暗雲
村議員及び村長の汚職! 廃村決定!
いつも通りの朝、今日は登校日で中学校に午前中だけ行く。
けれど朝刊には見慣れない文字が、僕たちの村の名前の前に載っている。
この度の調査により・・・議員、村長等による大規模な汚職と、
それらによる多額の横領が・・・は、関与を否定しているものの・・・
・・・多大な負債と、過疎化を考えるに廃村の決定に至った。
記事の内容はなんとなくしか、頭に入ってこない。
ここが無くなるのか?
「母さん、家はどうするの?」
「・・・陽一は桐海に進学したいって言ってたでしょ?
あの辺りからなら、父さんの職場もここより近くなるしアパートに引っ越そうと思うんだけど。
父さんもそう言ってる。あんたはどうなの?」
それが一番良いんだってわかってる。
でも母の言った『あんたはどうなの?』の意味。
それは、僕がこの村を気に入ってることに気を使ってくれているから。
僕はここを離れても、いつか戻ってきたかった。
だけど・・・。
「ん、それが良いよ。」
としか言えなかった。
ここでわめいても、何も変わらない。
だったらせめて困らせたくない。
憂鬱だけれど、学校に行かないと。
廃村になるんだから学校も廃校になるだろう、その日時が知りたい。
「陽一。」
眞由美だ、どうやら待っていてくれたらしい。
けれど・・・。
僕は、気付いてしまっていた。
眞由美が高校の話題を出した時の、些細な違和感。
彼女の両親の職業。
眞由美も敏感に察しているようだ。
「ごめんね、黙ってて。」
「いいよ、それは普通言えないないだろう。」
なんとか、笑顔の様なものを浮かべられた。
親の仕事なんだし、喋るわけにはいかない。
子供の遊びとは違うのだ。
(でも・・・。)
嫌な何かが胸に刺さっている。
そして、次に彼女が言ったことは・・・。
「でもさ、良かったじゃん。
陽一も一人暮らししないで済むし。
あそこは交通の便もいいし、いい高校だってある。
それに陽一のお父さんだって通勤時間短くなるって聞いたし、良い事ずくめじゃない。」
眞由美は一気に捲し立てた。
その表情に陰りは無い。
(なんで・・・何でそんな顔でそんな事が言えるんだ?)
「向こうの事なら心配ないよ、私と一緒だかんね。
でもさラッキーだよね、こんなに全部上手く行くなんて。
早めに引っ越そうよ、今度はもっと近所に。
すぐにでも私の町、案内してあげるよ。」
「・・・で。」
「向こうの友達も紹介するよ、みんな良い子だしすぐに馴染むって。
ん〜、楽しみだなあ。
きっとクラスも一緒になれるよ、知り合いが居ることを言えば学校で考慮するって。」
「何で。」
「え?何?」
「何でそんな事が言えるんだよ、ここは・・・。
僕は、この村が気に入っているんだ。」
「そんなこと言ったってしょうがないじゃない。」
(だめだ、このままだと・・・。)
喧嘩になる、分かっていても止められなかった。
「ずっとここで暮らしてきたんだ、小さな村だけれど・・・。
だからこそ、その全てに思い出があるんだ。
いきなり廃村って、ここに居もしない人が決めるのは勝手だよ。」
「・・・陽一は高校から桐海に来るって言ってたじゃない、何で今更こだわるの?
そっちの方がおかしいよ。」
「おかしくなんて無いよ、元々僕は故郷をないがしろにするつもりなんて無い。
ここを離れることと、ここが無くなる事は大きな違いだよ。」
「じゃあ私にどうしろっていうの?
両親に頼み込んで見逃せって言えば良かった?
そんなの出来るわけないじゃない。
それにこんな所いつか潰れてたわよ、遅いか早いかの違いだけじゃない。」
「そんな事言ってない!
あんたにとってはこんな所でも、僕達には意味があったんだよ。」
「ここから離れたら、もうそんな気は失せるわ。」
「そんな事無いよ・・・僕はいつかここに戻ってきたかったんだ。
大学の講師とかになって、週に二〜三回ここを離れる。
それ以外の日は、星を見ながら穏やかにこの村で過ごす。
そんな些細な事が僕の夢だったんだ。」
「知らなかったわよ、そんな事。
それに、陽一には多分すごい才能がある。
本気で天文学を勉強したくて、努力しているのにも気が付いていた。
だったら、こんな所に居ないで上を目指してよ!」
(・・・ッ。)
「僕に指図するなよ。」
「なっ!」
「僕には僕の考えがある。」
「言ってくれなきゃ、考えなんて分かるわけないじゃん。
どうしろって言うのよ。
それとも何、麻美さんなら分かるって言うの?
最低。」
きっと二人とも、この言い合いの先が何なのか分かってる。
でも、もう止められなかった。
「好きに言ってろ!」
僕は、眞由美を置いて登校した。
眞由美は何とか間に合った様だが、表情が暗い。
皆は今朝の大事件で浮き足立っていて、いつもと違う二人には気が付いていないようだ。
担任が何か話していたが、それは僕の頭で意味ある言葉として記憶されなかった。
僕はあんな風に言ってしまった事を、後悔し始めていた。
けれども冷静になっても、謝る気は起きなかった。
連絡が済み、皆が帰っても動く気にはなれなかった。
外はいつの間にか、茜色に染まっていた。
「帰らないの?」
不意に声を掛けられた。
「麻美こそ、何でいるのさ。」
前の席の椅子を後ろに向けて、麻美は座った。
正面から僕を見つめる。
「喧嘩したんでしょ。」
「ああ。」
「馬鹿なんだから。」
「どこがだよ。」
いつもと変わらない、麻美。
変に気を使わないので話しやすい。
今朝の出来事をぽつぽつと話していった。
「結局陽一はどうしたいの?
・・・まあ、いずれにしろ廃村は決定だし、高校や家族の事を考えても他に選択肢はないのだけど。」
「僕は、どうしたいのかな。」
「昔っから陽一は頭ごなしに命令されるのとか、勝手に決められるのが嫌いなんだよ。
急な廃村の決定に戸惑ってるし、憤りを感じてる。
そして転校生の思い通りに進んでいるような気がして、納得出来ていないだけ。
確かにこの村に思い入れがあるのは、私もそうだから分かるし彼女の言い方が良くないって思うよ。
でもさ、この村がなくなって転校生と別れて、そしたらどうするの?
それでいいの?」
僕は答えない。
「転校生が来てから陽一はよく笑うようになった、悔しかった。
私が今まで頑張っても、手に入らなかったのに。
でもそれでも良いと思った。
だって・・・。
きっと陽一は転校生が好きなんだよ。」
「・・・麻美。」
「行きなよ。あんたなんて・・・大っ嫌い。」
そう言って目を伏せた。
だから僕は・・・。
「行って来るよ。」
教室を飛び出した。 |