私は、天国から追い出された。
翼が黒いから。
私は気がついたらそこにいたの。
天国に。
けれど、みんなの翼は白かった。
黒いのは私だけ。
私は、地獄にいるべきなのかもしれない。
地獄へと黒い翼を持った天使は向かう
「地獄は、ここですか?」
「ああ、そうだよ」
入り口には、鬼やら悪魔やらが逃げ出すものがいないよう見張っている。
何が逃げ出すのか?
鬼や悪魔自身だ。
自分自身が逃げ出さないように、見張っているのだ。
「私は天使ではなく悪魔のようです。
ほら、見てください。翼が黒いでしょう?
地獄に、入れてください。」
鬼は首を振りつつ答えます。
「違うね。君は美しい。
地獄のようなおどろおどろしいところは君には似合わない。
君のいるべき場所はここではないよ。」
「そんな!じゃあ私はどこに行けばいいというのです?」
「知るわけがないだろう?少なくとも、ここじゃない。」
「天国と地獄、この二つに拒まれれば行く場所などないのに。
一体どうすればいいんですか?」
「新しいところをつくれば?」
「…それは、難しいでしょうね。
でも、そうするべきなのかもしれません。」
黒の天使は、新しいところを創ることに決めました。
まず、天国と地獄の間にお湯をザバザバ撒きました。
それは湯気となり、霧となり立ち込めます。
黒の天使はそこに、天国から偽善と喜びを、地獄から悪意と救いを持ってきて投げ入れました。
それはくるくると交じり合います。
だんだんだんだん一つになっていきます。
何かが足りません。
このままでは、黒の天使自身の様な、天国でも地獄でもないけどどちらかでしかないものしかできません。
黒の天使は悩みました。
一生懸命考えました。
そこで、黒の天使は思いつきます。
そして、考えることを霧の中へと与えます。
霧は晴れ、現世が完成しました。
大地は自ら考え、生き物達を生み出します。
空は自ら考え、雲の形を変え続けます。
海は自ら考え、いろいろなものを作ります。
黒の天使様は喜びました。
ずっとずっと、眺め続けました。
すると、大地が何かを生み出しました。
天使のようで羽はなく、悪魔のようでずっとひよわです。
黒の天使はいろいろ考えて、人、と名づけることにしました。
人はそれまで生み出された動物と違い、自ら考えます。
そして、偽善と喜びと悪意と希望に満ちています。
一人の中に、二つの地獄と二つの天国を持っているのです。
大地と空と海は、困惑しました。
これは、現世にいるべきものではないと、怒ります。
けれど、黒の天使はそうは思いません。
だって、自分の考えた現世、そのものだからです。
怒ることなど、できません。
けれど、人はとても恐ろしいものでした。
偽善で悪意を包み、思考で悪意を膨らませます。
そして、物を作ることができました。
さまざまな、武器や道具を。
大地と空と海は恐れをなして、人に寿命を与えて、生れ落ちてしばらくしたら消え去るようにしました。
黒の天使はそれをみて、ますます人に愛着を覚えました。
だって、人も自分と同じように、自分のあるべき場所から追い出されたんですから。
黒の天使は人が消え去らないように、自分の座っていた場所に、もう一つ、新しいところを創りました。
そこを創るのには、なんにもいりません。
だって、人のための場所です。
彼らは勝手に物を作るから、ただ、広い広い場所だけあればいいのです。
やがて、人は続々と黒の天使の元へとやってきます。
黒の天使は何にも言わず、彼らのすることを眺め続けているのです。
人は今日も、物を作り、仲間を殺し、仲間を助けているのです。
救いの先に偽善を、悪意の先に希望を見つめて。
さらにその先にいる、いや、人の後ろで微笑んでいる、黒の天使に感謝して。
そして、いつの間にか黒の天使を追い出した天国は、地獄と重なり始め、とうとう一つになりました。黒の天使は困惑しましたが、これでよかったんだと感じます。
だって、ほら、見てください。
あそこに、みえますか、あそこに、新しい天国ができつつあるのだから!
さあ、皆さん讃えましょう。
美しい、黒の天使を。
彼女は何者も拒みません。
なぜなら彼女も、自分の居場所が無いのだから。
微笑みかけてきたものに追い出されたのだから。
ああ、ああ、ああ!
なんて美しいのでしょう!
神も悪魔もこの美しさを理解できぬとは! |