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時の軌跡(宣伝用)

作者:佐藤つかさ
注意事項。

あらすじでも表記しましたが、この作品はなろう小説作品の宣伝として書いた作品です。
既存する最新話の部分までを参考にしているので、のちのちの展開と食い違う部分が発生すると思います。
――てゆーか、作者視点の勝手なイメージや解釈が思っきし入っているので「あれ? これキャラ違くね?」と思う部分が多数見受けられると思います。

それでも大丈夫という方は、先をお読みくださいませ……。

(追記)1/4 加筆修正しました。
『最後の審判』

 原因も詳細も、何ひとつ把握されていない謎の怪現象。
 二年前に起こったそれは人々の命をたらふく呑み込み、残りの命を溢れる瘴気で狂わせ、さらにわずかに残った人々の――その先にあったであろう未来を消し飛ばしてしまった。

 瘴気――
 霧のように立ちこめ、泥のように全身にまとわりつく不快なそれは人々を蝕み、やがてやがて人でないものへと書き換える――治らぬ病。

 生き残った国の名はトランシールズ。
 大陸の端っこにあるこの国が、世界の中心となった。

 くるくるくるり。
 呑気に太陽はワルツを踊る。二年前から――それよりもずっと前からも――何も変わらず回り続ける。
 そして、この国で生きる人々の運命の歯車もまた――……。






――時の軌跡――






「神様って、いると思うかい?」
 旅の途中で、黒づくめの相棒がそんなことをたずねてきた。
 世間話のような気軽さで、だけど意地悪な謎解きのように難解で……。
「そりゃぁ……僕はいると思うけど。みんな祈りを捧げるのは神様が『存在』してるからだろ?」
 だから彼女――ユダは少しだけ考えて自分の答えを相棒に投げかけてみた。
 だけど相棒の返事は、出来の悪い生徒をなだめるようなため息だった。 
「人は困れば何にだってすがるんだよ。わらにだって、神様にだってね」
「神様を藁扱いするのって、どうかと思うんだけど……」
「失礼だね君は。藁は牛の餌になるし、薪の火種にだってなるんだよ? あんな雲から眺めるしかできない無能と同列に扱わないでほしいね」
 どれだけ自信過剰なんだか。きっとこの男の自信は底なしに違いない。ユダは本気でそんなことを思っていた。

 それから相棒は、少し悲しそうに告げた。



「きっと、この世に神様なんていないんだよ。……たぶんね」



 ■ □ ■ □ ■



 夜闇に濡れた暗い森。
 生い茂っているのは草木に相違ないだろうが、草木にそこまで関心を持っていないユダにまで『変だ』を感じさせて余りある異常さを備えていた。

 そのユダの視界が泥で埋まる。
 ユダの真上を覆う泥の色は緑。異形のなれの果て――隷鬼スレイヴと名づけられた化け物だ。
 水飴のように汚泥のように、形というものを持たぬ怪物――皮肉にも、ある意味『異形』と名づけられるに最もふさわしいそれはゆっくりと、しかし確実にユダの体へと落下しつつあった。

 追われる過程で足を傷つけ、疲弊ひへいで鉛のように重くなったユダの肉体は、防御を拒否している。
 逃げようのない絶望が、彼女に覆いかぶさりつつあった。

「きゃああああっ!」
「騒ぐなよ。クールに行こうぜ」

 ユダの視界を新たに埋め尽くしたのは、緑の泥ではなく――金の髪。
 濁った空気からかすかに香るのは――カクテルの匂いだろうか?
 突然の来訪者は、ユダの前――さらに正確に言うならユダと隷鬼スレイヴの間――に割り込むや、腰に提げていた両刃剣ロングソードに手をかける。

 抜いた銀の刃から軌跡が広がる。
 実用性を損なわない程度に装飾されているその刃は、炎の紅でしどと濡れていた。
 刀が炎をまとうなど、物理現象ではありえない。だとしたらこれは幻? それとも夢?
 違う。ユダは悟る。これは魔法だ。
「……まさか、魔剣士なの!?」
「トランシールズきっての不良魔剣士サマだけどなっ!」
 来訪者は楽しげに刃を振るって、捕食者に叩きつける。
 その動きは洗練された剣術でもなければ、鍛錬された武術ですらない。
 どちらかと言うと――そう、あえて例えるなら――不良の素手喧嘩スデゴロにも似たでたらめな動き。
 だけどそれゆえに、振るう力は折り紙つきの破壊力があった。
 隷鬼スレイヴは、まるで馬に跳ねられたかのように吹き飛ばされ、そのまま大木へとその身をしたたかに打ちつけてしまう。

「っは。ホームランだな」
 男は端正な顔をゆがめて、子供みたいに無邪気に笑ってみせた。自分の愛刀をバットよろしくくるりと回してみせながら。
「…………」
 ユダは半ば呆然としながらこの男を見つめていた。
 動きはでたらめ。口調は粗野で乱暴。
 魔剣士というものに初めて出会うユダにさえ、この男は普通と違うと分かるくらいに破天荒な存在だ。
 だけど思う。
 この男といれば大丈夫、そう思わせる頼もしさが彼にはあった。

「怪我はねぇか。チビ助」
 …………。前言撤回。この男に見る目は無いらしい。

「チビ助じゃない。僕の名前はユダだ」
「ユダっていうと、『裏切り者』って意味か?」
「それって失礼じゃないかな?」
「冗談だよ。俺の名前はサイ。『イケてる男』って意味だ」

 サイと名乗った魔剣士は楽しそうに笑う。
 実際、楽しんでいた。
 たまらない。文句なしに。
 真夜中に美女。しかも異形に襲われていて、それを自分が助けている。
 まさに最高のシチュエーション。男なら、悦んで飛びこみたくなるというものではないか。

 サイの視線は、偶然飛び込んできた彼女に心奪われているという様子だった。
 だから、気づけなかった。
 自分の横から襲いかかる隷鬼スレイヴに……。 
 いや、正確には――

「デバガメは野暮だろ?」

 もう興味を持っていなかったと言うべきか。
 人の恋路を邪魔する輩は馬に蹴られて死んじまえ。
 この格言を忠実に実行したサイは、魔力をたっぷりこめた刃をためらいなく怪物へと振り抜いた。 



 ■ □ ■ □ ■



 振り抜いた大剣を静かに降ろす。
 その大剣は、異様だった。
 精錬された、神秘性さえ感じられる装飾でありながら、見るものに絶対的な死を予感させる禍々しさ。
 刃渡りだけでも、持ち主の半身に匹敵する長大さ。
 諸刃の刀身は分厚く、並々ならぬ重厚さをかもし出している。
 牛すら一振りで屠れそうなその大きな剣を、彼は片手一本で軽々と構えてみせた。

 重厚な鎧を身に付け、その装備にそぐわぬ端正な顔立ちの青年。
 その青年の名は――
「トランシールズ王国守護騎士(ガーディアン)カイル、これより加勢する」

 相手の返事は咆哮ほうこうだった。
 カイルよりも、彼が手にしている剣よりも一回りも二回りも――否、ひょっとしたら家一軒くらい呑みこめそうなくらい大きな怪物。
 三つ首の魔獣――ケルベロスだった。

 地獄の魔犬が、高らかに唸り声を上げる。
 それはまるで、地獄の釜底かまそこのように熱い声。
 真正面から受け止めるカイルは、何を思うだろう。

 その答えは、彼の口から漏れて出た。

うるさいぞ」

 地獄すら凍てつかせる絶氷ぜっひょうの息吹。
 彼は声を荒げない。ただ静かに、構えた剣先を上げるだけ。
 自分よりも大きな怪物を前にして、彼は驚くほど冷静だった。
 それなのに――

「部下を喰ったのはその口か?」 

 その声にどうして『怒り』を感じるのだろう。
 カイルは、横一文字に剣を振り下ろす。
 大気を、塵を、自分のいる石畳すらも切り裂く勢いで振り抜いてみせた。
 ケルベロスの頭ごと。

 解剖の標本にしてもいいほどの見事な切り口を広げ、ケルベロスは高らかに鳴き叫ぶ。ただし、痛みに打ち震える悲痛な声で。

 だけど、これではまだ足りない。

「……レヴィン。援護しろ」
「言われなくとも」

 カイルの背後にいた男が軽くうなずく。
 異国の法衣を来た銀髪の男は、黄色の札に朱色の文字が書かれた護符を何枚か取り出し、それを空に撒いてみせた。
 はらりはらりとこぼれる金色こんじきの雪。それらはケルベロスの頭上で妖精のように呑気に蕩浮たゆたい――残酷な笑みを浮かべた。
 護符だったものは、いっせいに針のような形へと姿を溶かし、まるで合図でも決めていたかのようにケルベロスの皮膚へと喰らいつく!

 百の針を弾かれてもかまわない。千の針で突き刺してしまえばいい。
 万の針でさらに抉ってしまえ。 
 億の針で恐怖を刻みつけろ。

 あっという間に、ケルベロスの全身が突き刺さった針で埋め尽くされる。苦しそうに身を捩じらせるたびに、カチカチと針同士がこすれあう不快な音が響いた。

「……レヴィン。乱れ撃つな。『狙い撃て』」
「すぐやるさ」

 そうつぶやいて、レヴィンはもう一度護符を空に落とす。
 空上に浮かぶはやはり針。

 否。何枚もの針が寄り集まって膨らんだそれは、まるで『槍』
 頑丈な城の正門扉すら崩せそうなそれが、自由落下とともにケルベロスの頭上へと突き落とされた。
 頭蓋骨をやすやすと突き破り、そのまま舌を抉って顎を砕き、地面へと埋没していく。
 見ているだけで吐き気を催すような凄惨な光景であった。
 もはや立っていることも出来なくなったのか、そのまま膝を落として地面へと打ち崩れる。
 痛みに泣き叫ぶケルベロスの、その惨めな姿たるや。そこにもはや、怪物としての矜持きょうじはない。
 これで無傷な首はたったひとつ。

「すご……」
 この光景の一部始終を眺めていたユダは、思わず感嘆の声を漏らしていた。
「東で学んだ手品だよ」
 どうってことはないと言いたげに、レヴィンは穏やかに笑って見せる。今が戦闘中だというのに。
 これが、守護騎士……。



 ■ □ ■ □ ■



 ケルベロスと戦うことになる少し前、ユダは、相棒のガラハッドとともに酒場にいた。
 話相手は先ほど隷鬼スレイヴから自分を助けてくれた魔剣士ことサイ。
 ここの食事代は奢るからと誘って、彼が持ちこんできた話の内容は――

「守護騎士が殺された!?」
「ああ。王宮の要人も含むが、重役関係を狙って次々に、な。共通してるのは手際は一瞬。あっという間にバラバラだ。この間は一緒に飼ってた犬も巻きこまれて『合い挽き』になってたのまでいやがった」
 国を守る守護騎士も例外ではなく、腕だけになったものもいる。
 犯人は殺人鬼にありがちな目立ちたがり屋か、あるいは切り刻むことに情熱を感じる変態か……。どっちにしろ気持ちのいい話ではない。
「まさか、僕たちにその穴埋め要員になれってわけじゃないですよね?」
「ガラハッド、だっけ? なかなか鼻がいいな」
 意気揚々としているサイと違って、ガラハッドはいささか興が冷めた様子で食事を進める。現実主義者である彼にとって、こんな常識外れな考えは到底受け入れられないのだろう。
 だけどサイは、諦めずに前に迫る。
「考えても見ろよ。今の組織は穴だらけで不安定だ。逆を返せば、俺たちが組織を自由に変えられるチャンスでもある。その奇跡を、俺たち『だけ』がかぶりつきで見られるんだぜ?」
「それで……僕らにどうしろっての?」
 おずおずと、ユダが話に乗ってくる。
 するとサイは待ってましたとばかりに口を開いた。
「選抜試験に参加してもらう」

 空になったワイングラスを静かにテーブルへと置いて―― 



 ■ □ ■ □ ■



 自分の駒を静かにチェス盤に置いて、軍師デューイは静かに嘆息を漏らした。 
「異形とはいえ、命を奪って生きている我々は、きっと天国には行けないんだろうねぇ」
 人間は戦争を止めない。たとえ審判のラッパが鳴ったとしても、野蛮人から進化出来る日は来ないだろう。だが今は人間同士で小競り合いしてる場合じゃない。異形を殺さなければ死ぬのは人間こちら側だ。

 しかしてレヴィン――今まさにデューイのチェスの相手をしている男は寡黙を貫き、やがて静かにつぶやいた。
「……俺は自分の妻シャルテラナを護りたいだけだ。悪いが、もしあの二人が死にかけていたら、真っ先にお前を見捨てて助けに行く」
「ひどい話だ」
 昔からの友人の辛辣しんらつな言葉にデューイは思わず苦笑する。
 多分、レヴィンならそうするだろう。悩み苦しみ逡巡し、家族と友情を秤にかけて。願わくば、両方助ける方法を必死に考えた末に選ぶのだ。
 同じことを考えていたのか、昔からの友人は苦笑していて、駒をキングの前に置いていた。あと一手でデューイの首を取れる距離。
王手チェック。俺の勝ちだ」
 レヴィンは軽く笑う。
 しかし軍師の才は一枚上手だった。
 彼は駒をすくい上げ――そのまま相手のキングを掠め取る。
逆王手ステイルメイト。悪いね」

 くすくすと、楽しそうにデューイは笑う。
 駒を――兵隊を動かし勝利を収める。
 こんなのは自分のライフワークだ。簡単にこの栄光は譲れない。 

 だけど、とデューイは思う。
 人を選定し、死地へと赴かせる。
 運命をてのひらで転がす傲慢な行為。それはまるで――

「神の真似事、かな?」



 ■ □ ■ □ ■



「人の真似事のつもりですか?」

 異形風情が、とガラハッドは続ける。
 ユダをかばう形で前に出た彼は、冷たい瞳で『それ』を睨む。

 ゆらねらりと動くのは異形。
 だけど、それは今まで見てきた中で最も人間らしい異形だった。
 皮肉にも、選抜試験の仲間であるメリルそのものの姿であったが。

 異形が求めるものは何か?
 肉を食し、うなり声を上げる。まがりなりにも脳という器官を持ち、そこそこの知能を持っていて本能的――主に生存欲求と食欲――に行動する。
 それは獣だ。

 では人と獣を分かつ本質は何か?
『心』である。

 メリルもどきである異形がユダにも止めているものもまた、その心であった。
 まるで涙のように不透明なものを求めて、人のまがい物がユダに迫り来る……。

 そうはさせないと、ガラハッドが間に立ちふさがった。
 ユダを限定にさせるならば、彼のその振る舞いはまさに守護騎士そのものであると言えるだろう。
 だけどガラハッドは、魔術師であって騎士ではない。
「記憶や容姿をそっくりに仕上げて、他人になりきってみせる。そういうの、何ていうか知ってます?」
 ――何より、騎士はこんな邪悪な笑みを浮かべない。
「『三文芝居』って言うんですよ」
 醜い蛙だとでも言いたげに、冷たい目線がメリルもどきを睨みつけていた。
 まるで、蛇のように……。



 ■ □ ■ □ ■



 本当にコイツは蛇みたいにいやらしい。
 ラナは心底、そう思わずにはいられなかった。

 現在選抜試験の真っ最中。さらに言うなら、逢魔おうまの森とは比較にならない瘴気にまみれた森の中をさまよっていて、慣れない足場に苛立っているところだった。
 ついでに言うなら食屍鬼グールやら夜鬼インプに囲まれて、今まさに彼らのディナーになりかけているところを目下抵抗中。この時点でラナのストレスは雲を突き抜けつつあるレベルまで達している。
 そして、今最も不快なストレスをぶつけてきているヤツが――

「ウザいよ」
 見ただけでも高級品と分かる衣装に身を包んだ――曲がりなりにも山奥に入るのに向かない服装の少年。背景に似つかわしい服装のその少年は、まるで非日常の住人であるかのように思えた。
 その服装も、振る舞いも、まるで夜の砂漠のように冷たいその瞳も――

 少年は迫り来る怪物を、まるで野良犬でも見るような――否、見下すような目つきで睨みつけ、指を軽く弾いてみせる。
 それは引き金。黒魔術士たる彼の魔法の合図。
 食屍鬼グールたちの足元がバチバチと青白い火花を散らしはじめる。――放電現象?
 学校で聞いたことがある。確か雷という斧は、雲の静電気と、『地面に帯電している静電気』とが惹かれ合って発生するものなのだと。言って見るなら、地面と空の逢引だ。

 少年はその片方――土中に溜まっている静電気を無理矢理地表に引っ張り上げたのだ。
 まるで太陽が落っこちたような派手な光があたりを包む。
 その真上にいる怪物たちはたまったものではない。肉が焼けながら溶けていく痛みに耐えられず、うめき声を上げながら逃げようとするが、熱に濡れそぼったその姿が全てを語っていた。もう逃げられないと。
 肉の焼けるイヤな匂いが立ちこめ、光が消えたあとには、そこにいた怪物全てが黒いすすとなって死に絶えていた。

「信じらんない。一瞬であの数を……?」
 唖然としたようにラナはつぶやいた。白魔術師であるくせに、ラナの攻撃スタイルはほとんど徒手空拳に近い。彼女のやり方で食屍鬼グールとやり合っていたら、あの数を倒すのにどれだけかかっていただろう。
 感心していたラナに少年は浮かべた感情は、疑いようも無い蔑みだった。
「まったくもって本当に君の戦いには品性が感じられないね。服を着て言葉を喋れるってこと以外は野蛮な原始人と変わりないんだから」
「なぁんですってぇ!! このチビ!! 本気でカイル様とセーカク違くない!?」
饒舌じょうぜつな割には語彙ごいとぼしいね。本当は君、この森で生まれたんじゃないの? ゴリラとチンパンジーの合いの子とか」
「こ、この……」
 堪忍袋かんにんぶくろの尾を緩めたくなるとはこういうときのことを言うのではないだろうか。
 ああ言えばこういう。やっぱりこいつは可愛くない。昔っからそう!

 こいつの名前はエスター。
 二歳年下のくせに進級してきて、同じ学年になってタメ口をきいてくるし、あの守護騎士カイルの弟でありながら、そっくりなのは顔だけで性格はひねくれているし、おまけに魔術の腕はピカイチだ。白魔法をいまだに使いこなせていないラナとは大違いの、才能が服を着て歩いているようなやつである。

 しかもそいつと合流してしまったのだ。あろうことか、ラナがピンチに陥っているそのときに。
 だ・か・ら、気に食わない!!!! 全っ然、気に入らない!!!!

 食屍鬼グール夜鬼インプならまだいい。こいつらならぶん殴ればそれで解決するからだ。実際、現在進行形でやっているところだし。
 だけどコイツは例外だ。曲がりなりにも子供だし、仮に殴ったとしてもこいつのことだ。すました顔で「へえ、言葉じゃ敵わないから暴力?」とか何とかほざいてくるに違いない。何度スマキにして川に沈めてやろうと思ったことか。……いや、今からでも遅くはないか……。やっちゃう?

「おい、何ボーっとしてるんだよ!」
 悶々もんもんと危険な思想にとりかれつつあったラナを、別の声が救う。
 エスターと一緒にラナを助けに来てくれた男、ヴァイス。
 程よく焼けた褐色の肌に、屈強な体躯。見るからに力仕事を専門としていることが明白な人間といえよう。
 彼は見た目だと単純な頭をしているようだが、実は――とても単純な頭をしていた。

 藍色の瞳でラナをしっかりと見つめ、彼は叫ぶ。
「数が多すぎる! 力ずくじゃ無理だ」
「じゃあどうするのよ!」
「どうにかするって」
 赤毛の髪を逆立て、たくましい腕に力をこめ、三日月斧(バルディッシュ)を思いっきり振りかぶる。

「力ずくでなぁぁぁぁっっ!!!!」

 ――ほらね。

 まるで丸太のように、食屍鬼グールの群れをなぎ倒す。それを『斬る』と言うより『ブッ叩く』という感じであった。
 それは、エスターのような天性の才能でもなければ。それこそ兄レヴィンのような異国の魔術なんかでもない。
 純粋なるパワー。狩人としての鍛錬に裏打ちされた、無敵の破壊力だ。

 羨ましい。
 ラナは純粋な憧れを持って、そう感じていた。
 自分にも魔法を使う力さえあれば……。

 エスターのように、魔法を使いこなす才能なんてない。
 ヴァイスほどの腕力さえ持っていない。
 ラナのいる場所は、ひどく中途半端だ。
 自分にだってもっと、もっとやれることがあるはずなのに……。

 だけど、今さら魔法を使う気には――あまり、なれない。
 魔力の源。かつては神からの贈り物と考えられていたが、あのイヤミな白魔術師によってそれは違うと全否定されてしまった。
 得体の知れない力を使えるほど、ラナは強くない。
 これをレヴィンが知ったら「それは若さだよ」と言っていたかもしれない。
 ラナは思う。源とは……いったい何?



 ■ □ ■ □ ■



「興味ないな」
 それが、剣士フレドリックの答えだった。
「そんな……。あなたは怖いと思わないんですか!?」

 メリルは怖くてたまらなかった。
 信仰にも近かった神の存在。
 だけどそれが、突然やってきた白魔術士によってあっけなく突き崩されてしまった。
 かつて夢見で神と出会い、誓いを立てたはずの記憶が、一気に輪郭を失ってぼやけていく。
 彼女はけっして弱くない。だけどそこまで強く出来ているわけでもないのだ。

 だけどフレドリックは、そんな彼女を気遣うわけでもなく、かすかに嘆息してみせた。
 冷酷なわけではない、単純に、どう接したらいいのかが分からないのだ。
 個人での戦いに関してなら――それこそデューイ以上の戦略を何万通りでも想定する自信がある。
 しかし、落ちこんでいる女性を励ますような術に関してなど、ある意味新兵よりも下手な人間なのだ。ある意味、とても不器用な人間であると言える。
 丸30秒ほどの無言が続き――のちにフレドリックは『最も緊張した時間だった』と述懐している――彼はようやく口を開いた。
 自分の刀を前にかざしてみせながら。

「……この刀をどう思う?」
「え……?」
「これは妖刀だ。殺意を持って振るい続け、仮に殺意を抱いた相手を斬らなければ、代償として俺が死ぬ。どこかのバカが酔狂か遊びで造ったとしか思えん、ふざけた業物だ」
「は、はあ……」
 メリルは、ぱちくりと目を見開いて、この無愛想な剣士を見つめていた。
 当然だろう、彼が何を言いたいのかまるでわからないのだから。
 だけどフレドリックは、かまわず話を続ける。……若干、額に脂汗をにじませながら。
「人がこんなものを造れるとは思えんし、ひょっとしたら人が造ったのではないのかもしれん。……だがそんな事情に興味はない。『使え』『斬れ』『殺せ』 ――俺はこの三つしか知らん。俺は魔法の才能には恵まれなかったが……もしも使えたとしたら、俺なら思う存分利用する。神だの源だの知ったことか」

 自分の人生は『戦うこと』と『殺すこと』だけだった。
 それが当然でありそれが全て。そうやって生きてきたし後悔もない。
 途中で殺され、泥の棺桶で朽ち果てるとしても、何の感慨もないだろう。

 だけど、もし……。
 もしもの話―― 

 目の前にいる誰かを助けることが出来る……今この場で自分だけにしか出来ないのだとしたら……お前ならどうする?
 今のままで満足しているのなら――お前なら何を選ぶ?

「…………」
 フレドリックは、くるりとメリルに背を向ける。
「あ、あの……」
 彼女は呼びかけるが、かまわず剣士は前に進む。
「…………」
 メリルは諦めたように、伸ばそうとした手を止め、その場でうなだれる。

 そのときだった。

「何をしている?」
「……え?」
 フレドリックは静かにつぶやいた。低いけど、感情のこもった声で。


「ついて来い」


 その姿は、二つ名通りの紅き獅子。
 血濡れた刃すら噛み砕く、雄々しき獅子の背中だった。



 ■ □ ■ □ ■



 瘴気を思いっきり吸いこんで、サイは一人ぼんやりとしていた。
 場所は王宮の裏庭――非公式の喫煙所でもある。だが、タバコとはしばらく前に別れ話を切り上げている。これといった未練も無し。自分の肺をヤニ漬けにするほどのジャンキーでもないし、マゾなわけでもない。

 マゾと言えば……。





 ある昔話。
 ことの始まりは、サイの妹分であるレベッカの「悪かった」から始まった。
 レベッカはまるで陸に上がった海賊のような女で、口は悪いし腕っ節は強いし、そのくせ『うわばみ』だ。人間の皮をかぶったオーガか何かだと例えてもいい。いや、そもそも彼女は人間じゃないのかもしれない。
 つまり何がいいのかと言うと、彼女はとても恐ろしいということだ。

 一年と少し前にあった――今日と同じ――守護騎士選抜試験の日のこと。
 彼女は兄貴分であるサイに黙って偽名で登録し、選抜項目であるトーナメント戦を勝ち抜いていた。
 事実、現在の彼女は守護騎士にまで出世し、数多くのの一般騎士オトコどもを従えている。貧民街スラムの小娘が今では女王様に出世したというわけだ。文字通りの実力で。

 元々戦闘は手馴れたものだったし、何より負けん気の強さは折り紙つきだ。
 戦闘放棄した男をボコボコにするほどに。

 ボコボコにされた男の名はレイヴン。
 脱色のし過ぎで痛んだ茶髪。若く見られるのが嫌で伸ばした髭。着崩しともだらしないとも取れるファッションに、左腕の刺青タトゥー
 とてもじゃないが、どうしてこんな男が守護騎士の選抜試験に? と彼を見た100人の人間は満場一致でそうコメントすることだろう。
 何せ彼の専門は白魔法。しかもラナと違って腕っぷしのほうは『からきし』ときてる。

 で、そのレイヴンがレベッカとかち合ってしまった。
 彼がレベッカを見た途端に『冗談じゃない』と武器を捨てたのは、当然であり賢い判断だと言えただろう。サイだって同じことをする。
 それが間違いだった。

 レベッカはそれを『女だと思ってナメてんのか? いい度胸だこの野郎』と解釈したらしく、まさに文字通りの鉄拳制裁をくわえたのである。
 ドクターストップがかかり、ましてや守護騎士総出で止めねばならない乱闘になったのは、あとにも先にもこの試合だけである。
 トーナメント制が無くなったのは、現役守護騎士メンバーによるスカウト制に変わったからというのも大きいが、あのレベッカの黒歴史を恐れているのでは――というのがサイ個人の見解である。


 で、レベッカはと言うと、その後さすがに気がひけたのか、彼のお気に入りのタバコを持って謝罪に来ていたりする。
 そのときの第一声が「悪かった」というわけだ。


「……その、勘違いをして。すまなかった」
 意外と素直に、レベッカは怪我人の前で頭を下げる。
「いいっスよ。もう……。それにいい物みれたし」
 全身を包帯で固めたレイヴンの目線は、レベッカの胸の谷間に縫い付けられていた。
 頭を下げた姿勢になっているせいで、よりくっきりと『それ』はレイヴンの視界に収まってくれていた。

「…………」
 たれる鼻の下に比例して、レベッカの眉間に刻まれる縦じわが険しくなっていく。
「踏むぞ」
「ま、待って」
 さすがに学習したのか、レイヴンは拳が飛ぶ前にストップをかけた。
「どうせ踏むなら……これで/」
 言いながらレイヴンは、ごそごそとベッドの下から箱を取り出し、それをレベッカの前に差し出してみせた。
 それは――


 ハイヒールだった。


「…………」
 これほど冷たいレベッカの目は、スラムで肩を並べてきたサイですら見たことがなかったと断言できる。
「に、似合うと思うんスよねぇ」

 そのときサイは確かに――『何か太いものがブツンと音を立ててキレる音』を聞いた気がした。
 そのあと聞こえたのは、まさに現実の轟音。レベッカがベッドをひっくり返す音と、レイヴンを思いっきり踏みつける音である。

「死ねっ! 床の一部になりやがれっ!」
 骨ごと砕けそうな力でレベッカは何度も何度も踏み付けストンピングを仕掛ける。

 ふと、サイはこれと似たような光景を見たような気がした。
 ――思い出した。たしかメリルに対して「メリルちゃんって以外と脱いだらすごそうだよね。こう、腰のあたりとかえっちな感じで……」とかセクハラまがいのことを話しかけて彼女を困らせ、ラナに「最っ低!」と罵られて蹴飛ばされたときだ。
 関係ないが、あのときのレイヴンはとてもイイ顔をしていた気がする……。


 それにしても、レベッカのこれは正直言って死ぬのでは……とサイが思っていると、足元にいるレイヴンがかすれた声で叫んでいた。
「ぁ……っ……気持ちイイ! ちょっとだけ気持ちいいっス……ああっ、でもやっぱ痛い! サイさん助けてえっ!!」
「お前、涎たれてんぞ……」
 こいつはマジで一度死んだほうが世の女性に貢献でいるのでは? と思わなくもないのだが、このままほうっておけば確実に彼は昇天する。二つの意味で。
「とりあえずレベッカ、もうよせよ、な? さすがに死んじまうって!」
「安心しな! 殺す気だ!!」
「誰か縄持ってこい! あるいは麻酔銃!」
 近くにいる看護士に助けを求めるサイ。すると、彼のすそを引っ張る感触があった。レイヴンだ。

「サ、サイさん。荒縄なら俺に……」
「お前は黙ってろ!!」


 ――まぁ、そんなこんなでいろいろと難のあるヤツなのだが、何だかんだ言ってサイとは気が合うし、情報収集にも長けている。
 古馴染みの――頼りになる相棒だ。
 その相棒にユダとガラハッドに関する内情を探ってもらっていたのだが、先行き上場とはいかなかったらしい。

「戸籍は見当たらなかったっスね。隣国のアルスノヴァまで手を伸ばしてみたんスけど収穫ゼロ。こうなってくると、ユダって娘が存在してるのかどうかも疑わしいっス」
「幽霊は見えねえし触れねえよ」
「あー、あのコ形のいいおっぱいしてますもんねぇ」
「……ガラハッドより先に殺すぞコラ」

 そういえば、レイヴンは確か戸籍保管所の受付譲と付き合っていたはずだ。そのツテで探せないか――と頼もうとして、サイは思いとどまった。
 前に別件で、似たようなことを頼んでいたのを思い出したからだ。彼女の返事が、レイヴンの頬にくっきりと残った手形だったということも。
 と、ここで、レイヴンがサイの方を見て妙に楽しそうに笑っていることに気づく。何か含みがこもった――しかもエロい目をしているところが妙にムカつく。

「……何だよ。気味悪ィな」
「惚れてんスか? ユダちゃんに」
 こいつに信頼のおける相棒だ。それは今も変わりない。
 けど今はそのことをほんの少しだけ後悔していた。長い付き合いであるせいか、コイツは『色々と』察しがいい。
「顔を近づけんな。 煙たいんだよ」
「ひどいっスねぇ。サイさんだって前までってたじゃないっスか」
「俺がヤるのは酒と女だけだ。灰をヤニ漬けにして痛めつけるドMな趣味はねえんだよ。お前と違ってな」
 ひっでェ、とレイヴンは、拗ねたように唇を尖らせた。
 こいつほど、いじりがいのあるやつはそうそういないんじゃないかと思う。

 ふと、レイヴンの顔が真面目なものに変わる。
「なーんであの子に固執するンすか?」
「…………。なってほしいだけさ」
「……? 何に?」

 ふっと笑って、サイは紡ぐ。
「幸せに」



 ■ □ ■ □ ■



「好きだよ。君のことが」
 ガラハッドは言葉をつむぐ。
「人間的にはね」
 ひどく、無感情な声で。

「恋愛を望むのなら、悪いけど僕はお門違いもいいところだ。試験が終わったら、サイさんのところにでも行けばいいんじゃないかな? 君のこと、気にいってたみたいだしね」

 どうして、そんなことが言えるのだろう。
 ユダは、そう思わずに入られなかった。
 彼はアリシアに言っていた。『愛している』と。
 そしてアリシアと同じ顔をしているユダには、他の男と付き合えばいいと言ってのけた。
 まるで、今まで大事にしていた人形を気まぐれに放り投げる子供みたいに、残酷に……。

 息が、出来ない……。
 心臓がうるさい……。
 胸が、苦しいよ……。

 頭がどうにかなってしまいそうだ。
 今まで彼が打算だけで自分と一緒にいたなんて考えたくない、信じたくないよ……。

 この光景をサイが見たら、なんて思うだろう。
 ユダは今――まさに絶望の底に立っているところだった……。



 ■ □ ■ □ ■



 それは誰も見ていない物語――……。

 とある大木の上。
 瘴気すら届かぬその場所は、樹木があるべき色を保ち、瑞々しさを保っていた。
 そこはかつてユダとガラハッドが休憩に使っていた場所であり、今そこには別の男女が陣取っていた。
「ほほう。ほほう。たわむれとるのう人間どもめ」
 背の低い少女が枝から身を乗り出し、好奇心に満ちた笑みを浮かべている。
 褐色の肌を民族衣装で包み、シルエットこそ人間のそれだが、とがった耳が人間以外の存在であることを主張している。
「どういたしますか? ユリディーク様」
 同じく褐色の肌をした青年が、うやうやしく少女にかしずいて答えを待つ。
 その姿はまるで執事か――あるいは騎士か。

「決まっておろう?」
 高所特有の風が、少女の銀髪を荒々しく撫でる。
 そして風が止んだとき――『女』は楽しそうに笑っていた。

 そう、女。
 ユリディークと呼ばれていた少女は――つい先ほどまで年端も行かぬ子供の姿をしていた彼女が、この一瞬ではるかに大きく成長していたのだ。
 少しゆったりとしていた衣装ははちきれんばかりに彼女の体のラインを強調しているし、無邪気そうな笑顔は、艶然えんぜんさを含んだ大人の女そのものに変わっている。

 彼女は一体何者なのか……?
 それはきっと別の物語で語られることだろう。

「『社会見学』じゃ。ついて来い」
「仰せのままに。あなたが望むなら地獄までも」




 To Be Continued

え、えーと……。
いかがだったでしょうか?

なんか、うん。サイ書いてるときが一番楽しかった。
書いたあとで確認してみて「どんだけサイ贔屓? かっこよく書きすぎでしょ」と思って悶絶したことか……。三枚目要素完全に排除しちゃったもんなぁ……。

あとエスターとヴァイスも大好き。
無理矢理二人のアクションシーンねじ込んだくらいだもの。本当はフレドリックも入れたかった。
本当は、レヴィンとレイヴンがいじられてるシーンも作品の肝だから入れたかったのですが、アクション書いてて疲れたのでカット(酷)

ぶっちゃけユダとガラハッドまったく書けてないですorz
主人公サイドチームはうかつにいじると、本気でキャラが変わってしゃれにならないので、このときだけ意気地なしモードで書きました(オイ)

何げにユリディーク嬢も登場させてます。
この二人の登場がたのしみっ!

それではこのあたりで。
ではではっ!

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