アイムロスト。どうやら迷ってしまったらしい。
さっきから同じ道ばかり通っているような気がする。あの家も、こっちの家も、見たことあるような、ないような。
太陽は真っ赤になり、夜の闇に隠れることを予告している。周りは少しの坂と、同じような家ばかり。僕は迷ってしまったようだった。
僕は今晩、たくさんの家の前で膝を畳んで寝るのかなぁ。ひとごとみたいにぼんやり思う。いつだってそうだ。実感なんて湧いたことがない。
誰かが、肩をつついた。恐くもないのに僕の身体はびくっと震えて、物凄い速さで振り返った。
少女が立っていた。膝までのワンピースに大きい帽子。少女というイデアがそのまま現実に現れたように、少女という言葉にぴったりはまる女の子だった。
少女は僕の腕を掴んで歩き出した。なぜか僕は抵抗できず、少女の思うままになっていた。
少女が行き着いたのは、迷い込んでいる住宅街の中の家の一つだった。少女はドアを引き、僕を家へ入るように促した。僕は指示に従った。従うしかなかったのだ。
僕は少女から一つの部屋を貰った。中央にベッドが一つ。少女は穏やかに部屋の扉を閉め、他の場所へ向かっていった。
僕はとても疲れていたので、与えられたベッドですぐ眠ってしまった。睡眠薬は飲まされてないよなとか、明日お礼を言おうとか、考えながら。
朝は窓から射す初々しい太陽の光と、小鳥が囀る音で目覚めた。
ぼやけていた瞳が覚醒し始めた時、太陽の光の中に少女の影を見付けた。
「おはよう」
僕が言ったら、少女が微笑んだ気がした。
僕は素早く支度をして、部屋を出た。
「泊めてくれて、ありがとう」
部屋を出る際、昨日から考えていた言葉を言った。その言葉に少女はただ頷いた。
玄関のドアまで行くと、少女は僕に手を振ってくれた。僕も笑顔で振り返し、玄関のドアを抜けた。
光の世界が僕を迎える。辺りは似ている家がたくさん並ぶだけ。
アイムロスト。どうやら迷ってしまったらしい。大丈夫。夜まで時間はある。アイムロスト。僕はどうやら迷っているらしい。よく考えてみたら、僕はあの少女の声を一度も耳にしていない。 |