第七話
「それって・・・」
龍也は高鳴る鼓動を舞に聞かれたくなかった。
「未練になるほどなのか?」
「龍也。あのね、真面目に聞いて」
舞はいつになく真剣な目つきだった。
「ごめん」
舞は顔を伏せた。伏せているのに銀色の水滴が見える。
舞の頬に・・・
今は、後悔している。舞を泣かせたこと。だから・・・泣くな。
風が、風が二人の間を通り抜けていく。
舞はいきなり龍也の腕をとって空に飛んだ。地面がはるか遠くに見える。
「何だ何だ何だ何だ――」
龍也はいきなり身体が浮いたのでパニックを起こしている。
「手は絶対離すなよッ」
下が怖い。
「大丈夫大丈夫!」
舞はさっきとうってかわって興奮していた。
「ごめん・・・もう死んでるんだよね、あたし」
舞は龍也から目をそらした。
「あたしが好きなのは龍也なの。もう他の人は考えられないの」
「ちょ・・・舞?」
「龍也が幸せになるように祈ってるから、
もう告白したから、返事をする前に今すぐ成仏させて?
存在を消されてもいいよ・・・今なら。」
興奮しているのか、泣きかけているのか分からない顔で見られて、
龍也ははっとする。紅潮した頬。風にながれる髪の毛が愛おしい。
気づいていなかっただけなんだ。俺は、ずっと・・・
「舞。返事を聞いてくれ」
ちょうど下には桜の木が満開だった。
舞が好きだったんだ。
だからこんなにもやもやしていたんだ、舞を成仏させることに。
「俺、俺も舞が好きだ。ずっと一緒に居てほしい。成仏なんて、絶対させない」
龍也は舞を抱きしめる。唇をそっと近づける。
地上からは点にしか見えない二人は、顔を赤く染めていた。
舞は嬉しそうで、急に―――涙を・・・何故だろうか。
舞の涙が俺の手の甲に落ちる。濡れる。
死んでいるのに?
舞の手がはっきりとした輪郭をもつ。
霊から人間に戻っている、のか?
それは喜ばしいことなのだが、ただ一つ問題がある。
此処は空だ。
「舞、すぐに降りるんだ、地上に、はやく!」
龍也に言われて舞は降りようとした・・・が遅かった。
地上あと5メートルほどのところで舞は完全に人間に戻ってしまった。
「もうだめ・・・」
「だめじゃない!!」
龍也は急いで舞を抱いた。
万が一の時は・・・俺が舞を守る。
舞が気がつくとそこは赤い、赤いコンクリート。
横には龍也が倒れている・・・
舞はまだよく働かない頭を懸命に働かせた。
「・・・りゅう・・・・や?」
そして周りの赤いコンクリートに目をやる。
「・・・血、血なの?」
救急車がやってくる。
舞が呼んだ救急車だ。
舞はよく考えずに龍也の家に走る。ここからは結構近い。
龍也はおばあさんと二人暮らしだということを思い出したのだ。
おばあさんにはやく知らせなくては。
龍也の家に着くと、おばあさんは舞ににっこり笑いかけた。
「おや。人間に戻れたのかい?」
「・・・何故それを?」
と聞きかけて舞は思い直した。
「それよりも、おばあさん。聞いて下さい。
龍也が、龍也さんが大変なんです」
おばあさんはまたにっこり笑った。
「大丈夫」
「・・でも、血がいっぱい」
「龍也にはあの子がついてるわ」
そうおばあさんがいった、ちょうどそのとき誰かがはいってくる音がした。
「龍也?大丈夫?」
そう。その誰かは龍也だった。
血が体中に付いている。しかしもう血は止まっているようだった。
あの大けがにしてはおかしい。
骨を折っていてもおかしくない高さから落ちたのに、何故。
そんな事にはきづかず、龍也は
「大丈夫。でも俺をほっていくなよなぁ」
とぼやいて、身体についた砂を払い落とす。
「ご、ごめんなさい、焦っちゃって・・・」
舞がうなだれる。
龍也は笑って、またすぐ真剣な目つきをする。
「で、なんで舞は人間に戻れたんだ?」
そして舞も聞いた。
「なんで龍也はすぐにけがが治っちゃったの?」
二人とも、自分に起きたことの重大さを悟って、お互いに目を丸くした。
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