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こんなに大きくなりました 作者:佳絵

少し、家族の話をしようか

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43/60

ここから主役が息子になります。
話の雰囲気が変わります。後味が悪いと感じる可能性があります。ご注意ください。
 俺は恋する種族ハーフだ。
 恋によって成長するというかなり珍しい種族の母と、人間の間に生まれた。
 母は、とにかく美しい人だ。艶やかな銀の髪と宝石のような青い瞳、恋する種族はエルフの血脈だけあって魔力も高い。
 そして親父は、見た目が山賊の騎士だ。能力の高さだけでなく、その見た目と気合だけで逃げていく魔獣もいるくらいだ。
 そんな親父だが、昔から俺に異常に厳しかった。それはもう、涙なしでは語れないほどに……。


 恋する種族ハーフの俺は、なんと五歳で大きく成長した。
 初めての恋は使用人のお姉さんだった。このお姉さんが好きだな、と思ったその翌日に、俺はおっさんになっていた。しかも親父そっくりの。
 なんでよりによって親父に似たんだと俺も周囲も嘆いたが、母だけは親父そっくりに成長した俺を可愛いと言い溺愛した。その結果、親父はそんな俺に剣を持たせて容赦なく打ってくるようになったのだ。
 母が俺ばかり構ったのが気にくわなかったらしい。見た目は同じなのにお前ばかり、と低く囁かれて、本気で命の危険を感じたこともしばしばあった。こっちは見た目がおっさんでも、中身が子供だったというのに。
 しかも、体は大きくなったが真に大人になっていなかった俺は魔力がかなり不安定で、暴走しないように、母、親父、それから王弟殿下と母方の祖父が協力して術をかけなくてはならなかった。母も祖父も、真に大人になる前でもここまで不安定ではなかったらしいが、何故なのだろうか?
 そして真の大人になるためには、恋をするだけではなく大人としてのそういう行為をする必要があるらしい。適当な相手で早く済ませたほうがいいと言う親父に、好きでもない相手とするのだけは絶対駄目、と母が猛反対しているのを見て、俺はそれを知った。
 そして俺には、ツクヨと言う名の双子の兄がいる。
 ちなみに俺はハルヒという名だ。
 少し変わった俺たちの名は、親父が付けたらしい。月の光が美しく照らす夜と、遥かなる陽の光、そんな意味があるらしいのだが、いったいどこの言葉だと訊けば、親父は首を傾げた。付けておいて分からないと言うのはどういうことなのか。
 まあとにかく、年相応に小さかった兄を、俺はよく抱っこして歩いた。親父は俺に厳しい鍛錬をさせるだけでなく、兄を守れとも命じたのだ。というのも、兄は母に――正確には祖父に激似だったのだ。
 普通、恋する種族は恋をして美しくなるのに、生まれた時からツクヨは美しかった。俺に辛く当たる親父もツクヨには甘かった。双子でこの差はないだろうというくらいに。母は俺を溺愛していたが、ちゃんとツクヨも可愛がっていたというのに!
 美しいツクヨは連れ去られる可能性もあったので、警戒しなければならないのはそうだが、中身が子供の俺にはその扱いの差がなかなか辛いものだった。
 ちなみに初恋のお姉さんだが、結婚してあっさりと仕事を辞めてしまった。俺は五歳にして失恋を経験したのだ。
 そんな幼少期を過ごし、ツクヨも徐々に成長していく。もしかしてこのまま普通に大きくなるのではないか、とも思ったが、ツクヨの成長は十歳を少し超えたあたりで止まった。半分とはいえ恋する種族、ツクヨも恋を経験しないとそれ以上成長しないようだった。
 ツクヨは俺を見上げてよく言った、「ぼくも早く大きくなりたいな」と。指をくわえてそう言われる時だけは、ほんの少しだが美しいツクヨに対して優越感を抱いたものだ。
 そして成人をもうすぐ迎えると言う頃、ツクヨも急激に成長した。
 ツクヨは誰かに恋をしたのか。だがいったい誰に?
 美しすぎる兄と魔力が不安定な俺は、滅多に屋敷の外には出なかった。では俺のように屋敷の使用人にでも恋したのか。
 しかしツクヨはふふふと笑うばかりで教えてくれない。その上「ハルヒは真面目さんだね」と小馬鹿にした態度で頭を撫でてくるのだ。
 いったいなんなのだ。
 なんとなくツクヨに不快感を覚え、と同時にあることに気づく。
 ツクヨから感じる魔力、それが安定している――。
 どういうことだ。体は成長しても、それだけなら魔力は安定しないはずだ。
 訝しげな俺に、ツクヨは「内緒」と微笑んだ。何か魔力を安定させるコツのようなものがあるのかと何度も訊くが、教えてもらえない。
 なんてケチなのだと俺はツクヨに怒った。安定させる方法があるのなら教えてほしいと足を踏み鳴らすが、よしよしと宥められるだけだ。
 くそ、ツクヨめ。
 俺は悔しさに奥歯を噛みしめた。しかし……。
 不思議なことに、数日したら安定していたツクヨの魔力が突然不安定になった。しかも俺と同じで、暴走を警戒しなくてはいけないほどの不安定さだ。
 どういうことかと眉を寄せる俺の前で、ツクヨ自身も首を傾げる。
 それからも、俺はずっと魔力が不安定、ツクヨは安定したり不安定になったりを繰り返し、二人そろって魔力暴走を防ぐ術をかけられ続けた。
 そんなある日――。
 親父が俺たちを呼んで、真面目な顔で話し始めた。母は王弟殿下の元にいる祖父のところに泊まりで出かけた、と。
 珍しいこともあるものだ。しかも今日は俺たちの誕生日、今日で成人なのにと思っていたら、来客があると教えられる。しかもそれが、俺たちの不安定な魔力を安定させる為に来てくれる女性たちなのだと親父は言った。
 不安定を安定させる……?
 まさか、と信じられない思いだったが、その信じられないことを親父はしようとしていたのだ。
 体は大きくなったが、お前たちは真に大人になったわけではない。魔力を安定させるにはこれしかない。万が一暴走でもすれば大変なことになるのだ。それにこれも男として必要な知識だ、と淡々と言い、親父は俺たちを女性の群れの中に放り込んだ。
 だから母を騙して泊まりに行かせたのか! こんなことを母が許すわけがない、それにこんな初めては嫌だ!
 と俺は抵抗する。しかし体は正直なもので、あっというまに陥落し、翌朝には心身ともに大人になって魔力も見事に安定していた。
 これで騎士学校に入れるな、と乱れた姿のまま茫然とベッドに座る俺を父が見下ろす。
 確かに魔力が暴走したら大変なことにはなるだろうが、これはあまりに酷い仕打ちではなかろうか。いや、気持ちよかったが、確かに気持ちよかったが!
 だがしかし――、と、そこで俺はツクヨのことを思い出した。
 そうだ、美しいツクヨは俺なんかよりももっとすごい目に遭っているに違いない。羨ましい! 違う、心配だ!
 親父を押し退けて慌てて部屋から飛び出せば、
「あれ? ハルヒ? 意外と元気だね」
 ケロッとした態度のツクヨがそこに居た。
「ツ、ツクヨ、ツク、ツク……」
「はいはい、驚いたね」
 ツクヨが俺の頭を撫でる。
 ……ん? なにかおかしいな。妙に落ち着いているその態度に俺は違和感を覚えた。
「ツクヨ?」
「なに?」
 戸惑う俺を親父が押し退けて、ツクヨの胸に掌を当てる。そして微かに眉を寄せて胸から手を離す。
「ツクヨ」
「なに、父さん」
「魔力が安定していないな」
 親父の言葉に、俺もツクヨも目を見開いた。俺には安定しているように感じるが、違うというのか。
 そんなことは……、と戸惑うツクヨに親父は言う、
「見せかけの安定と不安定、それを繰り返している理由は、恋もしていないのに不特定多数と肉体を繋げているからか」
 と。
 ふぁ!?
 唖然とする俺の前で、ツクヨが苦笑する。
「なんだ、知ってたんだ」
「知っていたことを知っていただろう。抜け出すのが上手く、逃げ足も速いな。だがもうやめろ」
「なんで? 少しでも安定した方がいいでしょう? それに体はちゃんと成長したんだし、そのうち魔力だって……」
「無理だ。恋を知らないままでは、いくら体を繋げても魔力は完全には安定しないし、お前は真の意味で大人にはなれない」
「でも恋って言われてもね……。よく分からないから」
「そのうち分かる。だからもう自分を安売りするような真似はやめろ」
「はいはい。分かったよ」
 信じられなかった。
「何故そんな……」
「だって、ぼくも大人になりたかったから。成長したぼくは、以前よりもずっと美しいでしょ? それに気持ちいいことが大好きなんだ」
 ツクヨはくすくすと笑う。
 親父は眉間にしわを寄せ、俺は唯々茫然とした。
 ちなみにその日帰ってきた母が、父が勝手に女性たちを呼んだこと――正確には祖父と王弟殿下と相談の上で決めたことらしいが――を知り大激怒。親父は母に縋りついて謝りたおしていた。






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