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KAYO
作:sagitta





 それからも、あたしとカケルのやり取りは続いた。
 カケルもだんだんとあたしに心を開いてくれたのか、少しずつだけど自分の話をしてくれるようになった。サッカーが好きで、高校のサッカー部でディフェンダーをやっていることとか、休日には何キロも歩いて、知らない町を見てまわるのが楽しみだとか。
 あたしはカケルと本当の友達になれた気がして、すごくうれしい気分だった。もっとカケルと色々なことを話したい、とより一層思った。
 一度きっかけを作ってしまえば、あとはどんどんエスカレートしていくものだ。あのメール以来、あたしは次々とカケルに「本当の悩み」を打ち明けていった。グループを作る、クラスの女の子たちの雰囲気になじめないこと、友達とうまく話題を合わせられないこと、喋るときに思わず口ごもってしまうこと。
 そのたびにカケルはいつもの素っ気無い、でも優しい言葉であたしを励ましてくれた。カケルはいつも、こう言っていた。
「完璧を求めなくていい。人と同じじゃなくてもいい。欠けている所がある自分を、ありのまま受け止めればいいんだ」
 カケルは本当のあたしを知らないはずなのに、その言葉はあたしの心に深く沁みこんでいった。カケルの言葉はあたしを、殻に閉じこもっている現実のあたしを許してくれるような、そんな風に感じられた。
 だからあたしは、行動することにしたんだ。
 カケルに励まされて、殻から出ることができるような気がしたから。
 冬休みが終わった1月のはじめのある日の朝、あたしは約半年ぶりにブレザーの制服に袖を通した。

   *  *  *  *  *

 強く握りしめすぎて指の跡がついてしまったカバンを乱暴に放り出して、崩れるようにあたしはベッドに座り込んだ。目の当たりにした現実は、あたしの心を粉々に打ち砕いていた。
 何を勘違いしていたんだろう? あたしはあたし。駄目で冴えないあたしのまま。何も変わってなんかいなかったのに。突然学校に行ったからって、人が変わったように明るくなって、みんなと仲良く笑顔でおしゃべりできるとでも思ったのだろうか?
 現実は、残酷だった。
 半年ぶりに学校に行ったって、あたしに居場所なんてあるはずがない。たくさんのクラスメイトの中で、自分の孤独を思い知るだけだった。
 周りのみんなは、腫れ物に触るようにあたしに接した。白々しい笑顔が、何よりも雄弁にその心の中を語っていた。
 今頃何しに来たの? ずっと引きこもってればいいのに。
 こいつの相手するのめんどくさいんだよね。またおどおどしちゃってさ。
 そんな声が、聞こえてくるようだった。
 いつの間にか、涙があふれていた。
 「大丈夫?」という、クラスメイトの声。あたしには、「まためそめそしちゃって、キモチワルイなぁ」と聞こえる。
 いられない。ここにはいられない。あたしは無我夢中で教室を飛び出していた。
 すべて、幻想だったんだ。
 考えてみれば当たり前のことだった。
 カケルが励ましてくれたのは、許してくれたのは、あたしじゃない。KAYOだ。あくまでも架空の存在である、KAYOだったんだ。あたしは、現実のあたしはこんなに駄目で、こんなに醜い存在なのだ。許されるはずがない。
 悲しいのでも寂しいのでもなく、ただ惨めで、認められたと思い込んで一人で舞い上がっていた自分がただひたすらに惨めで、あたしは声を殺して泣いた。いつまでもいつまでも、泣き続けた。
 その時。澄んだ電子音。
 パソコンのメールの着信音だ。
 こんな日でもあたしは、帰ってくるなり無意識にパソコンを起動していたらしい。
 誰もいないこの部屋は寒くて、凍え死んでしまいそうになるから。だからあたしは、温もりを求めたんだろう。
 馬鹿だ、あたしは。パソコンの暖かさなんて、ディスプレイの温もりなんて、ただの機械の排熱に過ぎない。こんなのは温もりなんかじゃない。偽物だ。そんなのわかってるのに。
 わかっていても求めずにいられない、そんな自分が可笑しくて、あたしは少しだけ笑った。渇いた笑いはあたしの心を、少しも暖めてはくれなかった。

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<受信トレイ>
送信者:カケル   件名:無題   受信日時:2005/01/08 14:27
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 ディスプレイには、そう表示されていた。虚ろな気分なまま、メールを開く。

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送信者:カケル
受信日時:2005/01/08 14:27
件名:無題
本文:
KAYO、元気か?
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 それはカケルの、いつもの挨拶だった。普通に挨拶するのが苦手だと言う彼は、いつもそんなメールで挨拶の代わりにしていた。
 だけど、あたしにはその言葉が性質の悪い皮肉に見えた。カケルが「KAYO」に向かって親しげに話しかけているのがひどく腹立たしくもあった。カケルはあたしのことなんて何も知らないくせに。知っているのは「KAYO」。実際には存在しない架空の人物。偽物のあたし。
 あたしはパソコンに向かった。考えるよりも先に、指がキーボードを叩いていた。そのまま、送信ボタンを押す。
 あたしが送ったのは、こんなメールだった。

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送信先:カケル
送信日時:2005/01/08 14:29
件名:Re:
本文:
あたし、死ぬことにした。
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