8.それを離さない
何度も作って、なかなか納得できるものができなくて。
でも、やっと一番うまくできたと思えるものができた。
時刻は・・・・もう真夜中だけど。
ラッピングもいろいろな店を回って決めたもの。
リボンは赤かピンクかどちらか迷った。
だけど、包装紙が茶色だからリボンは赤にした。
「えぇと・・・・・・リボンやなんて、いつもしてるんやけど・・・・・」
ブツブツと明かりを落としたキッチンで、和葉は最後の蝶々結びと格闘していた。
明日じゃなければいけない、と決まっているわけじゃないけど。
17回目のバレンタインは、自分で変えたい。
平次はいつ帰ってくるかわからないけど、ぎりぎりまで待っていようと決めていた。
「和葉!おはよう!」
「あ、ゆり。おはよう!」
「で、どうなん?うまくできた?」
「・・・・うん。」
納得のいくケーキができたはずなのに、和葉の顔は少し曇っている。
昨日の平次の様子からだろうとゆりは思った。
やけに和葉を避けているような行動を不審に思い、和葉に理由を聞いていた。
「服部君、まだ帰ってきてないん?」
「・・・・うん。平次ん家に寄ってみたんやけど、まだ帰ってないっておばちゃんが言うてた。」
「そうなんや。・・・・でも、もう解決してるかもしれへんな。」
「危ないことしてなかったらええんやけど・・・」
平次にケーキを渡せるかよりも、平次自身を心配する和葉をゆりは微笑んで見ていた。
「頑張ってな。」
「うん。ありがと。」
その日、平次の姿は学校では見られなかった。
休憩になるたびに、平次に渡そうと大勢の女子が平次の所在を聞いてくる度に、不安に飲み込まれそうになっていた。
部活もいつも通りに終え、和葉は一人帰り道を歩く。
「・・・・はぁ・・・・」
思わず出てしまったため息。
(あかんあかん!まだ今日は終わってないんや。)
(平次、怪我とかしてへんかな。)
(大変なんやろな。)
(・・・・・平次。)
「・・・・・・平次。」
「なんや?」
「へっ!?」
「何アホな顔してんのや。」
まさか名前を呟いて返事が返ってくるとは思っていなかった。
でも、目の前には見間違うことはない平次がいる。
「か、帰ってたん!?」
「さっきな。しぶとい犯人でな、ちょお遅なってしもたわ。」
寝てないのだろう。
少し疲れた顔して笑う平次を見つめていた和葉は、平次の頬に傷があることに気づいた。
「どないしたん!怪我してるやん!!」
怪我の具合を確かめようと和葉が思わず手を伸ばす。
頬に触れる寸前でその手は平次に掴まった。
「ちょっ!」
「大丈夫や。掠り傷やからな。犯人捕まえる時に、掠っただけやから。」
「ほんまに大丈夫なん?」
「アホ。こんなんすぐ治るわ。」
「そ、それやったら安心やけど・・・・」
ホッとした瞬間、和葉は自分の手がまだ平次に握られたままなことに気づいた。
「あ・・・あの・・・・・平次?・・・・・・・・手・・・・・」
自分から近寄ったせいと、平次が手を離さないために二人の距離がいつもより近いことに気づき、ますます和葉は緊張する。
「・・・・・平次?」
「渡さへん。」
平次が言葉を発するのと同時に、握られた手に力が篭ったのがわかる。
でも、今の言葉がどういう意味なのかわからない。
「・・・・・・何を?」
問い返すもの、平次の目が真剣なことに和葉は胸の鼓動を抑えきれない。
「誰にも、和葉を渡さへん。」
――・・・・・今・・・・・何て・・・・・
「例えオマエが誰かを好きや言うても、チョコ渡したんやとしても」
「気づくのが遅いんやとしても、オレは」
「和葉が好きや。」
動けなかった。
平次が今言ったことが、信じられなくて。
まさか平次がそんなことを言ってくれるとは、考えてもいなくて。
でも、確かに聞いた。
夢じゃない。
自分の手を握る平次の手は、暖かかった。
――・・・・平次・・・・・
目の前の平次がぼやけていく。
それでも、平次を見たくて何度も瞬きをした。
今度は和葉の番。
「・・・・・・・・あたしも・・・」
「あたしも・・・平次が好き。」
今度は平次が驚く番だった。
「は!?でも、和葉・・・」
帰ってきて、すぐに和葉のもとへと向かい。
もう、和葉の本命チョコは誰かの手に渡った後かもしれないと思い。
それでも、遅くても諦めないと決めていた。
そして、今。
お互い勘違いしすれ違い、傷つけたけど平次は和葉の手を掴んだ。
握っていた手を自分の方へ引き寄せ、和葉を引き寄せる。
手を離し、和葉を囲むように抱きしめた。
その温もりを確かめるように、平次はずっと和葉を離さなかった。
「はーーっ。」
「人の上でため息なん、やめてや。」
「アホ。安心したんやないか。」
「なんで?」
「そら、もうオマエが誰か他のオトコにチョコやってんのやろなて、思うてたからや。」
心底ホッとしたような声を出す平次に、和葉はその腕の中で笑った。
「そんなこと、あるわなけないやんか。」
当たり前だと言う和葉に、平次も笑った。
「それでや、チョコはどこやねん。」
「家やけど?」
「ほな早速、いただきますか。」
平次はずっとチョコだと思っているようだが、気づいてくれるだろうか。
自分が言ったあのケーキだと。
「でも、味の方は大丈夫なんやろな?」
その言葉に和葉はムッとする。
「そやったら食べへんかったらええんやないの?」
しまったと、焦る平次。
「じょ、冗談やないか。」
「そういうこと言う人には、食べさせません。」
並んで歩いていた平次を置いて、先さきと歩いて行く。
「和葉!!ちょお待てって!!」
平次に見えないようにベ〜っと舌を出し、和葉は笑っていた。
たまにはこういうのもいいだろう。
いつも平次に振り回されていたのだから。
「そやったら、別の甘いもん貰うとしよか。」
突然ガシッと後ろから首に腕をまかれる。
横を見ると、ニヤニヤと笑う平次がいる。
「な!何言うてんの!!」
一本とったかと思いきや、やはり名探偵。
顔を真っ赤にして騒ぐ和葉と、それを嬉しそうに見つめる平次。
すっかり暗い帰り道を、二人の騒ぎ声が響く。
それでも、いつのまにかその手は繋がっていた。
終
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