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こんなに大きくなりました 作者:佳絵

山賊とお嬢ちゃん

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暴力描写があります。話の雰囲気が変わり、後味が悪いと感じる可能性があります。ご注意ください。
 どこだ、ここは……。
 俺は茫然と周囲を見回す。
 山、だな。
「ぼけっとするな」
 そう言われても、親父……。
 数日前、騎士団長から魔獣が大発生している山での単独勤務を命じられた。
 その直後、俺は親父に首根っこを掴まれてジギーに乗せられ、親父と二人乗り状態でここまで運ばれてきたのだ。
 宿にも泊まらずひたすら走る。かろうじて渡された携帯食料と水だけが頼りの強行軍だ。
「何故……」
 思わず呟けば、親父の視線が鋭くなる。
「まだ自分がしでかしたことが理解できていないのか」
 団長から説明は受けた。騎士服を着た賊に襲わそうになったという訴えが山ほど来ていると。しかしちょっと待て、どうしてそうなる。
 確かに気になった女性に声をかけまくったことは認めよう。だが紳士的に告白して紳士的に玉砕していただけだ。決して襲ってなどいない。しかも告白した数よりも被害を訴えている人数が圧倒的に多いというのはどういうことだ。
「騎士の醜聞は陛下の、ひいては国の醜聞。国民の手本となり国を守るべき騎士として、お前は失格だ」
「でも親父……」
「騎士団長がお前の才能を惜しんで、このように素晴らしい任務をくださったのだぞ」
 素晴らしい? 魔獣が大量発生している山に一人置いて行かれるのが素晴らしい?
「父は、お前がこの任務を立派に完遂してくれると信じている。では元気でな」
 軽く手を上げて踵を返した親父の服の裾を、俺は慌てて掴んだ。
「待ってくれ、親父! こんなところに一人置いていかれたら死んでしまう!」
 この山、魔獣の気配が凄まじいではないか。強い魔獣がわんさかいるのではないか?
 騎士になってまだ二年も経っていないひよっこだぞ、俺は。さすがに荷が重すぎるだろう。
 しかし親父は縋る俺の手を振り払う。
「甘えるな。この山の魔獣を一掃し、最期は騎士として立派に果てろ。骨はここに埋めてやろう」
「俺を殺す気なのか!」
「冗談だ」
 冗談に聞こえない、全然聞こえない。
「実は本当に、この山の魔獣大量発生で付近の住民が困っているのだ。襲われる被害も出ていると、領主から騎士団に協力要請があったのだ」
「だからって俺一人でなんて無理だ!」
「そこらの騎士では一撃で殺されてしまうような魔獣がごろごろしているのだぞ。父やお前くらい強い者でないと、この任務は務まらない」
「だったら親父も……」
 帰るなんて言うなよ。一緒に討伐してくれればいいだろう。
 だが親父は首を横に振る。
「残念だが、父は父で別の任務で忙しい。それに下手に仲間がいるより、いっそ一人のほうが思いきり戦えていいだろう」
 そんな馬鹿な。二人の方が絶対いいに決まっているだろう。
「住む場所も寝る場所もないこんな山の中で、どうしろというんだ」
「あるだろう、そこに」
 そこ、と親父が指さしたのは、この山頂にかろうじてという様子で建っている壊れた小屋だ。壁にも屋根にも穴が開いているではないか。こんなのにどうやって住めというのか。
 困惑していれば、親父がジギーに括り付けていた大きな袋を下ろす。
「これをやろう」
 投げ渡された袋を開ければ、斧に釘に金槌という大工道具と一緒に、かなりの量の魔石が入っていた。
 高価で貴重な魔石をこんな無造作に……。いや、それよりこの大工道具はまさか……。
「その小屋を修繕して住め」
 やっぱりそうか!
「こんなぼろぼろの小屋、どうやって修繕しろというんだ!」
「やる前から泣き言を言うな」
 泣きたくもなるだろう。
「まずは道に結界を張り、付近の住民が安全に山を越えられるようにしろ」
 魔獣が大量発生してからは、付近の住民は仕方なく山を迂回していたらしい。
「それからもう一つ、大事なことを伝えねばならなかった」
 こっちへ来い、と親父が歩き出し、それに付いていくと崖に到着した。まさか鍛錬とか言ってここから突き落とす気ではないだろうな、と思っていたら、親父が「あれを見ろ」と麓を指さし。
 親父が指さす方向を見れば、小さな街が見える。
「あの街には行くな」
 行くなって……。
「食べ物や生活に必要なものはどうするんだ」
「山の恵みがあるだろう」
「着替えも持ってきていない」
「今着ているものを、洗って乾かしてまた着ればいいだろう」
 乾くまでの間、裸でいろと言うのか!
「そんなことより、あの街の女たちには近づくな。次に問題行動を起こせば、父も団長も庇いきれない。騎士資格剥奪になるぞ」
「あ、ああ」
 さすがに剥奪は嫌なので俺は頷く。
「あそこにある大きな屋敷が見えるか?」
 街で一番大きな屋敷のことだな。
「あれが、この一帯の領主の屋敷だ」
「へえ」
 それがどうかしたのか?
「領主の一人娘は美人らしい」
 なに?
 首を傾げる俺を、親父が睨みつけて言う。
「興味があろうが欲求不満だろうが、その娘にも絶対に近づくな。いいか、絶対だ。もし何かしでかして騎士資格剥奪になるようなら、父はお前を斬る」
 はあ!?
「まるで俺がケダモノみたいじゃないか!」
「みたい、ではなくケダモノだと王都の者たちは認識している」
「…………!」
 まさか、そんな……。そこまでなのか?
「汚名を返上したいのならば、それだけの働きを見せろ」
 そして親父は馬のジギーに乗って去っていった。
「…………」
 こんなところで独り取り残されてしまった。
 うなだれていれば、ふっと親父が張っていた結界の気配が消える。
「…………!?」
 山に入った時に、親父は俺たちの周囲と山全体に簡易的な結界を張っていた。元々山には結界が施されていたが、それはお世辞にも丈夫とは言えないようなものだったのだ。
 親父が簡易的に張った結界のほうが何十倍も頑丈で安全なものだったというのに、それをわざわざ解いて帰ったというのか!
「あの馬鹿親父……!」
 付近の住民が危ない!
 俺は親父が置いていった袋を担いで、結界を張るために走った。






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