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こんなに大きくなりました 作者:佳絵

本編

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20 「臭いは元から絶ちましょう」

 ただいま、と言う声に、私は濡れていた手をエプロンで拭きつつ慌てて玄関まで行く。
「お帰りなさい、ガルディス」
「リズ! いい子にしていたか?」
「うん」
「今日は土産があるぞ」
 ガルディスが手に持っている大きな紙袋を軽く上にあげる。
「お土産!」
 何かな何かな? お菓子かな?
 ああ、そうだ。その前に変な男が来たこと言わなくちゃ。
「あのね、今日ね」
 話しながら手を伸ばせば抱き上げられる。
「変な……」
 言いかけた言葉が止まった。
 ……え。ガルディス、なんで急に怖い顔をしているの?
「リズ」
「な、なに?」
 うわ、声がもの凄く低い。怒っているの? なんで?
 ガルディスが目を吊り上げて訊いてくる。
「なんだ、この匂いは?」
 臭い? んん? お肉を焼いていた臭いが移った? でもそんなことで怒らないよね。あ、もしかして畑仕事したから汗臭くなった?
 私は襟を引っ張って自分の胸元を嗅いでみた。うーん、臭くないけど。じゃあ腋かな。それとも足?
 左腕を上げて腋の臭いを確かめようとしたら、
「きゃ!」
 いきなりガルディスが私の首に鼻を引っ付けてきた。そしてそのままふんふんと首を嗅ぎ始める。
 え? まさか臭いのは首? なんでそんなところが?
「リズ」
「はひ!?」
 うわ、声が更に低くなった。もうこれじゃ、ただの唸り声だよ。
「誰か訪ねてこなかったか?」
 え。ああ、そうだよ、それを言おうとしてたんだよ。
「変な男が来たの。レクって名乗ってたけど」
 ガルディスが舌打ちする。
「……やはりそうか。なにをされた?」
「なにって……。結界に手を突っ込んで稲妻と炎でぼろぼろになって、そのまま隣国の式典に行った」
 いろいろ省略している気はするけど、なんとなくそんな感じ。
「触れられたのか?」
「触れ……、うん、まあ。首の所を――」
「舐められたのか!」
 舐められてないよ!
 なんでいきなり舐めるって発想が出てくるの!?
「くそ! まさか奴が来るとは……!」
 ガルディスが大股で居間に行き、ソファに私を寝かせて覆いかぶさってきた。
 嘘、何この体勢。なんだかもの凄くときめくんだけど。
「俺のリズを舐めまわした上に、自分の香りを付けるなんて……! 許さんぞレク!」
 いや、だから舐めまわされてなんかいないから!
「首だけか? 他に何処を舐められた?」
 ガルディスが私の体を嗅ぎまわる。
 うわ、くすぐったい!
 笑ったら睨まれた。う、だって……。
 散々嗅いだ後、今度はお風呂に連れて行かれる。
「ガルディス、夕食は?」
「奴の匂いを消すのが先だ」
 ガルディスが微妙に視線を逸らしながら私の服を脱がせ、微妙に視線を逸らせたままタオルと石鹸を使って私を洗い始める。
 なにその『俺は全然見ていない』と言う感じの目の逸らし方は。絶対見えているのに。
「ガルディスは脱がないの?」
 着衣のまま風呂場で私を洗っているから、警備隊の制服が濡れてしまっている。
「俺はいい」
「一緒に入ろう」
「……もう大きいんだから一人で入れ」
 いや、これもう一人で入っている状態じゃないし。
 隅々まで洗われて、湯船の中に放り込まれる。
「ちゃんと百まで数えてから出てくるんだぞ」
「はーい」
 言われた通り百まで数えてから風呂を上がった。上がったけど……。
 しまった、着替えが無い。
 仕方なく全裸で二階まで服を取りに走ったら、背後から魔獣の断末魔のような声が聞こえた。
 だってしょうがないじゃない!
 二階で寝衣に着替えて下に降りる。
「リズ! 全裸なんてみっともな……、なんて恰好をしている!」
 え? お風呂入ったし、寝衣に着替えたんだけどいけなかった?
 ガルディスが大きな溜息を吐いた。
「無邪気な姿を見せてくれることは嬉しい。だがそういうところが周囲に付け入る隙を与えるんだ」
 ガルディスが玄関に戻り、そこに放り出したままだったお土産の入った紙袋を持って来る。あ、お土産のこと、すっかり忘れてた。中身はなんだろう。
 ガルディスが乱暴に紙袋を開け、中身を広げて私に羽織らせる。
 ふわりと肩に乗ったもの、それはガウンだった。
 薄くて軽い生地だけど肌は全然透けなくて、フリルが付いてるけど可愛い感じじゃなくて、すごく上品な雰囲気で素敵。
「これ、どうしたの?」
「取り寄せた」
 取り寄せ?
「リズに似合いそうなものがこの街には無かった。これは王都の王室御用達の店の品だ」
 王室って……。え。そんな凄いものなの?
「高いんじゃないの?」
「リズに似合うなら値段は関係ない。それよりメシの準備をしておいてくれ。俺も風呂に入ってくる」
 だからさっき一緒に入ればよかったのに。
 ガルディスが私を台所まで抱っこで運んで――と言っても台所まではほんの数歩だったのだが――お風呂に行く。
 食卓に既に出来上がっていた料理を並べていたら、ガルディスが戻ってきた。はや!
「百まで数えたの?」
「数えた」
「ごしごしした?」
「ごしごしした」
 ……まあいいや。
 椅子に座って食事にする。そして気になっていたことをガルディスに訊く。
「ねえ、あのレクって人、ガルディスの知り合いなの?」
 途端に不機嫌な表情になるガルディス。
「気になるのか?」
「まあ、一応」
 私が頷くと、ガルディスが小さく唸って答えた。
「騎士学校で首席だった奴だ」
 あ、そうなんだ。あの人が、へえ。じゃああの人も凄く優秀なんだね。
「もしかしてガルディス、あの人のこと嫌い?」
「いや、親友だ。……違う、親友だった。奴とは絶交だ。俺のリズに無許可で手を出した」
 手を出したって……、首をちょっと触られただけなんだけどな。
「奴は何か言っていたか?」
「えーと、結界が張ってあるって」
「…………」
 あ、黙り込んだ。結界のことは知られたくなかったのかな?
「ねえ、ガルディスって魔術が使えるの?」
「……騎士学校で習ったからな」
 魔術は魔力が無いと使えないから、習ったからって使えるものではない。ということは魔力持ちなんだ。
 ああ、そうだった。前に遠乗りに行ったときに私から魔力を感じるって言っていたっけ。魔力を感じることができるのは魔力がある人だけだったな。だから私は父さんが魔力を使って悪さをしていることは知っていたけど、父さんの魔力感じたりすることはできなかった。
「魔力持ちってあんまりいないでしょう?」
「そうだな」
 結構貴重なんだよね、魔力持ちって。
「魔術師にはならなかったの?」
「剣を振り回す方が性に合っている」
 ふーん。まあ、見た目からしてそんな感じだよね。
「あの結界凄かったんだけど」
「たいしたことはない」
 いやいや、稲妻と炎が渦を巻いていたよ。あれがたいしたことがないなんて、そんな筈はないじゃない。
「私を閉じ込めていたの?」
 ガルディスが首を横に振る。
「そうではない。リズを守るためだ。リズの可愛さに目がくらんだ者達が、俺の居ない隙を狙って接触を図ろうとする可能性があった。実際に何人かこの辺りをうろついていた者を追い払ったことがある」
 え……、そうなの?
「でもやりすぎじゃない?」
「ちょっと脅す程度だ。命までは取らないから問題ない」
「そ、そうなの?」
 がっつり命取りそうだったけど。ちょっと触れただけでレクが悲惨な状態になってたけど。
「奴は結界のことの他に、何か言っていなかったか?」
 他に? ええと……。
「ここを出て一緒に行かないかって誘われた」
「なに?」
「でも断ったよ」
 ガルディスの眉間の皺が深くなる。
「……あいつ、やはり絶交だ」
 ひええ、ガルディスの手の中でフォークが折れた。
 微妙な空気のまま食事を終えて、今日はいつもより早くベッドに入る。
 なんだか疲れちゃったと息を吐けば、
「リズ」
 私の隣に寝転んでいるガルディスが、天井を見つめたまま話し掛けてくる。
「奴と……、レクと一緒に行きたいか?」
 うん? それは断ったって言ったじゃない。
「レクと一緒なら、ここより安全で今よりもずっと贅沢な暮らしができる。それに奴ならリズを幸せにする力がある」
 んんん? なにそれ。
 私は眉を寄せてガルディスの横顔を見た。
「私、ガルディスと一緒なら幸せだよ」
「奴は俺と違って顔がいい」
「ガルディスの顔、好きだよ」
「奴は頭もいいし、強い」
「ガルディスも強いよ。強暴な魔獣を一人で退治したんでしょ?」
 商店街の人達が言っていたから知っているよ。
「いつもいい香りがしている」
「汗臭いのがいいの」
「何より夜の仕事が超一流だ」
 やっぱりそれが一番大事なの!? って、それよりなんでレクの夜の仕事が超一流って知ってるのよ。見たことでもあるの!?
「私を遠くに追いやりたいの?」
 ガルディスが弾かれたように顔をこちらに向けてくる。
「そんなことはない!」
 耳が痛くなるほどの大きな声。私も負けないくらい大きな声で言い返す。
「だったらなんでそんなこと言うの!? 私、何処にも行かないから!」
 そうして抱きつけば、
「リズ……」
 ガルディスの大きな手が私の頬を包む。
「すまなかった。レクに嫉妬した。奴は常に俺の上を行く存在だ、だから……」
 少しだけ劣等感を抱いている、とガルディスは告白する。その言葉を聞いて、ふと私は思い出した。
「でもレクは、ガルディスが羨ましいって言ってた」
「レクが……?」
 ガルディスは驚いた表情をして、それから目を伏せて「そうか……」と呟いた。
 温もりに包まれて、私は目を閉じる。
「リズ? 寝たのか?」
 声が聞こえるけど、返事ができない。そのまま夢の世界へと……ん?
 薄れていく意識の中で私は違和感を覚える。
 首筋に何か濡れた感触が……?
 なんだろこれ、まるで舐めまわされているような……。え、まさかね。
「リズ……リズ……」
 低く甘い囁きが聞こえる。
 狂おしいほどの熱を感じながら、私は眠った。






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