない。


「アイスラー家に下げる頭も無いとは、生かしておいてはためにならんな」

「も、申し訳ございません」

 漆黒の短剣を抜き、殺気を放ちながら眼前に突きつける。

 下級とはいえ貴族なのだから普通はそれでいいのだが、怒れる伯爵家に逆らえる者はいない。

 全員に頭を下げさせ、戦意を根こそぎ削いでおく。


「お前の話し相手は向こうにいる」

 そう言い捨てて馬車に向かうと、爺さんが扉を少し開けてこちらを見ていた。

 何も言わず、にらみ合ったまま近づき、扉に手をかけ、噛みつける距離まで来た。


「「無茶をするな」」

 意味は違えど、声がそろった。


「「まったく」」

 再び。

 ため息が出てしまうが、ともかく馬車に乗り込んだ。


「何があった?」

 レイバンでさえ知らされていない事だ、誰も聞いてはいないだろうが小声で聞いた。


「姫様の処刑が決まった」

「まさか?」

「そのまさかじゃ、わしの留守を狙っての事じゃろう」

「いつだ?」

「3日後じゃ、今帰らねば間に合わん」

 お互いに顔を寄せ合い小声で会話を交わすが、深刻な話だ。

 ただでさえいかつい爺さんの顔、眉間に深いしわが寄る。

 ここが正念場だ、言葉を選んで話さねばならん。


「そうか……うーん。 実は、先ほどナセルの試作船は出来上がったんだけどな、とてもじゃないが安全とは言い難い。 しかし、何倍も早く着くし、揺れない分馬車で行くよりゃましだと思うんだが、どうする?」

「本当か? 馬車で行ったところでその後動けるとは思えん。 ナセルに乗ろう」

「分かった。 じゃ、先に行って準備をしておく」

 ふーっ、力ずくでもと思っていたが、状況判断の正確さはさすがだ。


 のんびり遠回りする馬車はほっておいて馬で海の民の所に戻ると、8艘もの船に人が群がっていた。

 試運転をしているナセル船もあったが、やはり問題があるようだ。

 ボートに丸太を括り付けるまではいいが、その前から風を吸い込む為に、ガノインの言う通り乗る場所がない。

 俺と船頭は丸太を両側から抱っこする形で船べりに腰を下ろすとしても、爺さんは船底に板を敷いて寝かせるしかない。


「もう少し大きな船は無いのか?」

「あれ」

 浅瀬で船首を上に向けて沈んでいる船を指差された。


「お城の近くを流れているのは支流だからな、これ以上大きくなると船底が付いちまう」

「なるほどな。 それでも8艘もの船団になるのか、たいしたもんだ」

「ああ、最低限だが体裁は整えたぞ」

 これがかの有名なドヤ顔というやつか。

 しかし、オッサンでは可愛くはないな。

 リサあたりが、あーっ。

 このまま城に行ったら、今夜のお楽しみが無くなっちまうじゃねえか。

 まったく、ろくなジジイじゃねえな。


「ルーラァ様、侯爵様がお着きのようです」

「おう」

 ジジイの馬車が着いたようだ。

 一緒に来た騎馬隊のメンバーは花道を作り、俺に声をかけた隊長も加わった。

 馬車と共に来た騎馬隊はそのまま周辺に散らばり、いざという時に備えている。

 これも立派な陣形だと思うんだがな。


 馬車が止まり、ジジイが下りてきた。

 杖はレイバンが用意したのだろうが、ふらつきながらも手を貸そうとする者を拒んでいる。

 世話の焼けるジジイだ、迎えに出向くしかないか。

 肩を貸そうかと聞けばいらんと答えるのは目に見えているから、後ろから脇の下に頭を突っ込み強引に肩を貸す。


「よけいな事をするな」

「姫様は古代語を話されている」

「何じゃと?」

 ジジイを黙らせるには、食いつく話をすればいい。


「話されている言葉が分からないんだろう?」

「何故知っとる?」

 近寄ってきた者を杖で追い払いながら、小声で話し合う。


「信じたわけじゃないが、ユニコーンの生まれ変わりなら、魔道師様同様、古代語を話されているんじゃないかと思ってな」

「もしかして、話せるのか?」

「ああ、任せとけ」

 まあ、これで日本人じゃなかったら目も当てられないが、こんな時の勘は外れた事がない、大丈夫だろう。


「お前は、本当に……」

「レイバンだろ。 残念ながら、違うよ」

 魔道師様の生まれ変わりなんて冗談じゃない、俺は俺だぜ。

 いや待てよ、これは使えるかもしれんな。


「そうか」

「ああ、古い文献があったからなんとか話せる程度だが、必要ならそういう事にしておいてもいいぞ」

 何故話せるのかと聞かれると答えようがないので、先にくぎを刺しておく。


「ともかく俺は爺さんの駒だ、うまく使えよ」

「フン、誰にものを言っておる」

「はは、その意気だぜ」

 周りに目をやると、馬に乗っている者達は驚いているようだ。

 まあ、頑固ジジイの事だ、人の手を借りて歩く事など無いのだろう。

 一方花道を作っている者達は、それをちらりと見て得意顔になっている。

 お前達がすごいわけじゃないんだが……まあいいか。



 なんとか頑固ジジイをナセルの船に乗せた。

 横になる事に文句は言わないのはさすがだが、救命胴衣なんてしゃれた物はない。

 泳ぎは体が覚えているだろうが、服を着たままだと自分のことで精いっぱいだ。

 転覆したら船底に敷いた板を使うしかないか。

 心配の種は尽きなかったが、魔石のスイッチを外から操作できるために、入りと切りを繰り返す事で速度調整が出来た。

 減速は川上からの流れに頼るしかない状況だが、全くと言っていいほど揺れない。

 案ずるより産むがやすしとはこの事だ。

 たまにすれ違う筏を驚かせながら、滑るように進む。

 爺さんも寝返りをうつように船べりから顔を覗かせ、侯爵としてはみっともない格好だが、しきりに感心している。


 ドーマ河から、名前は知らんが支流に入った。

 両岸には水面から飛び出た緑の水草、その上に枯れた葦の様な草が伸び放題で、更に低木の枯れ木が広がっている。

 その木々の向こう、川沿いの道を護衛達が駆けてゆくのが垣間見える。

 水面が鏡のようになったところでは青い空と白い雲が現れ、まるで映画撮影の雰囲気を醸し出している。

 これが見られただけでも西の城門街に来たかいがあるというものだが、脇門からの夕焼けも見たかった。

 ああ、夜のお楽しみ……。

 あきらめきれない思いは、ひよっとすると見た事も無い姫さまの処刑よりショックかもしれん。

 ジジイ許すまじ。


 やがて船が接岸した為思考は中断された。

 船が思ったより早かったのか、迎えの馬車はまだ来ていない。


「ガノイン! 敵を討てよ!」

「ルーラァ! 無茶すんじゃねえぞ!」

 海の民とはここでお別れとなったが、最後まで乱暴な奴だ。

 だいたい、無茶をするななど、ガノインに言われたらしまいだぞ。


 待つ間爺さんと話をしたが、昔はこの河もお城の近くを流れていたと聞いて、いつの話かと聞き返したら、1000年前らしい。

 まったく、くその役にもたちゃしない。

 堤防と灌漑設備は金と時間がかかるし、王様の仕事だし、おりゃ知らん。

 とは言うものの、お粗末な水路が気になる。

 あの辺りから水を引いて、ここに流れるメイン水路、そこから枝分かれさせて、こっちとこっちに引く。

 で、あっちの畑をこっちに移して、あれとそれを1つにする。

 次から次へと改良点が見えてくる。

 沼地らしき所は大きく囲い、給排水を付けて水深を確保、鯉の養殖をやりたい。

 やはり、鯉こく様は大切だろう。


 構想が違った方向に向いた頃、ようやく馬車が来た。

 相変わらず揺れながら侯爵家に向かい、到着してすぐにお城に行くかと思いきや、まずお風呂、着替えを済ませ、軽い食事を腹に入れた。

 王様に会う時の身だしなみというやつだろう。

 侯爵家の玄関にはうちの馬車も来ていた。

 見ろ、うちの使用人たちだって優秀なもんだ、と自慢したかったが、聞いてくれそうなやつも無く、爺さんと一緒の馬車に乗った。



「「「「お帰りなさいませ」」」」

 いい、実にいい。

 城に、いや、我が家に帰って来たって気がするな。


「ルーラァ様、カラゲルヘブン伯爵さまがお呼びですよ」

「え? でも今は」

「こっちはいいから行ってこい。 行って絞られて来い」

 爺さんに続いて隠し扉に向かう俺に、ナーンが声をかけてきた。

 おまけに、爺さんもつれない。

 近衛城兵総隊長か、このタイミングとは思わなかったな。


「はーっ、でも、なんで今頃」

「お呼び出しはエリーヌのお店に行った日ですが、その後ここによらずに帰られましたし、翌朝は侯爵様と奥の扉に行かれてそのまま、今に至りますね」

「なるほど」

 教官をぶん殴った翌日に呼び出しがあったのか。

 みんな知っているらしいのは仕方がない、今から行くのも仕方ない。

 はーっ、仕方がないから、一勝負してくるか。


「あのさ、その部屋って、どこ?」

「お隣ですよ、ルーラァ様」

 おーっ、かわいい。


「はは、知らなかった」

「終わったらまたこちらに寄って下さいね」

「そのつもりだけど、なんかあるの?」

「エリーヌからプレゼントだそうですよ」

「何それ、見たいな」

「あとで」

「お、おう」

 あ、あぶない。

 思わず、はーい、と言いそうになった。


 扉を抜け廊下に出るが、それにしてもナーンはいいな。

 可愛いだけじゃない、こう、情があるというのか、色気もある。

 色気ならリサか、かわいさでも上だ。

 くーるびゅーてぃ、とかいうやつだな。

 甲乙つけがたい、うーん、悩むな。


「ルーラァ様」

「ん?」

 見送っていたナーンが声をかけてきた。


「行き過ぎてますよ」

「……はい」

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