158.蘭ボー〜怒りの脱出〜
目が覚めたら……自分がどこにいるかも分からない
と……そんなことを体験する人間は希だろうが
しかし 毛利蘭は今まさにそんな状況の中に置かれていた
街を歩いていたところまでは記憶があるのだが
その先がどうにも思い出せない
ただ……手足が縛られているので
どうやら「誰かにさらわれた」と考えた方が良さそうだ
では誰に?
答えはすぐに出た
蘭が閉じ込められていた部屋に
人相の悪い男達が入ってきた……
第158話 蘭ボー〜怒りの脱出〜
「やあ……わざわざ来てもらって済まなかったねぇ」
蘭の目の前で 男はペコリと頭を下げながら言った
一見丁寧な対応に見えるが
それからは誠意の欠片も感じられなかった
「あなたみたいな人が私に何の用ですか?」
蘭は聞いた
男の顔はテレビで何度か見たことがある……
たしか衆院議員の篠上康栄だったか?
蘭は自分とは別世界の人間だと思っていたので
こうして拉致されている意味が分からなかった
「いやねぇ……君のお母さんいるだろう?
妃英理弁護士……とても優秀な弁護士先生だねぇ
今まで裁判で負けたことがないそうじゃないか」
「……それが何ですか?」
「うん……それがねぇ……
実は妃先生が今弁護を担当している裁判なんだけど
妃先生に勝たれると私がすごく不利益を被ってしまうんだ
だから妃先生にはこの件から降りて欲しいんだけどねぇ」
「どうせ悪いことしてたのがバレるからでしょう?」
「うん……ぶっちゃけた話そうなんだ
でもほら? 妃先生はご立派な方だろう?
いくらお金を積んでも私のお願いを聞いてくれないんだ
だから娘の君からお願いしてもらいたいんだよ」
「私だって嫌ですよ」
「大丈夫だよ
すぐに『助けてママ』って言わせて上げるからねぇ
それじゃあお前達……」
篠上は男達に目配せをした
何かを承知したのか 男達はヘラヘラと笑う
それを見届けると篠上は部屋を出て行った
「それじゃあ始めるか」
篠上と入れ代わりに
ビデオカメラを持った男が入ってきて言った
「まったく……蘭さんはどこに消えてしまったんですか?」
フリーザ様はため息をついた
三日前……
フリーザ様は蘭に人気サーカスのチケットをもらう予定になっていた
その日の朝 蘭から『今から持っていく』というメールも受けていた
しかし……それ以降蘭は行方知れずだ
フリーザ様はチケットの失踪にイラ立っていた
「でも 江戸川君の話だと家にも戻ってないらしいから
きっと何かの事件か事故に巻き込まれたと考えた方が良いわね
まあ……どうせ事件なんでしょうけどね」
哀はあくびをしながら言った
どうせコナンやその他が解決するだろう……
と……そう考えながら
しかし その不真面目な態度にフリーザ様は憤った
「何を言ってるんですか!
蘭さんはどうせコナンさんが救出するでしょうけど
チケットはどうするんですか!
『チケットはダメだったけど蘭が無事だったから……』
っていうパターンだったらどうするんですか!」
「そんなこと知らないわよ……また貰えば?」
「あのサーカスは人気すぎてチケットの入手が困難なんです!
今回だって蘭さんの知り合いであるアイドルの
沖野ヨーコさん経由でやっと手に入れたんですからね!
まったく! 蘭さん! どこですか!」
フリーザ様は怒りに任せて怒鳴った
すると通行人の一人がビクリと肩を震わせた
フリーザ様はその反応を見逃さない
足早に立ち去ろうとするその人をパッと捕まえた
「今の反応……さては何か知ってますね!?」
「あなたが大声出すから……ってわけでもなさそうね」
偶然か……
それは帝丹高校の制服を着た女子高生だった
フリーザ様は厳しく追及する
最初は黙っていた女生徒だったが
ついには泣き出してしまった
「ごめんなさい……私のせいです……
私があんなことしなければ……
ごめんなさい……
私のせいで毛利さんはさらわれたんです……」
「何ですって!? さらわれた!?」
女生徒の名前は沢由津紀
彼女は三日前……街であった蘭に薬をまぜたジュースを飲ませたそうだ
ほんの嫌がらせのつもりで……
中身は下剤だと聞いていたらしいが
ジュースを飲んだ蘭は突然眠ってしまったらしい
「そしたら……突然薬をくれた人たちが現れて……」
『よくやってくれたねぇ……これはお駄賃だよ』
そう言って男は由津紀に札束をよこした
そして 続けて彼女の耳元で囁いた
『他言は無用だ……君の人生を無駄にしたくはないだろう?』
「そう言って……毛利さんを連れて行っちゃったんです……」
「そうですか……よく話してくれましたね
で? 私のチケットを持ち去ったその不届き者はどこの誰ですか?」
一方その頃
蘭は男の構えるビデオカメラのレンズとにらめっこをしていた
その怯えきった表情を眺めながら
男達は「どうしてくれようか?」とあれこれ思案する
と……一人の男が蘭の胸を見下ろした
「ったく……最近のガキは発育が良いな……
なんて生意気なおっぱいだ!」
「確か……殺す以外は何しても良いんだよな?」
男達は一斉にニヤニヤと笑い出す
蘭は男達の考えていることが分かりゾッとした
「おい! 俺カメラ係嫌だぜ!」
「うるせぇな……みんな嫌だっつーの」
「三脚持ってくりゃ良いだろうが」
「そうだな……
三脚取って来るからそれまで始めるなよ!? 絶対始めるなよ!?」
男はそう言ってビデオを置くと部屋を出た
蘭は必死で身をよじって逃げようとするが適わない
そのうち男の一人が鬱陶しく思ったのか
蘭を足蹴にした
「大人しくしろガキが!」
蘭は悔しさと痛みで涙を流した
そして思うのは こんな時いつも助けてくれた幼馴染……
「助けて……新一……」
しかし……
蘭が呟いたその名前を聞くと男達はさらに笑った
「そうだったな……お譲ちゃんあの高校生探偵に片思いしてんだったな」
そう言いつつ 男は蘭の髪を掴んで顔を上に上げさせた
そしてニタニタと薄ら笑いを浮かべながら続ける……
「実は俺達は工藤新一の彼女からも頼まれてるんだよ……
あの生意気な幼馴染を痛い目に遭わせて欲しいってな」
蘭は呆然とした
わけが分からなかった
別に付き合っているわけではなかったが
でも……「待っていて欲しい」と言われた
帰ってきたら……
きっと幼馴染以上の関係になれると
少なからず期待していた
なのに……
蘭はパニックになった
自分がこんな目に遭っているのに
新一は助けに来てくれない
どころか……グル……?
分からなくなった
頭の中で色々な感情が全部ごちゃごちゃになり……
「新一……!」
怒りの炎となって燃え始めた
刹那……蘭の髪を掴んでいた男は後ろに吹っ飛んだ
さらに別の二人も同時に鼻血を噴出して倒れる
もう一人の男は唖然としつつ床を見た
蘭を拘束していた縄が千切れ飛んで散乱している
と……ボーっとしているうちに
男は蘭に体を掴まれると
そのまま振り回され……
壁に叩き込まれた
「お待たせ〜! 三脚持ってきたぞ!」
部屋に戻って来た男……
だが次の瞬間腹を正拳突きの連打が襲う
息ができなくなって男は床に突っ伏した
が……蘭は容赦することなく
その側頭部をサッカーボールのように蹴る
男は低いうめき声を上げると気絶した
部屋にいた男達は全滅……
しかし蘭の怒りは治まらなかった
「マードック……じゃなかった
新一……殺しに行くから待ってなさい!」
蘭は決意を新たにすると廊下に出た
警備に当たっていた男達が慌てて銃を取り出す
が……蘭は引き金を引く暇すら与えず
男達を次々倒していった
これは堪らん!
慌てた男達……今度はドーベルマンを連れてくる
鎖を外し……蘭を襲うようけしかけた
利口なドーベルマン達だ
主人の言うとおりに まっすぐ蘭に突進する
「ギャン!」
甲高い声が響いた
可哀想にドーベルマン……
蘭に蹴り飛ばされ 壁に当たって動かなくなってしまった
男達はただ何が起こったかもわからず立ちすくんだ
気がついたときはもう手遅れ
蘭の拳が顔面に突き刺さっていた
男達が動かなくなったのを見届けると
蘭は廊下の置くに立派な扉を見つけた
「ここかぁー!」
扉を蹴破る
するとそこには呑気に椅子に腰掛ける篠上が一人だった
「なんだいお譲ちゃん!?
どうやって抜け出して来たんだい!?
おーい! 誰かー!」
篠上は叫んだ
が……その首を蘭が捻り上げる
万力のような力……
首の骨がギシギシと音を立てた
「マードック……じゃなくて新一はどこ?」
「し……知りません……!」
さらに力がこもる
もう首が折れてしまいそうだ
「本当……本当に知らない……!
リアルに……! リアルに……!」
「小悪党が……あんたは用なしよ!」
蘭は篠上の腹に膝蹴りを叩き込むと解放した
そしてトタトタと走って去っていく
その背中を咳き込みながら見送ると
篠上は外の警備を担当している部下達に通信を入れた
「私だ! 小娘が逃げた!
絶対に……絶対に生かして帰すな!」
外にある見張り台で 男は通信を受けた
やれやれ……
ため息をつきつつ……男はライフルについたスコープを覗く
目の前に広がるのは篠上が所有する別荘とそれを囲む森……
木々の間を慎重に探る
小娘はどこだ?
と……その時だった
「すみません」
男は不意に声をかけられたので驚いて振り返った
目の前にはビジュアル系の奇抜な男
それと茶髪の女の子がいた
「ここに毛利蘭さんという方は来ていませんか?」
「……! 小娘の仲間か!」
「ここのようですね……ありがとうございました」
フリーザ様はお礼を言うと男を殴り飛ばした
男は思いっきり吹き飛ぶと別の見張り台にいた男を直撃……
二人仲良く地面に墜落していった
「さて……チケットを回収しますか」
「蘭さんもね……」
フリーザ様は哀を抱えると
篠上の屋敷に向かって飛び立った
と……ちょうどその下を蘭が走り抜ける
木の陰に隠れ……見張り台を伺う
「何だ……誰もいないじゃない……」
これ幸運……
蘭はしめしめとそのまま走り出した
さて……目指すは新一……
事件だ何だと言いつつ恋人をこさえ
影で自分のことを笑っていたに違いない!
蘭は怒りの炎をエネルギーに一気に森を駆け抜けた
「毛利さん!」
そこに待っていたのは由津紀だった
「え? 沢さん? どうしたのこんな所で……?」
蘭は思わぬ学友との遭遇に驚いて立ち止まった
そんな蘭に……由津紀はゆっくり歩み寄る
「私……工藤君にね……告白したの!
『好きだ』って……
でも……フラれちゃったんだ……
でね! 思ったの!
『工藤君の心を独り占めするあなたが憎い』って……
妬ましくて……悔しくて……
思わずそのことブログに書いたの
そしたらあの悪い人たちがそれを見て……
『手を貸してくれれば痛い目に遭わせてやる』って……
私……悪魔の囁きに負けちゃって……
あなたをこんな酷い目に……ごめんなさい!
許してもらえるとは思ってない!
どんな罰でも受けます!」
由津紀は顔を上げて……歯を食いしばった
蘭に殴られても良い……
いや……殴られて当然だ
殺されても……構わないとすら思えた
「やめろ蘭ボー! 殺すな!」
トラウトマン大佐は蘭に向かって叫んだ
しかし……
蘭は首を横に振ると「ふっ」と微笑んだ
「なーんだ……そうだったんだ……」
蘭は静かに由津紀に歩み寄り
そして彼女の肩を抱いた
それを見て トラウトマン大佐はまた叫ぶ
「やめろ蘭ボー! 殺すな!」
「殺しませんって……」
蘭はそう言うと優しく由津紀を抱きしめた
「ありがとう……助けに来てくれたんでしょ?」
「ごめんなさい毛利さん!……ごめんなさい!」
「大丈夫……大丈夫だよ……」
「やめろ蘭ボー! 殺すな!」
「っていうか誰なんですかあなたは!?」
その頃……
部下達からの連絡が無く
通信も途絶えてしまったことに篠上はイラだっていた
と……その時
ガタッと音がした
部下が報告に来たのかと思い
篠上は扉のほうを見る
「おや……蘭さんではありませんね……」
そこにいたのはフリーザ様だった
「だ……誰だね君は!?」
振り向いて人差し指を突きたてながら
篠上はフリーザ様に尋ねた
するとフリーザ様はその胸ポケットに気づいた
紙切れの先が顔を出している……
フリーザ様は篠上に近づいてそれを抜き取った
「おぉ! これぞまさしく!」
それはサーカスのチケットだった
蘭が持っていたのを 篠上が何となく抜き取っていたのだ
「これにて一件落着!」
「待ちなさいよ……蘭さんが見つかってないでしょ?」
「うるさいですねハイバラさんは……
で? 蘭さんをどこへやったんですか?」
フリーザ様は唖然としている篠上に聞く……
「逃げてしまったんだ! 私が知りたいくらいだよ!」
「そうですか……」
フリーザ様はそれだけ言うと篠上を殴りつけた
その体は窓を突き破り
遥か彼方まで吹っ飛んでしまった
「今度こそ一件落着で良いですか?」
フリーザ様は哀に聞いた
哀は篠上の飛んでいった方を見る
篠上は夕暮れの空の中でキラリと輝く一番星に……
それを見ると 哀はやっと口を開いた
「一件落着」
「では帰りましょう」
続く
正直、タイトルがやりたかっただけです。
反省はそれとなくしてます。
それはそうと雨ですね。
梅雨ですね。
ジメジメしていて嫌な季節です。
でも入道雲と夕立の香りが好きだったりします。
ただ、どうしても納得できないことが……。
「つゆ」って「梅雨」って書くじゃないですか?
なぜ梅の雨なんでしょう?
梅なんかとうに散ってしまったと言うのに……。
しかし梅雨とは……どういうことなの?
納得できません!
教えて梅雨前線!
梅雨「ググれカス」
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