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 ゲート・キーパーと異界の門

 ◇

 

 世界に魔王以上の恐怖を撒き散らした超竜ドラシリア。

 魔法文明が極めて発展していた『千年帝国(サウザンペディア)』が生み出した、最悪の魔法生物兵器。最終戦争を記録していた魔法の映像では、無数のドラシリアが世界を破壊するという、悪夢のような光景が広がっていた。


 ――あれが最後の一匹だと思いたいが……。


 最後の生き残りだと自ら言っていた超竜(ドラシリア)。奴がこの世界に現れた時、恐怖をバラ撒くことで、人々の絶望と悲鳴という()を喰らおうとしていた。即ち「負の精神エネルギー」こそが奴の糧だった。

 その邪悪な竜の企みに気が付いた王国は、各国の協力を仰ぐことで勝利することが出来た。しかし、それは『聖剣戦艦』という切り札を動かせたという幸運あっての勝利だ。

 『聖剣戦艦』を失った今、もし再びあの化物のような怪物が異界の「(ゲート)」をこじ開けて、侵入を試みているのなら………なんとしても阻止せねばならない。


「というわけで、協力してもらうぞ」


 俺は研究室(ラボ)の棚から、封印の魔法を施していた小瓶を取り出した。封印を解除し横にすると五センチメルテほどの「黒い玉」が転がり出た。

 黒い艶やかな球体の表面に、やがて死霊じみた顔が浮かび上がった。


『我が名は偉大なる賢者の石なり……!』


「だいぶ板に付いてきたな」


『……おぉ? おはようございます偉大なる賢者ググレカス様。余は大いなる知恵の源泉、失われし太古の魔法への鍵、賢者の石! ……賢者の石!』


 自分を完全に偉大なる魔法の力を宿した『賢者の石』だと思っているが、実体は『千年帝国(サウザンペディア)』に属する魔法道具(・・・・)と同じ、死霊の成れの果てだ。

 イザという時の保険として、こいつには『賢者の石』になりきってもらっている。


「二度言わんでいい。(ゲェト)番人(キーパー)プロキシアン・コーラル。ちょいと話が聞きたくてな」

『な、なんなりと!』

 質問がよほど嬉しいのか、球体の内側にへばりついた髑髏のような死霊の顔に、一応喜びの表情らしきものが浮かぶ。まぁ不気味極まりないが。


「異界の門を破壊して塞ぐ方法は?」


『……破壊!? さ、さぁ……存じませんが』


「知らんのならいい。次にこの瓶を開けるのは10年後かもしれないが」


 黒い玉を元の瓶に戻そうとすると悲鳴が上がる。


『わ、わかった! お、思い出した! えぇと、ここは無限に開放された時空連続体の重なり合いの一部から切り離された離れ小島のような世界。閉鎖系の親宇宙の時空に対して、吊橋のような道を強引に開ける魔法の施設があったんじゃ! 但し必要な魔力総量は……8.97×10の13乗……という文字列が頭に浮かんだんじゃが……』

「なるほど? さっぱりわからんぞ」

『と、兎に角、超高密度の魔法力で、0.001秒だけ空間に穴を開けてそこを通り抜ける……らしい』


 やはりコイツ自信はよく知らないらしい。


「想像を絶するような超強力な魔法を使ったとして、大丈夫なのか? 世界に穴が開くだろう。何度も来れるものなのか?」


『……その通りじゃ。開けた向こう側はズタボロになるのじゃ。世界そのものが……砕ける程にの』


 そこだけは明確に言いきれるのか、死霊の顔に苦渋の色が浮かぶ。


「超竜ドラシリアが通って来たのを、お前はここの地下の遺物か何かで見ていただろう?」


『無論じゃ。余は今でこそこんな風に身をやつしてはいるが、偉大なる門番(ゲートキーパ)じゃ。異界への門を通過する様子を監視(モニター)し、術者に伝えるという、超絶に偉大な役目を仰せつかり職務についておったのじゃからな!』


「………それって単なる監視端末じゃないか」

『うぐぬっ』

「自在に門を開けたり閉じたり出来るんじゃなかったのか」

 俺はため息を吐いて、黒い球をジッと冷たい目で見おろしている。

『でっ……出来る! ……かも知れないがこの姿ではちょっと……。元の姿であれば何か試したり出来ると思うんじゃが……』

 媚びたような声色に変わる。


「いや、開けられては困るのだ。単に鍵であるお前を消滅させれば、門は永遠に閉じると考えていたのだが」


『めめ、滅相もない! そ、そんな事はありませんよ! えぇ全然。あ、でも余は偉大な役目を……』


 どうやらコイツと話すのは無駄のようだ。だが、『監視(モニター)役』としてならば使い道もありそうだ。


「まぁいい。少し散歩に付き合ってくれ。君は優秀な『賢者の石』だから、(ゲート)についていろいろ教えてもらいたいんだ」


『おっ……!? あぁ、いいともいいとも! いいともよ賢者さま! 謙虚に学ぶ姿勢があればこそ、得られるものもあるのじゃからな!』


「はぁ」

 目の前に生身でいたら殴りたい衝動に駆られるタイプのお調子者だが、こんな物でも無いよりはマシだろう。


 ◇


「なんですの賢者ググレカス。黒い石の気配がお腰の袋から漂っておりますわ!」

 眠りから覚めた妖精メティウスが、背中の羽を激しく揺らしながら抗議の声を上げる。俺の腰のポーチには件の、『賢者の石(偽)』が入っている。


「ちょっと現地調査に必要なんだ。少し辛抱しておくれ」

「……もう。悪霊なんて恐ろしいですわ」

「はは」


 俺は空飛ぶ馬車『空亀号(スカイタートル)』の準備を終えた。

 このヨラバータイジュ村から、異界の門までの距離は7キロメルテほど。飛行すれば10分程度で到着できる距離だ。


「ググレ、皆は出発したよ」

 レントミアが白い魔法使いのマントを羽織りながら姿を見せた。少し伸びた若草色の髪を珍しく、きゅっと後ろで一つに結んでいる。


「そうか。それでいい。楽しい時間を過ごしてもらおう」

「うん、なんだか和気あいあいで楽しそうだったよ」


「本当は俺達も行きたかったけどな」

「いいじゃん。不安要素を無くせば安心して僕らも遊べるし」

「そうだな」


 ルゥローニィ夫婦と子供たち、そしてマニュフェルノにリオラ、チュウタにラーナにプラムは、楽しい「きのこ狩りツアー」の馬車に乗り、世界樹の幹の中へと出発したらしい。


「向こうには帯剣したルゥローニィが居るし、心配は無いか」

「だね」


 ルゥが向こうのお守りをしてくれる安心感は格段に大きい。


 その間、俺たち魔法使い組は、(ゲート)と呼ばれるポイント・ゼロの調査へと向かうことにする。


「で、ヘムペロちゃんも行かなくてよかったの?」


 レントミアが振り返り、後ろにいる黒髪の少女に声をかけた。


「ワシがおらんと世界樹の話なら困るじゃろーからにょ」


 薄いパーカーを羽織り、ショートパンツにニーハイソックスという姿のヘムペローザが、「蔓草(シュラブ)の杖」を手にしている。


「危ないことが無いとも言いきれない。それでもいいのか?」


「賢者にょに何かあったら困るんだにょ。プラムもラーナも心配していたし。だからワシが代わりに手助けに……なるかもしれないにょ!」


 まっすぐな瞳で真剣に訴えるヘムペローザの肩に、そっと手を添える。


「よし……、頼んだぞヘムペロ」

「はいにょ!」


 こうして。


 俺達は『空亀号(スカイタートル)』で空に舞い上がると、賢者の館を眼下に眺めながら、一路北西へと進路を取った。


<つづく>



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