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こんなに大きくなりました 作者:佳絵

山賊とお嬢ちゃん

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 魔石を使い、山全体に張った頑丈な結界。更に道と頂上にも結界を張り、付近の住民が安全に山を越えられるようにした。ところどころに道から絶対に外れるなという注意を書いた立て札も設置した。
 完璧だ。
 たった一晩でこれだけやった自分を褒めてやりたい。
「さすがに疲れたな……」
 ぼろぼろの小屋の中で寝転べば、明るくなってきた空が見える。雨が降る前に、屋根をなんとかしないといけないな。
 魔獣の鳴き声が聞きながら俺は眠った。そして数時間後目を覚ました俺は、空腹を感じる。
 メシ……。
 山の恵みで何とかしろと言っていたか?
 俺はのろのろと立ち上がる。とりあえず水だな。
 川はどこだ? それから、食べられる木の実や山菜を探すか。魔獣の肉は、食べられるものと食べられないものがあったな。騎士学校で学んだことが、こんな形で役に立つなんて……。
 小屋の外に出る。日はもう高くまで登っていた。
 昨日は魔獣が近づかないように自分に結界を張って作業していたが、今日からは積極的に狩らねばならないだろう。
 武器は騎士になった時に祝いだと父方の祖父が買ってくれた剣。それに魔術と歌だ。
 魔術と歌は似ているが少し違う。複雑に構築する必要がある魔術と、想いをそのまま乗せて効果を発揮させることができる歌。それぞれにいいところや悪いところはあるが、炎で矢を作ったりしたいのならば魔術のほうが便利だし、強い力を広く使いたいなら歌のほうが、効率がいいだろう。
 ちなみに魔術に耐性のある魔獣なんてのもいるので、剣も扱えなくてはならない。
 魔力量は人それぞれだが使えば減るものだ。体を休めれば回復するが、剣で済むようならそうしたほうがいい。
 小屋の中に唯一あった水がめを背負って、水を求めて移動する。途中何頭か魔獣が現れたのでそれも狩っておく。
 それにしても、本当に魔獣が大量発生しているな。何か原因でもあるのだろうか。
 精霊の姿が見えないのは、魔獣を恐れて逃げたからだろう。精霊がいないからか、枯れ始めている木も多い。山の恵みはあまり期待できそうにないな。
 しばらく歩いて川を見つけて水を飲み、水がめにも汲む。
 そういえば風呂もないのだな。ということはここで水浴びをしなければならないのか。
 そんなことを考えながらじっと川を見ていたら、川の中で影が動いた。
 魚か……!
 と覗き込んだら水の中から魔獣が現れ、襲い掛かってきた。
「この野郎、期待させやがって!」
 なんで獣が川の中になんているんだよ。陸に引きずり出して剣で斬る。うーむ、油断できないな。
 水がめ背負って魔獣を倒しながら、そして木を何本か切り倒してそのうち一本を担いで頂上に戻り、魔術で火を出して先ほど倒した魔獣の肉を焼いて食べる。
 ……調味料の偉大さを知った。
 心は満たされないが腹は満たされたので、小屋を修繕することにする。
 ……穴が開いたところに板状にした木を打ち付ければいいのか?
 魔術で木を板状にして、なんとか小屋の穴だけは塞いだ。
 中の掃除もしなければ。掃除なんて使用人のすることだったのに、ここではそれさえ自分でしなくてはならないのか。
 ベッドがないのは辛いな。魔獣の皮をなめして敷けば多少は寝やすくなるか?
 そんなことをやっている間に日は高く昇っていた。
 そろそろ昼か……? そういえば腹が減った気もすると、朝の残りの魔獣肉を焼いて食べていれば、
「……ん?」
 山に誰か入って来たな。
 結界を張ったとはいえまだ魔獣は多い。万が一のことを考えて、誰かが山に入ってくれば分かるように魔術を施しておいたのだ。
 付近の住民だろうか。立て札の注意通りにちゃんと道を歩いているようだが、念のために確認をしておくか。
 俺は立ち上がり、人が入って来た方向へと歩き出す。そして、
「ひいいい! お助けを! 儂ら金目の物などなんも持っていませんのです!」
 野菜の入った籠を背負った農民夫婦らしき者が、俺の姿を見たとたん、怯えきって腰を抜かす。これはまさか、
「おい」
「山賊だ、山賊が現れたあああ!」
 ……やはりそうか。
「山賊ではない」
 心で泣きながら、努めて冷静に言う。
「あの立て札は罠だったのかぁ! 騎士様が来てくれるって噂も嘘だったのかぁ!」
「俺がその騎士だ」
「どこからどう見ても山賊じゃねえか!」
「騎士服を着ているだろう」
「騎士服……?」
 騎士の証である指輪もはめているぞと見せれば、夫婦は俺の姿と指輪を確認するように見てからまた叫んだ。
「大変だあ! 騎士様が山賊に倒されて身ぐるみ剥がされたぞぉぉぉ!」
 何故そういう発想になる!
 そこまで信用できないか、と涙をこらえて俺は頂上を指さした。
「とにかく、お前たちを襲うつもりはない。さっさと行け」
「ほ、本当か?」
「本当だ」
「通行料なんて払えねえ」
「いらん」
 街に行けないのなら、金など持っていても仕方がない。それに通行料なんて取ったら、騎士の資格を剥奪されかねない。
 夫婦はびくびくしながら俺の前を通る。
 さっさと行ってくれ、とその様子を見ていれば、
「あ……!」
 女が転びそうになったので支えてやった。
「ひ……!」
 短い悲鳴を上げられた。助けられてその態度かと不満に思ったが、……ん?
「手首を痛めているのか?」
 女が手首をかばうような仕草をしていることに俺は気づいた。
「は、はい」
 怯えながらも女は頷く。
「今やったのか?」
「いいえ、畑仕事中に……」
 ふーむ、少し腫れているな。
 女の手首を確認し、薬を取り出して塗ってやる。
「痛みと炎症を抑える薬だ」
「え?」
 夫婦は目を丸くして俺を見上げる。
 薬を塗り終われば、戸惑いつつも礼を言ってきた。
「あ、ありがとうございます。山賊様」
 だから山賊ではないと言っているだろう。
「行け。絶対に道からは外れるなよ」
「は、はい」
「腫れや痛みが続くようなら医者に診せろ」
 夫婦は頷いて、そそくさと歩いていく。
 やれやれ、参ったな。山にいることで山賊度が増しているのか。
 そう思いながら背中を見送っていると、夫婦が立ち止まって何やらこそこそと話し始めた。
 ……ん? なんだ?
 何かあったのかと訝しげに見ていれば、夫婦は振り向いて籠の中の野菜を一つそっと地面に置いて、頭を下げて去っていった。
「…………」
 もしかして、礼のつもりか?
 貰っていいものか。いや、置いていったからいいのか。脅してもらったわけではないから、これは法にも触れないだろう。それに貴重な野菜だ。
 俺は地面の上の野菜を拾うと、ゆっくりと山頂に戻った。






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