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よんじゅう。

 







ふっと目を覚ましますと、真上にあったはずの太陽がいつの間にかかなり西へ傾いてしまっていました。


かなりよく寝たように思います。しかしヴェルノさんは私がお昼寝をする前と何ら変わらない格好で眠っていらっしゃいます。


そっと顔を上げてみたら思ったよりも顔が近い位置にあってビックリしたのは内緒なのですよ。


周りに船員の方々はいらっしゃらない様子で甲板は小波の音だけが静かに響いています。


まだ日差しはさんさんと降り注いでヴェルノさんの青い髪が光りをキラキラと反射させて綺麗です。




「ヴェルノさーん…?」




名前を呼んでみても起きません。本当によく眠っていらっしゃるようです。


せっかくですので何時もは触られてばかりの私が今日はヴェルノさんに触ってみましょう。


手を伸ばして髪に触ってみますと潮風と強い日差しのせいか少し傷んではおりましたが、サラサラとした手触りで、でも何時も見ていた様子ではお手入れなんてしていないのにこんなに手触りの良い髪は女の子として羨ましい限りですね。


それから頬もぺたぺたしてみました。


あんまり柔らかさが少ないのはやはり男性だからなのでしょうか?


ヴェルノさんのほっぺたに私のほっぺたと合わせれば、じんわりと温かさ広がって行きます。


アイヴィーさんや幹部の皆さんに撫でていただいたり抱っこしてもらえるのも良いのですが、一番ホッとするのはヴェルノさんなのです。


ホッとして、嬉しいような、けれどほんの少しだけ苦しいような。


そんな不思議な気持ちになるのですよ。おかしいのですね。




「一体この気持ちは何なのでしょうか…?」




人間の体に戻れれば分かるのでしょうか。


ヴェルノさんと頬を合わせたままぼんやりとしていましたら、甲板の向こうからアイヴィーさんがこちらへ来るのが見えます。


私とヴェルノさんを見てニッコリ笑いながら横にしゃがみ込みました。




「あらあら、ヴェルノは寝ちゃってるのね。」


「はい。…何かお仕事ですか?」


「んー、用事っていう用事じゃないからイイわ。こんなに気持ち良さそうに寝てると邪魔するの悪いもの。」




またね、と言って軽く私の頭を撫でるとアイヴィーさんは船内に戻って行かれました。


アイヴィーさんとヴェルノさんはとても仲が良いのですね。


もしかして昔からのお知り合いなのでしょうか。何だか気になります。


そっと起こさないよう気を付けながらヴェルノさんの腕の中から抜け出し、軽く伸びをしておりましたら、今度は空から声が降ってきました。




【久しぶりだねぇ、お嬢ちゃん。元気だった?】




朗らかな声に顔を上げますとカモメさんが一羽、船の縁に留まっていました。


この船に乗ったばかりにお会いしたカモメさんなのです!




「お久しぶりなのです。私は元気ですが、カモメさんはお元気ですか?」




私も船の縁に近付きながら――とは言いましてもヴェルノさんに‘縁に寄るな’と注意されておりますので、気をつけないといけません――返しますと【元気すぎるくらい!】と本当に元気そうなお返事をされて嬉しくなります。


そこでふと名案が浮かびました。そうです、カモメさんに相談してみましょう。




「あの、ご相談があるのですが…」


【相談?どうかしたのかい?】


「実はその――…」




ヴェルノさんが起きてしまわないよう声を小さくしてカモメさんにお話しました。


もちろんヴェルノさんとの出会いや、今までの出来事、この変な気持ちも全部隠さずお伝えするとカモメさんは何故だか呆れたような、困ったような雰囲気になります。


そうして【あー…】とか【ぇえ?そこまで想われてるのに?】とかよく分かりませんが、何やら私の相談で驚いているご様子なのです。




「ごめんなさいなのです。やっぱりご迷惑でしたか…?」


【え?いやぁ、迷惑なんかじゃないよ。ただあんたの鈍さに驚いただけさね。】


「鈍さ、ですか?」




鈍い、とは一体なんのことでしょう?


はてと首を傾げればカモメさんが溜め息を吐きます。鳥も溜め息を吐けるんですね。




【そういうトコロだよ。これじゃあ、旦那が苦労するのも頷けるねぇ。】




ちなみに旦那、というのはヴェルノさんのことのようで、カモメさんが‘旦那’と呼ぶと妙にしっくりくるのですから不思議なものです。


何度も頷くカモメさんにちょっとだけ気落ちしてしまいました。




「やはりヴェルノさんにもご迷惑をおかけして…」


【いや、旦那は迷惑じゃないと思うよ。でもね、あんたも少しくらいは身に覚えがあるんじゃないかい?その変な気持ちってのに。】


「覚え、…?」




覚えと聞かれましても本当に私は分かりません。けれどカモメさんのご様子ですと私のこの気持ちがどういうものなのか分かっていらっしゃるようなのです。


うーん…と悩むカモメさんを待っておりましたら、後ろから小さな唸り声のようなものが聞こえてきます。


振り返ってみますとヴェルノさんが眉間に皺を寄せて寝返りを打ち、薄っすらと金色の瞳を開きました。


視線を滑らせて私を見つけると指で来いと呼ばれてしまいます。


仕方なくカモメさんにお話を聞いてくださったお礼を述べてから、少し名残惜しいですがお別れをして、ヴェルノさんの下へと行きます。別れ際にカモメさんに【自分の気持ちに素直なのが一番の解決法だよ!】とアドバイスをいただきました。


…私はいつでも素直だと思うのですよ。


そう思いながらヴェルノさんの下へ行くと大きな手に引き寄せられて抱き締められます。




「何してたんだ。」


「カモメさんとお話していました。」


「あぁ…そういやぁ、話せるんだったな。」




今思い出したといったご様子で呟き、私の頭にもふりと顔を寄せるヴェルノさんの行動にあるはずもない心臓がドキドキと鳴っているような気がしました。頭上から溜め息のような欠伸が聞こえてきます。


おかしいですね。今までもずっと、このようなスキンシップはよくあったのですが…。


眠気が飛んだのかヴェルノさんは私を抱えたまま立ち上がり、軽く服を払ってから船内へ戻ります。


浅黒い肌は長時間日向にいたせいかいつもより温かくなっているのです。日射病や熱中症になっていないか少々心配になりましたが平然とした顔でヴェルノさんが通路を歩かれるのできっと問題ないのでしょう。


明るい外から暗い船内へ入ると真っ暗でほとんど見えません。


でもヴェルノさんは見えているのか、それとも船内の造りを把握していらっしゃるのか立ち止まったり躊躇ったりすることもなく船長室へ向かいました。






 

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